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トコトン議論〜日本のエネルギー政策を考える〜

2011年3月20日、隠蔽された3号機格納容器内爆発

Space of ishtarist

岡田直樹 プロフィール

さて、この煙は、以前に述べたように、非常に謎が多いものです。まず第一に、なぜ煙の原因は現在まで特定できなかったのか第二に、なぜ東電は消火活動を行わなかったのか。しかも、放水活動を行う準備ができている東京消防庁の部隊が、現場付近にいるにも関わらず。第三に、「3号機の原子炉圧力容器および原子炉格納容器のパラメータ、周辺環境のモニタリング値に大きな変動」はみられない(東電発表より)としながらも、なぜ作業員は退避したのか。さらに東京消防庁の部隊は、なぜ煙が出ているのを見ながらも、20kmも退避したのか。

こうしたことを総合すると、この煙が通常の火事では決してないということを、東電が熟知していたということを示唆している、としか私には思えません。

では、反対方向から推論してみましょう。私たちは、すでに3号機格納容器と圧力容器が破損していることを、パラメータから確認しました。その時の原子炉内の温度は発表されていないものの、原子力安全・保安院のデータによると、3月23日4:00の圧力容器底部の温度は253度もあり、かつ内部に水分が存在するため、多かれ少なかれ原子炉から水蒸気が放出されることは物理的に必然です。

逆に言えば、東電はこの煙を決して原子炉から放出されたものと認めることができません。なぜなら、それを認めたならば、圧力容器も格納容器も破損していることを認めざるをえないからです。だから、長期間にわたって「原因不明」とみなしながら、消火活動も行わずに放置した。しかし、この煙が放射性物質を大量に含んでいることが明らかなため、作業員を退避させた。このように推測すれば、東電の行動は、非常に納得がいくものとなります

※ちなみに、なぜ煙が当初灰色で、その後白色に変わったのか、この問題に関しては、専門家の見解を仰ぎたいところですが、フランスのIRSNは、これはコアコンクリート反応であったという見解を提出しています。(http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/disaster/2792610/7005562

東京電力の隠蔽工作・印象操作について



今まで、3月20-21日にかけての関東地方のフォールアウトが直前の3号機から放出されたものであるという仮説について、気象やプラントパラメータ、東電・政府の行動など様々な角度から検証してきました。その結果、3号機格納容器内で爆発的事象が発生したことは疑いようがなく、さらにそれが再臨界を伴っていた可能性まで示唆されました。

そうだとすれば、東電・政府はこの極めてシビアな事故を、現在に至るまで隠蔽し続けていたことになります。いかにして、このようなことが可能だったのでしょうか。おそらく、この問いをいま、直截的な形で、メディアや研究者たちに向けることは、さほど生産的なことではないでしょう。ただ、東電がこの事態をどのように隠蔽してきたのか、その印象操作の一端を簡単に見せておくことは、私たちにとって非常に有意義なことだと思います。そのことを通じて、私たちが今後、情報操作に惑わされないような教訓を得ることができるからです。

まず、前節最後に述べた、3号機の煙の話です。21日15:55分-18時までの煙の発生前後で、「3号機の原子炉圧力容器および原子炉格納容器のパラメータ、周辺環境のモニタリング値に大きな変動」はみられない(東電発表)と東電が述べたため、これが異常な事象の兆候である、とは一般に受け止められなかったきらいがあります。

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図23 東電発表修正パラメータ抜粋 右がD/W圧力(絶対圧)、その左の二つが原子炉圧力(ゲージ圧)

ところが、実際のパラメータを見ればわかるのですが、煙が出始めた時点では、すでに格納容器圧力も圧力容器圧力も、ほとんど大気圧と平衡になっており、それゆえ両方とも破損していたことが確実だったのです。これでは煙がでても、原子炉パラメータに「大きな変動」が見られるはずがありません。当然、東電はこのことを知っていたはずです。

また、東電発表のパラメータを、修正前と修正後を比較すると、データを間引きすることでどのような印象を東電が作ろうとしてきたのかも見て取ることができます。

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図24 格納容器内放射線量 修正前(赤線) 修正後(青線)

たとえば、3号機格納容器内CAMS(A)(=放射線量)のグラフですが、修正前は赤の点で断続的にのみ発表されていました。これだけ見ると、順調に放射線量が下がっていったかのように見えます。ところが、修正後のパラメータをグラフにしてみると、そのグラフの直前に放射線量が急増しており、その後18-20日までの間に乱高下していたことがわかるのです。

また、修正後パラメータで設計圧力を大幅に超える11.5MPaを記録した原子炉圧力(A)(図14参照)に至っては、修正前はデータそのものが公表されていませんでした

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図25 修正前原子炉圧力(A) (3/21発表官邸資料)

では、東電による修正後のパラメータには問題がないのでしょうか。私たちは、すでにそれに関しても、存在するはずのパラメータが発表されていない、として疑念を唱えましたが、一つ決定的な印象操作が見られます。修正資料の1ページ目のグラフをお見せします。

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図26 東電修正資料1ページ目、3号機水位・圧力にかんするパラメータ



このグラフには、3/21未明の原子炉圧力(A)の異常値が表示されていません

なぜ、このようなことが可能だったのでしょうか。この答えは、3/21未明の異常値が、8.968, 11.571, 10.774と、すべて縦軸(右側)の最大値8MPaを大幅に超えていたことにあります。逆に言えば、東電は、この異常値をグラフに残さないために、わざとグラフの最大値を8MPaに設定したと疑るのは、決して不穏当なことではないでしょう。逆に、最大値をもっと小さく取れば、21日の推移がより具体的に見えることになるでしょう。つまり、8Mpaという最大値は、21日の事態をもっとも小さく見せることができる値です。これは、決して偶然ではない、すなわち、東電は、パラメータを精査せずグラフだけ見た人に、20-21日に特別な緊急事態が起こったという印象を与えないために恣意的な操作を行った、と言って差し支えないと思います。
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