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[29024] 【習作】(エヴァ×黒執事)新世紀エヴァンゲリオン    〜その執事、共演〜
Name: ガオ◆97564bd1 ID:3be99ad7
Date: 2011/07/31 19:38


新世紀エヴァンゲリオン
   〜その執事、共演〜




※注意書き※
初めまして、ガオと申します。
処女作なので「まぁ、頑張れよ。」、といった寛大な心で見て下さい。

本作は
・逆行
・スパシン(ほぼ別人)
・クロス(性格が違うかも?)
・オリキャラ(原作キャラより出番が多いかもしれません;;)
・断罪?
・独自解釈(ガオの独断と偏見)
といった要素が含まれております。
また、学生なので亀更新になると思います。



感想、アドバイス、注意等
是非書き込んで下さいm(_ _)m



[29024] 第0話
Name: ガオ◆97564bd1 ID:3be99ad7
Date: 2011/07/26 10:15



眼前には赤い海世界に残ったのはたった2人。

少年と少女だけが赤い世界に遺された。

「アスカ、起きてよ。僕を一人にしないでよぉ。」

少女は何処か遠くを見ていて、

少年の声に一切の反応を示さない。

「…アスカ、僕はもう無理だよ。綾波は望めば皆還って来るって言ってたけど、誰も還って来ないじゃないかっ!」

少年の悲痛な叫び。

それでも少女に反応は無い。

「アスカ、お願いだよ。何か言ってよ‼いつもみたいに‼何でも言うこと聞くから‼」

少女は赤い海に向かって歩いて行く。

突然の少女の行動に少年は動くことができない。

体の半分が海に浸かったところで、少女は少年の方を向き一言だけ言った。

「アンタ…気持ち悪い。」

その言葉を最後に少女は赤い海に融けて消えた。



「アスカッ!」

少年は自らの叫びで目を覚ました。

「何でこんな事になったんだろう…。」

大きく突き出した岬の上。

平坦な声で呟く少年の眼前には赤い海が広がっていた。

その海はかつて星を構成した全ての命が溶けた群体を内容する個体であり、新たな命の元となるもの。

故に、溶け込んだ魂が再生を望めば個体としての姿を取り戻すことができる。

しかし、少年が独りになってから100年が経っても誰一人として揺籃の時を終わらせようとはしなかった。

「今日で100年…結局誰も還って来なかったな…」

少年は絶望していた。

還らぬ魂に、命無き世界に、そして何より永久の孤独に。

「この中に入れば僕も一つになれるのかな…?」

昏い希望を持って、少年は海へ身を投げた。

「ウワァァァァァァァァッ‼」

一瞬とも永遠とも取れる浮遊感の後、海に落ちた少年の体を激痛が襲った。

蓄えた知識、数多の経験、刻まれた歴史、少年の中に一つの世界が注ぎこまれていく。

「イヤだ!イヤだ!もう止めてくれ!」

少年が何度意識を失おうと、それは終わらない。

起きるたび少年は激痛を味わい、また気を失う。

それが終わる頃には、更に100年の時が過ぎ、いつしか少年の身体は青年のそれとなっていた。

~~~~~~~~~~~~~~

「…こんなことの為に僕は生きてきたのか?…イヤ、そもそも生きていなかったのかな?」

何処とも知れぬ孤島。

何となく不気味で、ホラーゲームの舞台のような雰囲気を持つ島の浜辺で青年が自嘲する。

そんな青年に後ろからゆっくりと近づいていく影が一つ。

抽象的な人の顔のような物だけが、その影の特徴だった。

青年との距離が10m程になった所で、影は孤月を口元に浮かべ楽し気に語り始める。



「これはこれは、随分と変わった御方だ。」

青年は振り返り、胡乱な瞳を向ける。

影は更に青年に近づく。



「幸か不幸か、貴方は私と出会ってしまった。」

青年は影を見つめ、身動きひとつしない。

影が形を変え、人となっていく。

が、しかしソレの背には夜闇のような翼。

誰が見てもソレをこう呼ぶだろう。

《悪魔》、と。



「貴方の望みを叶える力をわたしは持っている。」

青年の瞳に僅かに火が灯る。

《悪魔》の姿は少しも気にならないようだ。

《悪魔》は浮かべた笑みをより深い物にした。



「そして貴方は私の望みを叶え
る力を持っている。そこで、」

僅かな間を空け、
「私と契約しませんか?」
《悪魔》はそう囁き、手を差し出した。

青年はその手を取り、立ち上がった。




第0話
その執事、邂逅。



[29024] 第1話 ~その執事、開演~
Name: ガオ◆97564bd1 ID:3be99ad7
Date: 2011/08/05 19:16
第1話
その執事、開演

広く静かな部屋で、一人の青年が机に重ねられた書類を読んではサインをするという作業を繰り返していた。

青年が顔を上げ、大きな溜め息をついた所で、ノックの音が鳴り響き、1通の手紙と銀のペーパーナイフを載せた銀の盆を執事が運んで来た。

「失礼いたします。御手紙が届きました。」

「ありがとう、来たね。」

青年は笑みを浮かべながら手紙とナイフを取り、封を切り開いた。

そこには、便箋と写真そしてIDカードが入っていた。

「あははははっ、内容変わらないんだね。まぁ、下手に変化するよりその方がいいかな。」

「そうですね。…では私は仕事に戻ります。」

主に一礼して去って行こうとする執事を、青年が呼び止めた。

「セバス、今日のお茶はアールグレイがいいな。」

「畏まりました。」

執事は主の望みの為にキッチンへと向かう。

青年の部屋にペンと紙の音が再び響きだした。







2日後    第三新東京市

~NERV本部発令所~
「正体不明の移動物体は、依然本市に対し侵攻中。」

「目標を映像で確認、主モニターに回します。」

「15年ぶりだね。」

「ああ、間違いない。使徒だ。」
オペレーターの報告を聞いた白髪の老人NERV副司令、冬月コウゾウの呟きに、髭面にサングラスの厳つい顔をしたNERV総司令、碇ゲンドウが相槌を打った。


~強羅駅~
《本日、12時30分、東海地方を中心とした関東、中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の皆様は速やかに指定のシェルターに避難してください。繰り返しお伝えいたします・・・・。》

そのアナウンスをBGMに青年と執事が駅前の広場にあるベンチに座っている。

「現在12時33分待ち合わせの時間から1時間33分の遅刻か…。
遅刻するのはわかってはいたけど・・・。ここでボクが死んだらどうする気なんだか。」

心底呆れたという表情で青年は此処にいない、イヤ、来ない相手にぐちぐちと文句を言う。

「まったくですね、ここは危険です。という訳で車を確保して来ます。」

「かっこいいのを頼むよ。」

主の了承を受け、執事は走り出した。


~発令所~
その頃発令所には、
緊迫した雰囲気が漂っていた。

「目標は、依然健在。現在も、第三新東京市に向かい侵攻中。」

「航空隊の戦力では、足止めできません!」

オペレーター席に座るロン毛の男、青葉シゲルとショートカットの女、伊吹マヤが声を張る。

「総力戦だ。後方第四師団を全て投入しろ!」

「出し惜しみをするな!なんとしてでも目標をつぶせ!!」

UN軍使徒迎撃特別部隊指揮官、アレクセイ・クラフトと副指揮官の怒声が響いた。


~駅前広場~
UN軍が奮闘している頃
青年はダラけていた。

送り出してから気付いたが、執事が車を見つけて来るまで何もすることが無いのだ。

こんなことなら着いていけば良かったなぁ、とチョット後悔していた。

「…暇だなぁ。」

「…暑いなぁ。」

「…やっぱり…暇だなぁ。」

ふと青年が顔を上げると、陽炎の様な存在感の薄い、蒼銀の髪の少女が青年をジッと見ていた。

「…久しぶりだね。あ、君にとっては初めましてかな?」

その時、青年の言葉に重なるように爆発音が響き渡り、青年は顔をあげる。

目線の先には黒煙を吹き上げながら落ちていくVTOLと黒い人型のなり損ないのような巨人。

耳を塞ぎたくなるようなうなり声を上げながら、巨人は歩を進める。

「久しぶりだね。サキエル。」

青年は親しげに語りかける。

何時の間にか少女はいなくなっていた。

~戦闘空域~
UN軍後方第4師団に所属するパイロット、ジャックは独断先行し、巨人に正面からミサイルを掃射した。

「目標に全弾命中!やったか⁉」

案外大したことないな、とニヤリと笑い巨人の横を飛び抜こうとした。

その瞬間、巨人はその体躯に似合わぬ俊敏さで、蚊を追い払うように左手を振り上げた。

「なっ⁉うわぁぁぁぁぁぁ!」

爆発。

そして潰れた機体が地上にきりもみしながら、落ちていく。

今まで歩く事しかしなかった巨人の突然の行動にジャックは叫ぶ事しか出来なかった。


~駅前広場~
青年のいる広場に機体が潰れた機体が飛んでくる。

「あーあ、あっけないなぁ。」

青年はのほほんとそれを見ていた。

潰れた機体が青年の約100m先に落ちた瞬間、漆黒のスポーツカーが衝撃波から青年を守るように滑り込んで来た。

「申し訳ありません、御待たせしました。」

中から車と同じ漆黒を身に纏った執事が降りて来て、助手席のドアを開けた。

「御乗り下さい。」

執事は青年が助手席に座るのを確認しドアを閉めると、自身も運転席に乗りアクセルを踏み込んだ。


~高速道路~

法廷速度を80キロ以上オーバーし、漆黒が駆け抜ける。

「あれ?今すれ違ったのアレかな?」

「アレですね。改造されたルノーでしたから間違いないでしょう。」

「向こうは気づいたかな?」

「アレが有能ならば。」

「つまり無理って事だね。」

2人にアレ扱いされている女性
葛城ミサトは焦っていた。

「このままじゃリツコに改造されるぅぅぅ!!!」

自分が迎えに行くと言って、遅刻しましたでは言い訳一つできない。

しかも待たせているのは自分の部下になる少年なのだ。

死なれでもしたら復讐ができなくなる。

「あーっもうっ‼生きてなさいよ、サードチルドレン‼」


~強羅駅~
ミサトは絶叫しながら駅中を探し回ったが、当然人っ子一人いなかった。

捜索を諦めたミサトは、途中手近なゴミ箱に八つ当たりしたりしながら大股で歩き、駅前に停めてある愛車に乗り込んだ。

「まったく。勝手にウロチョロすんなっつーの!面倒だなぁ。」

ここから移動したとするなら、恐らくシェルターだろう、とあたりを付け、携帯を取り出し操作する。

「仕方ない。シェルターに行ってみるかぁ。」

身勝手な理由で愚痴りながら部下に電話をかける。

『…あぁ、佐々君?ちょっち面倒なことになってね。…サードチルドレンをロストしたの。シェルターの入手記録、確認してくれる?………記録は無し?そっか。…仕方ないわね。本部に帰るわ。』

自分が死んでは使徒を倒す手段がなくなる。

サードチルドレンは可哀想だが、人類の為だ仕方ない、と結論をくだし、全速力で青いアルピーヌ・ルノーを走らせた。

【自分は特別】その意識が特別強いのが葛城ミサトの最悪の欠点だった。

~発令所~
反委員会派の国連議員がNERVを潰すために申請したのが今回のUN軍の部隊だった。この申請が通ったのには、NERVに実績がないからだ。

使徒のチカラを知っている委員会が有能な人材を国連が送ってくれる訳もなく、体面のために若くして佐官となったアレクセイだけを指揮官として出向させただけであった。

「なぜだ!直撃のハズだ!」

「戦車大隊は壊滅。誘導兵器も砲爆撃もまるで効果なし、か。」

「ダメだ、この程度の火力じゃ埒があかん!」

UN軍メンバーの苛立ちが増していく。

何をしても止まらない巨人の姿に軍人としてのプライドが酷く傷つけられているのだ。

「やはりA.T.フィールドか?」

「ああ。使徒に対し通常兵器では役に立たんよ。」

下の騒ぎを無視してゲンドウと冬月は小声で話しを続ける。


無駄と知りつつも上からの命令に従いアレクセイは切り札の使用を決めた。

「…NNの使用許可を出す。」

「わかりました、予定通り発動いたします。」

シェルターに避難していた数千の人々を巻き込んでNN地雷が炸裂した。

~NERV本部正面ゲート~
「NNか…。ヤッパリ、ダメなのかな?」

青年は悲し気に破滅の光を見つめていた。

~高速道路~
「何でこうなるのよ~‼」

NNの衝撃波で引っくり返った車の中でミサトが吼えた。


~発令所~
歓声が上がる、

「やった!」

「残念ながら君達の出番は無かったようだな。」

イヤミな副指揮官の声を聞きながらアレクセイは顔を歪めていた。

(彼の忠告をいかせず、命令に従うだけか…)

数日前に出会った青年の顔が脳裏に浮かぶ。

自分はもう軍にはいられないだろう。

そんな事を考えながらアレクセイは瞳を閉じた。

「衝撃波、来ます。」

スクリーンにノイズが走る。

「その後の目標は?」

「電波障害のため、確認できません。」

「あの爆発だ、ケリはついている。」

勝利を確信した副指揮官の声。

しかし、神の徒は
人の希望を打ち砕く。

「センサー、回復します。」

「爆心地に高エネルギー反応!」

「なんだとぉっ!」

「映像、回復します。」

画面に映った巨人は僅かに表面を焦がしながらも変わらず歩いている。

よく見れば仮面が増え、体の形状も少し変わっているのがわかる。

使徒と呼ばれる存在は、障害に出会うたびに進化していく。

アレクセイ、ローグを始めとしたUN軍の面々から唸り声が鳴り、NERVのオペレーター達にも絶望が広がった。

「我々の切り札が・・・。」

「なんてことだ。」

「バケモノめぇっ!」

次々に罵声が上がる。

その中でもNERVのトップ二人は余裕を持って巨人を見ていた。


アレクセイは犠牲となった同胞に詫びながら、冷静に次の行動を起こしていた。

「現時点を持って本作戦の指揮権は貴方に移りました。御手並みを拝見させてもらいます。」

「了解です。」

「碇司令、我々の所有兵器では目標に対し有効な手段が無いことは認めます。ですが、貴方には勝つ手段があるのですか?」

「そのためのNERVです。」

「…期待しています。」

アレクセイにはそれしか言えなかった。



「目標、未だ変化なし。」

「現在、迎撃システム稼働率7.5%。」

「国連軍もお手上げか。どうするつもりだ?」

横目でゲンドウを見ながら、冬月が尋ねる。

「初号機を起動させる。」

「初号機をか。パイロットがいないぞ。」

「問題ない。予備が届く。」

息子に向けるとは思えない冷徹なゲンドウの言葉に冬月が嫌そうな顔をする。

とはいえ、冬月がそれを注意する事は無い。

(息子を予備扱いとはな。ユイ君が聞いたらどう思うことか。)

「副司令‼」

眼鏡を掛けた男、日向マコトが慌てて報告をする。

「日向君、どうしたね?」

「それが…サードチルドレンをロストしたそうです。」

一瞬の静寂。

「なんだとぉ‼」

マコトの報告にパニックに陥る冬月。

「碇!どうするのだっ⁉計画の大前提が崩れたぞ⁉」

「……レイがいれば修正は可能だ。」

「第3使徒はどうするっ⁉」

「…レイに準備させろ。零号機の凍結を解除して自爆させれば3人目に移行するだけだ。」

流石と言うべきかゲンドウの切り替えは早い。

「時間がギリギリになるが…それしかないか。」

「あの…。」

落ち着いた冬月にマヤが声をかけた。

ゲンドウの声は下段の面々には聞こえなかったようだ。

「伊吹君、また問題かね?」

これ以上のトラブルは勘弁して欲しい。

そう考えながら冬月は先を促した。

「あの…それが、正面ゲートに碇シンジと名乗る人物がいます。」

薄く頬を赤く染めたマヤが、キーボードを叩くとメインスクリーンに正面ゲートの監視カメラの映像が映し出された。

カメラには中世的な顔立ちの青年とそれに付き従うように立つ男がカメラに映っている。

「………赤木博士に迎えに行かせろ。」

どうやって来たかは後で問いただせばいい、ゲンドウはシンジを中に入れることを優先した。


~正面ゲート~

赤木リツコはサードチルドレンを出迎える為、水着に白衣だけを纏いゲート直通のエレベーターに乗った。

(あの女の子供…でもあの人の子供でもある…シンジ君には関係ない事だってわかってはいるけど・・・ロジックじゃ無いのよね。)

そんなことを考えてる内に
ゲートまでついたようだ。

エレベーターの扉が開く。

そこには、
銀縁の眼鏡を掛け、白いシャツにジーンズ姿の爽やかな感じのする中世的な青年と、
燕尾服を纏った青年よりさらに背の高い怜悧な美貌を持った漆黒の執事がいた。

圧倒的な存在感を持つ2人に
リツコはタップリ5秒は固まってしまった。

「…碇…シンジ君?」


「はい、ここの総司令に呼ばれてきました、碇シンジです。どうぞよろしく。」

「私はシンジ様の執事、セバスチャン・ミカエリスと申します。どうぞ、よろしくお願い致します。」



その日、舞台の幕が開いた。


次回予告

お久しぶりの皆様、
初めましての皆様、
碇家執事、ヨハン・セバスチャン・ミカエリスで御座います。

初号機のプラグの中、シンジ様は2つの再会を果たします。

お側にいられない事、そして私の出番が少ない事が悔やまれます。

次回
その執事、搭乗

あくまで、執事ですから。





[29024] 第2話 ~その執事、搭乗~
Name: ガオ◆97564bd1 ID:3be99ad7
Date: 2011/08/05 19:15
 第2話
その執事、搭乗


~ジオフロント正面ゲート~ 

「…碇シンジ君?」

碇家のガードの異常な堅さのせいで、NERVはシンジ君の写真一つ手に入れていない。
つまりDNA鑑定でもしない限り本人かどうかはわからない。
…わからないけど、こんな中学生がいるのかしら?

「そうですよ?」

シンジ君は、困ったような顔で頷く。
本当に中に入れて良いのか考えていると、シンジ君が急に近づいてきて髪の毛を抜いて、手渡してきた。

見透かされてるわね。

「ありがとう。…シンジ君とても中学生に見えないから。」

自分から髪を渡してくる以上
偽物の可能性は低いだろうし。
使徒も近づいてきてるし、サッサと連れて行くべきね。


「シンジ君、IDカード持ってるかしら?」

「はい。セバスチャン。」

ミカエリスさんがポケットからカードを出して、丁寧に渡したてくれた。
この人、シンジ君と離して置いた方が良さそうね。


「ありがとう。…じゃあ、案内するわ。えっと、ミカエリスさん?」

「はい。」

「ミカエリスさん。申し訳ないけど、これから行く所は関係者以外入れないの。ゲストルームに案内させるから、少しここで待っていて下さい。」

シンジ君が僅かに眉を顰める。
ちょっと露骨過ぎたかもしれないわね。

「仕方ないですね。」

シンジ君は、あっさりと二つ返事で了承した。
予想外にすんなりと了承されたせいで拍子抜けしてしまった。

「では、シンジ様。いってらっしゃいませ。赤木様、主をお願いします。」

ミカエリスさんは深々と頭を下げる。
己の主を案じるその姿に、私は少し罪悪感を感じたが、すぐに振り払った。

「わかりました。…じゃあシンジ君、行きましょうか。」

そう言ってリツコはゲートに入った。
頭を下げたセバスチャンがニヤリと笑っていたことに気づけずに。

「わかりました。」

シンジは一瞬、セバスチャンと同種の笑みを浮かべ、先を行くリツコについて行った。

~発令所~

「では、後を頼む。」

ゲンドウはそう冬月に言い残し、発令所から出ていった。

「三年ぶりの対面、か。」

冬月は自分にしか聞こえない小さな声でそう呟いた。

~ジオフロント内通路~

ミサトがいないせいで、いきなりシナリオが狂ったわね。
本来ならシンジ君が興味を持つようにエヴァの話するはずだった。

「ねぇ、シンジ君。」

「あっ、おば…お姉さん、御名前教えてもらえますか?」

「…自己紹介が遅れたわね。
技術局第一課、E計画担当責任者、赤木リツコよ。」

おばっ⁈… 私はまだ30歳よ!まだいけるハズよ!

「よろしくお願いします、赤木さん。ところでE計画って何ですか?」

「リツコでいいわよ?あまり詳しくは言えないけど、貴方のお父さんの碇司令が進めてるNERVの計画の一つよ。」

…何も反応しないわね。
シンジ君、あまり表情変わらないから読めないわ。

「へー。ちなみに、E計画ってボクに関係あります?」

表情を変えず世間話のていでシンジ君が質問してくる。

何かを知っていて鎌をかけているともとれるけど、父親が話題に出た事に反応して質問してきただけかも知れない。

「どうかしらね?それより何で2人だけで来たの?迎えが行かなかった?」

「あぁ、写真の人の事ですか?その人なら2時間待っても来ませんでしたよ?」

シンジ君は、ポケットを漁って写真を取り出して見せてくれた。

その写真に写った親友の顔と浴びるように酒を呑むイメージが重なって少し泣きそうになった。

~ケージ~

明かりの無いケージを進み、淀みない足取りで、ある程度歩いた辺りでリツコさんは足を止めた。
リツコさんに合わせて歩いたボクは2、3度転びかけた。
リツコさん、何であんなスイスイ進めるんだろう?

「碇シンジ君、あなたに見せたいものがあるの。」

その言葉と共にケージに眩い光が灯る。

ボクの目の前には巨大な顔。

普通ビックリするんだろうけど
…見慣れてるからなぁ。

ボクに特に驚いた様子も無いせいでリツコさんは少し焦っているようだった。

「ひ、人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。
その初号機、我々人類の最後の切り札よ。」

「これが父の仕事ですか?」

長いリツコさんの口上を聞き終えた所で、彼等にとって予定通りの質問をした。

「そうだ!…久しぶりだな、シンジ。」

一般人ならば押し黙ってしまうような威圧感を出しながらゲンドウが現れる。

約10年振りに会った息子に対して向ける類のものではないが、ゲンドウにとってはそれが普通なんだろう。

「これはこれは、六分儀司令。お久しぶりですね。」

嫌味を混ぜて挨拶する。
ゲンドウは碇の姓に拘っているし、ちょっとした復讐だ。

「六分儀?あの人は、貴方のお父さんの碇司令よ?」

「アレ?赤木さん知らないんですか?そこの六分儀殿は裁判所からの要請を全て跳ね除けて法廷に一度も出廷しなかったので、ボクの親権と碇の姓の剥奪、それから碇家の資産の返却を命じられているんですよ。そもそもボクはここに一向に返って来ない、資産の返却を求めに来たんです。」

ボクは一息に言い切った。
練習した甲斐があった。

「ふっ。・・・出撃。」

何事もなかったかのようにゲンドウが命令する。
ボクはただ強がっているだけだとか判断したのだろう。
ゲンドウは、シナリオ通りに進めようとする。

「はい?」

「碇シンジ君?あなたがエヴァに乗るのよ。」

リツコさんもシナリオに沿ったセリフを言う。

「六分儀殿。ボクにコレに乗れと?今、初めてコレを見たボクに?」

「そうだ。」

傲岸不遜にゲンドウは笑う。
でもヤッパリ六分儀って呼ばれるのは嫌そうだ。

「何故ボクなんですか?」

「オマエでなければ出来ない。」

「その理由は?」

「オマエが知る必要は無い。
座っているだけで構わん。」

「…キャッチボールになりませんね。」

ボクは大袈裟に肩を竦め呆れを表現し、黙ることにした。

「乗るなら早くしろ。で、なければ帰れ!」

ボクは無視して黙っている。
ゲンドウにはシカトが一番効くということは知っている。

「奴め、ここに気付いたか。」

「シンジ君、時間が無いわ。」

「・・・」

リツコさんの声にも反応しない。

ゲンドウは苛立ち混じりに冬月に命令する。

「チッ、使えん奴め。冬月、レイを起こしてくれ。」

「使えるかね?」

「死んでいるわけではない。」

「分かった。」

ストレッチャーに乗せらた重傷の綾波が医師の格好をした男2人に押され、入ってくる。

「レイ・・・」

「はい。」

「予備が使えなくなった。もう一度だ。」

「はい・・・」

周りのスタッフがボクを責めるように見てくる。舌打ちしてる奴までいた。
…顔覚えたからね。

「初号機のコアユニットを、L-00タイプに切り替えて、再起動!」

リツコさんはゲンドウのシナリオを進めるために声を張り上げる。

「くっ・・・!はぁっ、はぁっ!」

綾波が立ち上がろうとするが、
力を上手く入れれないのか倒れてしまう。

「シンジ‼何時までそこにいる気だ‼臆病者に用は無い‼サッサと帰れ‼」

「シンジ君。このままじゃこの娘が、貴方の代わりに乗ることになるのよ?」

ゲンドウの咆哮からのリツコさんの良心に訴えかけるコンボに、キレイに嵌ったスタッフ達が責める様にボクを睨む。

「それがどうかしたんですか?」

「どうかしたって…あの傷で乗ったら最悪、あの子は死んでしまうのよ?」

「リツコさん間違ってますよ。乗せるのは貴方達でしょ?
そういうのは、死ぬじゃなくて殺すって言うんですよ?」

周りのスタッフをできる限り冷たい眼をして見渡す。
ゲンドウと綾波以外の全員が顔から血の気を失なった。

「保安部‼アイツをプラグに放り込め‼」

命令に従ってボクの両腕を取った、屈強な保安部員2人にプラグの入り口へ引っ張られて行く。
余りにも予定通りでつい笑いがこぼれた。

~発令所~
リツコがモニターのシンジにエヴァの説明をしている。

「シンジ君、何かわからない所あった?」

「わからないことばかりですよ。」

シンジは肩を竦める。

「それもそうよね…」

その時、発令所の扉が開き葛城ミサトが飛び込んで来た。

「状況はっ⁉」

「アラ?重役出勤ね。ミサト。」

「NNの衝撃波に巻き込まれたのよ。」

リツコのイヤミに拗ねた様にミサトが言い訳する。

「それより状況……って、サードチルドレン⁉何で此処に⁇」

「自力で辿り着いてくれたわ。誰かさんが遅刻したお陰でね。」

「そっ、そりは……。そ、それよりシンジ君。あたしは作戦部長の葛城ミサトよん。ミサトでいいわ、よろしくね。」

ミサトはシンジに話しかけることで強引に話題を変える。

「よろしくお願いします。ミサトさん。」

シンジの素直な返事にミサトは満足そうに頷いた。
自分がシンジを見捨てたことはもう記憶にないようだ。



エヴァの起動準備が始められる。

「第三次冷却、終了。」

「頭蓋グリル、完了停止。接続を解除。」

「77まで問題なし。」

「了解、停止信号プラグ、排出終了。」

「了解、エントリープラグ挿入。」

「脊髄連動システムを解放、接続準備。」

「探査針、打ち込み完了。」

「外部装甲、地下外部品点検ハッチは基準範囲内。プラス02から、マイナス05を維持。」

「E形態、固定終了。」

「了解。第一次コンタクト。」

「エントリープラグ、注水。」

プラグ内にLCLが溜まって行く。
「なんですか、コレ?」

「大丈夫、それはLCLよ。肺がLCLで満たされれば、直接血液に酸素を取り込んでくれます。すぐに慣れるわ。」

「へぇ。うわぁ、血の味…」

シンジは血の味と臭いに顔を顰める。

「我慢なさい!男の子でしょ!」

「男女差別は良くないですよ、ミサトさん。」

そう言って、シンジは静かに目を閉じた。


「主電源接続接続完了。」

「了解。」

「第二次コンタクトに入ります。インターフェイスを接続。」

「A10神経接続、異常なし。」

「LCL転化状態は正常。」

「思考形態は、日本語を基礎原則としてフィックス。初期コンタクト、全て問題なし。」

「コミュニケーション回線、開きます。ルート1405まで、オールクリア。シナプス計測、シンクロ率…66,6%⁉」

マヤの声に発令所がざわつく。

「ウソ⁉ありえないわ‼」

「アスカでさえ最初は10%台だったのに…。」

ミサトとリツコは、シンクロ率の異常な高さに唖然としている。

「大丈夫なのか?」

「ヤツがそれだけ強く母親を求めているということだ。問題無い。」

最上段の2人にもこれは予想外だったようだ。それはともかくシンジをヤツと呼ぶゲンドウ、実の息子を敵としてみているようだ。

~初号機内、精神世界~

(初号機の魂は何処だろ?)

どこまであるのか解らない、真っ白な空間を泳ぐようにしてボクは進んでいく。
この中の何処かに初号機の魂があるはずなんだけど…

(シンジ。)

黄色い光のもやがボクの前に集まる。
この感覚は、
(…碇ユイさん。)
もやが女性の形を作っていく。

(私の事が分かるの?)

(もちろん。)

わからない訳が無い。
貴方は目的の一つなのだから。

(ああ、嬉しいわ。シンジ、私を受け入れて。そうすれば私が貴方を守ってあげるわ。)

(守ってあげる?その必要はないよ。)

(シンジ。貴方はこれから使徒と闘うことになるの。だからエヴァの力を引き出す必要があるのよ。)

碇ユイは幼子に言い聞かせるかのような声音でボクに話しかけてくる。
これ以上この声を聞きたくない
し、本題に入ろう。

(碇ユイさん、保管計画を止める気はある?)

(なんで貴方がそれを知ってるの⁈)

(理由なんていいよ。…どうなの?)

(…貴方は保管計画を否定するの?)

碇ユイのボクを見る目が、少しづつ敵に向けるものに変わっていく。

(決まってる。一つになるなんてつまら無いんだよ。
バラバラだからこそ、楽しいんだ。)

赤い海は何も産み出さなかった。人間はそれぞれ違うから未来を楽しめるんだ。

(…私の願いを否定するの?貴方の母親の願いなのよ?)

碇ユイは懇願するように問いかけてくる。…母親ね。

(…母親だから、僕が止めるんだよ。)

(そう…残念だけど保管計画は諦めないわ。)

碇ユイの決意を込めた視線がボクを射抜く。
どんな説得をしたとしてもこの人は考えを変えないだろう。
ボクには、そう感じられた。

(わかった…サヨナラ母さん。)

言葉と共にシンジの右手の甲が光だし、契約書が浮かび上がる。

(な、何なの⁉)

さすがに驚いてるね。
意外と予定外のことに狼狽えるタイプなのかも知れない。

(貴方がいる限り保管計画は止まらない。だからボクは、貴方を消し去る。)

彼はボクの復讐を果たす。
ボクは保管計画の可能性を断つ。
それが、ボク達の契約。

(命令だ、プライド。
…喰い殺せ。)

契約書が一際強い光を放つ。
獅子を模した魔獣が現れた。

『グオォォォォォォォォッ‼』

咆哮をあげ、獅子が碇ユイに喰らいついた。
碇ユイの魂は悲鳴をあげる間も無く、一瞬の内に獅子に喰い殺された。




碇ユイを食い終え、
振り向いた獅子は不満気な眼でボクを見ている。

(物足りなかったか?今度はたくさん食べさせてあげるから、今はそれで我慢してくれ。)

獅子は渋々頷き、己の影に溶けるように消えた。


(さてと、初号機!)

シンジの前に紫のもやが現れ、人を形どっていく。

もやは、長い黒髪に紫の瞳を持つ18歳位の女性になった。紫の瞳には限界まで涙が溜まっている。

(久しぶりだね。)

(シンジッ‼)

抑えきれず、涙を流しながら初号機がシンジに抱きつく。

赤い世界で初号機は宇宙を漂流していたため、シンジと会うのは約200年ぶりということになる。

その間初号機は、ずっと碇ユイに支配されていた。
何も無い世界で体を動かすこともできない。
その苦痛は推し量れない。

シンジはしっかり初号機を受け止め、キツく抱きしめ返した。

(もう大丈夫だよ。)

安心して、シンジの言葉に初号機は花が咲くような笑顔で応えた。

(そういえば、初号機?)

(何ですか?)

(初号機って名前持って無いよね?)

(…はい。)

初号機は寂しそうに俯く。

(それじゃあ、ボクがつけてもいいかな?)

(シンジが?…是非お願いします。)

初号機は一転して満面の笑顔になる。

(うーん。シオンなんてどうかな?)

(シオン…私の名はシオン。)

シオンは確かめるように何度も自分の名を繰り返す。

シンジはそれを優しく見つめていたが余り時間が無いことを思い出し、現実世界に帰ることにした。

(そろそろサキエルが来そうだし、名残惜しいけど向こうに帰るよ。)

(わかりました。)

~プラグ内~

(コッチでは1分位か。)

精神世界では大分経っていたが、精神世界と現実世界とは時間の流れが違うようだ。

(シオン、聞こえる?)

(はい。)

(サキエルとの戦闘、ワザと暴走状態にできる?)

(可能ですが、何故ですか?シンジならサキエル如きに苦戦することなど無いと思いますが。)

シオンは不思議そうな顔をしている。
確かにシオンの言う通り今のボクなら楽にサキエルを倒せるだろう。

(できるだけ流れを変えたくないのと、君とサキエルの魂を回収して新たな器にいれるんだ。暴走中なら上手く誤魔化せるからね。)

ボクの言葉にシオンは、驚いて、喜んで、落ち込んだ。

(…私が居なくなればこの身体は動かなくなります。シンジの御気持ちは嬉しいのですが、私はこの中に残ります。)

(対策は考えてるから大丈夫だよ。…200年も一人だったんだ、自由になって欲しいんだよ。)

これは一切嘘の無い僕の本音。

~発令所~

「ハーモニクス、すべて正常値。暴走、ありません。」

マヤが最後の確認を終える。
コレでシンクロシークエンスは完全に終了したことになる。

「いけるわ。」

「・・・発進準備!!」

復讐心に濁った瞳をギラつかせ、ミサトは指示をだした。

「発進準備!第一ロックボルト外せ!」

「形状確認。」

「アンビリカルブリッジ、移動開始!」

「第二ロックボルト外せ!」

「第一拘束具、除去。同じく、第二拘束具を除去。第一番から十五番までの、安全装置を解除。」

「解除確認。現在、初号機の状況はフリー。」

「外部電源、充電完了。外部電源接続、異常なし。」

「了解、EVA初号機、射出口へ!」

エヴァが射出口に載せられる。


「進路クリヤー、オールグリーン。」

「発進準備完了!」

「了解。・・・構いませんね?」

ミサトはゲンドウの方を向き形だけの許可を求める。

「もちろんだ。使徒を倒さぬ限り我々に未来は無い。」

ゲンドウはシナリオの始まりに笑みを浮かべる。

「シンジ君、準備はいい?」

「…いいですよ。」

ミサトは大きく息を吸い込む。

「エヴァンゲリオン初号機発進!」

轟音を伴い初号機を載せたリフトが上昇していく。

「シンジ君、死なないで。」

ミサトの呟きは轟音に掻き消され、誰の耳にも入らなかった。


~戦闘域~

第3使徒サキエルの前に、紫の鬼がその姿をあらわした。

~発令所~

「シンジ君、今は歩くことだけを考えて。」

戦場で聞くとは思えない命令。
しかし、発令所の全員が真面目な顔をしている。
果てしなく不安な光景だった。

「…六分儀司令は座っているだけでいいと仰いましたが?」

それを聞いたミサトの対応は最悪のものだった。

「いーから歩きなさい‼命令よ‼」

ミサトは、立場を盾に怒鳴りつけた。その目に冷静さは無い。

「ミサトさん、今はボクと
六分儀司令が話してるんです。
六分儀司令資産を返却して頂けるならコレを動かしますよ?」

シンジは楽しそうにイヤな笑顔でゲンドウに問いかける。

「…良いだろう。」

シンジを舐めているゲンドウは踏み倒す気満々でYESをだした。

「六分儀司令の英断に感謝します。では…」

「おぉっ‼歩いた‼」

沸き立つ発令所の面々。

人類の命運をかけた闘いだというのに緊張感が欠けていた。

「うわっ‼」

真正面からサキエルに向かって
歩いていく初号機。
当然、サキエルは攻撃してくる。
攻撃され、バランスを崩した初号機が倒れる。

「シンジ君、しっかりして!早く、早く起き上がるのよ!」

サキエルは倒れた初号機を光のパイルで追撃する。
パイルは初号機の左腕に直撃した。
「ぐっ!」
(シオン、サキエルが離れたら暴走状態になって。)

(はい、シンジ。フィードバックは大丈夫なのですか?)

(痛覚神経を麻痺させてあるからね。大丈夫だよ。)

(そ、そうですか。)

「シンジ君、落ち着いて!あなたの腕じゃないのよ?」

無責任な事を言うミサト。
体に傷はなくとも心に傷を負えばその痛みは現実のものとなる。
実際にストーブに触れ火傷をした人が、スイッチの入っていないストーブに触れても火傷を負ったという事例もある。
人のイメージは現実に作用する程の力をもつのだ。

「EVAの防御システムは?」

「シグナル、作動しません!」

「フィールド、無展開!」

「だめか!」

「左腕損傷!」

「回路断線!」

モニターが次々とレッドサインをあげていく。
こうなってしまえば、発令所からできることは殆どない。

「シンジ君避けてっ!」

「ぐぁぁぁぁっ!」

続けて振るわれるパイルが頭蓋を砕いた。
格闘戦の中で避けろ、と言われてもタイムラグが大き過ぎて実行できるわけが無い。

「頭蓋前部に亀裂発生!」

「装甲がもう持たない!」

「頭部破損、損害不明。
生命維持に、問題発生。」

その報告を最後にシンジを映していたモニターが消えた。

「状況は?!」

「シンクログラフ反転、パルスが逆流しています!」

「回路遮断、せき止めて!」

「駄目です、信号拒絶、受信しません!」

「シンジ君は?!」

「モニター反応なし。生死不明!」

「初号機、完全に沈黙。」

パイルを防ごうとしていた初号機の腕が、力無く地に落ちる。

「ミサト!?」

リツコがミサトに次の指示を求める。

「ここまでね・・・。作戦中止、パイロット保護を最優先!プラグを強制射出して!」

「駄目です、完全に制御不能です!」

「なんですって!?」

悲痛な空気に包まれる発令所。
残る手段は本部の自爆しか残っていない。
絶望からか誰一人として声を発しなくなった。



サキエルが初号機から離れたその瞬間初号機の目に光が灯り、

『ルォォォォォォォォ‼』

紫の鬼神が咆哮を上げた。

「EVA、再起動!・・・そんな、動けるはずありません!」

「まさか・・・!」

「暴走・・・!」

呆然と呟くミサトとリツコ。

「勝ったな…」

「ああ。」

最上段の2人の視線の先、
モニターには初号機に殴り続けられ原型を失っていくサキエルの姿が映されていた。


次回予告

アッサリと退場する碇ユイ。
呆気無さ過ぎる?

申し訳ありません。
私の主は最初からクライマックスな御方なので。

おやシンジ様お目覚めですか?

今日は緑茶をいれてみました。
如何ですか?

次回
その執事、暗躍

あくまで、執事ですから。





後書き

ギャグに挑戦したいけど、いれるタイミングがわからないですorz



[29024] 第3話 ~その執事、暗躍~
Name: ガオ◆97564bd1 ID:3be99ad7
Date: 2011/08/05 19:15
第3話
その執事、暗躍


~病院~

「知らない天井…いや見たことあるな。」

目を開けて最初に見たのは真っ白な天井だった。

首を振り左右を見ると、部屋の全てが白で統一されているのがわかる。

何度かお世話になったNERVの病院だ。

「おはようございます。よくお眠りでしたね。」

そういえば、わざと気絶しといたんだっけ。

「大丈夫だった?」

「はい。シンジ様の方に目がいってましたので、問題無く
終わりました。」

「病室の映像をダミーに切り替えて、報告おねがい。」

セバスは端末を取り出して、素早く操作した。

病室の監視モニターには再び眠りについたシンジと扉の前に立つセバスチャンが映っていた。

「では、」

操作を終えたセバスが報告を始めた。

昨日
~本部ゲストルーム~

「では、ミカエリスさん。こちらで待機していて下さい。」

まともな部屋で驚きました。

最悪、営倉並も覚悟していましたので。

まぁ、まともと言っても壁は薄いし、目と耳はたくさんありましたが。

「ありがとうございます。」

「私は扉の前にいますので、何か御用があればお呼び下さい。」

「ご苦労様です。」

私の言葉を背に保安部の方は退出しました。

(さてお仕事、お仕事。)

ドアが閉まってすぐにラプラスJrを使ってハッキングをしました。
もちろん、作業はカメラに映らないようにしましたよ。
 
ラプラスJrはシンジが社長を務めるファントムアンカー社が独自に作ったMAGIを超えるスーパーコンピューター、ラプラスの小型端末の総称である。

総称と言ったのはラプラスJrは持ち主によって形状や擬似人格が異なるため、個体ごとに名前を持っているからだ。

ちなみにセバスチャンのは懐中時計型、名前がマドレーヌ、擬似人格は人格というか猫格…要は猫だった。ペット感覚だった。

(…MAGIの掌握…完了。内部構造の把握…完了。…監視カメラの映像記録の改竄…完了。おや?先程の方、よほどお疲れのようですね。)

画面の中で部屋の前の保安部の方が船をこいでいました。

私が眠らせたんですけどね。

(各種センサーカット…完了。
秘匿回線の構築…完了。マスターキー作成…完了。こんな所ですかね。)

作業は10分程度で終わりました。

…そういえばマドレーヌの調子が悪いので御時間のある時に調整して頂けませんか?出来れば最優先で。

…話を戻します。

作業が終わった後、トイレの天井のダクトに侵入しました。

(狭いうえに複雑ですね。彼が起きる前に終わらせたいですし、急ぎましょうか。)

~水槽部屋~

直通のダクトが無かったので、一度セントラルドグマに降りてから侵入しました。

シンジ様のお陰でセントラルドグマには誰もいませんでした。

(…これはひどい。これ程不味そうな魂は初めてですね。)

あの魂は私の長い生の中で見た中でも、間違いなく最悪の物ですね。

揺蕩う綾波レイのスペア、そのひとつひとつに千切られたような魂が入れられ、ただでさえ弱った魂を無理に人の形にしたせいで、自己崩壊をおこしかけていました。

(スペアの全廃棄…。)

私がエンターキーを押すと、残されなかったスペア達は微笑みを浮かべながら崩れ去りました。どこか、死を喜んでいるようでしたね。

(次はダミーですね。)

~ターミナルドグマ~
リリスの背中の一部を切り取りLCLで満たしたアンプルにいれ、使い魔に本社に運ばせました。

(リリスの細胞サンプル確保完了。)

それから、ラストを喚んでLCLを凍らせて持っていかせました。

(これで終わりですね。さて、もどりましょうか。)

~病院~

「…その30分後、客室に戻りMAGIの警備を通常状態に戻しました。…以上で報告を終了します。」

…戻る時、変に時間かかってない?

「碇家の執事たるもの、これくらい出来なくてどうします?」

聞けよ。


~人類保管委員会特別会議室~

会議室と言っても、そこには不気味に宙に浮かぶ6枚のモノリスとゲンドウの椅子と机があるだけだ。

「使徒再来か、あまりに唐突だな。」

モノリスの一つが切り出し、
会議が始まる。

「十五年前と同じだよ。災いは何の前触れも無く訪れるものだ。」

「幸いともいえる。我々の先行投資が無駄にならなかった点においてはな。」

「そいつはまだ分からんよ、役に立たなければ無駄と同じだ。」

「さよう。今や周知の事実となってしまった使徒の処置、情報操作、ネルフの運用は全て適切かつ迅速に処理してもらわんと困よ。」

「その件に関しては既に対処済みです。ご安心を。」

モノリスの向こうにいる上司の嫌味に、一切表情を変えることなくゲンドウが答える。

とはいっても、サングラスと口元を隠すポーズのせいで誰にも表情は見えなかったが。

「しかし碇君、イヤ六分儀君か?NERVとエヴァ、もう少しうまく使えんのかね。」

六分儀と呼ばれゲンドウの頬が引き攣く。

「…私は碇です。」

「裁判で決められたことだろう?法律は守らないといかんよ、六分儀君。」

ゲンドウを皮肉るネタが出来たことにゼーレのメンバーはご満悦のようだ。

元々ゲンドウを気にいってないこともあって、この件は渡りに船だったようだ。

「そんなことより、零号機に引き続き君らが初陣で壊した初号機の修理代、国が一つ傾くよ。」

「聞けばあのオモチャは君の息子に与えたそうではないか。」

「人、時間、そして金。親子そろっていくら使ったら気が済むのかね。」

「それに君の仕事はこれだけではあるまい。人類補完計画、これこそが君の急務だ。」

「さよう。この計画こそが、この絶望的状況下における、唯一の希望なのだ。我々のね。」

「いずれにせよ、使徒再来における計画スケジュールの遅延は認められん。予算については、一考しよう。」

「では、後は委員会の仕事だ。」

「六分儀君、ご苦労だったな。」

その言葉を最後に、
1つを残しモノリスが消える。

質問しておきながらゲンドウの答えを聞かない。
現にゲンドウは一度しか口を開いていない。
何の為なのかわからない会議が終わった。

「六分儀、後戻りは出来んぞ。」

残った一つバイザーをかけた老人、キール・ローレンツのモノリスも消え、会議室は静寂に包まれる。

「分かっている。…ユイ。」

どうにか碇の姓を取り戻せないか?
ゲンドウは、その方法で頭を悩ませていた。

~リツコの執務室~

赤木リツコと葛城ミサトの二人がコーヒーを啜っていた。

「昨日の特別非常事態宣言に関しての政府発表が、今朝、第二新・・・」ポチッ

「今回の事件には・・・」ポチッ

「在日国連軍・・・」プツン

次々チャンネルを変えていくけど、どこも似たようなのしかやっていない。

それだけ確り仕事してるってことなんでしょうけど…

「発表はシナリオB-22?またも事実は闇ん中ね。」

必要なんでしょうけど、何か気分悪いわね。

「広報部は喜んでたわよ、やっと仕事が出来たって。」

「うちもお気楽なもんねぇ~。」

「そうかしら、本当はみんな怖いんじゃない?」

「あったり前でしょ。」

セカンドインパクトを経験していて、怖くないヤツなんていないわよ。

…何か暗くなっちゃったわ。

「そういえば、シンジ君が気付いたそうよ。」

…そういえばって、もうチョイ言い方あるでしょ。

これだからマッドは…シンジ君も研究対象って訳?

「で、容態はどうなの?」

戦闘の後、即病院だったし、ヤッパリ酷いのかしら?

「外傷は無し。少し記憶に混乱が見えるそうだけど。」

記憶に混乱?その言葉につい熱くなって、机に身を乗り出した。

「まさか、精神汚染じゃ…!」

「その心配は無いそうよ。」

優雅にコーヒー飲みながら即答とはね。何かムカつくわ。

「そう、そうよねぇ~、いっきなりアレだったもんねぇ~。」

訓練もなしにイキナリ巨大ロボットに乗って化け物と戦えだもんね。

「無理も無いわ。脳神経にかなりの負担がかかったもの。」

多分一番負担がかかったのは…

「ココロ、の間違いじゃないの?…じゃ、行くわ。」

書類、大分溜まってるのよね。

…日向君いるかな?

「あ、ミサト。」

私のカップに新しいコーヒーを入れて、手渡してくる。

コイツが呼び止めるなんて珍しいわね。

「何?まだ何かあんの?」

せっかく仕事しようと思ったのに、ヤル気削がないで欲しいわね。

「…私の猫の置物動かした?
今朝と位置ズレている気がするのよね。」

真面目な顔で言うから何かと思えば…

「はぁ?知らないわよ、そんなん。」

「…そう、そうよね。」

…リツコ、アンタ考え過ぎよ。
そんなんだから小皺が…

「ミサト、貴方何か失礼な事考えたでしょ?顔に出てるわよ。」

「えっ⁈」

しまった!コレは罠、

「…やっぱり考えてたのね?
そういえばシンジ君の迎え、遅刻した罰も与えてないわね。」

…どうやって逃げようかしら?



~総司令室~

セフィロトの樹が描かれた悪趣味な部屋で碇ゲンドウ、冬月コウゾウ、赤木リツコの三人が話し合っていた。

「…では、本当によろしいのですね、同居ではなくて。」

ゲンドウにリツコが問いかけるが答えは一切返ってこない。

それを見かねた冬月はゲンドウの変わりにリツコに答えた。

「碇たちには、お互いに居ない生活が当たり前なのだよ。」

「むしろ一緒に居る方が不自然、ですか。」

複雑な表情をしながらも、リツコは頷いた。

「司令、シンジ君との契約はどうするのですか?」

「六分儀、相手は碇家の跡取りだぞ。忘れるなよ。」

オレに押しつけるなよ、と言外に冬月が言う。

「…問題ない。」

その答えは冬月の心配を更に大きくするだけだった。

ードイツー

1人の女性がキール・ローレンツ本人と向かい合っている。

キールが部下以外の人間と生身で会うのは約10年振りの事だった。

キールが招いたわけではない。
女性が全ての警備を突破して入って来たのだ。

「ーーーと言う訳です。
協力して頂けますね?」

「…わかった。君を新たなゼーレの徒、第十三使徒とする。」

「ありがとうございます。キール議長。」

「…期待しているよ。」

キールの言葉を背に受けながら
女性はキールの部屋から出て行く。

キールは女性がいなくなってやっと、自分が生きている確証を持つことができた。

その日初めて、世界を支配するゼーレのトップ、キール・ローレンツは本物の恐怖を知った。



「…シンジ、楽しませてね?」

所々に赤い水溜りのできた廊下を歩きながら、女性はそう呟いた。




次回予告

碇ゲンドウから届けられた無粋な招待状。

やれやれ、礼儀を知らない方ですね。

シンジ様、交渉は私にお任せ下さい。この黒い服にかけ、華麗なネゴシエーションをお見せしましょう。

ショータイム!

次回
その執事、交渉

あくまで、執事ですから。






[29024] 第4話 ~その執事、交渉~
Name: ガオ◆97564bd1 ID:3be99ad7
Date: 2011/08/05 19:14
第4話
その執事、交渉

~病室~

「碇シンジ、司令の命令だ。我々と一緒に来てもらう。」

大柄な黒服の男2人がシンジの病室に入るなりシンジに命令をした。

やけに威圧的な態度なのは、彼等がゲンドウの直属の部下だからだろう。

部下は上司のマネをするものだ。

「…わかりました。着替えるので少し待っていて下さい。」

「…急げよ。」


~総司令室~

ゲンドウと冬月はシンジの到着を待っていた。

予定時刻から既に10分は経っている。

ゲンドウが黒服に連絡をいれようとした処で、空気の抜けるような音をたてながらドアが開いた。

「失礼します。碇シンジを連れて参りました!」

黒服に両側を挟まれたシンジ、シンジに続いて一歩後ろを歩くセバスチャンが総司令室に入ってきた。

「ご苦労、下がっていいぞ。」

「さて、シンジ君。君を呼んだのはこれからのことを話し合うためだ。まず、」

シンジは、スッと手を上げて冬月の言葉をとめる。

「失礼。お話の前に、六分儀司令にプレゼントです。」

シンジの視線での指示を受け、
セバスチャンはゲンドウに近づいていく。

「こちらを…」

セバスチャンからゲンドウに
通帳が手渡される。

「…何だ?」

「返却するときは、それに振り込んで置いて下さい。」

「…フッ、お前がエヴァに乗り続けるならば返してやろう。」

シンジは何も言わずポケットからボイスレコーダーを取り出して、再生ボタンを押した。


「ミサトさん、今はボクと
六分儀司令が話してるんです。
六分儀司令資産を返却して頂けるならコレを動かしますよ?」

「…良いだろう。」
                                                  』

「…どうします?NERVの特例法は貴方の資産までは守ってくれませんよ?」

「…わかった。振り込んでおく。」

「では、副司令。交渉を始めましょうか。」

シンジは満足そうに一度頷いて、冬月に先程の続きを促した。

「う、うむ。我々としては、シンジ君にはこれからもエヴァに乗ってもらいたいのだよ。」

「条件付きでしたら、構いませんよ。」

「条件を言ってみてくれ。」

シンジが一歩下がり、入れ替わる様にセバスチャンが一歩前にでた。

「譲れない処といたしまして、命令の拒否権と作戦への不参加権です。」

「それでは指揮系統が混乱してしまう。…理由を聞かせて貰えるかね?」

「それだけ貴方達に信用が無いということです。
先々日、我が主は無理矢理エヴァンゲリオンに乗せられた上に、圧倒的に不利な闘いを強いられました。」

「それは…」

「…問題ない。但しシンジ、使徒を倒さぬ限り人類に未来はない…忘れるな。」

セバスチャンがゲンドウと冬月にファイルを渡す。

「残りの細かい条件としまして…」

「使徒一体撃破に付き100億円、使徒戦参加一回に付き100万円、実験等への参加一回に付き1億円を請求する。
エヴァンゲリオン搭乗時に発生した責任の一切を碇シンジは負わない。
NERVは碇シンジの関係者へ監視、盗撮、盗聴の類一切を行わないこと。
碇シンジの関係者のNERVへの入出を許可すること。
…以上です。」

「もう少し安くならないかね?
我々も予算が余っている訳じゃないんだ…」

「人類の未来がかかっているのでしょう?それに戦闘機一機とそう値段は変わりませんよ。」

「…問題ない。」

「それでは、一番下に署名と捺印を。」

「確かに、では失礼します。」

そこだけシンジが言ってそのまま帰ろうとする。
慌てて冬月はシンジを呼び止めた。

「シンジ君、君の住居の事なんだが…」

「シンジ様には、お仕事が有りますので一月の内一週間は会社にいます。
緊急時にはヘリで30分以内に来ます。こちらでの住居は確保してありますので、ご心配なく。」

「それは…」

「…いいだろう…但し連絡から確実に30分以内に来い。できなければ完全に第3に住んで貰う。…それと学校には通って貰うぞ。手続きはこちらでして置く。」

「わかりました…では失礼。」

シンジとセバスチャンは総司令室からサッサと出て行った。

「ゲンドウ‼貴様どういうつもりだ⁉甘過ぎるぞ!」

シンジ達が離れた事を確認して冬月はゲンドウに噛み付いた。
予定と余りにも違う結果それを容認しているゲンドウが理解できなかった。

「…冬月、ヤツは3日前までこの11年間で一度しか我々の前に姿を現していないのだぞ?
今はヤツが姿を消さないようにするのが最優先だ。」

「第2東京にいるのはわかっただろう。そこをつけば…」

「冬月先生、年ですか?あんなものはブラフに決まってます。諜報部を送りましたが、第2東京の碇グループ系列の会社にヤツが現れた事は一度もありません。」

「マルドゥック機関のような物という事か…」

「…学校に通わせればヤツにも弱みができるでしょう。いつまでも好きにはさせませんよ。」

ゲンドウはニヤリと笑って締めくくった。


~碇本家~

NERVから出た2人は迎えのヘリを呼び碇本家へと帰っていた。

「おお!帰ったか、シンジ!」

ヘリポートから母屋に歩いて行くと、2人を下級使用人達とシンジの祖父、碇仁斎が出迎えた。

「お祖父様、只今帰りました。お出迎えありがとうございます。」

仁斎を確認したシンジはすぐさま駆け寄って挨拶する。

「うむ、無事で何より。セバスチャンもご苦労じゃったな。」

「勿体無いお言葉です。」

「話は夕食の時に聞かせて貰おう。先ずはユックリ休むと良い。儂はこのまま散歩に行く。」

仁斎はそう言うと、シンジの頭をポンポンと叩き、庭に向かった。

「お祖父様、中とはいえお気をつけ下さい。」

シンジの声に仁斎は片手を上げ
て答えた。

「セバス、先ずは地下に行こう。」

「御意。グフッ!」

玄関に入るなり、セバスチャンが吹き飛んだ。吹き飛ばした原因はセバスチャンの腰に抱きついたまま一向に離れようとしない。

そして、
パンッパンッパンッ‼
複数の破裂音。
音に遅れて火薬の臭いが立ち込める。

破裂音を鳴らした三つの人影がシンジ達を囲むように歩いてくる。

彼等は、ある程度シンジ達に近づくと、口を揃えて大声で叫んだ。

「「「お帰りなさ~いっ‼」」」

「お帰りなさいませセバス様‼と、シンジ様。」

「ただいま、皆。帰って来たって感じするなぁ。」

のほほんと笑いながら上級使用人衆と談笑するシンジ。

「…とりあえず、退いていただけますか?」

セバスチャンはまだ倒れていた。


~碇家地下施設~

地下施設の一つにLCLの溜まった大きなプールがある。

元々は研究の為に作った施設だけど別の使い方もできる。

ボクの右手の甲に契約書が浮かぶと、LCLが急速にその体積を増しシオンの体のベースを創った。

「よし、あとは魂を入れるるだけだ。」

ボクの契約書から紫色の光の塊がでてくる。

「それは…初号機の魂ですね?」

ビックリしたようにセバスチャンが聞いてくる。そういえば言って無かったっけ?

珍しい、セバスチャンいっつも余裕綽々って感じだし。

「うん。彼女も還って来てたんだ。」

声がつい、はずんだものになる。

「さて、“我は導き手、順わぬ魂よ。我が理の下、新たな器を満たせ。”」

…やっぱり恥ずかしいな、コレ。

ベースにシオンの魂が宿り、シオンがイメージする姿を形作っていく。

「調子はどう?シオン。」

シオンが目を開ける。
その姿は精神世界でボクの前に現れた時のものだった。

「」

シオンは胸の前で手を組み輝く紫の瞳をボクに向けてくる。

…これは、ヤバイ。

「シンジ様、ニヤけてないで私にもその御方を紹介して下さい。」

ボクはニヤけてない!

「浮気はいけませんよ?」

「うるさいっ!…シ、シオン何で泣いてるの?」

鼻を啜る音が聞こえて、振り返るとシオンが号泣していた。

「シンジが…人をまだ…愛せてるのが…嬉しくて……最後にシンジは…復讐…の為に…戻って来たから。」

ああ、そういうことか。
還ってきたときの僕は確かに復讐だけを目的にしていた。

あの人に会わなければまた笑うことなんて出来なかっただろうなぁ。



“僕に厳しいこんな、こんな狭い世界なんていらない!いらないんだっ‼”

“狭い世界?俯いているオマエが
見渡せる程、世界は狭くはないぞ。”

“僕は…僕はっ!”

“無力なボクには過去しか無かった。だけど、オマエにはーーー”



「シオン、ボクは復讐なんてする気は無いよ。…あの赤い世界をもう2度と生まない為に戦うんだ。」

ボクは、シオンにハンカチを渡して頭を撫でる。

1分ぐらい続けて、ようやく泣き止んでくれた。

ボクはふと気になってセバスの方を向いた。

「ジー。」

動画撮ってやがった。



「ボクの大切な、な・か・ま!シオンだよ。」

「シオンです…宜しくお願いし
ます。」

シオンは号泣したのが恥ずかしいんだろう少し照れながらも、
丁寧に挨拶する。

「シンジ様にお仕えしています、ヨハン・セバスチャン・ミカエリスです。宜しくお願い致します、シオン様。」

じゃあ、セバス外に出るよ。

シオンに服を着替えて貰わなきゃ。
LCLの服って長持ちしないんだよね。

10分位たってシオンが出て来た。女性としては早い方だ。

「さて、食堂に行こう。
お祖父様にシオンを紹介しないとね。」



次回予告

碇家上級使用人衆
グルーム・オブ・ザ・チェインバーズのグリードだ!

ガードナーのスロウスです…

コックのグラトニーだよ。

ヘッド・ハウスキーパーのエンヴィーちゃんでーす。

今回は俺様達が予告するぜっ!束の間の平穏を終え、第3へ向かうシンジとセバスチャン!

登校したマスターに向けられる数多の視線、再び振るわれる拳…

そして、昼を司る使徒の来訪、初号機で出撃するマスター。

あれっ?初号機動くの?
って、そんな事よりセバス様の出番が少ないじゃない‼

次回
その執事、登校

あくまで、「何をしているんですか?貴方達?」ヒィッ!×4



[29024] 第5話 ~その執事、登校~
Name: ガオ◆97564bd1 ID:3be99ad7
Date: 2011/08/05 19:13
第5話
その執事、登校

~訓練所~

「おはよう、シンジ君。調子はどう?」

今ボクはプラグの中でリツコさん監修のインダクションモードの特訓をしている。
前日は今日と同じ特訓その後、泊まりこみでATフィールドの実験に参加させられた。

「慣れました。」

何で初号機を動かせるか?
そうだなぁ、ヒントは綾波レイかな?

「それは結構。EVAの出現位置、非常用電源、兵装ビルの配置、回収スポット、全部頭に入っているわね?」

「…大丈夫です。」

「あら、優秀ね。」

ここ2週間でリツコさんを含む技術部の人達とは大分仲良くなれた。
リツコさんは色々と疑っているようだけど、敵意を向けてくる訳じゃない。

「では昨日の続き。インダクションモード、始めるわよ。 」

「シンジ君、頑張ってね。」

マヤさんの応援に片手を上げて返す。
マヤさんとは、一番歳が近いこともあって話すことが多い。

「了解。目標をセンターに入れて、スイッチ・オン。」



「最初怖かったですけど、話してみたら良い子ですよね、シンジ君って。頭良いですし、かっこ良いですし。」

「…そうね。とても頭の良い子だわ。」

そう、時々全てが見透かされているような気がする程に。


~第一中学校2ーA教室~

「…相田…相田!」

ギュゥ~ン、ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥッ、ドゥァ~ァァン!
プラモデルを飛ばして遊んでいた少年、相田ケンスケが少女の怒鳴り声に顔を顰める。

「・・・何、委員長?」

委員長と呼ばれた少女、洞木ヒカリがケンスケに詰め寄る。

「昨日のプリント、届けてくれた?」

「あぁ、ああ。いや、なんかトウジの家、留守みたいでさ。」

ケンスケは自分の机に入れた手に紙の感触を感じた。

「相田君、鈴原と仲良いんでしょ?二週間も休んでて心配じゃないの?」

「心配してるさ、大怪我でもしたのかなぁ?」

話が離れた事にホッとしながらケンスケは言った。途端にヒカリの顔色が変わる。

「ええっ!?例のロボット事件で?テレビじゃ一人もいなかったって・・・」

「まさか。鷹ノ巣山の爆心地、見たろ?入間や小松だけじゃなく、三沢や九州の部隊まで出動してんだよ?絶対、10人や20人じゃ済まないよ。死人だって、」

そこまでケンスケが言った時、
ドアを開け、鈴原トウジが入ってきた。

「よぉ。」

「トウジ!」

トウジの姿を確認したヒカリはそそくさと自分の席へ戻って行った。

「なんや、ずいぶん減ったみたいやなぁ。」

2週間前に比べて、随分教室が広くなったようにトウジは感じた。

「疎開だよ、疎開。みんな転校しちゃったよ。街中であれだけ派手に戦争されちゃあね。」

「喜んどるのはオマエだけやろなぁ、ナマのドンパチ見れるよってに。」

「まあね。トウジは、どうしてたの?休んじゃってさ。こないだの騒ぎで巻き添えでも食ったの?」

「…妹のヤツがな。」

トウジは悔しそうにそう吐き出した。

「えっ!」

「妹のヤツがな、瓦礫の下敷きになってもうてずーっと入院しとんのや。」

予想して無かった話にケンスケは黙って話を聞くことしか出来ない。

「家んトコ、オトンもオジイも、研究所勤めやろ?今職場を離れるわけにはいかんし、俺がおらんとアイツ病院で一人になってまうからなぁ…」

そこまで言った処でトウジの顔が怒りに赤く染まった。

「しっかし、あのロボットのパイロットはほんまのヘボやなぁ!無茶苦茶腹立つわ!味方が暴れてどないするっちゅうんじゃ!」

ケンスケはパイロット、その単語に関係する噂がある事をフと思い出した。

「それなんだけど、聞いた?転校生のウワサ。」

「転校生?」

「今日転校生が来るらしいんだけどさ、このタイミングだぜ?変だと思わないか?」

キャーッ!キャーッ‼
校舎を震わす程の女子の黄色い歓声が上がる。

「何や⁉」

見ると女子が全員窓際に集まってはしゃいでいた。
反的に男子は廊下側に集まって淀んだ空気を発している。

トウジとケンスケは顔を見合わせ、男子の方に近づいてどうしたのか、と問いかけた。
今の女子に話しかける勇気は出なかった。

「あぁ、窓から校庭を見てみろよ。そこに居るぜ、俺達にとっての死神って奴が。」

使えよ、と渡された双眼鏡にますます状況がわからなくなったが、言う事に従って窓から顔を出して校庭を見た。


何も言わず2人は廊下側へと歩き出した。其処には戦友がいる…



「はいはい。皆さん静かに。」

老教師が入ってきてもまだ喧騒は収まらない。

「みんな、静かにしなさいよ‼」

ヒカリの一喝に文句を言いながらも、教室は静かになって行く。

「起立、礼、着席。」

「はい。えー、今日は2つお知らせがあります。…セバスチャン先生お入り下さい。」

「皆さん初めまして。本日よりこのクラスの副担任となりました、セバスチャンです。
どうぞよろしくお願いします。」

挨拶と共に、微笑みを浮かべる。2、3人の女子生徒が倒れた。一気に騒がしくなる教室。

其処に更なる騒ぎの原因が現れた。
「失礼します。」

一瞬で静まり返る教室。

それはまさしく
嵐の前の静けさだった。

「今日からこのクラスの一員となります。碇シンジです。所用でいない事も多くなると思いますが、よろしくお願いします。」

先程より大きくなる喧騒。

よく見ると別のクラスや学年が違う人までいた。

「…もう、好きにして。」
洞木ヒカリは諦める事にした。





2時間目にしてようやく授業が始まった。

「えーこのように人類はその最大の試練を迎えたのであります。二十世紀最後の年、宇宙より飛来した……」

老教師の一人がたり、生徒は誰も聞いていない。もちろん、ボクも。

:メールが届きました。

ボクのパソコンには、ひっきりなしにメールが送られてきていた。

いい加減メンドくさい…

:碇君があのロボットの
パイロットってホント?
               Y/N

「おや?授業中にメールとは感心しませんね。」

「セバスチャン…」

助かったけどもう少し方法あったろ…

「セバスチャンせ・ん・せ・いです。今の私はあくまで、教師ですから。」

くっ‼屈辱…



昼休み、ボクは周りの人だかりの質問に適当に答えていた。

「転校生‼ちょっと面貸せや‼」

人だかりを掻き分けて予想通り鈴原君が突っかかって来た。

「イヤです。」

「えぇから面貸せ言うとんねや‼」

周りの冷たい視線に気付いてないのかな?
完全に転校生にからむイヤなヤツになってるよ、鈴原君。

「だから、イヤです。」

「すまんなぁ、転校生。わしはお前を殴らなあかん。殴っとかな気が済まへんのや。」

「悪いね、この間の騒ぎで、アイツの妹さん、怪我しちゃってさ。・・・ま、そういうことだから。」

相田君のフォローが終わると同時に、この場でボクを殴ろうと拳を振り下ろす鈴原君。

ガシッと。
「んな…素直に殴られろや!」

「それもイヤです。確かにボクはパイロットだけど殴られなきゃいけない理由は無いよ。」

「んやとぉ‼」

もっかいガシッと。

「避難警報は出ていた筈です。
その時点でココはもう戦場なんだ。」

この街で暮らしていくならその覚悟はしなくちゃならない。

「オドレは守る筈のウチの妹を傷つけたんやぞ!何とも思わんのか⁉」

あぁ、何て下らない。

「甘えるな、自分の大切な物は自分で守れ。」

ボクの変化に鈴原君が息を呑む。

「守れない事が悔しいなら強くなれ。それでも力が足りなければ、助けを求めろ。
八つ当たりで解決するものなんて絶対にないんだ。」

クラスが静まり返る。



「非常召集、先行くから。」

…綾波さんのこういう所は助かるな。

「…皆さんシェルターに行って下さい。もうすぐ避難警報が鳴ります。」



~発令所~

「ミサトさん。」

サブモニターにシンジの顔が映る。

「初号機を出すわ!シンジ君準備して!」

「了解しました。」

「司令のいぬ間に、第4の使徒襲来。意外と早かったわね」

「前は15年のブランク。今回はたったの3週間ですからね」

「こっちの都合はおかまいなしか。女性に嫌われるタイプね」
 
正面モニターにはミサイルを物ともせず進む昼の使徒が映っていた。

「シンジ君の準備完了しました。」

シンジが映ったサブモニターにリフトに乗せられた初号機が映った。

「シンジ君、いいわね?」

「作戦の説明をおねがいします。」

「使徒のATフィールドを中和、パレットガンの一斉射。いいわね?」

「待って下さい。ミサイルよりバレットガンの方が強いんですか?」

リツコはハッとした様にキーボードを叩いた。

「ミサト、バレットガンでは効果がないわ。」

「ATフィールドを中和すればいいでしょ。」

「今使徒がATフィールドを張ってる様に見える?」

「…時間が無いわ!エヴァ初号機発進‼」

ミサトの命令にオペレーターは発進のボタンを押した。


次回予告

シンジ様のお叱りを受けた鈴原様。

シンジ様の助言を活かせない葛城様。

シンジ様、人は過ちを犯さねば理解出来ない生き物なのですよ。

かと思えば、貴方のように変わる人間もいる。

…だから人って面白いんですけどね。

次回
その執事、変化

あくまで、執事ですから。



[29024] 第6話 ~その執事、変化~
Name: ガオ◆97564bd1 ID:3be99ad7
Date: 2011/08/05 19:12
第6話
その執事、変化

~シェルター~

「トウジ、ちょっと二人で話があるんだけど。」

ケンスケが小声でトウジに話しかける。

「なんや?」

「ちょっと、な。」

「しゃあないなぁ…委員長ぉ!」

トウジは、言い難い事なんだろうと思い場所を移す事にした。

「何?」

「ワシら二人、便所や!」

「もう、ちゃんとすませときなさいよ!」

ヒカリの顔が赤く染まる。


~男子トイレ~

「で、なんや?」

「死ぬまでに、一度だけでもみたいんだよ。」

両手をすり合わせてケンスケはトウジに頼み込む。

「上のドンパチか?」

「今度いつまた、敵が来てくれるかわかんないし…。」

「ケンスケ、おまえなぁ…」

妹が怪我をしたばかりのトウジからすればケンスケの頼みには呆れるしかない。

「このときを逃してはあるいは永久にっ!なあ、頼むよ。ロック外すの手伝ってくれ。」

「外に出たら死んでまうでぇ。」

「ここにいても分かんないよ。どうせ死ぬなら、見てからがいい。」

必死に頼むケンスケにトウジの心は揺れていた。

「アホ。何のために碇が闘ってるんじゃ。」

「あの転校生のロボットに俺達の命がかかってんだぜ?この前もアイツが俺たちを守ったんだ。応援してやんなきゃ、って思わないのか?」

「それは…」
(しゃあないのぅ。)

「それに、いざとなれば碇が守ってくれるって。」

気楽なケンスケの言葉に、トウジは頭を殴られたかのような衝撃を感じた。
守ってくれる、それは他人任せ
にする言葉。

(甘えるな…そうや、ワシは… )

「ケンスケ、ワシはアホやからな。碇に言われた事、全部は理解出来へん。」

「ど、どうしたんだよ。トウジ。」

「せやけど、わかっとる事もある…オマエはワシの友達や。せやから、行かせる訳にはいかん。」

その光景を紅い瞳が見つめていた。



~戦闘域~

発進時の衝撃がボクを襲う。

「ぐっ!」

…出すなら一声かけてからにして欲しいな。

「シンジ君、バレットガン一斉掃射‼」

「スイッチ・オン」

轟音を響かせながらバレットガンが弾を吐き出す。

その全てが使徒にあたり黒煙をあげていく。

「馬鹿!煙で見えないッ!」

「貴方の指示ですよ。っと!」

煙の中から光のムチが飛び出してくる。シンジは咄嗟に躱す。

「シンジ君、予備のバレットガンを出すわ!」

「要りません。効かないのはもう解ったでしょう…」

話ている間にもムチは速く鋭くなっていく。


兵装ビルの上に目玉に羽をつけたような奇妙な生物がいた。

その生物を通して彼女はシンジの闘いを見ていた。

「んー、この程度じゃ本気だしてくれないか…じゃあ、シャムシェル第二形態っと。」


その瞬間シンジは全力で回避行動を取った。
次の瞬間、シンジがいた所を8本のムチが襲った。



~発令所~

「なっ⁉」

使徒が…進化…した?

「リツコ⁉」

ミサトが使徒の変貌の理由を私に尋ねる。

「…進化ね、第3使徒と同じよ。


そう、これは進化…でも何故?何故このタイミングなの?

「シンジ君、距離を取って!接近戦は無理よ!」

「ならどうやって勝つんですか?バレットガンは効かないんですよ?」

「それは…」

無様ね、ミサト。

「命令拒否権を使います。ここからはボクの判断で闘います。」

シンジ君、期待させて貰うわ。
何か策があるみたいだしね…

「シンジ君、待ちなさいっ!」ブツッ



~戦闘域~

こんな序盤で本気は出せない…

これが通じなかったらATフィールドしかないか…


シャムシェルのムチが嵐のように襲いかかってくる。

ボクはケーブルをパージして、横に転がるようにしてムチを躱す。躱しながらバレットガンを探す。

あった。プログナイフを左手に持ち替え、捨てたバレットガンを右手で拾う。

残り時間は3分。

タイミングを見計らう。

残り2分。

残り1分30秒。
シャムシェルがメインのムチ2本を上段に掲げた。

来た!
ボクは左手の筋肉が千切れる程の勢いでプログナイフを投げつける。

そして、プログナイフを追いかけるように跳躍した。


シャムシェルはプログナイフを防ぐためにムチを6本消し、その分のATフィールドを展開した。

亜音速を超える速度のプログナイフとATフィールドがぶつかり、光が散る。
プログナイフ目掛けて、バレットガンを投げつけた。爆発的な衝撃を柄の部分に受けたプログナイフがATフィールドを貫いた。

プログナイフが根元から折れた代わりに貫かれた箇所からATフィールドが消失する。

ボクはそこに初号機を突っ込ませる。シャムシェルが最後の反撃とばかりに残った2本のムチを振り下ろした。
初号機の両腕が肩から飛んだ。

「だったらッ!」

初号機の口が禍々しく開き、シャムシェルのコアに噛み付いた。

「噛み砕け‼」

ボクの声と共に、紅い玉は砕け散った。



「残念…次も楽しませてね、シンジ。」

役目を終えた奇妙な生物は、赤い水となりビルを濡らした。



次回予告

苦戦なされたようですね、シンジ様。

両腕を失った無様な姿。

それでもなお、雄々しく大地に立っておられる。

そう、貴方は何を失おうとも膝をつく事は許されないのです。

それはそうと、シンジ様お客様がおみえですよ。

次回
その執事、訪問

あくまで、執事ですから。



後書き
感想がガオの血肉となります。
本当にありがとうございます。



[29024] 第7話 ~その執事、訪問~
Name: ガオ◆97564bd1 ID:3be99ad7
Date: 2011/08/05 19:11
第7話
その執事、訪問


~ケージ~

エヴァから降りると、ミサトさんが鬼のような表情でボクを出迎えてくれた。

「…アンタ、これからもあんな事するつもり?」

「あんな事?」

「通信切って、勝手に戦うのかって聞いてんのよ!」

…あー、この人もう面倒だな。

「そうですよ。ボクは勝ちました、それは責められなきゃ行けない事何ですか?」

「勝てば良いわけじゃないっ!上手くいかなかったら、人類が滅んでたのよっ⁉」

「一分一秒を争う中でボクには策があって、貴方には策が無かった…それだけの事です。」

「この、ガキッ‼」

感情任せに振り下ろされた手を、白い手袋をした手が横から受け止めた。

「葛城様、暴力だけで躾は出来ませんよ?」

「ッ!」

急に現れたセバスチャンに驚いたのか、言われた言葉に返す言葉が無いのか、葛城は黙りこくる。

「行くよ、セバスチャン。」

早くLCLを流したい。

ボク達はサッサとケージから出て行った。


~シンジ宅~

あの後両腕の検査を、と言うリツコさんを振り切ってボク達は自宅に帰った。

「セバス、鈴原家の人間をNERVにばれないように確保しといて。」

「何故ですか?」

「ご褒美だよ。ちゃんと大人しくしていた…ね。」



「…シンジ様、質問をしてもよろしいでしょうか?」

テーブルの上のオレンジを剥きながら、急にセバスが尋ねてきた。

「いいけど?」

「何故、鈴原様にあのような事を言ったのですか?」

予想外の質問に一瞬固まる。

「…戦闘中に邪魔されたく無かったんだよ。」

「それなら私に誰もシェルターから出すな、と命令なされば良かった筈ですが?」

セバスが剥き終えたオレンジをボクは一房取って口に入れた。

「…もちろんそれだけじゃないよ。」

そう、それだけじゃない。

あの時の言葉も打算から出ただけだ…

「…同情ですか?」

「楽したいんだよ…家族の為に戦う男と、英雄願望のガキどっちが強いと思う?」

だからボクは、鈴原君より覚悟の弱い相田君をチルドレンにしようと考えた。

ようは、鈴原君を選んで相田君を見捨てたんだ。

「なるほど。では、相田様を参号機のパイロットに?…傲慢ですね。」

「傲慢なのが人間だからね…でも誰でも救えると思う程傲慢じゃない。」

「左様でございますか。」



一週間後
~リツコの執務室~

「ハイ、新しいIDカード。にしても驚異的ね…両腕、もう動くの?」

シンジ君、ホントに楽しませてくれるわね…色々実験したいけど、一回一億じゃぁね。

「ええ、お陰様で。やっと登校できます。まぁ、明々後日からですけどね。」

「………。」

「どんなに早くても2週間はかかると思ったんだけどね。」

前例が無いから解らないけど、この速度が平均にはならないでしょうね。

「早く治って良かったです。自由に腕が使えないと、セバスチャンに頼りっきりになるので…もう、行きますね。」

「……。」

「あっ!シンジ君待って。これ、レイに渡して貰えないかしら?」

これで少しでもレイの関心がシンジ君に向けば…

「綾波さんに?…いいですよ。」

「…。」

「では、失礼します。」

手を振ってシンジ君を見送る。

…さて、

「ミサト、大人急ないわよ。


「しょうがないじゃない…」

しょうがないじゃないわよ…

これじゃ、先は長そうね。

「信頼関係を作れないようじゃ、指揮官失格よ?頑張りなさい。」

「わかったわよ…コーヒーご馳走様。」


…シンジ君のシンクロ率に大幅な変動は見られない。

それなのに、あの動き方…特別なのは初号機?それとも…


「そういえば、あの子達(レイクローン)どうしてるかしら?」

リツコはカメラを操作して、水槽部屋を映す。

そこには、変わらずレイ達が浮かんでいた。

翌日
~レイのマンション~

「碇です。綾波さんいらっしゃいますか?」

返事は無いやっぱりシャワーかな?

因みにセバスはいない。今は、別行動を取らせている。

「ポスト…入らないよなぁ。」

眼前には満杯のポスト、仮に入ってもカードが有る事に気付かないだろう。

…仕方ない、家に入るか。

「綾波さん、お邪魔します。」

カードはベットの上に置いた。他に用事は無し。早くNERVへ行こ

ガチャン!

…つくづく良いタイミングだね?綾波さん。

振り返ると予想通り、タオルだけの綾波さんがシャワー室から出てきた。


「これ、綾波さんの新しいIDカードです。」


「そう。」

「では、ボクは失礼します。勝手に部屋には言って申し訳ありませんでした。」

ハッキリ言ってボクにとって綾波さんが1番扱いにくい。

ゲンドウの補完計画を止めやすくするにはある程度親しくならなきゃいけないけど、親しくなり過ぎると綾波さんの同一化願望が出てきてしまう。

「待って。」

「どうかしましたか?」


嫌な予感がする。


「…一緒に。」

「はい?」

「…一緒に本部へ行きましょう。」

「…いいですよ。」

…断ったら致命的だよなぁ。




碇君は着替えを待つ、と言って部屋から出て行った。

どうして?

どうして私はあんな事を言ったの?

碇君、サードチルドレン、初号機のパイロット、司令の息子。

私の欲しい物を持っている人。

私に近い人。
でも私とは違う人。

この感情は何?

着替え終えた私は、部屋の外に出た。




一緒にNERVへ向かってる間、綾波さんはチラチラとボクを見るだけで、一度も口を開かなかった。

自分の感情が解らないから何をボクに聞きたいかも解らないんだろう。

…感情を教えるべきか?…イヤ
まだ早いか。


「今日は再起動の実験でしたね。成功を祈っています。」

「どうして?」

「綾波さんは、使徒と戦う仲間ですから。」

「そう…」



~ケージ~

「レイ、聞こえるか?」

前回の起動実験同様、ゲンドウが実験指揮をとっていた。

総司令直々の実験とあって、職員達の緊張も高まっている。

『はい。』

「これより、零号機の再起動実験を行う。第一次接続開始。」

「主電源コンタクト。」

「稼動電圧、臨界点を突破。」

「了解。」

「フォーマット、フェイズ2へ移行。」

「パイロット、零号機と接続を開始。」

「回線開きます。パルス、ハーモニクス、正常。」

「シンクロ、問題なし。中枢神経素子に異常なし。再計算、こちら修正無し。」

「チェック、2590まで、リストクリア。」

「絶対境界線まで、あと、2.5、1.7、1.2、0.8、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、突破!ボーダーラインクリア。零号機、起動しました。」

零号機の起動成功の報告に歓声に包まれるケージ。

『了解。引き続き連動試験に入ります。』

「了解。」



「ああ、わかった。」

携帯をポケットに入れ、ゲンドウに近づく冬月。

「碇。未確認飛行物体が接近中だ。おそらく第5の使徒だな。」

ゲンドウが低い声で命令する。

「テスト中断。総員、第一種警戒態勢。」

『了解。総員、第一種警戒態勢。繰り返す、総員、第一種警戒態勢。』

慌ただしく動き出す職員達。

浮かれた雰囲気は消え去り、一気に張り詰めたものとなった。

「零号機はこのまま使わないのか?」

「まだ戦闘には耐えん。初号機は?」

レイを案じて、零号機を出そうとはしないゲンドウ。

「380秒で、準備できます。」

「出撃だ。」


~発令所~

オペレーター達にミサト、走ってきたリツコがいる。

「解析パターン、青!使徒と確認しました。」

モニターに映るのは宙に浮かぶ巨大な菱形。

生物とは思えない形状だった。

「初号機、発進準備に入ります。」

「目標は、芦ノ湖上空へ侵入。」

初号機の発進準備が進められて行く。

その間にも雷の使徒・ラミエルがゆっくりとNERV本部へ近づいてくる。

「EVA初号機、発進準備、完了!」

「発進!」

ミサトの命令に初号機を乗せたリフトが爆発的な速度で上昇していく。

「‼…目標内部に、高エネルギー反応!」

「なんですって?!」

「円周部を加速、収束していきます!」

加速により内部の粒子が等しく力を与えられ、凝縮される。

「まさか!」

心当たりのあるリツコが驚愕の声をあげる。

加速粒子砲は長年理論の上にしか、存在しない物だった。

イヤ、理論的にも技術的にも実現することはできる。しかし、成功したことは一度も無い。

成功させるために必要な、大質量の粒子と莫大なエネルギーが得られなかったのだ。

NERVのポジトロン・ライフルでさえも実用段階には至っていない。

しかし、使徒ならば、あの巨体とそれを動かす動力を持つ使徒だったら…

そこまで想像したリツコの顔から血の気が引いた。

『青葉さん!ロックを!』

「り、了解!」

シンジの初めて聞く怒鳴り声に慌てて青葉は、初号機を縛りつけていた枷を外した。

「ダメ、よけてっ!」

ミサトの悲鳴を掻き消すように、使徒から最長の距離と最大の威力を持つ加速粒子砲が照射された。

粒子砲が正確に初号機の射出ポイントを射抜く。

しかし、その場には既に初号機は存在しなかった。

ロックボトルの解除を確認したシンジは、射出の勢いを利用して跳躍したのだ。

「回収を!」

射出口に吸い込まれるように落ちていく初号機。

それは使徒戦、初の敗北だった。





オマケという名の恥さらし

「シンジ様、いくつか説明して頂きたいのですが?」

「何?」

「今更な気がしますが、何故初号機を動かせるのですか?」

「綾波さんのスペア破棄したでしょ?あの時リリス本体に戻る筈だった魂を零号機に行くようにしといて、シオンが出た後零号機から取りだして初号機にいれたんだ。」

「…次に何故スペアの消失が騒ぎになっていないのですか?」

「リツコさんに、水槽部屋に行かないように暗示かけておいたんだよ。カウンセリングの時にね。映像はMAGI使って改竄したし。」

「解りました。シンジ様、ありがとうございました。」

説明し忘れていました。
実力不足が悲しいですorz


次回予告

繰り返されるヤシマ作戦。

彼もヤる気になったようです。

那須 与一はどちらでしょうね?


…出番が欲しいなどと、私がそんなおこがましい事を考える訳がないでしょう。

なにせ私は…

次回
その執事、射撃

あくまで、執事ですから。



[29024] 第8話 ~その執事、射撃~
Name: ガオ◆97564bd1 ID:3be99ad7
Date: 2011/08/05 19:10
第8話
その執事、射撃


~発令所~

一次接触での敗北後、作戦課はラミエルの能力調査を行っていた。

「ダミーバルーン、消滅。」

「次。」

自走砲に粒子砲が照射される。一拍置いて自走砲が爆散した。

「12式自走臼砲、消滅。」

ダミーバルーン、自走砲その両方が一定ラインを越えた瞬間に攻撃され、消滅している。

さらにラミエルの周囲には、空間を歪ませる程の強力なATフィールドが展開されている。

一撃必殺の大砲と難攻不落の城壁。正しく人対城、エヴァによる接近戦の可能性は潰えた。

「攻守ともにほぼパー璧。まさに空中要塞ね。で、問題のシールドは?」

「敵はここ、ネルフ本部へ、直接攻撃を仕掛けるつもりですね。」

こうしている内に使徒の一部が近づいている、と考えたミサトの背に冷たい物が流れた。

「しゃらくさい。で、到達予想時刻は?」

「は。明朝午前0時06分54秒、その時刻にはネルフ本部へ到達するものと思われます。」

敵は健在、残り時間は僅か。

「状況は芳しくないわね。」

「白旗でも上げますか?」

「その前に、チョッチやってみたいことがあるの。」


~総司令室~

「目標のレンジ外、超長距離からの直接射撃か。」

「そうです。高エネルギー集束体による一点突破しか方法はありません。」

ミサトの作戦は単純明快なものだった。

接近戦が不可能なら遠距離から狙撃で仕留める。銃に重きを置くミサトらしい作戦だった。

「MAGIはどう言っている。」

「MAGIによる回答は、賛成2、条件付賛成が1でした。」

「反対する理由はない。やりたまえ、葛城一尉。」

ゲンドウの許可を得た、ミサトの作戦がスタートした。



~ケージ~

「しかし、また無茶な作戦を立てたものね、葛城作戦部長さん?」

「無茶とはまた失礼ね、残り9時間以内で実現可能、おまけに最も確実なものよ?」

「ポジトロンライフルじゃ無理よ?どうするの?」

「決まってるでしょ?借りるのよ。」

ミサトはいやらしく、ニヤリと笑った。



~戦自つくば技術研究本部~

「…可能な限り原型をとどめて返却するよう努めますので。では、ご協力感謝いたします。いいわよレイ!持っていって!」

交渉さえ行えず、虎の子のライフルを零号機に運び出される戦自研。

こうしてミサトはまた一つ敵を作った。

「にしても、最低1億8千万キロワット。それだけの大電力を、どこから集めてくるんですか?」

「決まってるじゃない、日本中よ。」


~休憩室~

「綾波さん、何かな?」

メモ帳を片手に綾波さんが入ってきた。

…そういえば、こんな事もあったっけ。

「明日、午前0時より発動されるヤシマ作戦のスケジュールを伝えます。碇、綾波の両パイロットは本日1930ケイジに集合。2000初号機及び零号機起動。2005発進。同30二子山仮設基地に到着。以降は別命あるまで待機。明朝、日付変更とともに作戦行動を開始。」

「わかったよ。わざわざありがとう、綾波さん。」

「…碇君は、」

「ん?」

あれ、前と違う?

「碇君は、死ぬのが怖く無いの?」

なるほど、ボクの代わりに綾波さんがそれを言うんだ。

「怖いよ?でも、綾波さんだってエヴァに乗るだろう?」

「私には…代わりがいるから…」

綾波さんのスペアはもう無いけどね。それに、代わりが有ったとしても…

「魂は誰にでも一つ…ボクはそう教えて貰った。」

「魂は一つ…」

「うん、だから君は1人しかいないんだよ。」



~二子山~

「第28トランス群は5分遅延にて到着。担当者は各結線作業を急いでください。」

「こんな時に鈴原さんは、何処いったんだ!」

「朝から見てねェよッ!口動かすなら手ェ動かせッ!」




「本作戦における、各担当を伝達します。シンジ君。」

喧騒から離れたところでミサト、リツコ、レイ、シンジがブリーフィングを行っていた。

「初号機で砲手を担当。」

「了解。」

「レイは零号機で、防御を担当して。」

「はい。」

「これは、シンジ君と初号機のシンクロ率の方が高いからよ。今回は、より精度の高いオペレーションが必要なの。陽電子は地球の磁場、自転、重力の影響を受け直進しません。その誤差を修正するのを忘れないでね。」

「修正ですか…」

「大丈夫。最後に真ん中のマークが揃ったらスイッチを押せばいいの。あとは機械がやってくれるわ。それから、一度発射すると冷却や再充填、ヒューズの交換などで次に撃てるまで時間がかかるから。」

だったら最初っからそう言えばいいのに。

リツコさん、冗長なの好きだよなぁ。

「初撃が外れた場合は?」

「今は余計なことを考えないで、一撃で撃破することだけを考えなさい。」

余計な事、ね…

「…私は、私は初号機を守ればいいのね。」

「そうよ。シールドは用意してあるわ。」

「時間よ。二人とも着替えて。」



初号機と零号機が所定地に着く。その手にはそれぞれ、ライフルと盾。

『ただ今より、午前0時、ちょうどをお知らせします。』

「時間です。」

「シンジ君、エヴァに乗ってくれた、それだけでも感謝するわ。ありがとう。」

「ヤシマ作戦、開始‼」

戦自のライフルを改造したポジトロン・スナイパー・ライフルに日本中から電力が集められていく。

それに合わせ、日本から灯りが消えた。


~病院~

灯りが消えるのに合わせ、一つの病室の窓が音も無く開き、セバスチャンは中にスルリと入り込んだ。

昨日からシンジと別行動を取っていたセバスチャンは、以前命令された鈴原家の確保の為に動いていた。

昨日朝から京都に行き、仮の戸籍や住所を用意して第3に取って返し。

昨日の夜NERVから出てきた鈴原父と鈴原爺それと家で寝ていたトウジを丁重にトラックで運搬。

そして、ヤシマ作戦で明かりが消える隙を狙って最後の1人を確保しに来たのだった。

病室には懇々と眠る1人の少女、名前を鈴原ナツミという。

セバスチャンは少女から点滴の針を抜き、抱きかかえて窓から飛び、屋上へと上がった。

屋上にはヘリがドアを開けて待機している。セバスチャンはヘリに乗っていた女性にナツミを預け、ヘリが飛び立ったのを確認すると、全速力でラミエルの元へ駆け出した。

~二子山~

ライフルの発射準備は最終段階に入っていた。

「最終安全装置、解除!」

「撃鉄を起こせ!」

「射撃用所元、最終入力開始!
地球自転、及び、重力の誤差修正、プラス0.0009!射撃は、目標を自動追尾中。」

「照準器、調整完了。
陽電子加速中、発射点まであと0.2、0.1、0!」



~市街地~

ラミエルの近くのビルの一つの上にシャムシェル戦の際にも現れた、奇妙な生物がいた。

「ラミエル、セカンドフォーム!」

奇妙な生物から聞こえる女性の声に反応して、ラミエルがその形状を変える。


~二子山~

「第五次、最終接続。」

「全エネルギー、超高電圧放電システムへ!
第1から、最終放電プラグ、主電力よし!
陽電子加速管、最終補正さらに安定。問題なし。」

そこまでシークエンスが進んだその時、MAGIが使徒の変化を告げる。

「目標に高エネルギー反応!…コレは…使徒が進化します!」

「このタイミングでッ!?」

~市街地~

剥き出しのコアの周囲を4つのピラミッド型の結晶がそれぞれ高速回転している。

前の形状の名残はコアから伸びるドリルだけだ。

進化によって加速度は上昇し、更に身を守っていた強固なATフィールドを全て攻撃にまわした事により、今までの10倍以上の破壊力をラミエルは得た。


~二子山~

「発射準備急いでッ‼」

怒鳴った処でこれ以上早くはならない、分かっていてもミサトは叫ばずにはいられなかった。

「13、12、11」

「使徒のエネルギー、上昇していきます!っそれだけじゃありません!…ATフィールドが凝縮されていきます!」

カウントに合わせるようにラミエルの力も高まっていく。

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…」

「発射!」

人と使徒の閃光が同時に煌めいた。





次回予告

ぶつかり合う閃光。

迫り来る破壊の奔流。

シンジ様、後からするから後悔と言うのです。

どうせ悔いるならば、先にやるべきだと思いませんか?

次回
その執事、開放

あくまで、執事ですから。



後書き

とうとう来ました。
次回、あのキャラの登場Death★




[29024] 第9話 ~その執事、開放~
Name: ガオ◆97564bd1 ID:3be99ad7
Date: 2011/08/05 19:10
第9話
その執事、開放

ぶつかり合う閃光。均衡は一瞬で崩れた。

磁界や重力の影響を全て無視する、使徒の放つ閃光がライフルの銃弾を飲み込み初号機に直進する。

~二子山~

粒子砲が迫ってくる。

初号機を起き上がらせようとした時、急に視界が塞がれた。

綾波さんの零号機だ。

「キャァァァァァァァッ!」

綾波さんの悲鳴。

盾は1秒と持たない、当たり前だ。進化前のラミエルで17秒しかもたないのだから。

綾波さんのATフィールドじゃ絶対に防ぎきれない…

「くそッ!」

ボクは素早く初号機を起き上がらせて、両手を前に突き出す。

「ATフィールド!最大展開ッ‼」

ATフィールドに粒子砲がぶつかり、辺りを火花が煌々と照らした。

「ハアァァァァァァッ!」

ラミエルの粒子砲は数十秒間、ボクのATフィールドとぶつかり続け、消えた。

零号機からプラグを引っ張り出してそっと、地面に置く。

ボクは、ウエポンラックからプログナイフを取り出した。




「初号機プログレッシブナイフを装備!?」

マヤの報告は指揮車の中の誰にも理解できないものだった。

「シンジ君、何してるの!?」

それに対するシンジの答えは簡潔。

「ATフィールドは攻撃に使える…今使徒が教えてくれたじゃないですか。」

「それとナイフと何の関係が有るのよ!?」

答えず、ボクはナイフを水平に構える。

「イメージするのは、薄く鋭い刃…」

ナイフの先端にATフィールドが収束していく。

「使徒、エネルギーの再チャージを開始‼残り20、19、」

「シンジ君!」

時間が足りない…

~市街地~

観察を続ける奇妙な生物。

「さぁ~、何をしてくれるの?シンジ。」

グチャッ‼バシャッ‼
生物は踏み潰され、赤い水となった。

「残念ですが、ここから先は有料です。」

そう言い残し、セバスチャンはラミエルの足元へと飛んだ。

「凄まじいエネルギーですね…
流石は使徒、しかしフィールドを解除したのは失敗でしたね。」

セバスチャンは大きく腕を振りかぶる。

「久しぶりに思いっきりイかせて貰います。」

狙いはコアから伸びるドリル。

振り下ろされた悪魔の一撃は使徒の体を砕き、使徒はピタリと動きを止めた。


~指揮車~
「チャージが止まり…ました。」

「…誰か状況を説明してよ。」

~二子山~

セバス、ありがとう。お陰で間に合ったよ。

「ATフィールド最大開放。」

ナイフの延長線上に薄く光るATフィールドの刃が展開する。


ー振り抜く。


刃は、ラミエルのコアを両断した。

~指揮車~

「…パターンブルー、消失。使徒殲滅しました。」

ウォォォォォォォォッ!!!

勝利を喜ぶ歓声があがる。


「ATフィールドをアッサリ武器にした?…彼は何者なの?」

「…また、私の指揮の外…」ギリッ!

歓声の中で2人の女性は陰鬱な感情を抱いていた。


~二子山~

プラグのハッチを無理矢理開け、中を覗き込む。

「綾波さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫…けど、ごめんなさい、こういうときどんな顔をすればいいのか分からないの。」

綾波さんのセリフに、微笑む少女がフラッシュバックする。

「…笑えばいいと思います。」

あぁ、君の笑顔は…



ather side
                 赤の邂逅
~ドイツ~

「グゥゥゥゥゥッ!」


「彼氏置いて逃げんのー?」


「ヒッ!イヤッ!来ないでっ!」


「傷つくわねぇ。そんなにビビんないでよ…」


「ヒッ、ヒッ、イヤ…」


「ちょっと殺すだけよ。…アイツに会う前にスッキリしときたいのよね。」


「イヤ…イヤ…」


「あんたらが悪いのよ?人気の無い公園なんかで、アタシに出会ったりするから。」


「イヤァァァァァッ!」


「Tscheus!(バイバイ!)」





パチパチ…パチパチ…


「んまーっ。マダム・レッドを思い出すわぁ。」


「アンタ誰?」


「神様よ。あぁ…アンタのその愛憎に満ちた瞳、ホントいいわ!」


「ちょっと、触んないでよ。アンタ、オカマでしょ?ホント神様?」




「これでも死神Death★」




「死神ねぇ…初めて見たわ。それで何の用?」


「暫く見てたのよ、アンタの事♡」


「…うげぇ。」


「アンタが殺しまくるお陰で、忙しいったら。」


「ご苦労様ねぇ。」


「いいわよ。赤いアンタは素敵だしね…マダム・レッドの時みたいに赤が似合う女が醜くなるのは見たく無いのよね。」


「つまり?」


「今のウチに死・ん・で?」


「…アタシとヤるって事でいいのね?」


「そうよ…それじゃあ、イくわよっ!」


「アンタなら楽しめそうね…」


ギャォォォォォォォゥンッ!


「チェーンソー?エグいわね。」


「ノン!これは『死神の鎌(デスサイズ)』よ。これでアンタにお化粧してあげ       る!」


ギャゥンッ!ブンッ!


「へぇ、死神って言ったら大鎌だと思っていたわ。」


「鎌なんてダサい道具、アタシに似合わないでしょ?これは、アタシ専用のカスタマイズ。全てを切り刻む、神(アタシ)だけに許された道具!」


「ふーん、解説アリガト。」


「冥土の土産ってやつヨ。にしてもヒョイヒョイと良く躱すわねッ!」


「アンタが遅いのよ。それはいいとして、アンタ握り甘いわよ。」


「へっ?アレ?…アタシのデスサイズは!?」


ギャォォォォォォォゥンッ!


「間抜けね、死神よりトイレの神様の方が似合ってるんじゃない?」


「あ、ああ…」


「今度は私が責める番ね…それじゃ、タップリ楽しんで♡」


「ヒャァァァァァッ!!!!顔はやめてぇぇぇぇぇぇっ!!」


ドサッ!
「うぐゥっ!」


「見かけによらずタフね…ねぇ、いいもの見せてあげましょうか?」


「何よ、コレ。」


「アタシの彼の写真よ。かっこいいでしょ?」


「………。」


「何か言いなさいよ?」


「セバスちゃん…」


「はい?」


「セバスちゃん!やっぱりアタシと貴方は運命の赤い糸でむすばれてるのね!!」


「あぁ、執事の事ね?何処にいるか教えて欲しい?」


「アンタ、セバスちゃんの居場所知ってんの!?教えてっ!!」


「それじゃ、アンタ私の執事ね。」


「執事?」


「アイツに執事いるんだから、アタシも持ってないと。その代わりアイツの執事に会わせてアゲルわ。」


「…契約成立ね。アタシはグレル・サトクリフよ。」


「惣流・アスカ・ラングレーよ。よろしく、グレル。」


「ええ、よろしくアスカ♡」



次回予告

日重のJA完成パーティーに出席されるシンジ様。

おや?視界の端を赤いのが…

あぁ、シンジ様はあれをご覧になるのは初めてでしたか。

もしあれと目が合ってしまったら、視線をそらさずジリジリと後退し。

安全な場所から
「ねぇ、ちょっと太った?」と言いましょう。

次回
その執事、祝典

あくまで、執事ですから。



後書き
アスカ&グレル登場‼
やっと出せました。

早く2人を出したくて、ラミエル戦がおざなりに…(ーー;)

書き直すかも知れませんm(_ _)m



[29024] 第10話 ~その執事、祝典~
Name: ガオ◆97564bd1 ID:3be99ad7
Date: 2011/08/05 19:09
第10話
その執事、祝典

~総司令室~

セフィロトの描かれた薄暗い総司令室の中でゲンドウが誰かと電話で話していた。その傍にはいつものように冬月の姿が有る。

「また君に借りができたな。」 

『返すつもりもないんでしょ?彼らが情報公開法をタテに迫っていた資料ですが、ダミーも混ぜてあしらっておきました。』

電話から聞こえるのは少し笑の混じった若い男の声。

話している内容から推測するに、諜報活動をしているのだろう。

『政府は裏で法的整備を進めていますが、近日中に頓挫の予定です。で、どうです?例の計画のほうもこっちで手を打ちましょうか?』

「いや、君の資料を見る限り問題はなかろう。」 

『では、シナリオ通りに』

その言葉を最後に電話が切れる。ゲンドウが手の中の受話器を置いた所で冬月がゲンドウに話しかけた。

「六分儀。シンジ君はどうするのだ?」

「…ゼーレにはダミーのデータを出す。第5使徒はヤシマ作戦で殲滅した、サードは命令外の行動は取っていない。」

冬月が問題として挙げたのは第5使徒ラミエルとの戦闘でシンジの乗った初号機が使用した‘力’の事だ。

とはいえ、シンジがデータを好き勝手に操っているのでどの程度の出力だったのかは、解っていない。

「あれは我々の計画の妨げにはならんのかね?」

「…問題無い、初号機から降りれば唯の子供に過ぎん。」

「そうか…」

冬月にはゲンドウが、自分自身を納得させようとしている様に見えていた。



~碇本家~

「碇、ホンマ、何から何まですまんっ!」

まだ早朝と呼べる時間帯に似非関西弁の大声が響いていた。

とはいえ近所迷惑にはならない。声が隣の家まで物理的に届かないからだ。

「ボクとしてもNERVの非道は許せませんから…」

ボクは営業スマイルで鈴原君に答える。

「NERVがオカンを殺して、しかも妹を実験に使おうとしとったなんて信じとぉ無いけどな。」

ご褒美に助けてあげたのは良いけど、ボクはアフターケアまでする気は無い。

「鈴原様、残念ですが事実です。NERVが権力を持つ以上、裁判も行えないでしょう。」

「ホンマ、ムカつく奴らやっ!そんな奴らに何も、仕返し一つできひんなんて……悔しゅうてしゃあないわっ!!」

ボクに怒鳴らないで欲しい…車まだ着かないのかな?

「必ずボクがこの事実を白日の元に晒します。ですから今は御家族の安全を確保しましょう。」

「シンジ様、車が着いた様です。」

待ち望んだ車へと鈴原家御一行を案内する。

全員が乗った所で、後部座席の窓が開いて、鈴原君が身を乗り出した。

「碇、何かワシに出来る事あったら言うてくれ。友達として必ず力になるで。」

「ええ、その時はお願いします。それでは、皆さんお元気で。」

握手をしながらにこやかに答えた。鈴原君が車内に戻った所で車が発進する。

「碇ー!また会おうなー!」



「友達…なったっけ?」

「オイオイ、冷ぇな兄弟。」

ボクが首を傾げていると、後ろから見知った声が聞こえてきた。

この声は…

「レオ!?」

「いらっしゃいませ、レオナルド様。」

「久々だな、シンジ、セバス。俺の部隊の連中も二人に会いたがってたぜ。」

レオは、豪快に笑いながらボクの肩に手を回す。

「何で此処に?」

「詳しい話は後だ。まずは、朝メシ食わせてくれ。」

たかるなよ…



~碇家食堂~

完食された料理の皿が次々重ねられていく。

朝からなんて食欲、流石は軍人だね。

「それでレオ、何の用?」

「遊びに来た。………わかった、わかった、そんな目で見んなよ。」

ボクは胡散臭気な目でレオを見る。レオは遊びと言って6割の確率で面倒ごとを持ってくるからだ。

「今日は何?どうせまたトラブルだろ?」

ちなみに今まで持ってきたトラブルの中で一番めんどくさかったのは、軍の機密を盗んだテロリストの捕獲だ。

気づいたら国をかけた戦いに巻き込まれていた。

「失礼な…ホレ、頼まれてたリスト。オススメには丸付けといたぜ。」

「ありがとう。…でも遊びに来たってのもホント何だろ?将棋、一局どうかな?」

レオは日本の文化にはまっているらしい。

部屋の中に囲炉裏が有るのを見た時は何か間違えてる気がしたけど…

「ショーギか、やってみてぇな。…その前に、だ。良いニュースと凄ぇ良いニュースどっちから聞きたい?」

リストはついでだったのか。

「そっちが本題か…良いニュース。」

「おっし、良いニュースな。UNの空軍のトップクラスは完全に反委員会派になったぜ。」

前に話した予定より大分速い、
でもこれは嬉しい誤算だ。

空は陸や海より知り合いが少ないから一番説得に時間がかかると思っていた。

「へぇ、良くあの堅物達の説得できたね。」

「お前から貰ったセカンドインパクトのデータが決め手だったな。お前の親父さんの悪口で大いに盛りがったよ。」

なるほど。

「まぁ、自業自得だね。」

「冷たいねぇ。」

「変わっていく世界と一緒に変われるなら、手助けしても良いけどね。」

ゲンドウの行動は理解はできても認める事はできない。

奴にとって碇ユイが最優先なようにボクにも最優先事項がある。

「ふーん……次に凄ぇ良いニュースな。」

レオは居住まいを正して真剣な顔をする。

「何と俺様、UN軍少将レオナルド・ラザフォードは第一中学校に体育教師として潜入します!…嬉しいだろ?」

「…お前が!?」

どうせレオのアイデアなんだろうけど、将官クラスの潜入なんて上が認めるのだろうか?

「おう。目的はエヴァパイロットの調査な。」

ああ、ボクとの関係を使ったのか…

「それは、適任だね…」



お爺様が食堂に入ってきた。8時頃に起きているのはかなり珍しい。

老人なのに、お爺様の睡眠時間はとても長い。

「お、いたいた。シンジ…む、レオか?」

「ご無沙汰してます、碇老。」

「うむ、アレクの奴は元気か?」

「ジジィですか?今だに教官してますよ。」

もともとお爺様とレオの祖父アレクサンダー様が友人で、その繋がりからボクとレオは出会った。

「はっはっはっ!奴らしい事だ。」

「年代物を用意して置くたまには酒飲みに来い、だそうです。」

「ほぉ、楽しみじゃな。……シンジ、ちょっとパーチー行って来てくれ。レオも着いて行ったらいい。」

パーチーって…お爺様…

「パーティー…ですか?」

「うむ、日重のな。」



~NERVヘリ~

「ここがかつて花の都、と呼ばれていた大都会とはね。」 

「ミサト、着いたわよ。」 

NERVのヘリに乗ってミサトと私は第2新東京市へとやってきた。目的は日重のパーティーだ。



~日重パーティー会場~

「カードはお持ちですか?」

「はい。」

「確かに。では、こちら会場案内図とパンフレットになります。…お楽しみ下さい。……次の方どうぞ……」

私達は受付を済ませた所でバッタリとシンジ君達と出会った。

「リツコさん、葛城さん。」

「あら、シンジ君、ミカエリスさん?どうして此処に?」

「シンジ様は碇グループの代表代理としてご出席なされています。」

「正直なところパーティーは好きじゃないんですけどね。リツコさん達は?」

苦笑しながらシンジ君が付け加える。

確かにシンジ君の性格だと挨拶回りとか嫌いそうね…

「NERVの代表としてね。そちらの方は?」

シンジ君の横に大柄な男の人が立っている。ミカエリスさんより大きい…

「レオナルドです。よろしく。」

「よろしく。シンジ君のお友達かしら?」

「そうです、美しいお姉さん。ココで出会ったのも何かの縁、よければ………」

ナンパ?を始めようとしたレオナルドさんの肩をガッシリと掴んで、シンジ君が口を開く。

「すみません、挨拶回りに行かなくてはいけないので…」

「あら、引き止めてごめんなさいね。」

「慌しくてすいません…レオ、ボクらはこっちだ。」

「のわっ!シンジ、引っ張るなよ!」

何故かその場に残ろうとしたレオナルドさんを引きずりながらシンジ君ば去って行った。

ミカエリスさんは一礼して、それについて行った。




目ぼしい人達への挨拶が終わり、やっと席に着けた。家やら会社がどうだのこうだのと、面倒臭い。

レオは早速テーブルの上の料理を食べ漁っている。朝、あれだけ食べてよく食べれるね…

「軍隊食は不味いんだ。食える時に食っとかねぇとアレを食う羽目になる。」

そうですか。

ボク達がそんなどうでもいい話をしていると、急にセバスが険しい顔になった。

「シンジ様、少し席を外します。」

「…行ってらっしゃい。」

多分敵…だろう。何か寒気がするし…

「セバスチャン、一筋縄ではいかないぞ?気をつけろ。」

「!…わかりました。では、行ってまいります。」

セバスは、素早く廊下へと飛び出して行った。レオの口振り…何か知っているのか?

「レオ、何か知ってんの?」

「いや、ぜんぜん。」

「はぁ…」


~廊下~

誘導するように曲がり角から赤い髪が見えますね…

どう見ても“アレ”ですよねぇ…


ハァ……




~日重パーティー会場~

『本日はご多忙のところ、我がJA完成パーティーにお越しいただき、誠にありがとうございます。開発者の時田です。』

『皆様には後程、管制室の方にて、試運転をご覧いただきますが、ご質問のある方はこの場にてどうぞ。』

「はい!」 

リツコの手が大きく上に伸ばされる。

『これは、ご高名な赤木リツコ博士、お越しいただき、光栄のいたりです』

係員からリツコにマイクが手渡される。

『先ほどのご説明ですと、内燃機関を内蔵とありますが?』

『ええ、連続150日間の作戦行動が保証されております。』

『しかし、格闘戦を前提とした陸戦兵器に、リアクターを内蔵することは、安全性の点から見てもリスクが大きすぎると思われます。』

『5分も動かない決戦兵器よりは、役に立つと思いますよ?』

『遠隔操縦では緊急時の対処に問題を残します。』

『パイロットに負担をかけ、精神汚染を起こすよりは、より人道的と考えます。』

会場から小さく笑い声が聞こえる。

「よしなさいよ、大人げない。」

ミサトは呆れたような声でリツコに注意する。普段と真逆の光景だ。

『人為的制御の問題もあります。』

『制御不能に陥り、暴走を許す危険極まりない兵器よりは安
全だと思いますがねぇ?』

黙ったリツコに気を良くしたのか、浮かれた声で時田が続ける。

『制御できない兵器など、まったくナンセンスです。ヒステリーを起こした女性と同じですよ、手におえません。』

ハッハッハッハッハッ!!

時田の皮肉に会場から大きく笑い声が上がった。暗がりのせいで分かりにくいが、リツコの顔は赤く染まっている。

『そのためのパイロットとテクノロジーです!』

『まさか…科学と人の心があの化け物を押さえるとでも?本気ですか?』

『ええ、もちろんですわ。』

『人の心などと言う曖昧なものに頼っているから、ネルフは先のような暴走を許すんですよ。
その結果、国連は莫大な追加予算を迫られ、某国では2万人を超える餓死者を出そうとしているんです。』

『その上、あれほど重要な事件に関わらず、その原因が不明とは。せめて、責任者としての責務は全うしてほしいもんですな。良かったですねぇ、ネルフが超法規的に保護されていて。あなたがたはその責任を取らずに済みますから。』

『なんとおっしゃられようと、ネルフの主力兵器以外、あの敵性体は倒せません!』

普段の冷静さを失ったリツコが叫んだ。

『A.T.フィールドですか?それも今では時間の問題に過ぎません。いつまでもネルフの時代ではありませんよ。』

リツコが座ったのを見て更に機嫌を良くし、弾んだ声で時田は続けた。

『他に質問の有る方はいらっしゃいませんか?えー、それでは休憩といたします。10分後に管制室におこしください。』




「どう思う?」

口いっぱいに溜め込んだ料理を嚥下して、レオナルドが答える。

「ああ、少し油っこいな…それに素材の味を生かし切れて無い。」

「…聞いてるのはJAの方だ。」

「質疑応答になってないから分からん。」

あっさりとレオナルドが言う。しかし、シンジも同意見のようだ、頷いている。

「そうだよねぇ…お爺様には話にならない、って言っておくか…」

「まぁフォローすんなら…これ見ろ。」

レオナルドのラプラスjrにデータが表示される。

「武器の設計図?」

「壇上の男、時田って奴が書いたもんだ。」

「へー……面白いね。」

その時のシンジの笑みにレオナルドはちょっと引いていた。



~倉庫~

赤い髪を追うセバスチャンは人の気配のしない、真っ暗な倉庫に辿り着いた。

「…いるのでしょう?グレルさん。」

バッ!

セバスチャンの声に応えるように一点がライトアップされ、其処に“赤い死神”グレル・サトクリフが降り立った。


「お久しぶりDEATH☆」


「…何故貴方が此処に?」

「そんなの後後。それより…」

ギュゥオオオオオオオオンッ!!

セバスチャンを目掛けてグレルの持つ、チェーンソー型の“死神の鎌”デスサイズが振り下ろされる。

移動も振り下ろしも人間の目には映らない速読だ。

「ッ!」

しかし、セバスチャンは咄嗟にバックステップで躱し、間合いの外へと出る。

「二人の運命の再会を祝して…ダンスパーティーといきましょ?」

「相変わらず気持ち悪い事を言いますね、貴方は。」

心底嫌そうなセバスチャンの体には、鳥肌が立っている。

「冷たいわね。ケド、アタシって冷たくされると燃え上がっちゃうのよーーーーネ!」

ー息に間合いを詰め、その勢いのまま高速で上段からデスサイズを振る。

手を側面に当て、押し流す事で躱し、カウンターで殴る。

「思い出すわね!あの日を!」

上半身を仰け反らせ、その一撃を躱し、無造作に置かれたコンテナの上に跳び乗る。

「ええ、またその顔を踏みつけてあげますよ。」

追いかけるように跳び上空から鋭い蹴りを放つ。

「顔は狙うなって……言ってんでしょッ!!…この鬼!」

デスサイズで受け止め、弾き跳ばし、着地を狙って下段からデスサイズを振り抜く。

「いいえ?私はあくまで執事です。」

空中で身を捻り、着地と同時に反対側のコンテナへと飛び移る。

向かい合い、同時に跳ぶ。


「死神と悪魔、陰と陽、男と女!」

「こんなにも違う二人が、こうして同じ時間を過ごしている!」

「これを運命と呼ぶのかしら!?」



「私にとっての運命は2つだけ。」

「シエル・ファントムハイヴと碇シンジ。この2人こそ我が運命。」



「妬けるわね、意地でも認めさせたくなっちゃうじゃない。」

「アタシとの恋愛(戦い)は運命だ、ってねッ!」


コンテナの上を跳びながら、激しい攻撃の応酬が続く。



「ーーーそこ、危ないわよ?」

ポツリとグレルが呟く。

「?…クッ!」

セバスチャンが下を見ると、着地しようとしていたコンテナが切り裂かれていた。

グレルの攻撃の余波だろう。

「真っ赤に染めてあげるわ!」

着地に失敗したセバスチャンに上空から袈裟斬りに振り下ろされるデスサイズ。

セバスチャンの肩から腰にかけて直線が刻まれ、血が溢れ出る。

更に傷口から映画のフィルムのような物が飛び出してくる。



ジジジジジッ…

『私と契約を結ばれるのですね?』

『うん。』

『では、何を願い、求めるのですか?』

『…ボクの願いは………』




「やっぱり最後まで見せてくれないのね……」

「ハァ、ハァ…」

「深かったみたいね?真っ赤な衣装似合ってるわよ、セバスちゃん♡」

恍惚とした表情を浮かべるグレル。


「真っ赤な衣装…それはどうでしょうね?」

血が急速に渇き、黒く変色する。

「やはり私の衣装は黒でないと。」




「なら何度でも!」

顔を狙ったデスサイズの横薙ぎ。

セバスチャンはフラつき回避しきず、頬に浅い傷を負った。

「ンフッ。血も滴る良い男ね。」



「他人の傷を見て笑うのは痛みを知らない者だけ、だそうです。」

「その下品な笑みを浮かべられぬように、とびっきりの痛みを教えて差し上げましょう。」

そう言って、セバスチャンは燕尾服を脱ぎ、手袋を外す。

その瞳は深紅に煌めいている。



「そろそろ終劇ね…前と同じ手は通用しないわヨ?」

正眼にデスサイズを構える“死神”。その表情には余裕がある。


“悪魔”の頬の傷から、血が一滴、左手の契約印に落ちた。

「見くびられたものですね……来なさい。」

血が毒々しく輝き、線となって契約印の上に新たな印が刻まれる。


『魔斧公爵スロウス・アシュタロト』


“悪魔”が呼んだ真名と共に“斧”は姿を現した。



「ソレは……上位悪魔!?」

「正解です、グレルさん。…では行きますよ。」

“悪魔”は左手の斧をだらりと下げたまま、ゆっくりとグレルに近づく。

「…確かに驚いたケド、その斧じゃ、デスサイズは止められ無いわヨッ!」

ギュゥオオオオオオオオンッ!

デスサイズが咆哮をあげる。

“死神”は“悪魔”を屠る為に走り出した。

「そうでしょうね。」

“悪魔”はニヤリと嘲笑い斧を水平に掲げた。

途端に“死神”の足だけが止まる。

「へ?…ぶべッ!?な、何なんなのよ、コレ!?」

“死神”は全速力の勢いのまま顔面から地面に衝突した。眼鏡にヒビが入り、鼻血が流れ出している。



張り詰めていた緊張感が一気に消え去る。

「さて、幾つか聞かせて貰いましょうか?」

この上なく楽しそうな声でセバスチャンがグレルの髪を引っ張り上げた。その時、



ーー崩壊の音と巨大な振動



巨大な振動が大地を揺るがし、コンテナがセバスチャンに崩落した。

何なくコンテナを殴り飛ばすセバスチャン。しかし…

「今ね!」

隙をついて逃げ出すグレル。

「!、待ちなさいッ!」

少し遅れて、それを追いかけるセバスチャン。

彼等が走る廊下の案内板には「この先、管制室。」と書かれていた。



~管制室~

突然のJAの暴走により踏み潰され、崩壊した管制室。所々に血の水溜りができている。

「ごほっ!ごほっ!ごほ、ごほっ!作った人に似て、礼儀知らずなロボットね。」 

咄嗟にリツコを押し倒し、瓦礫を躱したミサトが起き上がった。

そんなミサトの耳に日重スタッフの焦燥しきった声が聞こえてきた。

「加圧器に異常発生!」 

「制御棒、作動しません!」 

「このままでは、炉心融解の危険もあります!」 

「信じられん…JAにはあらゆるミスを想定し、全てに対処すべくプログラムが組まれているのに…このような事態はありえないはずだ…」 

項垂れる時田にミサトが話しかける。

JAを止めれないか、話し合っているようだ。




ミサトから離れた所で、JAの後ろ姿をシンジとレオナルドは見ていた。

「危ねー、死ぬ所だ。」

「レオならこの程度、潰されたって死なないさ。」

シンジの言いように文句を言おうとレオナルドが振り返る…



ーシンジの後ろに真っ赤な死神が立っていた。



「貴方が碇シンジ君?写真で見るよりカワイイわね♡」

ーデスサイズが振り下ろされる。

「シンジ!!」

「シンジ様!」

横合いから飛び出したセバスチャンがシンジを抱きかかえ、デスサイズをかわす。

「アハハハハハッ!今日はココまで、また会いましょう?セバスちゃん、シンジ君!」

言い捨て死神はJAが壊した部分から飛び降りた。



「あれが死神か…セバス、怪我は?」

「大丈夫です…ですが、申し訳ありません。」

「いいよ…それより何で此処に死神が居たかが問題だ…」

シンジとセバスチャンは外を見下ろす。

もう赤は見えなかった。


「そう言や、ポンコツはどうなった?」

呑気なレオナルドの声。

「止まったみたいだよ。」

シンジが指差した先にはうつ伏せに倒れたJAがいた。

「あーらら、可哀想に。…この会社終わったな。」

JAから視線を外し、時田に詰め寄る招待客を見渡してレオナルドが言う。

「株売っといて良かった。」

レオナルドと同じように時田と招待客を見てシンジは、ポツリとそう言った。




~後書き~

お待たせしましたm(_ _)m
第10話です。

時間が無い上にセバスvsグレルのセリフが出てこない…

上手い台詞回しができるようになりたいです。


次回はPV10000と11111記念に番外編を書きたいと思います。

①碇家の日常~その執事、嘆息~

②レオの依頼~その執事、抗争~

③その他リクエスト

④いいから、本編進めろ。


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よろしくお願い致します。
(③の場合はどんなタイトルかも。)


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