大阪市西区で起きた2幼児放置死事件から1年。昨年度、全国の児童相談所にあった虐待通報は初めて5万件を超え、大阪府内では前年度比増加数が全国最多の2210件に及んだ。各地で児相職員の増強も進み、大阪市では職員が2年前の109人から154人に増員。ただ、「虐待は見逃さない」との機運が高まる一方で、悲惨な事件も後を絶たない。
元大阪市中央児童相談所長の津崎哲郎・花園大特任教授(児童福祉論)に今後の課題を聞いた。
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事件後、児相の即応的な態勢は充実し、大阪市では消防車まで駆け付けるようになった。07年、厚生労働省が運営指針に「虐待通報から48時間以内に安全確認をする」と盛り込んだこともあり、スピードアップしている。
ただ、弊害もある。通報を受けて事前情報なしで駆け付けるのは「突撃訪問」とも呼ばれる。緊急事態で子供が瀕死(ひんし)の状態なら効果的だが、実際には大半はそうではない。親は「誰が通報したんだ」と疑心暗鬼になり、隣近所との関係もぎくしゃくしてしまう。スピードと警戒ばかり優先する仕組みが進んだため、地域の支援が必要な人が「地域に居づらい」というマイナスの作用が生まれている。
制度上、虐待への対応は(都道府県や政令市が運営する)児相と市町村が二元的に行う仕組みになっているが、ノウハウや人材に乏しい市町村の体制をどうするかが課題だ。児相も手いっぱいで、市町村を十分支援できていない。児相は職員が数年サイクルで入れ替わり、ノウハウの蓄積が薄い。大阪ではNPO法人「児童虐待防止協会」が市町村の職員を研修、支援する取り組みを始めた。こういった仕組みがうまく機能し、全国的に広がることを期待したい。
貧困、家族の孤立、親の未熟性という3点が多くの虐待の核になっている。現状では地域差や個人差が大きい民生委員にも期待したい。行政は支援のさまざまな取り組みを用意しているが、本当に問題のある人はそこへは来ない。虐待の疑いがあれば、マンションの管理人に積極的に聞いて回るとか、おせっかい型、出前型の関わりが求められている。
西区の事件では母親が住民票を移さずにマンションに住み、行政の手が行き届かなかった。母親は風俗店に勤めていたということだが、行政が店からの要請を受けて、子育て支援を調整するような仕組みがあってもいい。=おわり
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この連載は平野光芳、反橋希美、青木絵美が担当しました。
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毎日新聞 2011年8月4日 大阪朝刊