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[29068] 【ネタ・完結】ハンター試験に味皇様が光臨しました。 (HxH × 味っ子)
Name: あぶさん◆5d9fd2e7 ID:9f632b24
Date: 2011/08/06 20:58
「あんたらもう、全員失格―!!!!!」


次々と差し出されてくる、寿司と呼ぶにはおこがましい物体を、おなかいっぱいになるまで食べさせられたメンチはついにキレた。


「あんたらね、形だけ真似てみてもしょうがないのよ!魚は生臭い上に泥臭いし。ネタは人肌で暖かいし、寿司米は混ぜすぎてぐちゃぐちゃだし、そもそも、寿司酢は砂糖と塩もいれるものなの、酢だけ入れたごはんなんて喰えたモンじゃないわ!」


もっとも、メンチの怒りは的外れといってもよいだろう。そもそもが、沼しかないここビスカ森林公演では、採れる魚が泥臭いのは当然のことである。それは、蟹だろうが、海老だろうが同じことである。
それをつかうのだから、おいしい寿司などできるはずはない。

元よりメンチ自身、この試験では発想力と推理力を試すつもりで、味については食べられるレベルであれば、それで合格させるつもりだった。

しかし、ハンゾーのうかつな一言により、形だけは全員が合格レベルのものを作れるようになってしまった為、合否の判断は味のみとなってしまった。

結果、グルメハンターとして、世界各地の美食を追及してきたメンチの舌をうならせるような受験生など存在するわけがなく、全員が不合格となってしまったのだ。

もっとも、この沼地に生息する魚で、メンチをうまいといわせることのできる料理人など、どこを探してもいるとはおもえないが。

もちろん、こんな判定にハンター候補生たちは納得できるはずがない。最初にメンチに喰いかかったのはレオリオであった。


「こっちはなあ、料理人じゃなくて、ハンターになりてえんだよ!なんで料理の腕で不合格が決められなくちゃなんねえんだよ!」


「ハンッ、あんたハンターになりたいってのに、料理人ごときの真似事もできなくてどうすんのさ?才能ないんじゃないの、やめちゃえば?」


「ぐっ、このアマ・・・!?」


話にもならない、メンチが男であれば、レオリオは殴りかかっていたことであろう。こう見えてもレオリオはフェミニストだからだ。もっとも、他の受験生はその限りではない、受験生と試験官のあいだに緊張が走る。
その張り詰めた空気の間にある男の声が割り入った。

「ふむ、それはちと傲慢ではないかの。今の発言訂正していただきたいのじゃが」


白髪にひげをたくわえ、茶色の着流しを着た老人がそこにたっていた。歳はとっているようだが、ピンと伸びた背筋、大柄な体が、年齢を感じさせない、なんとも雰囲気のある老人であった。


「あんただれよ。」


「なぁに、ただのじじいじゃよ。」


メンチは男に問うが、男は名乗るつもりはないようだ。


「あっ、そ。じゃ、消えてくれる?失格は失格、絶対に覆す気はないわ。あんたも今回は運がなかったとおもってあきらめて頂戴。」


そう言い放つメンチ、とりつく島もないとはこのことだ。しかし、老人は、それに対し決していきり立つことなく、好々爺らしい諭すような口調で語りかける。


「ふむ、それはざんねん。ちと、調理に時間がかかりすぎてしまったようじゃのう・・。メンチ殿がおそらく一度も食べたことがない寿司を用意していたのじゃが・・・。じゃがしかし、このまま捨ててしまうのは、食材にとってあまりにも不義理。食べる為に命を奪った以上、食べていただけなければ、この爺、捕ってきた魚に申し訳がたたんのう。せめて、寿司のもう一貫、食すだけのおなかの隙間を、この爺のためにつくっていただけませんかの?」


「ふーん、確かに食材を無駄にするのは、わたしの主義に反するわね・・。いいわよ、寿司の一貫、一貫だけ食べてあげる。それでわたしの舌を納得させることができれば、さっきの発言撤回してあげる」


メンチは考えを改める、この老人は今、寿司を一貫と言った。一個ではなく一貫。貫とはジャパンで寿司を数えるときのみに使われる特別な単位である。それを知っているということは、少なくともこの老人が寿司という食べ物について相応の知識を持っているという事だ。

また、捨ててしまうのが食材に不義理だと、グルメハンターの矜持をつく発言。メンチはこの老人の作る寿司を食べてみたくなっていた。


「それで、もしも、おいしくなかったらどうするの?」


うまく丸め込まれたようで、少し気に入らないメンチは老人を挑発する。


「ふむ、そうさのう。もしも気に入らなければお代はいらぬということでどうかのう?」


「フフッ・・、大きくでたわね。いいわ、その条件でいきましょ。悪いけど、グルメハンターのなにかけて厳しく審査させてもらうわよ。」


「よろしい、では、『味勝負』参ろうか。」


もちろんこれは試験なので、旨かったからといってメンチがお金を払う必要など、まったくない。
しかし、メンチは「お代は入らぬ」という老人の気の利いた一言にやられていた。まずかったら、お代を取らぬということは、反対に言えば、金を取る覚悟をもって料理をつくるということ。プロハンターの自分の前に、プロの料理人として対峙しようという老人のことをメンチはすっかり気に入っていた。

ハンター候補生たちは、二人のやり取りを、ただ見守っていた。

自分達の運命をこの見知らぬ老人に託す形になってしまったが、不思議と不満はなかった。老人からにじみ出るカリスマのようなものに酔ってしまったのかもしれなかった。
先ほどまで、メンチを力づくで翻意させようと考えていたヒソカやギタラクルでさえ、この老人がなにをなすつもりなのか、興味深げにみつめていた。

老人は、木の板に笹の葉を敷いたものを器にし、その上に数貫の寿司をのせてメンチのもとへと運んできた。

シャリは、一粒一粒ハリがあり、酢の化粧できらきらと輝いている、その上に乗っているネタが魚であることは恐らくまちがいないだろう、身は真っ白で、まるでカリフラワーのように、もこもことしている。またその表面は、幼女の唇の如くつややかに濡れている。
見た目だけで判断すれば間違いなく合格のレベルだろう。


「へー、それがアナタの寿司?。ネタには何をつかったのかしら?」


「ヨツメハラグロウオ、通称ゲロなまずじゃよ。」



「「「「「「ゲロなまずだとー!???」」」」」」」



ハンター候補生たちが一斉に叫ぶ。


ゲロなまず。よんで字のごとく、あまりのまずさに食べたものは嘔吐してしまうという魚である。
毒にしかおもえない癖の強い味、筋張った身、熱すると凝固して、石のようにかたくなる脂身。また、小骨が血管のように張りめぐっていて、骨を除いて調理するのは不可能。ヌメーレ湿原だけでなく、世界のいたるところに分布しており、そのまずさは広く知られている。
どう調理をしようが、決しておいしくならないと言われている魚だ。煮ても焼いても食えないとは、この魚からうまれたことわざだという説もあるくらいである。


「あんた正気?いくらなんでも素材が悪すぎるわよ。嫌がらせのつもりなら容赦しないわよ」


メンチは、老人にかけていた期待を裏切られた気になり、急激に不機嫌になる。好奇心旺盛なメンチは、子供時代近所の沼で捕まえたゲロなまずを親に内緒で食べてみたことがあった。
結果、三日間寝込んだ。

もちろん、それを最後にゲロなまずをたべたことはない。グルメハンターであるメンチは、さまざまなゲテモノを調査の為に食してきたが、その彼女をもってして、ゲロなまずは絶対に食べたくないものワースト3に入る。

「はて、素材がわるいかのう?わしにとっては、この沼で手に入る最高の素材なのじゃが。まあ、だまされたと思って召し上がってみてもらえんかの」

「ちっ・・、一度食べるといった以上は、食べるわよ。でも、まずかったら覚悟しときなさい」


そういって、口に寿司を放り込む。


メンチの動きがぴたりと止まった。まったく動き出そうとしない。あまりのまずさに気を失ったかと、受験生達がメンチの顔を覗こうとしたとたん。








「うー!!!まー!!!いー!!!わー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」







メンチの口からまばゆいばかりの光線が放たれた。

「このまったりとしつつもさくさくとした触感!!!幾重にも広がる深みのある味わいは、まるで、アルプスの雪解け水のよう!!!絶品!!絶品ンンンん!!! ・・・しかし、なぜ、なぜ、ゲロなまずは、固い上に骨がましくてとても食べられたものではない筈なのに・・」

その時、メンチの網タイツのシャツがプチプチと弾け、豊満な乳房がさらけ出された

「「ぷるんぷるん!?」」


声をそろえるレオリオとハンゾー、受験生達の視線が一斉にそこに注がれるが、メンチにとってそんなことはどうでもいい。老人の料理に隠された秘密がそこにあった。


「わたしの服が切れ切れになっていく・・・!!まるで幾重にも包丁をいれたみたいに・・。そうか、この触感の秘密は『骨切り』!!」


繊維の一本一本まで、細かく千切れていくに自分の服を見て、メンチは東洋に伝わるある技法を思い出した


「いかにも。ハモなど小骨の多い魚などを食すために、包丁をいれて食べやすくする方法じゃよ。」


老人は肯定する。


「それにしても、なんて繊細な包丁さばき!ここまで見事な骨切りは初めてみたわ。細かく砕かれたほねが、触感に絶妙のアクセントを加えている!!・・・でも、それだけじゃない!!骨を切って食べやすくしたところで、味まで変わるわけはないもの!一体他にどんな秘密が・・・」


「メンチ、おれもたべるぞ!」


「ねえ、オレもたべていい?」


「あ、ずりい!オレもー」


メンチの反応を見て、いてもたってもいられなくなったブハラと、好奇心旺盛なお子様二人組みが皿に残ったゲロなまずの寿司を食べる

そして、ブハラは寿司を口に入れた、とたんに彼は燃え上がった、物理的に。


「「「「試験管が火達磨にー!!!??」


緊急治療バッグをもって駆けつけるレオリオ、しかしブラハは


「あつ・・、あつ・・・・・・・熱くなーい!!」


ブハラは、炎に包まれながらも、ぴんぴんしている。どうやらブハラをつつんでいる炎は、本当にあつくないようだ。


「「「「「「なんだとー!!!????」」」」」」


驚く受験生達。


「そうだ!・・・ゴン、ゴン達はぶじなのか?レオリオ!」


目の前の不可解な現象はおいておいて、ゴンとキルアは大丈夫なのだろうか?いち早く気づいた、クラピカは二人のほうをみる・・・。



「・・キルアはいいよなー。髪さらさらでー、オレの髪いくら伸びてもつんつんなんだぜー。シャンプーするときも頭皮まで手とどかなくて、たいへんだっつうの。きっと13km伸びても逆立ってるね。オヤジはそうでもねえのによー。なにこの遺伝子、いったいあのオヤジどんな女と結婚したっつんだよー?」

「お前とこなんかまだいいよ・・。うちなんて、暗殺一家のうえ、兄貴たちは、なに考えてるかわかんねーし、一人は末期オタクの引きこもりだし。母親は過保護すぎて、むしろおまえが警察に保護されろって感じだし。弟は最近どんどん女らしさが増していくし・・・。」

ゴンとキルアは、どこからか現れた酒場のカウンターでくだを巻いていた。


「「「「「「「へべれけに酔っ払ってるー!!??」」」」」」」



突っ込む受験生たちをよそに、何かを考えているメンチ、この老人の寿司に隠された秘密がそこにあるはずだからだ。

「火に焼かれても熱くないというブラハ、そして酒場で飲んだくれる少年達・・・。そうか!これは低温発火アルコール!!!」


「いかにも、着火点は70度程度、アジエン大陸の秘境に伝わる、カカという実から造った酒で・・・」


老人はそこで言葉を止める、老人の喉下に鋭い針が突きつけられていたからだ。


「あんた、キルアに何をした?」


飲んだくれているキルアをみて、明らかにこの男が何らかの念攻撃をしたと判断したイルミは、自身の念を解放し威嚇する。超一流の殺し屋のオーラが老人に突き刺さり、その余波にあてられた受験生の何人かが泡を吹いて倒れてしまう。

しかし老人はその殺気をさらりと受け流す。


「なあに、体にたまった毒を吐き出しておるだけじゃよ。見よ。」


喉元の針を下ろすことなく、キルアの方を振り返るイルミ。


先ほどまで酔っ払いていた筈のキルアは今、完全にシラフになっていた。そして崩れ落ち、ぼろぼろと泣き始める。

「オレ・・、オレ・・、一体何ということを・・・、母さんや兄貴をナイフで刺してまで家を飛び出すなんて・・・。馬鹿だオレ・・。本当は分かっていたはずなのに。家族のみんながどれだけオレを愛してくれていたかってこと・・・。ごめん、ごめんなさい・・。みんな。」


その姿をみて、老人は寿司の秘密を解説をする。


「ゲロなまずの癖の強い味は、アルコールに漬けることで取り除くことができる。そしてアルコールで毒素の抜けたその身はゲロなまずの本来の味を楽しむことができるのじゃよ。
余計な成分さえなければ、ゲロなまずの身は、普通のなまずの数十倍も旨いものなのじゃよ。・・ふむ、少年もすっかり毒が抜けて心の内に隠された本当の自分をさらけだすことができたようじゃな。」



「キルア、大丈夫なの?。」


老人に突きつけていた針をおろすイルミ。変装をといて、キルアに近づく。


「あ・・、お兄ちゃん・・・。ごめん、ごめんなさい。オレ、ガキだった!みんながどんだけおれのことを考えてくれていたか分かってなかった!!」


泣きながらイルミにしがみつくキルア。


「うん、いいんだ、キルア。いっしょにおうちへ帰ろう。」


すこし素直になりすぎのような気がしないでもないが、数年ぶりにお兄ちゃんと呼ばれたことイルミはそれだけで満足していた。捻じ曲がってはいるが所詮イルミはブラコンである。
キルアを抱きしめながら老人に目で感謝するイルミ。老人も満足そうに頷き返した。


「いや、本当の自分というか、あれはまったくの別人だろう」


と、突っ込むクラピカの声は聞こえていない。


「信じらんねえ・・。あの、クソ生意気なガキがあんな素直に!!・・・そうだ、ゴン!おめえはなんともねえのか?」

レオリオはゴンに問いかける、そのゴンは。







さらさらヘアーになっていた。







「「「「「「「「誰だお前ー!!!!????」」」」」」」」」



「・・・ツンツン頭の剛毛がまるで赤ん坊の産毛のように柔らかな髪に!・・・そうか、これがアルコールにつけたもう一つの意味ね!!」


さらさらヘアーのゴンをみて、アルコールにつけたもう一つの秘密に気づいたメンチ。


「その通り、硬く筋張った身は、アルコールに漬けることで程よい柔らかさとなる、最後にそれをフランベすることにより・・・。」


「そこからは、おれが説明させてもらおう!」

老人の解説を誰かが遮った。そこには目の覚めるような美形の男が立っていた。すらりとした長身の体は、シャワーでも浴びてきたかのようにつややかに濡れている。文字通り水も滴るいい男である。


「低温でフランベすることにより、本来煮込むとガチガチに硬くなってしまう筈のゲロなまずの脂肪分は、凝固することなく外へと溶け出す。その油は甘くまったりとして、それでいてしつこくない、まさに極上のソースとなるわけだ。」

男の推測に老人は頷く。


「なるほど、低温発火アルコールによるフランベだから、魚の風味も損なわれないってわけね。・・・ところであんただれよ?」


男にたずねるメンチ、自分ですら気づかなかった寿司の隠された秘密に気づいた男、只者でないのは確かだ。


「なにいってんだメンチ。おれだよ。ブハラだよ。あの寿司を食べたとたん脂肪がとけだして幾分やせてしまったから、ちょっとばかし分かりづらいかもしれないけどな。」


「「「「「「「「「「わかるわけねーだろ!!!!!」」」」」」」」」


メンチと受験生の声が重なる。

そういえば、火達磨になっていたはずのブハラがいつの間にかいなくなっていた。どうやら本当に体中の脂肪が外に溶け出したようだ。つまり、ブハラの体をぬらしているものは、溶けだした脂肪ということらしい。受験生達がブハラから距離をとる。


「ありえない!体重どころか、身長、骨格、さらに口調まで変わっているではないか!!」


ただひとり突っ込むクラピカ。レオリオや他の受験生たちは、考えると負けだと気づいたようで、既にそのことに疑問を持つものはいない。
「なんか、もう、いいや。」受験生達のこころは一つになっていた。





・・・そして、メンチはゆっくりと箸をおいた。




「・・・負けたわ、この勝負わたしの完敗よ。あなたの寿司はこれまでわたしが食べた寿司のなかで一番・・・、いえ、食べた事がある料理の中でも一番おいしかったわ。約束どおり全員失格は訂正させてもらうわね。・・・とはいっても、全員を通すわけにはいかないから再試験は行うわよ。あ、もちろんあなたは文句なしで合格ね」

負けを素直に認めるメンチ、沼地という悪条件のなか、しかもゲロなまずを使って最高の寿司を握った男。文句などあろうはずがない。もし自分にその資格があれば、今すぐにでもこの老人にハンター証をわたしていただろう。

再試験が決定され、歓声を上げる受験生達。

しかし、老人は怪訝な顔をして、メンチに答える。


「いや、別に訂正してもらいたかったのはそのことばではないぞ。別にワシはハンターになるためにここに来たわけではないからの・・」


「いや、だったら、なにしにきたんだ、アンタは」
クラピカの突っ込みは聞こえない。


「訂正して欲しいのは、メンチ殿がいった『料理人ごとき』という言葉じゃよ」


自分の発言を思い出し、羞恥で顔が真っ赤にそまるメンチ


「われら料理人は、確かにメンチ殿やブハラどの達グルメハンターと違い、命の危険を冒しながら食材を手に入れるわけではない・・・」

『料理人ごとき』、メンチはレオリオに対し確かにそういった。一つ星のグルメハンターであるメンチは、未知なる食材を探す為に常に命をかけてきた。しかし、それを調理する料理人たちは金を払うだけで最高の食材を手に入ることができる。厨房の中で、決して命の危険にさらされることなく、彼らはただ調理するのみだ。だからメンチは心のどこかで料理人を見下していた。

老人は続ける。


「しかし、あなた方グルメハンターが食材を求めて世界中を旅するならば、われら料理人は食材の中を巡る旅人なり。食材一つ一つがもっている、多様で可能性のあふれる世界。われらが命をかけているのはその場所なのじゃよ。」

老人はそう締めくくった。

「食材一つ一つの世界を旅する人間、それが料理人・・か。 先程は失礼致しました。料理人ごときというわたしの発言、心から謝罪いたします。また、今後、二度と料理人を軽蔑しない事をこのハンター証にかけてちかいます。」


メンチにとって老人の言葉は、正に目から鱗であった。メンチは老人に深く頭を下げる。謝罪の気持ちと、それに気づかせてくれた感謝の気持ちを込めて。その気持ちに老人は微笑みをもって返す。


「なあに、我ら料理人も、メンチ殿たちグルメハンターの協力がなければ料理はできん。グルメハンターと料理人は、共に歩んでいくもの。共にいる以上、たまには喧嘩する事もある、気に病むことなどない。ほれ、女子が肌を人前でむやみにさらすものではない、これを着なさい」

メンチはすっかり忘れていたが、網タイツが破けて下着が丸見えの状態である。
老人は、自身の茶色の羽織をメンチにかぶせる。

そのとき、メンチは初めて、老人の纏う着物に描かれた紋章をみる。

「こ、この紋章は・・・、まさか・・・!!味皇料理会!!!」

「な、なんだってー!!!」

メンチの言葉に驚く美形ブハラ。
グルメハンター達のあいだでまことしやかにささやかれるうわさがある、味王料理会、和・洋・中、全ての食を極める6人の男たちの集団。彼らの料理を一口でも食べたものは皆口をそろえて言うらしい、あれは料理などではない、料理を遥かに超えたなにかであると。


「そして、あなたは・・・、味皇さまですね。」


男からあふれでるカリスマに、この老人が何者か確信するメンチ。味皇料理会の頂点に君臨する男、究極の男達の中のさらに究極と呼ばれる男。食の求道者村田源二郎。人呼んで味皇なり。

メンチの問いに頷く味皇。なるほど、その身から放たれる威厳は確かに王とよぶに相応しい。


「さて、用も終わった事だし、わしはそろそろ行くとするかの?」


振り返り立ち去ろうとする味皇。「いや、だからあんた試験受けに来たんじゃないのか?」と疑問に思うのはやはりクラピカのみだ。


「待ってください味皇さま!お願いです、わたしも連れて行ってください。」


メンチは味皇を呼び止める


「ふむ、何故じゃ?」


「わたし、これでも一つ星のグルメハンターなんです。でも、味皇様の料理をたべて自分の未熟さを実感しました。正直、うぬぼれていたんだと思います。料理人ごときとか、ゲロなまずなんて食べ物じゃないとか。そんなんじゃ、真のグルメハンターとなることはできません。あなたの元で自分を一から鍛えなおしたいんです!お願いします!!」

味皇はメンチの目をみて彼女の決意が並々ならぬものだと理解する。


「食の道は果てしなく長く険しいものぞ。 わしとて、まだほんの入り口に立っておるにすぎん・・・。それでもよからば、ともに歩んでいこうではないか。」


頷く味皇、メンチの顔が喜びに花開く。


「メンチ・・・」


ブハラ(イケメン)はすこしだけ寂しそうな表情を浮かべる。


「ごめんね、ブハラ。あなたとのパートナーは解消よ、わたし、ここで行かなきゃ一生後悔すると思う。」


「・・うん、いってらっしゃい。でも、中途半端に投げ出したら承知しないぞ」


「ばかねえ、あたしを誰だと思ってんの?」


長年のパートナー達はここで別れを告げる


「おねがい、お爺さん!オレもつれてって!!」


そこに、ゴン(さらさらヘアー)までが同行を求め出る。


「お前まで、何を言い出すんだ、ゴン!父親を探す為にハンターになるんじゃなかったのか?」

驚くクラピカとレオリオ


「クラピカ、レオリオ、おれ、こんなに旨いもの食べたの初めてだったんだ。世界って、こんなにも広くて深いんだって知らなかった。このお爺さんについていけば、きっともっと世界は大きくなる。・・・それにね、なんとなく予感がするんだ。この食の道の行き先でジンがおれを待っているって。」


「いや、それは錯覚だろ」と、冷静に突っ込むクラピカをよそに、固い握手を交わし、再開誓うレオリオとゴン。そしてゴンは知り合ったばかりの同世代の友人を見る


「キルア・・・」


「ゴン・・・、おれも一緒に行きたいけど、家族がオレをまってるから帰ることにするよ。・・でも、おれはおれで食の道を究めようと思う。だから、次に逢ったときは味勝負だぜ!」


「うん、キルア。おれ負けないよ!!」


こぶしを付き合わせるゴンとキルア

暖かく見守る、レオリオとイルミ達。さすがのクラピカも、既に突っ込む気力が失せていた。


「うむ、食の道は険しいもの、しかし道連れあらば、厳しい旅も楽しいものとなるであろう。食の道を楽しむとかいて、食道楽と読む・・。即ちこれ、食の真髄なり。」

ゴンは、味皇とメンチの側に並ぶ。ハンター候補生達はがんばれよーと、声援を送る、再び立ち去ろうとする味皇たち。


「ちょ・・?おまえら・・、再試験は?」メンチが行ってしまうと誰が再試験をするのだろうか、それに唯一気づいたクラピカは声をあげる。



「おお、そうじゃ、皆のもの、大事な事をわすれているのではないか?」




顔をみあわせる、ゴンとメンチ、はっと気づいて、テーブルに戻る

両手をあわせて皿にむかって頭をさげる。




「「ごちそうさまでした!!」」










その後、ネテロ会長がメンチに代わり、再試験を行う事で、ハンター試験は無事行われる事になった。



ゴンとメンチは一年程味皇の元で修行をした後、それぞれの道をいくことになる。
メンチはグルメハンターに戻り、ジンに続いて、女性では史上最速で二つ星を獲得する快挙をなしとげる。

ゴンは、世界各地の食材が揃うといわれるグルメ都市テイスティーで、自分の店を開き大いに繁盛する。そこで、ゴンの店と知らず、ご飯を食べに立ち寄ったジンと遭遇、父に会うという目標を果たす事になる。さらさらヘアーになっていたゴンが自分の息子だと全く気がつかず、あえなく発見されてしまったそうだ。

キルアは暗殺仕事の傍らに、料理の修行を続ける。ゾルディック家の前にレストランを出し、怖いもの見たさで食べに来た観光客は、皆、そのあまりの旨さに卒倒したという。(うっかり毒が入っていたという説もあるが。)


また、4年に一度開かれるグルメオリンピアでは、ゴンとキルアは生涯のライバルとして凌ぎを削ることになるのだが、それはまた別の話である。








味皇の念について。

能力名:  
味皇の世界(ウマイゾー) 操作・特殊系

効果:
自身の料理を食べたものに、自分と同レベルのアクションをとらせることができる。その時、食べた者の肉体や、持ち物、精神などに、料理の内容に合わせた変化が起きることがある。

制約:
味皇の料理を食べた人間が心から「おいしい」と思わない限り発動しない。
味皇を超えるリアクションは不可能。



**********************

味皇様はアニメ版の味皇様です。
味皇様って料理できるの?というひともいるかもしれんが、一応漫画では最後の敵になった事もあり、ここでは、料理の達人ということにさせてもらった。

ちなみにゲロなまずとか、カカの身とか低温発火アルコールなどというものはハンター世界にしか存在しないということにしておいてほしい。


メルエムが、プフとユピーをうまうまするシーンをみて昔おもいついたネタ。
文章にすると思ったよりひどいものになった。なんだこりゃ。



[29068] おまけのキメラアント編〔ダイジェスト)
Name: あぶさん◆5d9fd2e7 ID:9f632b24
Date: 2011/08/01 03:03

おまけのキメラアント編のダイジェストです。

こんな事があったのねぐらいで、さらりと読んでください。





【味皇立つ】

「バカな、あんた一人で行くのか?殺されるぞ!!話し合いが通じるような相手じゃない、あいつらはただの捕食者だ!!」

「ふむ、ただちょっとばかし腹をすかせておるだけじゃろう。真に旨いものを知れば人など食わんじゃろうて。そもそもワシは話し合いに行くわけではないぞ、食を知らぬ者たちに、馳走させにいくだけじゃよ・・。」

ピトーと交戦して、片腕を失いながらも命からがら逃げてきたカイト、味皇をひきとめようとする。が、味皇が歩みをやめる事はない。




【猫と味皇】

「これはニャンにゃのニャー????」

「ほっほっほ、ひき肉の中にマタタビを混ぜたのじゃよ」




【筋肉と味皇】


牢屋の中

「ほら、これでもお食べなさい」

「う・・、うめえ・・。うめえよお・・。こんなうめえカツ丼食べたの生まれて初めてだ・・・(ガツガツ)」

「これこれ、よく噛まないとのどにつまらせてしまうぞ」




【蝶と味皇】

「・・・あなたは危険です、王に会わせるわけにはいかない!」

「あまり、カリカリするものでないぞ、ほれっ、こういうときは甘いものが一番じゃ」

「くっ・・・。その匂いは!!北大陸産、最高級メイプルシロップ・・・!!」

「いかにも、そしてこのメイプルシロップと桜の花びらを生地にしっかりと練りこんで、薄く延ばしたら蕾の形に成型する。最後に、200度の油でカリっとあげれば・・・。」

「な・・・、油の中で花が開いていく・・・!咲き乱れていく!!・・・・・・・ああ、王よ・・・、お許しください・・。わたしは・・、わたしは所詮・・卑しき蝶!虫けらなのです!!
パー!ピー!ヨーン!!!!」




【二人の王】

「お主が王ですかな?」

「誰だ貴様は?」

「村田源二郎・・・、人呼んで味皇なり!!」

「ほう、貴様も王と名乗るか・・・、この世に王は二人もいらん。」




【王の対決】

割烹着を着た味皇。

「料理は愛情!そして、愛情とは、是すなわち母の味なり!!!!究極の母の料理とはなんなのか?肉じゃが?みそ汁?・・・否!!!!それは幼いあの日に遠足の弁当で食べた卵焼き!!!母の元を離れて初めて気づくその暖かな味よ!!!」

「こ・・、これは、この卵焼きは!!!だしとほのかな甘みが口いっぱいに広がっていく・・・。そしてこの焼き加減、卵がふうんわりと口の中でとけていく・・・!・・・なんという美味!口のなかでとろとろにとろけていく卵。 ・・・余の体も・・・、余の体もとけていくー・・。卵のなかへとけていくー・・・・とーけーてーいーくー・・・・。」

子供に退化していく王。黄色い世界にふわふわと浮いている。

「・・・ここはどこだ・・・、余は死んだのか・・、いや・・ちがう・・・、ここは・・・ここは・・卵の中だ・・・。余は・・、卵につつまれておるのか・・・暖かい・・。そして懐かしい・・・。この、この暖かな気持ちは一体・・・?? 余はこれを知っている、知っているはずだ・・・。
・・・そうか、これは余がまだ母の子宮にいたあのときの暖かさだ。聞こえる・・、聞こえるぞ!母上の鼓動だ!!・・・とくん、とくん、とくん・・・それはなんと、なんと甘美な子守唄なのだろうか・・・。
余は、余は何故、あの母の暖かな卵殻を、母の腹を突き破ってうまれてしまったのか。あの無償の愛を、柔らかな温もりを、なぜ余は切り捨ててしまったというのか・・・。うう・・、母上・・母上ぇ・・・」

「悲しみを背負い、初めて愛をしるか・・・。精進せいよ。」

ザッ

立ち去る味皇、彼の役目は終わった



【エピローグ】

すっかり体が縮んだメルエム。外見年齢3歳程度

「ワレはもう・・・、人は食さぬ。・・・味皇か、フッ・・・、真なる王とはああいう男をよぶのであろうな」

「・・・王」

頭をたれるプフ達

「プフ、ピトー、ユピーついてこい!」

「どちらへ行かれるのですか王よ」

「決まっておるだろう、あの男の元へだ。よりよき王となる為に、余は奴の側で学ばねばならん。・・・そしていつしか、余があの男を越える瞬間を奴に見せつけてやるのだ!
・・・ゆくぞ!!!」

「「「・・・はい!!!!!」」」



【オチ担当のじじい】

「あのー、わし体に爆弾入れたままなんじゃが・・・、どうしよう」




[29068] ハンター試験に味皇様が光臨しました。 味皇GP編(前)
Name: あぶさん◆5d9fd2e7 ID:9f632b24
Date: 2011/07/30 15:39
絶対に続かないとおもっていた一発ネタが一度だけ続いてしまった。でも、これで本当に最後。もう少しだけお付き合いください。

前・後編の前編です。

むちゃくちゃな伏線とか、放り投げた筈の原作展開とか、そういうものを一度に全部消化してみたら・・・、




どうしてこうなった?


****************************





「ここが、グルメオリンピアの会場か。」


セラミック製の巨大な円形ドームの前に、金髪の少年が立っていた。年のころは20歳ぐらいだろう、線の細い美形の顔立ちは、女性に間違われる事もしばしばだ。

「あれ?あんたどこかであったことあるわよね」

少年に話しかけた女性がいる。どうやら彼の知り合いのようである、網タイツのTシャツに、特徴的な5つのおさげ、美食ハンターのメンチである。

「そちらは、二次試験のときの・・。お久しぶりです、二年前のハンター試験を受けたクラピカです。あなたはもう覚えていないかもしれないが。」



これも何かの縁ということで、二人は共にドーム内へと入っていく。





クラピカのことをここで少し語っておこう。
ハンターになり、必死で修行をしたクラピカは、ヒソカの協力(利害の一致によるものだが)もあり、ついに復讐を果たした。
もっとも、クラピカとて簡単にそれを成し遂げたわけではない。ウボ-ギンこそ、相手がクラピカを侮っていた事もあり倒す事ができたが、仲間を殺された幻影旅団にもはや油断はなかった。狩る者と狩られる者が一転する。クラピカは絶体絶命の窮地に陥ってしまう。しかし急遽、制約を一つ追加し、何とか幻影旅団のメンバーを殲滅することに成功する。

その時、クラピカが自身に科した制約とは、復讐を成し遂げた後は、念能力がすべて失われるというものであった。

しかし、ようやく復讐を成し遂げたクラピカの胸に残ったものは、満足感などではなく、ただ、空しさのみだった。

仲間の為に自らの命を犠牲にする旅団のメンバーに、自分の復讐が正しかったのかどうか、全く分からくなってしまった。

生きる目的も、念能力も、全て失ったクラピカは、ただ空虚な日々を迎えていた。何にも興味は持てず、生きるだけの毎日。

・・・そんな時だ、聞き流していたラジオの声にふと耳を止めたのは、

「4年の一度の食の祭典、グルメオリンピア、又の名を味皇グランプリィィィイ!!!!決勝戦はニャンと、最年少同士の対決だー!!若干14歳、ゴン・フリークスと、キルア・ゾルディックがその食の殿堂で雌雄を決す!!決勝は明日、巨大グルメドームにて!!!チケットは・・・」

二人の聞き覚えのある名前にクラピカは反応した。とるものもとらず、クラピカは飛空挺をチャーターし、会場へと向かうことにした。

なぜクラピカは二人の対決を見に行こうと思ったのか、友人だからか?いや、それだけではない。

あの時、二次試験の会場で、自分の道を見つけたとハンター試験を途中棄権したゴンとキルア。
当時のクラピカは二人の決断を、心の中では軽蔑していた。

しかし今、ハンターになり、目的を達したはずの自分は、ただ無為に日々を過ごすのみだ。

ゴンとキルア、自分にないものを見つけたであろう、二人の今の姿を見てみたくなった。彼らが今、一体どういう生き方をしているのか知りたくなった。

二人の成長に大きな期待と、少しばかりの嫉妬を抱いて。








「あんた、そういや、クモを殺ったんだってね。驚いたわよ。ハンター協会で一躍有名人よ。」

「いえ、たまたま運とタイミングがよかっただけです。それよりその事は内緒にしておいてください。いつ後ろから切りつけられるかわかったものじゃないですから」

「あ、そういやそうね。ごめんね」

たいして申し訳なさそうもなくメンチが謝る。
二人はグルメドームの最前列の特等席にすわっていた。こういうときだけはハンター証は便利だとクラピカは思う。

「さあ、やってまいりました!グルメオリンピア決勝戦!!!まずは選手の入場ニャー。・・・赤コーナー、大胆不敵な発想と、超人的な味覚を持った料理会の革命児!!料理は愛情、瞳は純情!肉食系お姉様達に大人気!いつか地雷をふんじゃうぞー!!ゴーン・・・フリークス!!!!!」

いっきに湧き上がる会場、確かに女性の声援が多い。
解説の猫耳少女(少年か?)に促され、ゴンがリングへとあがる。


それにしてもあの猫耳少女・・・、あいつオレより超つよくね?そう思ったクラピカであるが、別に戦うわなければ人類が滅ぶわけでなし、どうでもいいだろう。続いて入場するもう一人の友人に注目することにした。

「青コーナー、料理するときゃ包丁いらず、この爪ひとつあればいい!誰が呼んだか料理の魔術師!ゾルディック家の隠し包丁!!わたしのハートも切り裂いて!腐ったお姉さま方とガチムチ系の兄貴達は君のお尻をみつめているぞー!!キルアー・・・ゾルディック!!!!!!」

先ほどに負けずとも劣らない声援、野太い声が混じっているのは無視したい。その男達の集団へむけて、折り紙と針が飛んでいく。どうやらキルアの兄弟達もきているようだ。

「ニャンとニャンと、グルメオリンピアの決勝の地に立ったのは最年少の少年ふたり、しかも二人は2年前のハンター試験で知り合った、親友にして最大のライバル!再開の約束はここ巨大グルメドームで果たされる事となった。この展開をだれが予想したのか?神でさえも予想できなかったに違いニャいー!!!」

「うん、おれも2年前は予想だにしなかったよ」遠い目のクラピカ。


リングの中央で少年二人が相対する。


「キルア・・・、キルアなら必ず決勝まで勝ち残ると思ってた。約束まもってくれてありがとう。・・・でも、この勝負はオレが勝つ!!」


ゴゥッと膨れ上がるオーラ、ゴンのさらさらヘアーがオーラで揺れている。


「ゴン・・・、確かにお前は強いさ、だけどオレも相当な修行をしてきたんだぜ・・、オレを応援してくれる大切な家族の為にも・・・、俺はまけない!!」


キルアの触るもの全てを切り裂くような鋭敏なオーラが放たれる。


「だからお前達は誰なんだ!?2年経っても髪と性格は元に戻らなかったのか?なんで料理対決でオーラ飛ばしあっている?一体いつ念を習った?」


疑問とツッコミが交互に頭に浮かぶクラピカ

リングの中央で二人がこぶしをつきあわせる。声援は一層激しくなった。後ろを陣取る女性達は、ゴン・キルア キルア・ゴンのどちらの名前を先に呼ぶかで白熱した議論を展開していた。クラピカはなにも聞こえないフリをする。


「それではここで、決勝戦のスペシャル審査員の登場ニャー!!!グルメオリンピア、別名味皇グランプリ、その創始者にして、食の永遠の求道者!!料理会の頂点に30年間君臨しつづける男、村田源二郎。・・・・・人呼んで味皇!!!!!!」


カッ!!!スポットライトが照らされると、そこには兜鎧を身に纏った老人、味皇が立っていた。


選手入場のときよりもさらに会場は沸き上がる。なりやまぬ「味皇」コールを男はすっと片手を上げただけで押さえ込んだ。

クラピカにとっては、二年ぶりに味皇をみることになったが、念を覚えた今だからこそ理解ができた。あの男がとんでもない化け物であると。

マイクを握り、一つ咳払いする味皇。


「味という文字は、口と未という文字をあわせたものである。」

会場はシーンと静まる、味皇の言葉を、会場中がまるで聴覚器官にでもなったかのように一言も聞き漏らすまいとしている。味皇は言葉を続ける。


「未来の未、未知の未、未踏の未。いま、この場に立つ二匹の若獅子は、間違いなくこのハンター世界を背負ってゆく料理人となるであろう。未知を求め、未踏を尋ね、未来を作り、そしてそれを口にせん!それこそが味!!!!ここにいる二人は味を極めんとする、味の申し子達なり!」

味皇がゴンとキルアを指し示す。会場が二人に一斉に拍手を送る。

「8000人の参加者のその頂点に立つのは一体どちらか?それを決められるものは唯一つ、味のみなり。たかが料理、されど料理。どちらの料理がより旨いか、ただそれのみが全てを決める!
人はこれを・・・、『味勝負』とよぶ!!!」


うおぉぉぉおぉおおおお!!!!!!!!!!


味皇の言葉に会場がわれんばかりの歓声が響き渡る。これが、ゴン達のいる世界なのか、クラピカは思わず息をのんだ。

会場は最高に暖まっていた、ナレーターの猫耳少女(?)が開始の合図をつげる。

「それでは、時間は今から60分、課題は『どんぶり』! 親子丼、牛丼、マーボー丼。どんぶりにご飯を入れて具を載せたものならなんでもありニャー!! それでは、グルメオリンピア決勝戦!!! レディー・・・、ゴー!!!!!!」

試合が開始される、ゴンとキルアははじけるようにキッチンへとむかう。「神速」を発動させたキルアのほうが一歩はやい。
対するゴンもドンっと床を蹴って一息でキッチンまで移動する。その威力は会場の床に小さなクレーターができたほどだ。

「いや、普通に走ればいいだろう。」そう突っ込みたいクラピカだったが、隣のメンチは特に気にした様子も無いので、「・・ああ、そういうものなのか。」と思い、別の疑問を口にだす


「どんぶりか・・、決勝の課題がそんなものでいいのか?」


「バカねー、どんぶりほど、料理人の力量がとわれるメニューはないのよ。」


「どういうことです?」


メンチの言葉に怪訝な顔をするクラピカ


「その問いにはわたし達が答えるアルね」


クラピカとメンチ達の前に見知らぬ5人の男達があらわれる。どうやら、メンチとは顔見知りのようだ。メンチは、「じゃ、お願いするわ」と、聞き手に回っている。


「まずは米!!どんぶりはたれをかけるて食べる為、たれがかかったときの触感を計算して米をたく必要がある。それは、まさしく米のアルデンテ!!」


太っちょのコック帽をかぶった男がそう答えた。


「そして具!!和・洋・中。肉でも魚でも何でもよし。料理人の自由で柔軟な発想が試される!!それは正に食の総合百貨店、地下二階から屋上まで売っているのは食べ物のみよ!!!」


黒髪パーマで色黒の男が続いた。


「そして生まれるハーモニー!米と具が混ざり合ったときに生み出される交響曲、具を米に乗せて食べてよし、混ぜてもよし、あるいは具と米をかわるがわるたべてもよし、それは全て貴方しだい。どんぶりを食べる時、人は皆オーケストラの指揮者となる!!」


金髪の赤い礼装の男がバラを散らしながら登場する


「最後に汁と小付け!!!たかが箸休めとあなどるなかれ、どんぶりのおいしさを最大限に引き立たせる影の功労者じゃ!どんぶりさん、あなたが夫ならわたしは妻です、いつもあなたの3歩後ろを、しかし一生離れません!!控えめな良妻賢母、それが箸休め!!!」


和服の男がなにわぶし調でしめる。

五人はクラピカに向かって、ビシっとポーズを決める。



・・・沈黙・・・


[クラピカはおどろきとまどっている]


「(なにやってんのクラピカ!あなたたちは誰?って早く聞いてあげなさい)」


「えー、えっと、あ、あなたたちはだれだ?」


メンチに促されセリフを棒読みするクラピカ


「フッ、問われてしまっては答えないわけにはいけないアル。われらは・・・」


「「「「「味皇料理会!!!!」」」」」


ドーンという音がする。

ああ、なるほどこいつら、アレ(味皇)の仲間か。だったら仕方ない・・・。クラピカは心底納得した。


「彼らは、これまでの戦いの審査員も務めていたのよ。」
メンチは、味皇料理会について説明する。


「味皇さんは、審査しなかったんですか?」


「味皇様は毎回決勝しか審査しないの」


「・・・というわけで、僕達は今やる事がなくてね。そこで、君にこの勝負の解説をしてあげようじゃないか」


金髪の男がクラピカの肩に手を置く。

[クラピカはにげだしたい]

[しかしまわりこまれている]



「ほら、そんなことより、ゴンの料理が始まるわよ。あれを見なさい、クラピカ!」

ゴンは、キッチンの側にある巨大なプランターの側に立っていた。

「なにをしてるんだ、ゴンは?あのプランターには土しか入っていないじゃないか。・・・それにゴンのキッチンには野菜が一つも見当たらない!!」

「まあ黙ってみてなさい。・・これがあの子の修行の成果よ!!!」

「おおーっと、ゴン選手、プランターに水と肥料を撒いたー!一体ニャにをはじめるというのかー!!!!」

ゴンの巨大なオーラがプランターに流れ込む。すると種が芽を吹き、みるみる野菜が育っていく。


「・・・ニャ、・・・ニャンとおおお!!!!野菜が一瞬で成長していくー!!!!!その色艶は市販の最高級品を遥かにしのぐ超絶一級品!!!!まさかゴン選手にとって、料理とは野菜を育てることからはじまっているのかー???」


目の前で起こる奇跡にどよめく会場。クラピカも驚かざるを得ない。


「・・・な!?念能力・・・!?」


「そう、ゴンの念能力【この野菜はワシが育てた(スターフィールド・サウザントワン)】よ。自身のオーラを栄養にする事により、どんな野菜でも一瞬で、しかも最高のクオリティーに育てることができる。あの子のまっすぐで、そして人並み外れたオーラ量だからこそできる技よ!」

メンチはクラピカに解説する。


「おい、ゴン!貴重なメモリー使ってお前は何をやっているんだ!?そもそも念能力は世界の秘匿の筈だぞ!万単位の観客がいるんだぞ!!」

クラピカの声(突っ込み)がゴンに届く事はない。


「ふむ、また腕を上げたようアルな」


「ああ、準決勝の点心対決のときよりもさらに技に磨きをかけている」


「あの相手のヌンチャク裁きには、さしものボウズも勝てんと思ったがな・・」


「彼の恐ろしいところは、味勝負しているその瞬間にも成長していることですよ。今勝負したら僕も危ういかもしれない。全く将来どんな料理人になるのか・・・、末恐ろしいです」


目の前の奇怪な現象に特に驚く様子もない、味皇料理会の連中たち。

「いや、あんた達なに『おまえもなかなかやるようになったな』みたいな目をしてるんだ!あきらかに、あれは料理の技術じゃないだろう!!そしてどうでもいいが、点心つくるのになんでヌンチャク!?・・・あと、ゴンの将来が恐ろしいということだけは心の底から同意する。」

一息に突っ込むクラピカ、人数が多いせいで彼も大変だ。



視点を中央リングに移そう、ゴンは竹かごいっぱいに野菜を収穫している。対するキルアは逆さにつるされた血抜きされた豚の前にスッとたつ。


「クっ・・・!やるな、ゴン!完全無農薬の上、文字通りのもぎ立て野菜。食べてという野菜の声がここまで聞こえてくるようだ・・・。みてろ!こっちも切り札を出す!!」


キルアが手を振るうだけで、豚が細かく刻まれていく。手には何ももっていない。


「おおーっと、出たー!!!キルア選手の十八番!!包丁要らずの調理法!!流石は料理の魔術師ニャー!!!」


「流石だな、準決勝でぶつかったメス捌きの達人が裸足で逃げ出すわけだ。」


「しかし、その程度の切り札では、ゴン君には勝てんぞ!」


「・・・いや!!見るアルねあれを!!」


「な、なんだと!?あの表面についているのは、まさか塩と胡椒?刻まれた肉がその場で味付けされている!?」


「馬鹿な・・・!かれは調味料を持っていないではないか!!!」


「キルア選手ー、いったいどういうことニャー? 調味料を持っていニャい筈なのに、触れるだけで肉が味付けされていくー!?流石は料理の魔術師キルア・ゾルディックゥゥ!!!!君のマジックは一体いくつまであるー???」


「・・・彼、まさか!?」


凝をしていたメンチがキルアの秘密にいち早く気づく。


「そう。あの子の念能力、【わがままな俺の嫁達(シュガー&スパイス)】だわさ。」


そこに突然おさげ髪の少女があらわれる。


「あなたは?」


クラピカの問いかけに少女は答える。


「ビスケ・クルーガー、プロハンターよ。一応キルアの念の師匠やってるだわさ。まあ、師匠といっても、ホンの2ヶ月ほどゲームの中で修行つけてあげただけだけどね。・・・キルアの念能力「シュガー&スパイス」は、オーラを調味料に変える能力!!!世界中のありとあらゆる調味料を自分の思い通りの配分で作り出す事ができる!!見なさい!今、彼の腕にはまさに食の神が宿っているんだわさ!!!!!」


「・・・キルア、おまえもか」

クラピカは頭を抱える。

しかし、メンチといい、ビスケといい、他人の念能力をこんなにベラベラとしゃべっていいのだろうか、いや、確かに秘密を明かされたところで痛くも痒くもない能力ではあるのだが。

二人のグルメバトルはどんどんと白熱していく。


クラピカはそれをただ呆然と見つめている。



あ、ゴンが飛んだ。鍋の上を物理的に飛んでいる。

あ、キルアも飛んだ、おまえら味見ぐらい普通にしろよ。

なんだその肉は、新鮮な肉って動くのか?知らなかったよ。

七色の食材ってただの比喩だと思っていたけど、本当に虹がかかるんだね。

立ちあがる火柱・・って、何メートル立ち上がってんだよ。暴れすぎだよ。

そして野菜、おまえらしゃべるな。



クラピカには解らない。自分は一体、ここに料理バトルを見に来ているのか?あるいは念能力バトルを見に来ているのか?あるいはそのどちらでもない全く別のものを見ているのか?

それにしても、何故他の人間達はこれを受け入れているのだろうか。あれはおかしいだろう、明らかにおかしい・・・。
・・・いや、おかしいのは俺のほうなのか?じつはこの世界では俺だけがおかしいのか・・・?



ゴオォーンンンンン



クラピカの思考は銅鑼の音で遮られる。



「おおーと、ここで終了のゴングだー!!!!!」

「できたあー!!!!」

「オレも!!!!」

ゴンとキルアが、それぞれお盆に載せたどんぶりをリング中央まで運んでくる。

中央には既に味皇が目を閉じて鎮座している。
凛としたその姿、そして、内に宿る静かな炎。まるで決戦前の戦国武将である。

「うむ」

目を開ける味皇、彼の視界うつる二つの小宇宙。ゴンとキルアの技と魂の結晶がそこにあった。



「それでは、味皇様の実食ニャー!!!!」



・・・クラピカは知らなかった。

かれが今まで目にしてきたものは、このおかしな世界のほんの入り口にしか過ぎなかった事を。

なぜなら、これからが本当の『味勝負』の始まりなのだから。






                           後半へ続く!

**********************

味皇料理会の人たちの口調がおかしかったとすれば、作者がうろ覚えのせい。
猫少年の口調や性格がはじけてるのは味皇の料理を食べたせい。


続く後半は味皇のリアクション回です。

「どんぶり」の課題のせいでオチに気づいた人もいると思うが、感想掲示板ではだまっていてほしい。言うなよ!絶対に言うなよ!



[29068] ハンター試験に味皇様が光臨しました。 味皇GP編(中)
Name: あぶさん◆5d9fd2e7 ID:9f632b24
Date: 2011/08/05 18:15
すまない。味皇様が大暴れしたせいで、後編が相当長くなってしまった。
一先ず中編を投稿します。最終回は次回です。

今回ようやく味皇様が本気を出します。



**********************






「それでは味皇様の実食ニャー!」



「ふむ、それでは先にできたキルア君の料理からいただこうとするかの・・」


キルアとゴンが調理し終わったのは全く同じタイミングであったが、「神速」を使ったキルアの方が一瞬早く料理を味皇の元へと運ぶことができた。

味皇は兜を外し、キルアの料理を手元によせる。


「鎧はつけたままなのか・・・」


入場時のパフォーマンスだけかと思っていたら、どうやらあの格好(戦国武将)のまま判定をするらしい。「まあ、似合ってるのなら別にいいのか・・・」とか思っているあたり、クラピカの常識(世界)はすでに大分広がってしまったようだ。


「ほう、小付けは蕪の葉の漬物か、そしてこれは貝柱とキャベツのスープじゃの・・。なんとまあ、食欲をそそるわい。なぬ?、これは・・・ヨーグルト? 食後のデザートということかな。さてさて、一体どのようなどんぶりをつくったのか?」

味皇はどんぶりのふたをとる。

黄金の光がどんぶりからはなたれ、会場中をみたす。

「うおっ、まぶし」

作画崩壊した誰かがさけぶ。クラピカは耐性がついたのか、どんぶりが光りだす程度では突っ込まなくなった。いや、ただ突っ込みつかれただけかもしれないが。


「こ・・・、これは、この黄金の輝きは・・・、カレーどんぶり!!!!」


「そう、おれのどんぶり、黄金のカレー丼だぜ!味皇のじいさん。まずは、食ってみてくれ!」


「う、うむ、それでは」


期待に震える手でスプーンを使ってどんぶりを掬う、そしてそれを口の中に運ぶ。その瞬間





「うー!まー!いー!ぞー!!!!!」





味皇の口から黄金の光線が放たれ、セラミックドームを突き破った。


「あんた、なに食ったらそんなもの放てんだー!!」


その威力はクラピカが死ぬほど苦戦したフランクリンの念弾をも軽く凌ぎそうだ。光は壁をつきやぶり四方八方に伸びていく、しかしなぜか観客には被害が出ていない。


どどどどどどどどどどどどどどどど

その時、どこからか轟音が響き始める。


「・・・って?なんだこの音は!?」


クラピカの疑問はすぐに解決する事となる。その何かは地響をたてながら猛スピードで近づいてきて、


何百匹もの象が、会場の壁を突き破って入ってきた。


「なんで象がー!!!」


クラピカの疑問はメンチの叫びにかき消される。


「あぶない!味皇様!!!!」


中央にいた味皇へと一斉に突っ込む象たち、象の群れが味皇を押しつぶす!


ずずぅぅぅぅうううーん


「「「「「味皇様!!!!」」」」」


流石におどろく味皇料理会のメンバー達。会場も突然舞い込んできた悲劇に息を呑む。



轟音が鳴り響いた後、砂埃が舞い上がった。会場の観客達は目の前で起こった悲劇に思わず目をそむけていた。


砂埃がおさまり、だんだんと視界が晴れていく・・・


「・・・みて、あれ!!」


どこかで子供が叫んだ。

味皇はキズひとつ負わず、象達が伸ばした鼻の上を渡り歩いていた。


「味皇様!」


「おお、いきてらっしゃる味皇様!!!」


「「「「「「「味皇様―」」」」」」」」」

会場が喜びに包まれる。


「そのもの青き鎧をまとい、金色のどんぶりを食すべし、あの言い伝えは本当じゃったのか・・」


よぼよぼの婆さんが声をあげる。


「あんたはだれだ、・・・って、ドキドキ2拓クイズの婆さんじゃないか! なにしてるんだこんなトコで!!!それになんだその伝説は、コスプレした男がカレー食べてるだけじゃないか。そもそもなんで象が!!どこからやってきたんだあの象の大群は!?明らかにおかしいだろ、象が入ってきた事に誰も疑問をもたないのか?」


「あんた何言ってんの、カレーといえばインド、インドといえば象じゃない」


「・・え、ああ・・、うん・・。」


メンチに、まるで、「お茶漬けにはお茶をかけるものでしょ?」みたくにあたりまえのように言われ、何もいえなくなるクラピカ。

象の鼻がドームの天井近くまで伸びる、その上に胡坐をかいて鎮座する味皇は、ゆっくりとその口を開く。


「うむ、このカレーどんぶりの絶妙のスパイス配分。おそらく何百種類もの香辛料を混ぜ合わせたものだろう、それでいて全く味がぼけておらん。複雑でかつ味わい深いルーをつくりだしておるわい・・・。
しっかりと下味のついた具の数々、調味料を自在に操るキルア君だからこそ可能な料理だ。肉は・・・、ほう、これは豚の角煮だ。とろっとした醤油ベースの豚肉が、カレーの風味とあいまって、深い味わいをあたえておる。
そして米は、ターメリックに乾燥バジリコを加え、ふっくらと炊き上がっている。むっ!この米の中にかくされたさくさくとした触感は一体・・・。


「それは、こいつさ」


かぼちゃを持ち上げるキルア


「かぼちゃ・・・、そうか!!!この触感はカボチャの種だ!!」


「ニャー!?カボチャの種って食えるのかニャー??」


猫耳少女(?)の疑問に会場中が同意する。


「うむ、北欧の地域では、パンなどにまぶして焼いたりすることもある。あまり知られてはいないが、栄養価も高く、凝縮されたそのうまみは、絶好のアクセントとなるのじゃよ!!!本来カボチャに捨てるところなどはないのじゃ!」


「そっ、乾燥させたカボチャの種を、オリーブオイルで揚げて、塩と七味で程よく味付けしたものをご飯に混ぜ込んだんだぜ」


答えるキルア


「むむう!!これは・・!これは箸がすすむぞ!!箸休めの貝柱のスープと蕪葉の漬物が、またこのカレー丼の味をひきだしておるわい!
とまらん!とまらん!とまらんぞー!!!わしの箸が、とまらんぞー!!! だれかワシをとめてくれー!!!!!」


「本当に・・・、お願いだから誰かあの男を止めてくれ、できれば息の根も」


そう願ったクラピカの想いがあるいは天に届いたのだろうか。

突然、象のうちの一匹がドサリと倒れた、


「むう、なにごとじゃ!?」


象の元へかけよる味皇。

その象は極度にやせ細っていて、息も絶え絶えに地面に横たわっていた。


「大丈夫か?・・・むうぅ、誰か!誰か医者はおらんのか?」


会場に呼びかける味皇、


「無駄でさあ、こいつは病気じゃありやせん。極度の栄養失調なんでさあ。」


「ぬっ、おぬしは?」


「あっしは、象飼育係のオツベルでさあ・・、この象、とある貧しい動物園から引き取ってきたんですがね、その動物園、戦時中の経営難でこの象を殺そうとしてやしてね。食事に毒を混ぜやがったんでさあ。・・・でもこいつは、賢い象でやして、毒が入っている事を見抜いちまったんでしょうねえ。決して餌を食べようとはせず、その上殺されてしまうのは、自分の芸がつたなかったからだと、ガリガリになってもまだ、客の前で芸をしようとするんでさあ。あんまり憐れなモンで、そのままあっしが引き取ってきたんですが・・・、」


「なんと憐れな・・・。ほら、このカレーどんぶりをおたべなさい。」


スプーンで一口カレーどんぶりを掬い、象の口元へと運ぶ味皇、しかし、象は決してたべようとしない。


「無駄でさあ・・、こいつ、殺されそうになったトラウマで刺激の強いものは絶対にたべようとしないんです。」


「な、なんと、それでは、いったいこの象は何を食べればよいというのかね!!」


「いや、藁でもくわせろよ」


クラピカの突っ込みは世界の壁に阻まれている。


「フッ・・・、味皇のじいさん、そのヨーグルトを丼にかけてみな」


そこで、言葉を発したのはキルアだった。


「なんと・・・!?ヨーグルトをカレー丼にかけるだと?」


味皇はスプーンにのせたカレーにヨーグルトを垂らした。するとどうだ、先ほどまで全くカレーを全く食べようとしなかった象がスプーンに食いついたではないか!

カッと目を見開く象、やせ細っていたはずの体にみるみる肉がついていく、血がめぐり、力が沸いて来る。・・・そして立ち上がった!


「パーオーン!!!!!」


「ニャ、ニャンとー、さきほどまで瀕死だったはずの象が立ち上がったぞー!!!そ、そしてそのままコサックダンスニャー!一体どういうことだー!?完全復活ニャー!!!」


「す・・・、すげえ!!あいつ今までどんなカレーも食べようとはしなかったのに!」


驚くオツベル。


「だからおまえは象になんてもの食わせてるんだ!そもそも、死にかけの象が一口で復活するっておかしいだろうが!!!なんであの巨体でコサックダンスができるんだ!!ホントにどういうことだー!!!!」


クラピカの声はやはり届かない。


「なんと!!! 先ほどまでカレーに見向きもしなかった象が!・・・一体、一体ヨーグルトを混ぜたカレーにどんな秘密があるというのかね?」


味皇は、みずからもヨーグルト入りカレーをたべる。


「いや、あんたはスプーンを洗うか代えるかしろよ。」


味皇は象が食べた後のスプーンをそのまま使っているのだが、それに疑問をもっているのはクラピカだけなのは、彼が神経質だからなのだろうか?。


「むぅうッ!!こ・・・、これはっ!! ヨーグルトをかけることにより、スパイシーだったカレーがまろやかに口にとけていく・・・。カレーの辛さをヨーグルトが包み込んで、それでいて、決してカレーの味を損なっているわけではない!!カレーとヨーグルトがここまで合うとは・・・。先ほどまでのカレーが絶品なら、これはまさしく、超絶ブラボーハラショー絶品!!!」


「そ、うちの弟が辛いものが苦手でさ、辛いカレーでも食べられるようにいろいろ工夫してみたんだぜ」


キルアは観客席の方をチラリと一瞥する、そこにはゾルディック家御一行が執事も含めて勢ぞろいしていた。


「兄さん・・・」


その中の黒髪和服の少年(?)が、熱っぽい目でキルアに、「抱いてオーラ」をはなつ。クラピカの後ろに陣取る腐った女達は大興奮だ。


「しかもそれだけではない!!先ほどからぷつぷつとしたこの食感。無糖ヨーグルトにほのかに甘を加え、カレーのコクのある辛さとヨーグルトのまろやかな味わいを引き立てている。ヨーグルトのなかに細かく刻んでいれてあるこれは・・・、これは一体なんなのだ!?」


「タマリンドさ、エイジア大陸の東南端で、おやつ代わりに食べられる乾燥フルーツだ!」


「なんと!! タマリンドか! こりゃあ・・、こりゃああぁ・・・・、たーーまーーらーーんーーどーーーー!!!!!!!」


味皇の手の中の丼が噴火した。そこから金色と白い二匹の竜が飛び出す。二匹の龍は絡み合いながら上昇し、そのままドームを突き破って天へと上っていく。味皇はその龍の背に跨りながら遥か天まで昇っていく。そして、ピカッと、上空で大輪の花火がさく。


ドーン!!!!!!!!


キラキラと地上に舞い落ちる光の吹雪。

その中央で、味皇はどんぶりを食しながら、ゆっくりと地面へと降下していった。

最後の一粒を食べ終わったとき、味皇の両の足が地についた。


「キルア君のカレーどんぶり、まさしく天上の美味であった。その工夫、その味は、まさにこのグルメオリンピアの決勝に相応しい出来栄え!天晴れなり!!!
ごちそうさま!!!」


燐とした立ち姿で手を合わせる味皇


会場から割れんばかりの歓声が舞い起こった


「オオーッと、味皇様が御完食ニャー!!!!すごいぞキルアー!!!君はもう、料理の魔術師ではない。魔法使いだ!!!!!不可能を可能にする料理人、それがキルア・ゾルディックー!!!!!」


会場はすでにスタンディングオベーションだ。拍手の音が会場で洪水のように渦を巻く。

その拍手はキルアの料理にむけたものか、あるいは味皇のパフォーマンスに向けたものか。

そして象たちは、仕事は終わったとばかりに、入ってくるときに空けた穴からぞろぞろと帰っていく。


「まて、だからなんであの象達にだれも突っ込まないんだ。おかしいだろ、突然象が入ってきて帰っていったんだぞ!!それにあの龍はなんだ、花火はなんだ!今味皇は明らかに空をとんでたんだぞ!!操作だとか、具現化だとか、放出だとか、そんなレベルの話じゃないぞ!!なんで誰も不思議に思わないんだ!!
・・・おい、ゴン!!『流石は俺のライバルだ!』みたいな顔でキルアをみるな!
あきらかに、あきらかにおかしいぞ!お前達のいる世界は!気づけ!ゴン!!ねえ、お願いだからきづいてちょうだい!!!」


「さーて、キルア選手のこの究極のカレーどんぶりに果たしてゴン選手はどういどむのかー?」

会場がようやく静まったところで、司会の猫耳少女が仕切りなおす。

味皇はゴンのほうを見る、頷くゴン。キルアの料理に刺激されたのだろう。その体からは秘めたるオーラがたち陽炎のように昇っていく。

「それでは次に、ゴン選手の料理の実食ニャー!!!」







                          次回は本当に最終回!!


****************************

なに、この電波作品?と思う人もいるかもしれないが、原作〔アニメ版〕のリアクションもだいたいこんな感じなんだもの・・・

しかし、「かわいそうな象」とか、「オツベルと象」とか、いったい何人の人が知っているんだろう。・・・マニアックすぎたか!?



[29068] ハンター試験に味皇様が光臨しました。 味皇GP編(後)
Name: あぶさん◆5d9fd2e7 ID:9f632b24
Date: 2011/08/05 18:28



「それでは、ゴン選手の料理の実食だニャー!!」


「どれどれ、ゴン君は一体どんなものをつくったのかな?ほう、小付けはザーサイ、スープには卵スープか、・・・となると、つまりこのどんぶりは・・」

味皇はゴンどんぶりのふたをとる。


ゴンのどんぶりが八色に光り輝く。


「おお、この八色の光の輝き・・・、やはりこれは!」


「そう、オレが作ったのは中華丼!まずは具からたべてみてよ、味王のおじいさん。」


「おおーっと、ゴン選手の作ったどんぶりは中華丼だー。色とりどりの野菜が実においしそうだニャー!」


「ほう、中華丼、またの名を八宝菜丼か。ゴン君が自ら育てた野菜を活かした素晴らしいメニューじゃの。・・どれ、まずは具のほうを一口。」

味皇は、どんぶりの具を一口運ぶ。


一瞬の沈黙、そして




「うーーまーーいーーぞーー!!!!!!!」



味皇の口からまっすぐに空へと向けて味皇砲が放たれる。その威力は世界を7日で焼き尽くさんばかりだ。その光線はドームの上部に巨大な穴を穿つ。


そして、そのドームの天上に開いた穴から、人民服の集団が棍を片手に一斉に飛び降りてきた。


「だからなんなんだその威力は!!そしておまえら、なに出待ちしていたとしか思えないタイミングで入ってくるんだ!!しかもなぜ人民服?100人はいるじゃないか、どこから集めて来た!?」


「あんたなにいってんの? 中華といえば人民服じゃない。」


「え・・・、・・・・・はい。」


メンチにまるで「パンにはバターを塗ってたべるものでしょ?」みたく当たり前のように言われて、なにも言えなくなってしまうクラピカ


人民服の集団は味皇の後ろに降り立ち、ビシッと整列する。


味皇は、その中央にたって両手を掲げる。


「お前はどこの毛○東だ!?」


クラピカの突込みをよそに、帽子を深めに被った人民服の集団は、手に持った棍を地面でうちならす。

そのリズムに合わせて始まったのは・・、味皇のラップであった。


「「「「「「「イー!アル!サン!スー!」」」」」」」


「長ネギ、白菜、ニンジン、ピーマン!タマネギ、シイタケ、絹サヤ、チンゲン菜!!!」


「「「「「「「イー!アル!サン!スー!」」」」」」」


「八つの野菜が一つになって!これぞまさしく八宝菜!ほれ!!」


「「「「「「「イー!アル!サン!スー!」」」」」」」


「豚肉、イカに、鶉の卵!水で戻した乾燥きくらげ!」


「「「「「「「イー!アル!サン!スー!」」」」」」」」


「さっと炒めて塩コショウ!醤油とお酒でお味を整え!」


「「「「「「「イー!アル!サン!スー!」」」」」」」」


「水溶き片栗とろみをつけて!ご飯に乗せれば、はい!中華丼!!!」


どどーんと、ポーズを決める、味皇と人民服たち、そして彼らは仕事が済んだとばかりにぞろぞろと帰っていく。


「何しに来たんだお前達!ただ数を4つまで数えてただけじゃないか!!それになんでラップ調?おまえ達本当に中○人なのか?!そもそもおまえらなんでそんなに息が合っている!?練習してたのか?してたんだな?」


実際には味皇と彼らは全くの初対面なのだが、そんな事は今どうでもいいだろう。クラピカの突っ込みもどうでもいい。そして味皇は何事も無かったかのように解説を始める。


「ふむ・・・、色とりどりの野菜に、豚肉、イカから出るだしが実によくたれになじんでおる。なによりこの野菜達のなんと豊かな味わいのことか・・、ゴン君の作った野菜だからこそ、ここまでのコクと旨みをだせるというもの・・。
しかも、このタレ! 塩、こしょう、しょうゆに、酒、そして、鶏がらから採ったスープ、非常にシンプルだが、野菜のもつ甘みと合わさり、極上の出来栄えとなっておる。まさに究極の味のハーモニー!!たとえ他の誰かが同じ材料を使ったとしても、この味には届かんじゃろう!」


「フンッ・・・。あの小僧の真の恐ろしさは、その奇抜な発想にあらず、わずかな味の変化にも気づくその超人的な味覚なのだ!!!」


突然あらわれた黒マントで鬚面のおとこが味皇の言葉を受ける。


「アンタは、・・・ツェズゲラ!!!」


「味将軍だ!!!!!誰だそれは!!」


どうやら、ビスケの知り合いにそっくりさんがいたようだ。

間違えられて自ら名乗りを上げる味将軍、言っておくが知名度では断然ツェズゲラの方が上である。


「ゴン君に一回戦で負けたお前がなぜここに!?」


味皇料理会のうちの一人が味将軍に問いかける。


「いや、あんたラスボスっぽい格好して初戦で負けてたのか・・・。」


クラピカの率直な意見が刃のように突き刺さる。どうやら名前の割には料理の腕はイマイチなようだ。


「フッ・・、フンッ!負けたからといって、観客として見てはいけない理由はないだろう!
べ・・、別に小僧が心配だった訳じゃないからな!!」


「しかし、ゴン君の中華丼は確かにうまそうアルが、それだけでキルア君のあの、黄金のヨーグルトカレー丼に勝てるとはおもえんアル」


残念なツンデレはおいといて、味皇料理会の中華部門担当がゴンの中華丼に厳しい意見をのべる。

たしかに、ゴンの料理がすばらしいレベルのものであることは間違いない。 しかしここはグルメオリンピア、しかも決勝。それだけで勝てるような甘いものではない。



「さてと・・・、それではこの八宝菜を、ご飯と一緒にたべてみようかの・・」


味王はそういって、レンゲをご飯に突き刺そうとした。しかし、


ガッ


ご飯を掬おうとした味皇だが、なぜかレンゲは硬い感触にぶち当たってしまった。


「なんと?これはどういうことじゃ?柔らかいはずのご飯が硬いではないか?・・・これは、ごはんではない!?」


「おおーっと、ゴン選手、米を使っていないなら重大なルール違反だニャー!!」


「いや、違う!!ルール違反などではない!!・・・これは、まさか米のおかきか!!!」


「そうだよ、味皇のおじいさん。それは、米を薄く延ばして乾燥させて油であげたものなんだ。」


「おお・・、なんという、なんという発想!!とろとろとしたあんかけの下にはかりかりのオカキ!!これは、これは、うまそうじゃー!!!
・・・どれ、お味のほうは・・・」



レンゲに具とオカキを掬い口に運ぶ、味皇



「・・・こ・・、これは・・・、これは・・・、この料理はとてつもなく・・・、」



ぶるぶると痙攣を始める味皇


「ど、どうしたの?味皇のおじいさん!!」


味皇に何かあったのかとかけよるゴン



「とてつもなく・・・・・、うーーーーー!まーーーーー!いーーーーーー!ぞーーーーーーーー!!!!!!!!」



その、あまりの美味に感動した味皇は・・・、





巨大化した。




「な!!!!????」



その体はみるみるおおきくなり、ついにセラミックドームを突き破る。


ホログラフとか、幻影だとか、そんなものではない、味皇は確かに、今クラピカの目の前で巨大化し、セラミックドームを突き破ったのだ。粉々に砕け散るセラミックドーム、味皇の巨大化は元のドームの3倍ぐらいの大きさになったところでようやく止まる。


「ば・・、馬鹿な!一体どうやって生身の体を持った人間が巨大化できるというのだ?それに、これだけの大惨事なのに一人も怪我人が出ていないだと?ありえない!」


クラピカの驚きにメンチも続く、


「な・・、なんてこと!!」


さしものメンチも驚いたようだ。クラピカは、「あ、驚いてるのは自分だけじゃなかったんだあ。」と、メンチに心の底から感謝する。


「味皇様があのリアクションをとったのは、これまで2度しか観測されていないそうよ。 あの子・・、そこまで料理の腕を上げていたというの!?」


・・・クラピカは先ほどの感謝を返して欲しくなった。


「驚いたのはそっちですか!?驚くのはゴンにじゃないでしょう!あの質量保存の法則とか、ニュートンの定理とか、そういうものを全部放り投げているあの理不尽な生き物に、なんで誰も疑問をかんじないんだ!!!というか、あれを今まで2度もやっていたのか?そっちのほうが驚きだ!!」


「フッ、もはや驚くことなどないさ。ゴン君は既に一流の料理人なのだからね。」


味皇料理会の男達が「ついにたどり着いたな、料理人の高みへと・・」とでも言いたげな顔でゴンの方を見つめている。


「だから、話の論点がずれているといっているだろう!そもそも、おまえらに話はふっていない!」


ただ一人、会場の中心で常識を叫ぶクラピカをよそに、巨大化した味皇は同じく巨大化したどんぶりを食す。観客達は目の前の現象に驚いてはいても、疑問は持っていないようだ。


見上げる観客。頭をかかえるクラピカ。ゴンを見る目がライバルのそれへとかわる味皇料理会の面々たち。




・・・・さて、ここで視点は一度グルメオリンピア会場から離れよう。




巨大化した味皇の姿は蜃気楼となり、その日、世界の至るところで、鎧兜を纏った巨大な老人がどんぶりを食べる姿が観測されることとなる。


老人を知るもの、知らぬ者、全てに平等に彼の姿が映し出される・・・。






【クジラ島】


「ミ・・、ミトちゃん、あれ!!」


「あ・・、あれは、なに!??」


海の上に巨大な鎧兜の老人の姿が浮かぶ、そしてその老人の声は、確かにミトの耳に届いていた。


『おお、なんと!!とろとろのあんかけがカリカリッとしたおかきにからまり、見事な触感をつくりだしている。また、たべやすいように、オカキに切れ目を入れてある、さすがはゴン君、食べる人のことまでしっかりと考えておるわい』


「ゴン・・・、あなた、一体・・・!?」


ハンター試験以来、クジラ島に帰ってきていないゴン、手紙ではハンターになるのはやめて、料理人の修行をしていると言っていたからミトも安心していたのだが・・・。これは一度会いに行かねばならない・・・、そう彼女は決心した。





【ザバン市】


『しかも、それだけではない、このオカキのなかには、銀杏が詰め込まれておる。銀杏の柔らかい触感と、ほのかな苦味が、カリカリのオカキと合わさって、絶妙な味をつくりだしておるわい。』


町に買出しにでてきていた凶狸狐(キリコ)は、人垣に混じってその老人の姿をみつめていた。老人の口からでた懐かしい名前に、細い目をさらに細めながら。





【ゾルディック家】


『むう! オカキのしたにはまたオカキ!! なんとこれは、多層構造になっておるのか!?
1,2,3,4,5、まさかの5層構造!!これぞ、どんぶりから聳え立つ食の5重の塔!!!』


「クぅーン」


ミケはひとり(一匹)でお留守番だ。





【天空闘技場】


『そして、2層目は・・・、なんと、セロリか、ごま油と、砂糖醤油で炒めたセロリがオカキの中に入っておる。セロリと、ゴマの香りがなんとも食欲をそそるわい。』


「な!?・・・あれは!?」


「・・・なるほど、そういえば今日はグルメオリンピアでしたね。」


「・・ウィング師匠、グルメオリンピアとは一体?」


「ズシ・・・、今はただ、来たるべきバトルオリンピアに備えなさい。・・・・ただ、世界にはまた別の頂もあるということだけは覚えておくのですよ」


天空闘技場の頂上に立つ、弟子と師匠





【ヨークシンシティー】


『続きましては3層目、・・・ほほうっ、アーモンドか!アーモンドの香ばしさが、味に変化をくわえておる。これは箸がすすむわい!オカキのかりかりっとした触感と、アーモンドのぽりぽりっとした感触、そしてあんかけをずるずるとすすれば・・・、まさしくっ!触感の三重奏なりぃ!!!

かりかりぽりぽりず~るずる!かりかりぽりぽりず~るずる!!!!』



流れ落ちる涙を気にも止めず、ただ、ひたすらに空を見つめている女性がいた。去年までの彼女の姿を知る者で、この女性が誰かわかる人間など何処にもいないだろう。彼女の呪いを癒し、名乗る事も無く去っていったあの老人の姿が、今センリツの美しい目には映っていた。
涙に歪んだ視界で、ただひたすらに老人を見つめ続ける。届かない想いに胸を焦がしながら・・・。





【グリード・アイランド】


『まだまだいくぞな4層目!ほれっ!!・・・ふむっ、こんどはごぼうか。ごぼうの風味が、口の中に豊かに広がっていく、ごぼうの深い味わいが、このどんぶりにさらなる奥行きを与えておるわい。』


「なんなのこれは!!・・・プログラムの暴走!?」


「いえ、プログラムには異常は全く無いわ!」


「おーう、おめえらもこっち来てみてみろよ、なかなか面白い見世モンじゃねえか。」


「まったくです」


「ほう・・、どこの誰だか知らんが・・たいしたものだ。」


すわ、プログラムのバグかと混乱する双子の姉妹に対して、男性陣はのんきなものだ。
去年キルアやビスケ達により初めてのゲームクリアが達成されたが、彼らの仕事はまだ終わらない。





【NGL自治国】



『これで最後じゃ5層目!おおお!!!これは筍か。短冊にきられた筍が、シャリシャリと・・・、くちの中でシャリシャリ言っておるわい。その繊細な味わいは、』シメにするにはふさわしい・・・。
おおお・・・、なんということか、どんぶりが、どんぶりが、気づけば空っぽになってしもうておる・・・、あまりの旨さに時を忘れるとは正にこのことか!!』


「・・全く、たいしたご老人だぜ。」


ナックル、シュート、モラウが飯盒を炊く火を囲んで空を眺めていた。そして、そのまわりを囲むキメラアントたちも彼らと同じ空を見つめていた。

そこには、自分達全ての「恩人」の姿があった。
王と護衛隊が味皇の元へと去った後も、ハンター協会はキメラアントの駆除を強行しようとした。しかし、それに真っ向から対立したのがモラウ、ナックル、シュートの三人だった。
NGL自治国内でモラウ達が監視を続けると言う条件の元に、キメラアント問題は一応の決着をつけている。

キメラアントたちはもう、人を食べる事はない。なぜなら、彼らは本当の食を知ってしまったからだ。

彼らは今はただ、空に響く声に真摯に耳を傾けている。






・・・そして、





全世界にその男の声が響いていく・・・。







『ゴン君の料理、正しく美味であった・・・』






一瞬の静寂・・・





最後に男は、ニッコリと微笑んで、こういった。







『ごちそうさま』










【・・・そして、世界のどこかの秘境】


「ジンさん・・」


「どうしたカイト、そんなところで、卒業試験は終わったはずだろう?」


「いや・・、この間面白い人物に会いましてね、その男を魚に酒を飲もうとおもってジンさんに会いに来たんですが・・・、」


空を見上げるカイト。二人の目の向く方向には、先ほどカイトが話そうとしていた男がどんぶりを前に手をあわせていた。そして、その姿を最後に味皇の蜃気楼はジンたちの視界からゆっくりと消えていった。


「なるほどな・・。 確かに、そいつは面白そうな話だ。聞かせろよカイト!酒は旨いの持って来たんだろうな?」

隻腕のカイトは残った腕で、ジンに一升瓶を差し出す。秘境で始まった酒盛りに、いつしか幻獣たちもまざり、宴はおおいに盛り上がっていくのだった。









・・・ここで場所をグルメオリンピア会場へと戻すことにする。



瓦礫の中どんぶりをおいて両手を合わせている味皇。巨大化はとけ、元の大きさに戻っている。その表情は・・、実に・・・、実に満ち足りている。



「味皇さま、判定をおねがいしますニャー!!!」


司会の猫耳少女が味皇に最後の決定をうながす。



会場は静まり返っていた。今、この場は完全なる静寂に支配されていた。誰もが息を呑み、心臓の音すら止めてしまったようだ。



味皇は、目を閉じたまま仁王立ちになっている。長い沈黙のあと、味皇は、ついにその口から言葉を発する。




「この勝負、ゴン君の勝ちとする!!!!!!!!」




カッと目を見開く味皇。会場はいままでに無い大音量の歓声を上げる。・・いや、そもそも、会場はすでになくなってしまっているのだが。


「そ、そんな・・、そんな馬鹿な!!確かに、ゴンの料理はすごい!でも、オレの・・・、オレの料理が負けているわけは!オレの料理のどこが劣っているっていうんだ!」


キルアの問いに味皇は答える。


「その理由はゴン君のどんぶりを食べればおのずと解かるであろう。」


「ほらっ、食べてみてよ!キルア」


キルアにどんぶりを差し出すゴン。

キルアはそれを一口たべた。


「!!!????・・・・・これは・・・!!この豊かな味わいは!? とろとろのあんかけに、カリカリのおかき、そして、このどんぶりに使われている13種類もの野菜たち、それらが口の中で踊っている!!この幾重にも広がる味わいは一体・・・!?これは・・、そうか、この味わいは、素材そのものの味、この中には、素材が極限まで生かされている。 ・・いや、素材が生きているんだ!!」


「そう。そしてそれこそが、君とゴン君の差なのじゃよ・・・。キルア君の自在に調味料を作り出す能力、まこと見事であった。しかしな、君は知っていたかね?調味料も作物だと言う事を。」


「・・・な!?調味料が作物・・・!?」


「うむ。木々にたわわにみのる緑色のコショウの実。緑、黄、赤とさまざまな色をつける唐辛子畑。海の水を天日で蒸発させることにより作り出される塩の結晶、南国に繁るさとうきびの群栄、大豆を暗室でじっくりと発酵させたしょうゆ樽。
君はそれらを見たことはあるかね?君の調味料は確かにいい味をだしていたかもしれん。しかしそれは作物ではない。甘い、辛い、しょっぱい、すっぱい。それらを物質化したものに過ぎんのじゃよ。」


ショックを受けるキルア、確かに自分はいままで出来上がった調味料しか口にしてこなかった。そしてそれを完全に再現する事に全てを費やしてきた。目の前の「粉」を再現することに、そしてそれは決して「作物」などではなかったのだ。


「ゴン君はの、雨の日も風の日も1001種類の作物を自ら育て、ようやくあの念を体得したのじゃよ。」


「うかつだったわさ、調味料も作物・・・。確かにその通りだわさ。さすが味皇と呼ばれるだけはあるってことね。普通の人間の舌なら絶対にホンモノと見分けがつかないはずよ。キルアの念能力の弱点を一目で見抜くとは・・、恐れ入るもんさね」


ビスケが、味皇の人間離れした味覚に舌を巻いた


「な!?君はキルアの師匠だろ?気づいてやれなかったのか?」


「なに言ってるだわさ、わたしはキルアの念の師匠よ、料理の師匠じゃないもの」


「・・・え・・・。あ、はい。・・そうですよね。」


正論を返されてだまってしまうクラピカ。キルアの師匠と言う事でビスケもあっち側(味皇側)の人間だと思っていたのだが、どうやら違っていたようだ。



「調味料も作物・・、オレは・・・、オレは・・・。」


リング中央でうなだれるキルア。


そのキルアを、味皇がやさしく諭す。


「なあに、知らなかったのなら学べばよい。学んだのならまた試せばよい。若い君たちの前には、世界は無限に広がっておるのじゃからのう。」


「あ、味皇のじいさん・・・」


味皇にしがみつくキルア、味皇がその大きな手でキルアの頭をなでる。キルアは敗北の澱をひとしきり泣いて吐き出した後、ゴンの元へと向かい、勝者である親友の腕を大きく天に掲げる。


とたん、拍手が爆発する。鳴り止まぬ拍手の中、ふたりはお互いの目をみて、頷きあう。どちらが勝者とか関係ない。観客はこの最高の戦いを見せてくれた二人に惜しみない拍手を送っていた。


そして、戦い抜いた二人の若き獅子を、うしろから暖かい目で見守る味皇の姿がそこにはあった。


クラピカにはもう、突っ込むことはできなかった。突っ込み疲れたわけではない、空気を読んだわけでもない。彼にとって、今突っ込んでしまう事が失礼な気がしてしまったからだ。なぜだかわからないが、かれの胸をよく分からない感動が満たしていた。
・・・いや、本当によく分からない。


そして、いつしか拍手が止み、味皇が最後の言葉を放つ。




「これにて・・・、一件落着!!!」




クラピカのなかでは、何も落着していないのだが、とにかくグルメオリンピアは終幕した。












夕焼けと瓦礫のなかでクラピカは立ち尽くす。
観客達は「いいもん見たなあ」といいながら、帰って行く、


「ほら、アンタも何やってんの?帰るわよ。」


メンチに促されるクラピカ、クラピカはふと浮かんだ疑問をメンチに問いかける。


「メンチさん、ひょっとして、味皇様が決勝しか審査しないのは・・」


「ええ、味皇様が審査すると大体会場が壊れてしまうから、最後の決勝しか審査させてもらえなくなったらしいわ。」


「ひょっとして、4年に一度しか開催されないのは・・」


「そう、毎回建物を建て直すのに4年かかっているそうよ。」


既に、あと片付けを始めている会場スタッフたち、食後の後片付けに重機をいれなければならない現場を、クラピカは生まれて初めて見た。

キルアの試食の時にやってきた象達がいつの間にか再集結しその体躯をいかし、瓦礫の山を運んでいく、人民服の集団たちは割れたガラスの後片づけを担当している。

明らかに人類を3度は滅ぼせそうなオーラを放つ4人組(うち一人は司会の猫娘)が瓦礫を適度な大きさに砕いて運びやすくしている。

味皇料理会の面々が片付けの指示を出している。このようなことにもすっかり慣れているのだろう、その指示には全く淀みがなく、現場は効率よく動いている、

その中央で4年後の再戦を誓うゴンとキルア、二人に近寄って写真を撮ろうとする女性達をキルアの弟が猫のように威嚇している。


そして味皇は・・・、いつの間にかこの場を去っていた。



あんた自分で壊したんだから片付けぐらい手伝えよ。そう思ったクラピカだったが、そんな事を考えてしまうのも、ここではきっとクラピカだけなのだろう。



クラピカには、この現実をどう処理するべきか、わからなかった。なぜ、自分はコレを見に来ようとなどと思ってしまったのか。コレをみたことに、果たして何の意味があったのか?クラピカの胸には疑問ばかりが渦巻いていた。

・・・いや、あるいは彼にとっては、二人の戦いにどこかで納得してしまった自分がいたということが、実は一番の問題だったのかもしれない。

仲間の復讐とか、クモとの死闘とか、無くした念能力とか、今まで自分の成してきたことは一体なんだったのだろうか・・・。

自分はこの先どうやって生きてゆけばよいのだろうか・・・。考えれば考えるほどドつぼにはまっていくクラピカ




・・・だからクラピカは・・・、振り返らない為に、そして前に進む為に、魔法の呪文をとなえることにした。














「リリカル☆マジカル★味皇なら仕方がなーい!」












                              【完結しますた】



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