国際人権法チーム [ チーム ]
主な国際人権条約には、その条約を実現するために、「報告制度」「国家間通報制度」「個人通報制度」の3つが定められています。
例えば、1966年12月に国連第21回総会において採択された市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)には、そこに定められている権利を実現するため次のような制度が定められています。
個人通報制度は、人権条約に認められた権利を侵害された個人が、各人権条約の条約機関に直接訴え、国際的な場で自分自身が受けた人権侵害の救済を求める制度です。
人権侵害を受けた個人は、その国において利用できる国内的な救済措置を尽くした後であれば誰でも通報する事ができます。その通報が受理され、審議された後に条約機関はその通報に対する見解(views)を出します。
見解には拘束力はありませんが、国際・国内の世論を高めることで国内法の改正を図り、人権侵害の救済・是正を目指します
自由権規約の個人通報制度は、「選択議定書」に定められています。
日本は1979年6月に自由権規約を批准しましたが、政府は「本選択議定書は人権の国際的保障のための制度として注目すべき制度であると認識している。
しかし、締結に関し、特に司法権の独立を侵す恐れが無いかとの点も含め、引き続き関係省庁で検討を行っている」との理由により、この選択議定書は現在もなお批准していません。
個人通報制度に日本が加入すると、個人の人権侵害の救済につながるだけでなく、条約機関から人権侵害の原因となる法制度の改善を求められることになります。
つまり、日本の国内制度が国際人権基準に沿って改善される道を開くことになります。そこで、アムネスティは、この制度の促進に取組んでいます。
『人権は人類共通の関心事項として新たな国際秩序を形成するための価値基準とみなされています。日本が国際社会において名誉ある地位を得たいと展望するならば、人権の国際的な保障により一層の進展のために積極的な役割を果たす事が必要であり、個人通報選択議定書の批准はその試金石となると考えます』
(『個人通報制度って知ってる?』、現代人文社、1998年)
条約名* |
採択年/
発効年 |
条約機関 | 個人通報制度 |
自由権規約 | 1966年/1976年 | 自由権規約委員会 | この条約に付属している「第一選択議定書」という条約で、個人通報制度について定めている。この議定書に入ることで、通報できるようになる。 |
社会権規約 | 1966年/1976年 | 社会権規約委員会 | この条約に付属している「選択議定書」という条約で、個人通報制度について定めている。この議定書に入ることで、個人通報ができるようになる。 |
人種差別撤廃条約 | 1965年/1969年 | 人種差別撤廃委員会 | この条約の第14条で、個人通報制度について定めている。この14条を受け入れる特別な宣言を政府が行う(受諾宣言)ことで、個人通報ができるようになる。 |
女性差別撤廃条約 | 1979年/1981年 | 女性差別撤廃委員会 | この条約に付属している「選択議定書」という条約で、個人通報制度について定めている。この議定書に入ることで、個人通報ができるようになる。 |
拷問等禁止条約 | 1984年/1987年 | 拷問禁止委員会 | この条約の第22条で、個人通報制度について定めている。この22条を受け入れる特別な宣言を政府が行う(受諾宣言)ことで、個人通報ができるようになる。 |
移住労働者権利条約 | 1990年/2003年 | 移住労働者権利委員会 | この条約の第77条で、個人通報制度について定めている。この77条を受け入れる特別な宣言を政府が行う(受諾宣言)ことで、個人通報ができるようになる。 |
障害者権利条約 | 2006年/2008年 | 障害者権利委員会 | この条約に付属している「選択議定書」という条約で、個人通報制度について定めている。この議定書に入ることで、個人通報ができるようになる。 |
強制失踪条約 | 2006年/ 未発効 | 強制失踪委員会 | この条約の第31条で、個人通報制度について定めている。この31条を受け入れる特別な宣言を政府が行う(受諾宣言)ことで、個人通報ができるようになる。 |
*下線が引かれた条約については、個人通報制度に関する部分を除いて、日本も入っている。
*選択議定書とは
個人通報制度を定めている選択議定書とは、広い意味での条約です。条約で定められている権利や保護を強化・追加し、条約の中で定められた特定の分野について一層の詳細な規定を定めるものです。
*日本は…
選択議定書で個人通報制度を定めている条約としては「自由権規約」「社会権規約」「女性差別撤廃条約」等がありますが、日本政府は批准していません。また、「人種差別撤廃条約」「拷問等禁止条約」は条約本文にある規定の受諾宣言を行なっていません。そのため、日本には、個人通報制度は現在まで適用されていません。この他、「移住労働者権利条約」「障害者権利条約」は、条約そのものを批准していません。