インターネット社会の拡大に伴い、子供の裸やわいせつな画像を写した「児童ポルノ」による被害が世界的に増えている。児童ポルノの根絶を目指し「子どもの命と権利を守るシンポジウム」が10日午後1時半、熊本市大江2の県立劇場で開かれる。実行委員長を務める県ユニセフ協会会長、谷口功・熊本大学長(63)にシンポの狙いなどを聞いた。【取違剛】
--児童ポルノ問題の現状を教えてください。
◆児童ポルノが関係する犯罪の検挙は、4~5年前まで全国で年間500~600件でした。ところが昨年は1342件。県内もご多分に漏れず、数年前まで年間1件程度だったのが昨年は26件に急増しました。昨今、子どもがいたずら目的で連れ去られたりする事件が相次いでいますが、背景には児童ポルノの増加があるとみられます。県警の分析では、これらの画像は児童性愛者の心にスイッチを入れてしまう。子供を狙う犯罪の引き金になるのです。
--たしかに、子供が被害に遭った事件の容疑者宅から児童性愛的な内容のマンガなどが多数押収されるケースを見聞きします。
◆金もうけなどのために幼児の裸の画像を売買する事件も後を絶ちません。いったんインターネットで画像が拡散すると取り返しがつかない。その子は一生、自分の裸の画像をどこかにさらされ、悩まされ続けます。こうした実態はほとんど知られていないので、シンポを皆さんに知ってもらう機会にしたいのです。知れば、誰もが児童ポルノ根絶のため何ができるか考えてくれると思う。
--シンポの実行委員会には県ユニセフ協会や県警など82の機関・団体が参加しています。これほどの規模の児童ポルノ根絶シンポは全国でも初めてだそうですね。なぜ熊本で行われることになったのですか。
◆県ユニセフ協会が以前からこの問題に熱心だったのと、県警の中尾克彦本部長が警察庁時代から専門的に取り組んでいたのがきっかけです。児童ポルノ根絶のために何をすべきか。熊本から全国へ、世界へ発信したい。シンポではこの問題に詳しい東郷良尚・日本ユニセフ協会代表理事の基調講演や、池田典昭・九州大医学部教授、国崎信江・危機管理教育研究所代表ら各分野の専門家による討論会をします。
--シンポが県を挙げた取り組みの第一歩になるのですね。
◆出発点にしたい。
地球の未来をつくる上で子供たちは宝、世界の礎です。子供たちを守るため、やるべきことを地道にやっていきましょうと呼びかけたい。ぜひ、1人でも多くの人に参加してほしいと思います。
==============
1947年、奈良市出身。東京工大理工学部、同大学院卒。29歳で熊本大の助手になり、工学部長などを経て現職。シンポジウムは入場無料。問い合わせは県ユニセフ協会096・326・2154。
毎日新聞 2011年8月7日 地方版