「インラック旋風」を巻き起こした秘訣(ひけつ)は、その親しみやすさとかわいらしさだ。「物価は上がるのに収入は増えず、生活は厳しくなるばかり。チャイマイ・カー?(そうでしょ?)」。やや舌足らずの甘い声を精いっぱい張り上げ、アイドルタレントのような仕草で指を突き上げる。総選挙の雰囲気を一変させ、タクシン派「タイ貢献党」に地滑り的勝利をもたらした。
政治経験ゼロで臨んだ総選挙。当初は演説も原稿の棒読みで頼りなかったが、みるみる上達した。インタビューでは相手の目を見て、誠実に回答する。
一方で「想定問答」からは外れず、失言や放言は一切ない。華やかな外見とは対照的な慎重、堅実ぶりだ。
タイ有数の大富豪タクシン一族の末の妹として米国留学後、タクシン系大企業の経営者を務めた。英オックスフォード大出身のアピシット前首相に引けを取らない「セレブ」だが、エリート臭が抜けない前首相に比べ、低所得層にも溶け込んだ。その親しみやすさが本人の地なのか、イメージ戦略に基づく演技なのかはわからない。
ビジネスマンの夫と長男の3人家族。夫とは事実婚。「シナワットという元首相と同じ名字を残すために入籍しない」との批判に「気持ちがつながっていれば紙(戸籍)の関係は重要ではない」と反論している。【西尾英之】
毎日新聞 2011年8月6日 東京朝刊