松田喬和のコラム

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松田喬和の首相番日誌:「交代」常態化の下地を

 日本人にとって、盆は正月とともに特別な意味を持っている。中選挙区当時、多くの議員は「田の草取り」と称して、自らの「票田」に入り込んだライバル陣営の「草」を除去するため地元に戻った。政権交代が、いつでも可能な緊張感ある政治状況では「田の草取り」は欠かせない。

 そんな政界で今週も、閣内不統一を露呈する出来事があった。経済産業省の松永和夫事務次官ら幹部3人の更迭人事。4日朝刊でこれを報じた朝日新聞は「菅直人首相は更迭する方向」と、菅首相主導による人事を強調していた。

 メンツを失った海江田万里経産相は、記者会見で「人事権者は私だ。経産省の人事刷新は1カ月ぐらい前から考えていた」と反論した。人事は5日の閣議で了解されたとはいえ、いかにも民主党政権らしい出来事だ。

 菅首相に苦言を呈する長老に、菅政権論とその行方を伺った。

 自民、社会、さきがけ3党の村山富市政権で運輸相を務めた亀井静香国民新党代表は「菅さんは村山さんの爪のあかでも煎じて飲むべきだ。村山さんはみんなの力を結集させる一方で『責任はオレが取る』の姿勢を貫いた」と、いさめる。「東日本大震災の復興に道筋を立てるまでは菅政権の役割。それをせずに退陣し、四国にお遍路に出かけても地獄に落ちるだけだ」と、例の「亀井節」で発破を掛ける。

 社民連以来の菅首相の同志、江田五月法相兼環境相は、大局的には退陣の方向に変化がないとの見解を示す一方で「菅政権が一日も長いことを願っているわけではないが、政権交代で日本の政治の質を変えるためにも、民主党政権にはこだわりたい」と力説する。

 藤井裕久首相補佐官は「リーダーがきちんと正しい方向を示せれば、部下は必ずついてくる」と、ワシントン海軍軍縮条約を締結した戦前の加藤友三郎海相を例に引き、指導者像のあるべき姿を説く。「部下を怒鳴って抑えるのではなく、一つの信念を持って方針を示せば団結できる」

 次期総選挙で民主党が野党に転じても、政権に復帰可能な状況を作る下地を残しておくことが肝心だ。(専門編集委員、65歳)

毎日新聞 2011年8月6日 東京朝刊

松田 喬和(まつだ・たかかず)
 1945年群馬県生まれ。69年早大文学部卒、毎日新聞入社。福島支局、社会部の後、74年から政治部。サンデー毎日、メディア企画本部、政治部デス ク、横浜支局長などを経て、99年10月から論説委員、専門編集員。著書に「中曽根内閣史」(共著・中央公論社)「日本政党史」(共著・第一法規)。TBSテレビ「ひるおび!」(午前11時から)、BS11「インサイドアウト」(月、木曜日午後10時から)のコメンテーター。

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