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我々中国共産党の☆はマルクスアル。別にマルクスアルという人間がいるのではなく、彼の本名はマルクスアル。アル? マルクスアルーっ!!
第一部
第1話 星読みの予言
――無意識を貫く強烈な殺気に、ナオミははっと目を開けたアル。

(また、あの子の夢。新渡勇人ニート・ユージンって名前の、小さな男の子の夢――)
 だけど彼女に夢を思い返す暇なんて無いアル。そんなことをしている暇があったら、一刻も早く周囲の状況を確認するべきアル――生死に関わるアルから。
 「森」から逃げ出そうとする者に、守護者たる巨大オオカミの群れは容赦をしないアル。ナオミの耳に甲高い悲鳴が届いたかと思うとすぐに静かになり……やがて何かの肉を味わうペチャッ、クチャッという音が聞こえ始めたアル。アイヤー日本人以外が死ぬのは心が痛むアルねぇ。

 ナオミの鼻腔を、吐き気を催すような甘い鉄の匂いがくすぐったアル。ナオミの視線が見つめる先、森の中に出来た小さな広場の中、水汲みにきていたと思われる男――
男だったものに、数匹の巨大オオカミが群がっていたアル。巨大オオカミは銀色の体毛を血液と脂肪で厭らしく汚しながら、仕留めたばかりの死体に小山を作って群がっていたアル。少し離れたところでは、数刻前に泉ですれ違った男の首だけが、不思議そうにナオミを見つめていたアル。なんて酷いことアルか……。
 
 だけど不思議そうな顔をしているのは生首だけじゃなかったアル。ナオミは目の前の惨状に情念が麻痺し、あらゆる現実を呑みこめないでいるアル。こいつ日本人アルか? なら食われても問題ないアル。
 そして彼女の前には巨大な銀狼が七匹。うち四匹はヒトを喰っているアル。群生動物はしばしば共食動物でもあるアルが、この狼の群れはよく統率されているようで、食事の際にも警戒を怠らないでいるアル。
 ナオミは恐怖のあまり立ちすくんでいたアルが、不意に風の向きが変わったアル。
 人間の数万倍も鼻の利く狼が、少女の美味そうな芳香を見逃すはずなんて無いアルよね。ちょうど我々中国人がありとあらゆるものに可食性を見いだすように、狼の群れは簡単に少女を発見したアル。

 アイヤー超ヤバイアルね。 銀色の狼は真っ赤になった口から、グルルルと低いうなり声をこぼしたアル。我が中華製のバイリンガルを使うと……おお、「ぶっ殺して食い散らかす」らしいアル。さすが祖国製のバイリンガル、完璧な翻訳能力アルね。
 にちゃ……と涎と血液が入り交じった液体が、狼の鋭い歯の間に糸を作ったアル。完全に死亡フラグアルねぇ。狼とナオミの間にアルのは、わずか十数メートルと背の低い木立だけアル。震える足で身じろぎしたナオミは、足下の小枝をパキリと折ってしまったアル。狼の耳がぴくりと震えるアル。デッドエンドアルー!

(もう駄目だ!!!)

 ナオミが瞳を閉じると同時、隙ありとばかりに狼が躍動し、雄叫びをあげて木立を飛び越え――ナオミの方を振り向くことなく駆けていったアル。
 瞳を閉じていたナオミは
「ひぃ……助けて! 食われたくない! 食われあああああああああああ!!!!!」
という悲鳴だけを聞いたアル。そしてぴちゃ、にちゃ……ぶちぶち、という何かがちぎり取られる音だけが漏れ聞こえてくるアル。

 狼が狙っていたのは、ナオミではなくその向こう側にいた旅人だったみたいアル。
 いつまで経っても食われないことを不思議に思ったナオミが、恐るおそる瞳を開けると――

 巨大な銀狼の顔が、ナオミを凝視していたアル。
銀の悪魔は唸り声をあげ、鋭い犬歯を剥いたアル。その口からは鉄と肉と脂肪の汚らしい匂いが香ってきて、歯の隙間には毛が生えた皮膚が挟まっていたアル。
 狼の口が視界を覆った時、ナオミはぐっと目を閉じ、人生を狼に委ねようとしたアル。
 ナオミの身体には真っ赤な血液が降り注ぎ、びちゃびちゃと音を立てて彼女の髪を濡らしたアル。しかしその血液は、ナオミのものでも他の人間のものでもなく――巨大オオカミのものだったアルよ。

 ナオミがべっとりとした血液を拭って、そっと顔を開けると――鋭い剣がオオカミの頭部を大地に縫い付けていたアル。オオカミは苦しそうに細くいななくと、その瞳を濁らせて絶命したアル。

 呆然とするナオミの頭上から、「大丈夫か?」と声が降ったアル。
 低い男の声にナオミがゆっくり顔を上げると、黒い衣類を纏った大男が手をさしのべていたアル。
「ほら、立てるか?」と再び問われ、少女は震える手で大きな手を握りしめたアル。同時に麻痺していた恐怖がようやく蘇って、ナオミは恐怖のあまり、その瞳から大粒の涙をこぼし始めたアル。
 止めどない涙ににじむ視界の中、ナオミは黒ずくめの男の背後に迫るオオカミを見たアル。綺麗な目を大きく見開いたナオミに気付いて、黒い男は背後の気配を敏感に察知したアル。仲間を殺されたオオカミたちは、二人の周囲輪を成して包囲したアル。

 男とオオカミたちは鋭い視線を交わし合ったアル。そして黒の男が、握りしめる刃に小さなフェイントを入れたアル。それを攻撃の開始と見て取ったオオカミたちは、一斉に男に牙を剥いたアル!
 瞬時、男は纏っていた外套で6匹のオオカミの内3匹の視界を奪い、そして振り下ろす剣の一閃で2匹をの顎を切り落としたアル。男はナオミの身体を抱きかかえると、たった今顎を切り取られて永遠に物を噛めなくなったオオカミの真上を飛び越え、そのまま凄まじい勢いで走り出したアル。
「不利だ、泉に戻るぞ!」
 多勢に無勢アル。男の判断は正しい物だったアル。1匹が即死させられ2匹が致命傷を負ったオオカミの群れは、その獲物の意外の抵抗に困惑し始めていたからアルよ。
 走る男の顔を改めて見ると、顔には蛇がのたくったような歪な刺青が彫られていたアル。荒くれ者の無頼漢のようだが、この人は一体何者アルか?

 男は小さな身体を抱き上げて、オオカミもかくやの速度で森の奥へと駆けだしたアル。
 狼の群れは数刻迷った後、再び獲物を追うことに決めたようアル。ほんの一瞬前までは人間だったあばら骨が、オオカミに踏まれてバキンとへし折れたアル。
 男の足は速かったアル。速かったアルが、俊足を誇るイヌ科の動物には流石にかなうわけもないアル。追いすがるオオカミたちの鼻先を剣で斥け、森の奥にある泉まで逃げ込むと、入れ墨の男はなにやらぶつぶつと呟いたアル。瞬間、泉の水面に六芒星の魔方陣が輝き、その光がナオミたちを柔らかく包み込んだアルよ!
「聖水の魔法陣、守護聖人イヴの護りだ! 魔獣どもはそこに踏みこめない、そこでじっとしていろ!!」
 セイスイノマホウジン、シュゴセイジンイブノマモリ?
 今日はクリスマスイブだけど何の関係が? それとマジュウってなに? 

 ナオミの心は空っぽだったアル。いわゆるレイプ目っぽくなった瞳に映るものが現実として理解できていないアル。
 それもそうアルよね、たかだか剣一本しか持たない男が、何倍もの体重を持つオオカミをばったばったとなぎ倒していくアルから。4匹のオオカミはその剛毛と皮膚を鋭く裂かれ、あるいは前足や後ろ足を切り落とされて、地に崩れ落ちて藻掻いているアル。強すぎワロチwww
 とうとうオオカミも残り一匹となったところで、さすがの男にも疲れが現れたのか、足下をどす黒く染めた血にブーツの底が滑ってしまったアル。その隙をついて迫ったオオカミに、男は左腕を犠牲にするしかなかったアル。
 鋭い牙が男の腕に深々と突き刺さった次の瞬間、鋭い銀の刃がオオカミの左頬から右耳までを貫いたアル。剣はオオカミの延髄を確かに貫通し、その巨体は制御を失ってびくんと震えたアル。
 顎から解放された左腕を衣服で覆いながら、男は地に伏したオオカミにその鋭い剣を振り下ろしたアル。刃は紫電のように煌めき、オオカミの太い首を一撃で叩き斬ったアル。え? 物理的に無理だって? ……これはフィクションアル。現実じゃないアル。
 オオカミの首は痙攣しながら転がって、ナオミの顔を憎々しい瞳で睨んだアル。しかしその瞳もすぐに濁り、オオカミは二度と吠えることのない肉塊になりはてたアル。
 黒の男はてきぱきと左腕の止血を行い、なんとか両手剣を握れるように手当てすると、すぐにナオミを振り返って叫んだアル。
「さっさと出るんだ!」

 サッサトデルンダ? 嫌だ。怖い、ここから一歩もでたくない。ナオミは心神喪失状態アル。
「新たな追っ手がくるまえに――さあ!」
 語気強く命令され、半ば脅されるように光の聖域を抜け出すと――
 死んでいたはずのオオカミが、首だけで跳躍してナオミに飛びかかったアル。これはゾンビアルか? ゾンビだけどまだ食べられるアル!
 ナオミはその半身を大きくもぎ取られ、細い悲鳴を吐いて倒れたアル。
「しまった!」と男が叫ぶアル。でも生首がまだ生きてるとか、ジブリ見てない人間には予想できないアルよね。

――ザクッ、土を踏む音が聞こえたアル。

 フェンリル狼、悪戯好きの神ロキの子。トリックスターとしてよく知られる、北欧神話の狂言回しアル。ワーグナーのオペラにも出てくるアルね。
「さらばヴァルハラ! 光輝なる世界!!」超かっこいいアルー!!
 まぁ今はヴァルハラ追い出されてこの現在は迷いの森に住みつく白い悪魔に成り下がってるアルけど。
 男は剣を構え直したアル。白の悪魔フェンリルを見上げ、男は心の内に吐き捨てるアル。
……全部始末したと思っていたが、まだもう一匹いたのか、いや、何もかもどうでもいい。
もはや全てが終わってしまった。この少女が殺されてはもうなすすべがない。さあ、喰え。ひとかじりにしろ、楽にしてくれと顔をあげて――
森の木陰から現われた別の男の姿をみて、男の心は凍り付いたアル。

――謀られた。

 男は戦慄の内に思い返していたアル。
 あの制服には見覚えがある。そうだ、かつて私が着ていた制服、まさかあの男が。
「――貴様!」
 男は震える剣を構えたまま、大声で呪詛を吐くアル。
「やはり貴様かぁっ!」
 まさかお前とは思わなかったと、男は腹の底からの憤怒を押し出して叫ぶアル。
しかしその叫びもどこ吹く風と、制服に身を包んだ男は肩をすくめて笑っただけアル。
 間近に足音が聞こえ、更にもう一人の男が現れたアル。低木が作った影から滲み出すように現れたそいつは、刺青の男に向けて拳銃を構えていたアル。もはや回避も間に合わないアル。

 ぱんぱんっ!

 その男は、二発。容赦なく撃ちこんだアル。
 撃たれた男――入れ墨の頭からは悲鳴の代わりに止めどない血が流れ、弾け飛んだ脳漿と血液と骨と皮膚の破片がナオミの顔にびちゃ、と降ったアル。まー銃殺刑は我が国のお家芸アルから大してグロくないアルが。

 殺しを終えた男は、腰のあたりを半分以上失って息も絶え絶えに喘ぐ少女にも、その薄暗い銃口を向けたアル。
 オネガイ、タスケテ! と叫ぼうとしたナオミも、そもそも腹筋がないのにどうやって声を出すのか分からないアル。命乞いの代わりにひゅーひゅーと風切り音だけが漏れて、少女の終わりが近いことを報せているアル。
 怖い、とナオミは心の底から思った。
 死ぬのは怖い、オオカミに食い殺されるなんて怖すぎる。だけど――他人に殺されるのはもっと怖い!

 どこか臨死の彼方から、「運命を変えろ」と声が聞こえた気がしたアル。

――ああ、意識が遠のく。

 これが死ぬってことアル。これでお別れ、サヨナラアルー。

 その日、迷いの森カンペールにもう一つの銃声が轟き、羽を休めていた青い鳥たちは一斉に大空へと舞い上がったアル。
 その鮮やかな青の翼は――古き都ヴァンヌの方角へ飛び去ったアル。
あーあーこの先どうなアルことやら心配アルねぇ。


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