体のあらゆる組織や臓器になるとされるiPS細胞から精子を作りだし、卵子と体外受精させてマウスを誕生させることに京都大学の研究グループが世界で初めて成功しました。不妊症の原因解明などにつながると期待されています。
この研究を行ったのは、京都大学大学院医学研究科の斎藤通紀教授の研究グループです。研究グループでは、オスのマウスの体の細胞からiPS細胞を作りだし、特殊なタンパク質を加えて精子や卵子のもとになる「始原生殖細胞」に変化させました。そしてこの細胞をオスのマウスの精巣に移植したところ、10週間ほどで精子が作られ、卵子と体外受精してマウスを誕生させることに成功したということです。iPS細胞から正常な精子が作られたのも、その精子を使って生命が誕生したのも世界で初めてで、斎藤教授は「生殖細胞が作られるメカニズムや、不妊症の原因の解明につなげたい」と話しています。これについて、不妊治療が専門の森崇英京都大学名誉教授は「今回の成果は、すばらしいのひと言に尽きる。精子や卵子の元になる細胞を大量に作り出せたことで、精子や卵子がどのように作られるかや不妊の原因を突き止めるのに役立つ」と話しています。一方、iPS細胞などから精子や卵子を作る研究は、ヒトに応用すると原理的には、一人の人間から精子と卵子を作り出し、人間を誕生させることが可能となるため倫理的な問題が指摘されています。国は、去年5月に策定した指針で、ヒトのiPS細胞などから精子や卵子を作ることは認めていますが、受精させて受精卵を作ることは禁止しています。国の指針作りに関わった京都大学大学院法学研究科の位田隆一教授は「ヒトへの応用には、生命の始まりを人工的に作り出していいのかという倫理的問題があり、指針は受精卵を作ることを認めていない。研究者は、社会の価値や考え方をしっかり理解したうえで研究に向き合う必要がある」と指摘しています。