きょうのコラム「時鐘」 2011年8月7日

 連載が始まった「タイム・スリッパー珠姫」は、お姫様が21世紀に時間旅行する話。子どものころはそんな旅を何度も夢見た

タイム・マシンでどこへ行こう。いい大人になっても時折、夢想する。「北陸は、蓮如さんのころが輝いていましたな」と作家の司馬遼太郎さんに教わったことがある。農業技術が進んでムラが富み、暮らしが飛躍的に豊かになったという

蓮如が去って一揆(いっき)が起こり、戦国の世になだれ込む。司馬さんのお勧めはその前夜。荒れ野が一面の美田に変わった時代はさぞ見事な景色だったに違いない。そう語る言葉を記憶するが、あいにく、そのころ活躍した有名な英雄や美女を知らない

どうせ時間を旅するなら、前田利家やまつの顔を見、合戦も見物したい。有名人のいない時代に、さほど旅心はわかない。が、野菜や魚の放射能汚染に始まり、牛肉やコメに広がる騒ぎに接すると、待てよ、と思う

大地の恵みに対し、あれは危険、これは怪しいと悩む日々である。500年前よりも、食の喜びはどれだけ増したのだろう。タイム・マシンでひとっ走りして確かめてみたくなる。