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'11/8/6

ヒロシマ66年 核絶対否定の道探る時

 目に見えず、においもしない放射能の脅威が列島を覆っている。

 ほかならぬ被爆国で起きた福島第1原発の事故。核兵器廃絶を訴えてきた私たちは、重い問いかけを突き付けられている。そもそも、核と人間は共存できるのか―。

 広島はきょう、鎮魂の日を迎えた。66年前の午前8時15分、米軍機が市民の頭上で故意に核爆発を起こし、放射能をばらまいた。

 おびただしい人々の死と、生き延びた者を今も苦しめる放射能の影響。核時代の扉を開いた原爆投下の罪深さをあらためて思う。

 平均年齢が77歳を超えた被爆者たちは福島の人々に思いを寄せる。

 「6歳で被爆。幼少期を放射能の中で生きてきて、現・72歳。老いても、痩せても、心は涸(か)らさず がんばろうフクシマ!」

 上半身裸の写真に自己紹介と激励を添えたのは元小学校長の梶矢文昭さんだ。「ひろしまを語り継ぐ教師の会」が先月、広島市で催した企画展の会場に作品として並べた。

 放射能の恐怖に平和利用も軍事利用もない。風説も含めた情報が錯綜(さくそう)し、人々を苦しめるのも一緒だ。

 ▽福島への思い

 福島の子らが結婚差別に遭うことを梶矢さんは最も心配する。「影響無しの説明板を見て決断す ゆれて数年 プロポーズの日」と短歌によんだ若き日の不安。それでも元気でいることを言葉を超えて伝えたい。あえて肌をさらした理由だ。

 先でどんな影響が出るのか分からない。偏見や差別も生む。そんな放射能の怖さを知るはずの被爆国に、なぜ多くの原発ができたのか。

 平和利用が始まろうとする1955年、広島に原発をという提案が米国からあった。「原爆の惨禍を体験した広島こそ原子力の恩恵に浴すべきだ」との発想だ。米主導で進んだ原子力開発の源流がほの見える。

 米水爆実験の死の灰を漁船が浴びたビキニ被災で原水爆禁止の声が高まるが、平和と軍事の利用は別という切り離しが意識的に行われた。推進ありきの国策に電力会社や学界、新聞などメディアも協力した。その延長線上に「安全神話」がある。

 そして迎えたフクシマの事態。いったん事故が起きると制御不能になる原発の姿を、私たちは目の当たりにした。地震列島に原発が立地するリスクの大きさも思い知った。

 原発建屋内にため込まれた行き場のない使用済み核燃料の危うさも明るみに出た。その燃料に含まれるプルトニウムは長崎原爆の原料だ。

 日本の核武装論が語られるとき、プルトニウムを大量に保有する事実が前提にある。平和利用と軍事利用が表裏一体であることの証しだ。

 再処理して利用する核燃料サイクルを国は進めてきたが、見通しはまったく立たない。高レベル廃棄物の究極的な処理も未解決だ。ウラン採掘に始まるすべての過程でヒバクシャを生み出す危険から逃れられないのが平和利用の実態である。

 「核は軍事利用であれ平和利用であれ人間の生存を否定する。核と人類は共存できない」。被爆者運動をリードした森滝市郎さんは75年の原水禁大会で明確に宣言した。

 ▽依存から脱却

 遅まきながらではあるが、森滝さんが唱えた核絶対否定への道を今こそ真剣に探る時である。

 エネルギー政策の見直しは当然だろう。原発への依存度を減らしていき、国民的な議論を経ながら、将来はゼロにする。電力浪費の上に成り立っていた暮らしや産業構造も変えていく覚悟が要る。

 国を挙げて核エネルギー依存からの脱却に取り組むよう、被爆地からの訴えを強めたい。広島、長崎の被爆者でつくる日本被団協は「脱原発」の運動を始める。ノーモア・ヒバクシャを、ヒロシマとフクシマを結ぶ言葉にしよう。

 科学技術のもろさが原発事故で浮き彫りになった。地球上に約2万発ある核弾頭にいつ「想定外」が起きても不思議はない。兵器の老朽化やテロ多発などリスクは増している。

 核兵器廃絶への歩みはしかし、進まないどころか後退している。

 「核兵器のない世界を目指す」と2年前に演説したオバマ大統領の米国は、臨界前核実験と新たな手法の核実験を昨秋から計5回も強行した。核超大国であり続けることの意思表示にほかなるまい。

 オバマ政権の核政策の柱は、テロ組織や核保有国以外の核武装を阻止する不拡散である。それを支えている核拡散防止条約(NPT)には本質的な問題がある。

 NPTは、核兵器を持つことを放棄して不拡散に取り組む国に対し、「奪われることのない権利」として原子力の平和利用を保障する。いわば原発推進の条約だ。核兵器保有国に核軍縮を義務付けるが、廃絶までは視野に入れていない。

 ▽禁止条約こそ

 平和利用も含めた核のない世界を実現させるには、核兵器を非合法化する核兵器禁止条約の締結こそ目指すべきだ。昨年のNPT再検討会議の最終文書に「禁止条約の交渉の検討」が記された。交渉開始を促す国際会議の開催を急ぐ必要がある。

 日本政府は米国の核実験に抗議をしなかった。核兵器廃絶を唱えながら、米国の「核の傘」にしがみつく発想から抜け出せない被爆国の情けない姿がそこにある。

 民主党は「核兵器廃絶の先頭に立つ」との公約を忘れたのか。核軍縮に熱心だった岡田克也氏が外相を退いた後、積極的な取り組みはない。

 1年前、平和記念式典後の記者会見で菅直人首相は「核抑止力は必要」と述べている。今、「脱原発」を言うのなら、同時に「脱核の傘」を本気で追求すべきである。




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