2011年8月6日土曜日

累積債務にドル安に国債格下げ。いよいよ進退極まりつつあるアメリカ

オバマ大統領が米国の財政赤字上限引き上げ問題で決着したと発表したのが7月31日だった。債務上限の引き上げ期限が8月2日だったので、ほんとうにギリギリの交渉だった。

まず2011年5月にアメリカは債務上限の14.3兆ドルに達したのが今回の問題の発端である。

債務上限を引き上げないとこれ以上の借金ができないのだが与野党の対立により合意が取れずに2ヶ月に渡って議会が空転し、今回のデフォルト騒動につながった。


アメリカ国債初の格下げ


具体的な数字を見てみたい。

累積債務 14.3兆ドル
削減予定 2.4兆ドル(10年の期間で)
引上上限 2.1兆ドル(最初に0.9兆ドル、次に1.2兆ドル)

仮に、超楽観的に、今後アメリカが2.1兆ドル以上の引上げが必要なく、かつ削減予定の2.4兆ドルが10年後に成功したとする。そうすれば上記の数字はどう動くのだろうか。

確かに削減はできている。ただし、0.3兆ドルだ。つまり、現在の累積債務14.3兆ドルは10年後に14兆ドルになる。

実際には利息の支払いもあるから累積債務はさらに膨らんでいくし、債務削減もそう簡単にいくものではない。

上限は突破して削減は失敗する可能性が高いのだから、上記は単なる数字を合わせてきただけにすぎない。

格付け各社は少なくとも4兆ドルの削減がないと格下げだという意向を最初から出していたが、まったく削減が足りていない。

これを受けてもムーディーズ、フィッチの大手2社は格付けは維持しつつネガティブとしたが、S&Pだけはアメリカ国債を8月6日時点で格下げしたことを発表した。

「アメリカ政府と議会が合意した財政健全化策は十分ではない」

先進国がすべて同じ問題を抱えている


もちろん、アメリカ国債AAAからAA+に格下げされたのは今回が初めてである。

債務不履行(デフォルト)は避けられたものの、信用には相当な傷を負った。今後、アメリカ国債を大量に抱えているFRB、日本、中国には次々と問題が波及していくことになるだろう。

もちろん、アメリカ国債は最大の信用度を持った世界最大の安定的金融商品だったわけだから、すべての国がアメリカ国債をいくばくか抱えている。

今後の金融市場ではどのような影響が出てくるのか分からないが、アメリカの衰退はもうあり得ない話、架空の話ではなくなってしまっているのだから、今後あらゆるところに悪影響を与えることになるのは明白だ。

債務上限問題が片付いて何とかなったというよりも、むしろ、アメリカの本当の問題は先延ばしされて、より悪化しながら同じ問題が戻ってくると言ったほうが間違いない。

末期症状とはこのことだ。負債で首が回らない男が、もっと金をよこせと叫んでいるのと同じである。

これはギリシャやアイルランドやイタリアやスペインを抱えるユーロも同じで、さらに世界最悪の財政赤字を抱える日本も同じだ。

先進国は今やすべて行き詰って倒れようとしている。何とかなると楽観しているのは手数料で儲けたい株屋だけだ。

追いつめられた貧困層が暴動を起こす


これを受けてNY株式市場は5月の高値から10%以上の暴落をしている。

加えてドルも売られており、恒常的なドル安が続いている。8月1日には1ドル76円29銭になったが、これは円高ではなくドル安である。

日本の株式市場は最近は為替相場と密接に連動しているので、円高になれば株式市場は売られる。日本企業は2011年3月11日の大震災、原発事故、節電、円高と次から次へと激しい連打を浴びており、もう限界だと言われている。

今年から来年にかけて、もうほとんどの製造企業は日本人を切り捨てて海外に出ていく。そうせざるを得ない環境になっている。

この期に及んでまだ日本は復活すると言っているアナリストがいるのだが、よく恥ずかしげもなくアナリストの看板を掲げているものだと呆れてしまう。彼らは日本の製造業の現場を見ていない。

先進国の失業率は今後も上昇していくし、日本でも欧州でもアメリカでもそれを解決するメドは立っていない。

ちなみにアメリカの失業率は2011年6月で9.2%だが、潜在的な失業者を含めると16.2%という数字になるとも言われている。潜在的失業というのは、仕事探しをあきらめて仕事探しをしていない人のことを言う。

中流は崩壊し、貧困が拡大している。それなのに、財務削減については貧困層の社会福祉の削減が主になる。今後、追いつめられた貧困層が、何らかのきっかけで暴発し、アメリカは内乱に突入するとも言われている。

破綻していく方向に向かっている


FRBがQE3を開始することを望む人たちもいる。つまり量的緩和をさらに続けるべきだという意見だ。

しかし、2度に渡って行われた量的緩和が物価安定や雇用に効果があったのかと言われると疑問点も多い。現に、これだけ紙幣をばらまいたにもかかわらず、失業率の改善はまったく見られない。

ドルは大手銀行から株式市場や国債購入に流れており、実体経済には流れていない。これは日本でも見られた傾向であり、FRBもこうなることは最初から分かっていたのかもしれない。

アメリカ企業は来るべき2番底に備えて人員削減を急いでおり、5月よりも6月、6月よりも7月のほうが削減率が高くなっている。

人員削減についてはウォール街でも例外ではなく、リーマン・ショックの起きた2008年では勝ち組だと言われていたはずのゴールドマン・サックスでさえ今は精彩を欠いて人員削減に走っているのである。

JPモルガン・チェース、アメリカン・エクスプレス、モルガン・スタンレーすべて同じ状態だ。彼らは来るべき修羅場に備えて今のうちに体力を確保している。

著名な投資ファンドについても、PIMCOは国債をショートしており、カール・アイカーンは顧客にすべての投資資金を返して「リスクは負いたくない」と言い、ジョージ・ソロスもまた「これからは他人の金は運用しない」とファンド事業を閉じた。

株価の大暴落が来るのかどうかは誰にも分からない。そんなことが分かれば破綻するファンドもなければ破綻する個人もいない。

だから、多くの人が破綻するという意見の裏をかいて実は株式市場は逆の動きをする可能性は充分にある。相場は騙し合いの世界だから起きないと思うことは往々にして起きるし、起きると思ったものは起きない。

しかし、世の中がどちらの方向を向いているのかという話で言えば、間違いなく、全世界が破綻していく方向に向いているというのは分かる。

アメリカが破綻しつつあると言うと、アメリカかぶれの人たちはとたんに怒り出す。しかし借金を抱えた男がさらに借金を重ねる姿と同じ状況にあるのだから怒るほうに無理がある。

ブッシュ前大統領が莫大な累積債務を積み上げたときに、もうアメリカの命運は決まっていた。

今はツケを払っているところだ。そして、さらにはそのツケが払えなくなりつつあって問題が起きている。

現在の金融システムも、現在の社会システムも、明らかに疲弊している。大きな曲がり角に来ており、いつどんな災厄が襲いかかってきてもおかしくない。



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