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朝日地球環境フォーラム2011

10万年後まで影響残る放射性廃棄物

朝日新聞 経済グループ記者 小森敦司

2011年7月25日

 「我々の時代の主要言語で情報を残しておく。理解できるかな? 読める?」――ドキュメンタリー映画「100,000年後の安全」は、原発の運転で出てしまう「高レベル放射性廃棄物」を地中深くに埋めておく、フィンランド国内の施設の建設作業を追ったものだ。

 施設の耐用年数が10万年というのは、放射能の人体への害がなくなる期間を想定してのことだ。施設は建設後に密封され、埋め戻され、その場所はいずれ分からなくなる。

 もしも、数千年、数万年後の人類が、ここを掘り返してしまったら、どうしよう。危険な場所であることを知らせる標識を立てねばなるまい。はたして、いまの言語が通じるのか、と頭を悩ませているのだ。

 今から逆算して10万年前と言えば、人類が、ようやくアフリカを出て世界に広がっていったころとされる。「鳴くよ(794年)ウグイス平安京」のころの古文を読むのでさえ苦労する私には、気が遠くなってしまう時の長さだ。

 東京電力の福島第一原発事故の後、電源別のエネルギーコストが、マスコミで取り上げられるようになった。原子力は1キロワット時あたり5〜6円、液化天然ガス火力は7〜8円、水力は8〜13円。風力は10〜14円、太陽光は49円。経済産業省の「エネルギー白書」(2010年版)に示された数字だ。

 原発は安いだろ、と言わんがための数値だが、現実の原発の発電コストは、白書の約2倍との調査結果がある。今回の事故の賠償額を加えるとさらに高くなる。そもそも、冒頭のドキュメンタリー映画が示すように「10万年」の安全は、足元の建設費や運転費用からはじくコスト論にそぐわないのではないか。

 原発のコストが見かけ上、安いからといって、私たちの世代の電気のために出してしまう放射性廃棄物を、遠い未来の子供たちに対して「安全に管理してね」と、彼らの了解も取らずに頼むことは無責任なはずだ。この日本では、どこに処分場をつくるのかさえ決まってない。

 通信大手ソフトバンクの孫正義社長は全国の知事らと協力して、各地の休耕田や耕作放棄地に太陽光パネルを敷き詰めようという構想を進める。ある集まりでこうほえた。「(自然エネルギーなら)精いっぱい深呼吸できるぞ。魚も思いっきり食べられるぞ。野菜も思いっきり食べられるぞ」

 牛のえさに使う稲わらから放射性物質が検出されるなど、福島第一原発事故の被害はまだ続く。日本の政治は、原発事故で苦しむ人々に対して、また、未来の子供たちに対して、原発を減らして自然エネルギーを大きく入れていく、しっかりとした道筋を示す義務がある、と筆者は思う。

  ◇

小森敦司(こもり・あつし) 東京都出身。1987年入社。金融や経済産業省を担当した後、ロンドン特派員として世界のエネルギー情勢を取材。2008年から編集委員、11年からエネルギー資源・環境担当専門記者。著書に「資源争奪戦を超えて」、「エコ・ウオーズ〜低炭素社会への挑戦」(共著)。

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