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クローズアップ2011:九電メール報告書公表 「やらせ」常態化か

 ◇社員動員、安全アピール

 九州電力が14日公表した「やらせメール」問題に関する報告書は、九電が組織ぐるみで世論を操作していた実態を明らかにした。同社では以前から原発関係の説明会などで社員らを大量動員するなど「やらせ的手法」をとっていた可能性もある。同様の手法は他の電力会社にも共通しているとの指摘もあり、原子力行政が電力会社によって恣意(しい)的にゆがめられていた疑いが浮かんだ。【井上俊樹、斎藤良太、阿部周一】

メール問題で頭を下げる九州電力の眞部利應社長=福岡市中央区の九州電力本社で2011年7月14日午後4時31分、山下恭二撮影
メール問題で頭を下げる九州電力の眞部利應社長=福岡市中央区の九州電力本社で2011年7月14日午後4時31分、山下恭二撮影

 「会社名や肩書が使われ複数の名前が出ている。『組織的ではない』と否定はできない」。14日夕、九電本社であった会見で、眞部利應(まなべとしお)社長はそう認めるしかなかった。

 報告書によると、原発部門のトップとナンバー2に当たる当時の原子力担当副社長、取締役原子力発電本部長に、佐賀支店長を加えた計3人の会合が発端となり、国主催の説明番組での「やらせ」が決まった。3人の意を受けた部下らはメールだけでなく、取引会社を訪問するなどして番組への賛成意見の投稿を要請。会合からわずか3日後には東京支社や鹿児島支店、関連会社なども含めた広範囲の約3000人に指示は伝わっていた。

 九電は以前から原発の安全性をアピールする場で同様の人海戦術を行っていた疑いがある。玄海原発でのプルサーマル発電実施に向けた05年12月の佐賀県主催の討論会に参加した玄海町の男性(77)は「会場で並んでいたら、前後の人たちが『頼まれてきた』『遊びに行くつもりだったのに』とぼやくのを聞いた。玄海原発の下請け工事をしている人たちだと感じた」と証言する。

 この討論会には782人が参加、「安全性に理解は深まったか」との質問に65%が「そう感じる」と回答。自由記述欄にフランスの原発を視察した際のことを書くなど、電力関係者とみられる意見も目立った。

 九電主催の別の討論会でコーディネーターを務めた評論家の木元教子さんは「今回のように再稼働に賛成多数との記事が出ると『問題ないのでは』と流される人もいる」と九電側の狙いを推測する。

 九電内にもこうしたやらせ的手法の常態化が、今回の問題を引き起こしたという声がある。再発防止を考える上では過去の説明会も含めた調査が必要だが、この日公表された報告書は、問題発覚後の今月8日、佐賀県多久市で開かれた県主催の県民説明会でも関係者の動員をかけていたという最近の事実関係を記しただけだった。

 内閣府の原子力委員会専門委員を務めた吉岡斉・九州大副学長(科学技術史)は「どの電力会社でも反対派に対抗するため社員の動員が日常的に行われていた疑いがある。九電は十数年間にわたって何をやってきたか率直に洗いざらい語るべきだ」と話している。

 ◇全国原発、再稼働一層遅れ 電力不足懸念も

 「国民の幅広い理解が前提になる」。枝野幸男官房長官は14日の会見で、原発の再稼働には住民の理解が不可欠との認識を強調した。九電の「やらせメール」問題で電力会社への信認は失墜、玄海原発の運転再開はさらに遠のいた。不信感が全国に広がれば、再稼働は一層遅れ、電力需給の深刻な逼迫(ひっぱく)を招きかねない。経済産業省によると原発の安全に関する住民説明会は自治体の要望を受けて行われるが、問題発覚後、要望はゼロ。同省幹部は「説明会の信頼が傷つき、電力会社全体に対する疑念も広がっている」と話し、地元の理解を促す直接的手段の一つが封じられたことへの危機感をあらわにした。

 九電の眞部社長は同日の会見で「電力会社への信頼が損なわれた。(全国の原発再稼働に)影響があると思う」と認めた。原発と共存共栄の立場だった佐賀県玄海町の岸本英雄町長でさえ「九電との信頼関係にひびが入った」と厳しい認識を示した。古川康・同県知事も「言い訳できることではない」と述べた。

 九電は定期検査中の玄海原発2、3号機について6月末までに古川知事の容認と岸本町長の了承を取り付け、再稼働は時間の問題だった。今月6日、政府が新たな評価導入を打ち出し、再稼働は先送りとなったが、「やらせメール」問題は再稼働に不可欠な地元の信頼を根底から崩しかねない。

 再稼働の延期は、電力需給の逼迫に直結する。九電は原発6基のうち3基が停止中で、運転中の3基が年末までに定期検査に入る予定。全6基が停止すると、来年1月の供給力は1353万キロワットに低下し、ピーク需要の1420万キロワットを賄えなくなる懸念がある。

 全国で営業運転中の17基は来年3月までに定期検査に入る。再稼働なしで全54基が停止すれば、国内の発電量の約3割が失われる。「節電や火力発電への切り替えを進めても電力の安定供給は揺らぐ」(経産省幹部)。コスト面でも火力に代替した場合、年3兆円超の燃料費増となり、電気料金の上乗せなどで国内企業は年7兆6000億円もの負担増。「企業の生産拠点の海外移転が加速し、産業空洞化を招く」(アナリスト)との懸念が強まる。【原田哲郎、竹花周、石戸久代、和田憲二】

 ◇住民向けシンポ、「やらせ」調査へ 経産省・過去5年

 経済産業省は14日、九州電力の「やらせメール」問題を受け、過去5年間に原発建設計画などで国が開催した住民向けシンポジウムなどで、電力各社を対象に同様の「やらせ」がなかったかを調査すると発表した。29日までに報告を求める。【和田憲二】

毎日新聞 2011年7月15日 東京朝刊

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