「あんたらもう、全員失格―!!!!!」
次々と差し出されてくる、寿司と呼ぶにはおこがましい物体を、おなかいっぱいになるまで食べさせられたメンチはついにキレた。
「あんたらね、形だけ真似てみてもしょうがないのよ!魚は生臭い上に泥臭いし。ネタは人肌で暖かいし、寿司米は混ぜすぎてぐちゃぐちゃだし、そもそも、寿司酢は砂糖と塩もいれるものなの、酢だけ入れたごはんなんて喰えたモンじゃないわ!」
もっとも、メンチの怒りは的外れといってもよいだろう。そもそもが、沼しかないここビスカ森林公演では、採れる魚が泥臭いのは当然のことである。それは、蟹だろうが、海老だろうが同じことである。
それをつかうのだから、おいしい寿司などできるはずはない。
元よりメンチ自身、この試験では発想力と推理力を試すつもりで、味については食べられるレベルであれば、それで合格させるつもりだった。
しかし、ハンゾーのうかつな一言により、形だけは全員が合格レベルのものを作れるようになってしまった為、合否の判断は味のみとなってしまった。
結果、グルメハンターとして、世界各地の美食を追及してきたメンチの舌をうならせるような受験生など存在するわけがなく、全員が不合格となってしまったのだ。
もっとも、この沼地に生息する魚で、メンチをうまいといわせることのできる料理人など、どこを探してもいるとはおもえないが。
もちろん、こんな判定にハンター候補生たちは納得できるはずがない。最初にメンチに喰いかかったのはレオリオであった。
「こっちはなあ、料理人じゃなくて、ハンターになりてえんだよ!なんで料理の腕で不合格が決められなくちゃなんねえんだよ!」
「ハンッ、あんたハンターになりたいってのに、料理人ごときの真似事もできなくてどうすんのさ?才能ないんじゃないの、やめちゃえば?」
「ぐっ、このアマ・・・!?」
話にもならない、メンチが男であれば、レオリオは殴りかかっていたことであろう。こう見えてもレオリオはフェミニストだからだ。もっとも、他の受験生はその限りではない、受験生と試験官のあいだに緊張が走る。
その張り詰めた空気の間にある男の声が割り入った。
「ふむ、それはちと傲慢ではないかの。今の発言訂正していただきたいのじゃが」
白髪にひげをたくわえ、茶色の着流しを着た老人がそこにたっていた。歳はとっているようだが、ピンと伸びた背筋、大柄な体が、年齢を感じさせない、なんとも雰囲気のある老人であった。
「あんただれよ。」
「なぁに、ただのじじいじゃよ。」
メンチは男に問うが、男は名乗るつもりはないようだ。
「あっ、そ。じゃ、消えてくれる?失格は失格、絶対に覆す気はないわ。あんたも今回は運がなかったとおもってあきらめて頂戴。」
そう言い放つメンチ、とりつく島もないとはこのことだ。しかし、老人は、それに対し決していきり立つことなく、好々爺らしい諭すような口調で語りかける。
「ふむ、それはざんねん。ちと、調理に時間がかかりすぎてしまったようじゃのう・・。メンチ殿がおそらく一度も食べたことがない寿司を用意していたのじゃが・・・。じゃがしかし、このまま捨ててしまうのは、食材にとってあまりにも不義理。食べる為に命を奪った以上、食べていただけなければ、この爺、捕ってきた魚に申し訳がたたんのう。せめて、寿司のもう一貫、食すだけのおなかの隙間を、この爺のためにつくっていただけませんかの?」
「ふーん、確かに食材を無駄にするのは、わたしの主義に反するわね・・。いいわよ、寿司の一貫、一貫だけ食べてあげる。それでわたしの舌を納得させることができれば、さっきの発言撤回してあげる」
メンチは考えを改める、この老人は今、寿司を一貫と言った。一個ではなく一貫。貫とはジャパンで寿司を数えるときのみに使われる特別な単位である。それを知っているということは、少なくともこの老人が寿司という食べ物について相応の知識を持っているという事だ。
また、捨ててしまうのが食材に不義理だと、グルメハンターの矜持をつく発言。メンチはこの老人の作る寿司を食べてみたくなっていた。
「それで、もしも、おいしくなかったらどうするの?」
うまく丸め込まれたようで、少し気に入らないメンチは老人を挑発する。
「ふむ、そうさのう。もしも気に入らなければお代はいらぬということでどうかのう?」
「フフッ・・、大きくでたわね。いいわ、その条件でいきましょ。悪いけど、グルメハンターのなにかけて厳しく審査させてもらうわよ。」
「よろしい、では、『味勝負』参ろうか。」
もちろんこれは試験なので、旨かったからといってメンチがお金を払う必要など、まったくない。
しかし、メンチは「お代は入らぬ」という老人の気の利いた一言にやられていた。まずかったら、お代を取らぬということは、反対に言えば、金を取る覚悟をもって料理をつくるということ。プロハンターの自分の前に、プロの料理人として対峙しようという老人のことをメンチはすっかり気に入っていた。
ハンター候補生たちは、二人のやり取りを、ただ見守っていた。
自分達の運命をこの見知らぬ老人に託す形になってしまったが、不思議と不満はなかった。老人からにじみ出るカリスマのようなものに酔ってしまったのかもしれなかった。
先ほどまで、メンチを力づくで翻意させようと考えていたヒソカやギタラクルでさえ、この老人がなにをなすつもりなのか、興味深げにみつめていた。
老人は、木の板に笹の葉を敷いたものを器にし、その上に数貫の寿司をのせてメンチのもとへと運んできた。
シャリは、一粒一粒ハリがあり、酢の化粧できらきらと輝いている、その上に乗っているネタが魚であることは恐らくまちがいないだろう、身は真っ白で、まるでカリフラワーのように、もこもことしている。またその表面は、幼女の唇の如くつややかに濡れている。
見た目だけで判断すれば間違いなく合格のレベルだろう。
「へー、それがアナタの寿司?。ネタには何をつかったのかしら?」
「ヨツメハラグロウオ、通称ゲロなまずじゃよ。」
「「「「「「ゲロなまずだとー!???」」」」」」」
ハンター候補生たちが一斉に叫ぶ。
ゲロなまず。よんで字のごとく、あまりのまずさに食べたものは嘔吐してしまうという魚である。
毒にしかおもえない癖の強い味、筋張った身、熱すると凝固して、石のようにかたくなる脂身。また、小骨が血管のように張りめぐっていて、骨を除いて調理するのは不可能。ヌメーレ湿原だけでなく、世界のいたるところに分布しており、そのまずさは広く知られている。
どう調理をしようが、決しておいしくならないと言われている魚だ。煮ても焼いても食えないとは、この魚からうまれたことわざだという説もあるくらいである。
「あんた正気?いくらなんでも素材が悪すぎるわよ。嫌がらせのつもりなら容赦しないわよ」
メンチは、老人にかけていた期待を裏切られた気になり、急激に不機嫌になる。好奇心旺盛なメンチは、子供時代近所の沼で捕まえたゲロなまずを親に内緒で食べてみたことがあった。
結果、三日間寝込んだ。
もちろん、それを最後にゲロなまずをたべたことはない。グルメハンターであるメンチは、さまざまなゲテモノを調査の為に食してきたが、その彼女をもってして、ゲロなまずは絶対に食べたくないものワースト3に入る。
「はて、素材がわるいかのう?わしにとっては、この沼で手に入る最高の素材なのじゃが。まあ、だまされたと思って召し上がってみてもらえんかの」
「ちっ・・、一度食べるといった以上は、食べるわよ。でも、まずかったら覚悟しときなさい」
そういって、口に寿司を放り込む。
メンチの動きがぴたりと止まった。まったく動き出そうとしない。あまりのまずさに気を失ったかと、受験生達がメンチの顔を覗こうとしたとたん。
「うー!!!まー!!!いー!!!わー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
メンチの口からまばゆいばかりの光線が放たれた。
「このまったりとしつつもさくさくとした触感!!!幾重にも広がる深みのある味わいは、まるで、アルプスの雪解け水のよう!!!絶品!!絶品ンンンん!!! ・・・しかし、なぜ、なぜ、ゲロなまずは、固い上に骨がましくてとても食べられたものではない筈なのに・・」
その時、メンチの網タイツのシャツがプチプチと弾け、豊満な乳房がさらけ出された
「「ぷるんぷるん!?」」
声をそろえるレオリオとハンゾー、受験生達の視線が一斉にそこに注がれるが、メンチにとってそんなことはどうでもいい。老人の料理に隠された秘密がそこにあった。
「わたしの服が切れ切れになっていく・・・!!まるで幾重にも包丁をいれたみたいに・・。そうか、この触感の秘密は『骨切り』!!」
繊維の一本一本まで、細かく千切れていくに自分の服を見て、メンチは東洋に伝わるある技法を思い出した
「いかにも。ハモなど小骨の多い魚などを食すために、包丁をいれて食べやすくする方法じゃよ。」
老人は肯定する。
「それにしても、なんて繊細な包丁さばき!ここまで見事な骨切りは初めてみたわ。細かく砕かれたほねが、触感に絶妙のアクセントを加えている!!・・・でも、それだけじゃない!!骨を切って食べやすくしたところで、味まで変わるわけはないもの!一体他にどんな秘密が・・・」
「メンチ、おれもたべるぞ!」
「ねえ、オレもたべていい?」
「あ、ずりい!オレもー」
メンチの反応を見て、いてもたってもいられなくなったブハラと、好奇心旺盛なお子様二人組みが皿に残ったゲロなまずの寿司を食べる
そして、ブハラは寿司を口に入れた、とたんに彼は燃え上がった、物理的に。
「「「「試験管が火達磨にー!!!??」
緊急治療バッグをもって駆けつけるレオリオ、しかしブラハは
「あつ・・、あつ・・・・・・・熱くなーい!!」
ブハラは、炎に包まれながらも、ぴんぴんしている。どうやらブハラをつつんでいる炎は、本当にあつくないようだ。
「「「「「「なんだとー!!!????」」」」」」
驚く受験生達。
「そうだ!・・・ゴン、ゴン達はぶじなのか?レオリオ!」
目の前の不可解な現象はおいておいて、ゴンとキルアは大丈夫なのだろうか?いち早く気づいた、クラピカは二人のほうをみる・・・。
「・・キルアはいいよなー。髪さらさらでー、オレの髪いくら伸びてもつんつんなんだぜー。シャンプーするときも頭皮まで手とどかなくて、たいへんだっつうの。きっと13km伸びても逆立ってるね。オヤジはそうでもねえのによー。なにこの遺伝子、いったいあのオヤジどんな女と結婚したっつんだよー?」
「お前とこなんかまだいいよ・・。うちなんて、暗殺一家のうえ、兄貴たちは、なに考えてるかわかんねーし、一人は末期オタクの引きこもりだし。母親は過保護すぎて、むしろおまえが警察に保護されろって感じだし。弟は最近どんどん女らしさが増していくし・・・。」
ゴンとキルアは、どこからか現れた酒場のカウンターでくだを巻いていた。
「「「「「「「へべれけに酔っ払ってるー!!??」」」」」」」
突っ込む受験生たちをよそに、何かを考えているメンチ、この老人の寿司に隠された秘密がそこにあるはずだからだ。
「火に焼かれても熱くないというブラハ、そして酒場で飲んだくれる少年達・・・。そうか!これは低温発火アルコール!!!」
「いかにも、着火点は70度程度、アジエン大陸の秘境に伝わる、カカという実から造った酒で・・・」
老人はそこで言葉を止める、老人の喉下に鋭い針が突きつけられていたからだ。
「あんた、キルアに何をした?」
飲んだくれているキルアをみて、明らかにこの男が何らかの念攻撃をしたと判断したイルミは、自身の念を解放し威嚇する。超一流の殺し屋のオーラが老人に突き刺さり、その余波にあてられた受験生の何人かが泡を吹いて倒れてしまう。
しかし老人はその殺気をさらりと受け流す。
「なあに、体にたまった毒を吐き出しておるだけじゃよ。見よ。」
喉元の針を下ろすことなく、キルアの方を振り返るイルミ。
先ほどまで酔っ払いていた筈のキルアは今、完全にシラフになっていた。そして崩れ落ち、ぼろぼろと泣き始める。
「オレ・・、オレ・・、一体何ということを・・・、母さんや兄貴をナイフで刺してまで家を飛び出すなんて・・・。馬鹿だオレ・・。本当は分かっていたはずなのに。家族のみんながどれだけオレを愛してくれていたかってこと・・・。ごめん、ごめんなさい・・。みんな。」
その姿をみて、老人は寿司の秘密を解説をする。
「ゲロなまずの癖の強い味は、アルコールに漬けることで取り除くことができる。そしてアルコールで毒素の抜けたその身はゲロなまずの本来の味を楽しむことができるのじゃよ。
余計な成分さえなければ、ゲロなまずの身は、普通のなまずの数十倍も旨いものなのじゃよ。・・ふむ、少年もすっかり毒が抜けて心の内に隠された本当の自分をさらけだすことができたようじゃな。」
「キルア、大丈夫なの?。」
老人に突きつけていた針をおろすイルミ。変装をといて、キルアに近づく。
「あ・・、お兄ちゃん・・・。ごめん、ごめんなさい。オレ、ガキだった!みんながどんだけおれのことを考えてくれていたか分かってなかった!!」
泣きながらイルミにしがみつくキルア。
「うん、いいんだ、キルア。いっしょにおうちへ帰ろう。」
すこし素直になりすぎのような気がしないでもないが、数年ぶりにお兄ちゃんと呼ばれたことイルミはそれだけで満足していた。捻じ曲がってはいるが所詮イルミはブラコンである。
キルアを抱きしめながら老人に目で感謝するイルミ。老人も満足そうに頷き返した。
「いや、本当の自分というか、あれはまったくの別人だろう」
と、突っ込むクラピカの声は聞こえていない。
「信じらんねえ・・。あの、クソ生意気なガキがあんな素直に!!・・・そうだ、ゴン!おめえはなんともねえのか?」
レオリオはゴンに問いかける、そのゴンは。
さらさらヘアーになっていた。
「「「「「「「「誰だお前ー!!!!????」」」」」」」」」
「・・・ツンツン頭の剛毛がまるで赤ん坊の産毛のように柔らかな髪に!・・・そうか、これがアルコールにつけたもう一つの意味ね!!」
さらさらヘアーのゴンをみて、アルコールにつけたもう一つの秘密に気づいたメンチ。
「その通り、硬く筋張った身は、アルコールに漬けることで程よい柔らかさとなる、最後にそれをフランベすることにより・・・。」
「そこからは、おれが説明させてもらおう!」
老人の解説を誰かが遮った。そこには目の覚めるような美形の男が立っていた。すらりとした長身の体は、シャワーでも浴びてきたかのようにつややかに濡れている。文字通り水も滴るいい男である。
「低温でフランベすることにより、本来煮込むとガチガチに硬くなってしまう筈のゲロなまずの脂肪分は、凝固することなく外へと溶け出す。その油は甘くまったりとして、それでいてしつこくない、まさに極上のソースとなるわけだ。」
男の推測に老人は頷く。
「なるほど、低温発火アルコールによるフランベだから、魚の風味も損なわれないってわけね。・・・ところであんただれよ?」
男にたずねるメンチ、自分ですら気づかなかった寿司の隠された秘密に気づいた男、只者でないのは確かだ。
「なにいってんだメンチ。おれだよ。ブハラだよ。あの寿司を食べたとたん脂肪がとけだして幾分やせてしまったから、ちょっとばかし分かりづらいかもしれないけどな。」
「「「「「「「「「「わかるわけねーだろ!!!!!」」」」」」」」」
メンチと受験生の声が重なる。
そういえば、火達磨になっていたはずのブハラがいつの間にかいなくなっていた。どうやら本当に体中の脂肪が外に溶け出したようだ。つまり、ブハラの体をぬらしているものは、溶けだした脂肪ということらしい。受験生達がブハラから距離をとる。
「ありえない!体重どころか、身長、骨格、さらに口調まで変わっているではないか!!」
ただひとり突っ込むクラピカ。レオリオや他の受験生たちは、考えると負けだと気づいたようで、既にそのことに疑問を持つものはいない。
「なんか、もう、いいや。」受験生達のこころは一つになっていた。
・・・そして、メンチはゆっくりと箸をおいた。
「・・・負けたわ、この勝負わたしの完敗よ。あなたの寿司はこれまでわたしが食べた寿司のなかで一番・・・、いえ、食べた事がある料理の中でも一番おいしかったわ。約束どおり全員失格は訂正させてもらうわね。・・・とはいっても、全員を通すわけにはいかないから再試験は行うわよ。あ、もちろんあなたは文句なしで合格ね」
負けを素直に認めるメンチ、沼地という悪条件のなか、しかもゲロなまずを使って最高の寿司を握った男。文句などあろうはずがない。もし自分にその資格があれば、今すぐにでもこの老人にハンター証をわたしていただろう。
再試験が決定され、歓声を上げる受験生達。
しかし、老人は怪訝な顔をして、メンチに答える。
「いや、別に訂正してもらいたかったのはそのことばではないぞ。別にワシはハンターになるためにここに来たわけではないからの・・」
「いや、だったら、なにしにきたんだ、アンタは」
クラピカの突っ込みは聞こえない。
「訂正して欲しいのは、メンチ殿がいった『料理人ごとき』という言葉じゃよ」
自分の発言を思い出し、羞恥で顔が真っ赤にそまるメンチ
「われら料理人は、確かにメンチ殿やブハラどの達グルメハンターと違い、命の危険を冒しながら食材を手に入れるわけではない・・・」
『料理人ごとき』、メンチはレオリオに対し確かにそういった。一つ星のグルメハンターであるメンチは、未知なる食材を探す為に常に命をかけてきた。しかし、それを調理する料理人たちは金を払うだけで最高の食材を手に入ることができる。厨房の中で、決して命の危険にさらされることなく、彼らはただ調理するのみだ。だからメンチは心のどこかで料理人を見下していた。
老人は続ける。
「しかし、あなた方グルメハンターが食材を求めて世界中を旅するならば、われら料理人は食材の中を巡る旅人なり。食材一つ一つがもっている、多様で可能性のあふれる世界。われらが命をかけているのはその場所なのじゃよ。」
老人はそう締めくくった。
「食材一つ一つの世界を旅する人間、それが料理人・・か。 先程は失礼致しました。料理人ごときというわたしの発言、心から謝罪いたします。また、今後、二度と料理人を軽蔑しない事をこのハンター証にかけてちかいます。」
メンチにとって老人の言葉は、正に目から鱗であった。メンチは老人に深く頭を下げる。謝罪の気持ちと、それに気づかせてくれた感謝の気持ちを込めて。その気持ちに老人は微笑みをもって返す。
「なあに、我ら料理人も、メンチ殿たちグルメハンターの協力がなければ料理はできん。グルメハンターと料理人は、共に歩んでいくもの。共にいる以上、たまには喧嘩する事もある、気に病むことなどない。ほれ、女子が肌を人前でむやみにさらすものではない、これを着なさい」
メンチはすっかり忘れていたが、網タイツが破けて下着が丸見えの状態である。
老人は、自身の茶色の羽織をメンチにかぶせる。
そのとき、メンチは初めて、老人の纏う着物に描かれた紋章をみる。
「こ、この紋章は・・・、まさか・・・!!味皇料理会!!!」
「な、なんだってー!!!」
メンチの言葉に驚く美形ブハラ。
グルメハンター達のあいだでまことしやかにささやかれるうわさがある、味王料理会、和・洋・中、全ての食を極める6人の男たちの集団。彼らの料理を一口でも食べたものは皆口をそろえて言うらしい、あれは料理などではない、料理を遥かに超えたなにかであると。
「そして、あなたは・・・、味皇さまですね。」
男からあふれでるカリスマに、この老人が何者か確信するメンチ。味皇料理会の頂点に君臨する男、究極の男達の中のさらに究極と呼ばれる男。食の求道者村田源二郎。人呼んで味皇なり。
メンチの問いに頷く味皇。なるほど、その身から放たれる威厳は確かに王とよぶに相応しい。
「さて、用も終わった事だし、わしはそろそろ行くとするかの?」
振り返り立ち去ろうとする味皇。「いや、だからあんた試験受けに来たんじゃないのか?」と疑問に思うのはやはりクラピカのみだ。
「待ってください味皇さま!お願いです、わたしも連れて行ってください。」
メンチは味皇を呼び止める
「ふむ、何故じゃ?」
「わたし、これでも一つ星のグルメハンターなんです。でも、味皇様の料理をたべて自分の未熟さを実感しました。正直、うぬぼれていたんだと思います。料理人ごときとか、ゲロなまずなんて食べ物じゃないとか。そんなんじゃ、真のグルメハンターとなることはできません。あなたの元で自分を一から鍛えなおしたいんです!お願いします!!」
味皇はメンチの目をみて彼女の決意が並々ならぬものだと理解する。
「食の道は果てしなく長く険しいものぞ。 わしとて、まだほんの入り口に立っておるにすぎん・・・。それでもよからば、ともに歩んでいこうではないか。」
頷く味皇、メンチの顔が喜びに花開く。
「メンチ・・・」
ブハラ(イケメン)はすこしだけ寂しそうな表情を浮かべる。
「ごめんね、ブハラ。あなたとのパートナーは解消よ、わたし、ここで行かなきゃ一生後悔すると思う。」
「・・うん、いってらっしゃい。でも、中途半端に投げ出したら承知しないぞ」
「ばかねえ、あたしを誰だと思ってんの?」
長年のパートナー達はここで別れを告げる
「おねがい、お爺さん!オレもつれてって!!」
そこに、ゴン(さらさらヘアー)までが同行を求め出る。
「お前まで、何を言い出すんだ、ゴン!父親を探す為にハンターになるんじゃなかったのか?」
驚くクラピカとレオリオ
「クラピカ、レオリオ、おれ、こんなに旨いもの食べたの初めてだったんだ。世界って、こんなにも広くて深いんだって知らなかった。このお爺さんについていけば、きっともっと世界は大きくなる。・・・それにね、なんとなく予感がするんだ。この食の道の行き先でジンがおれを待っているって。」
「いや、それは錯覚だろ」と、冷静に突っ込むクラピカをよそに、固い握手を交わし、再開誓うレオリオとゴン。そしてゴンは知り合ったばかりの同世代の友人を見る
「キルア・・・」
「ゴン・・・、おれも一緒に行きたいけど、家族がオレをまってるから帰ることにするよ。・・でも、おれはおれで食の道を究めようと思う。だから、次に逢ったときは味勝負だぜ!」
「うん、キルア。おれ負けないよ!!」
こぶしを付き合わせるゴンとキルア
暖かく見守る、レオリオとイルミ達。さすがのクラピカも、既に突っ込む気力が失せていた。
「うむ、食の道は険しいもの、しかし道連れあらば、厳しい旅も楽しいものとなるであろう。食の道を楽しむとかいて、食道楽と読む・・。即ちこれ、食の真髄なり。」
ゴンは、味皇とメンチの側に並ぶ。ハンター候補生達はがんばれよーと、声援を送る、再び立ち去ろうとする味皇たち。
「ちょ・・?おまえら・・、再試験は?」メンチが行ってしまうと誰が再試験をするのだろうか、それに唯一気づいたクラピカは声をあげる。
「おお、そうじゃ、皆のもの、大事な事をわすれているのではないか?」
顔をみあわせる、ゴンとメンチ、はっと気づいて、テーブルに戻る
両手をあわせて皿にむかって頭をさげる。
「「ごちそうさまでした!!」」
その後、ネテロ会長がメンチに代わり、再試験を行う事で、ハンター試験は無事行われる事になった。
ゴンとメンチは一年程味皇の元で修行をした後、それぞれの道をいくことになる。
メンチはグルメハンターに戻り、ジンに続いて、女性では史上最速で二つ星を獲得する快挙をなしとげる。
ゴンは、世界各地の食材が揃うといわれるグルメ都市テイスティーで、自分の店を開き大いに繁盛する。そこで、ゴンの店と知らず、ご飯を食べに立ち寄ったジンと遭遇、父に会うという目標を果たす事になる。さらさらヘアーになっていたゴンが自分の息子だと全く気がつかず、あえなく発見されてしまったそうだ。
キルアは暗殺仕事の傍らに、料理の修行を続ける。ゾルディック家の前にレストランを出し、怖いもの見たさで食べに来た観光客は、皆、そのあまりの旨さに卒倒したという。(うっかり毒が入っていたという説もあるが。)
また、4年に一度開かれるグルメオリンピアでは、ゴンとキルアは生涯のライバルとして凌ぎを削ることになるのだが、それはまた別の話である。
味皇の念について。
能力名:
味皇の世界(ウマイゾー) 操作・特殊系
効果:
自身の料理を食べたものに、自分と同レベルのアクションをとらせることができる。その時、食べた者の肉体や、持ち物、精神などに、料理の内容に合わせた変化が起きることがある。
制約:
味皇の料理を食べた人間が心から「おいしい」と思わない限り発動しない。
味皇を超えるリアクションは不可能。
**********************
味皇様はアニメ版の味皇様です。
味皇様って料理できるの?というひともいるかもしれんが、一応漫画では最後の敵になった事もあり、ここでは、料理の達人ということにさせてもらった。
ちなみにゲロなまずとか、カカの身とか低温発火アルコールなどというものはハンター世界にしか存在しないということにしておいてほしい。
メルエムが、プフとユピーをうまうまするシーンをみて昔おもいついたネタ。
文章にすると思ったよりひどいものになった。なんだこりゃ。