一つは、直感的に言って、一週間近く前に放出された放射性物質からなる放射性プルーム(放射性雲)が、関東地方といったせいぜい数十キロー数百キロ圏内の上空を、大部分の放射性物質を落とさずに、また拡散せずに、漂い続けることが可能なのだろうか、というものです。たとえば、ドイツのシュピーゲル誌などが、オーストリア中央気象台による放射性物質拡散シミュレーションを掲載していますが、これをみると、放射性雲は偏西風に乗って時速数十キロで移動し、拡散しているように見えます。これは、他のシミュレーションでも同様です。

図6 オーストリア中央気象台 I-131拡散シミュレーション 3/15-3/18
また、早野先生は、日本分析センター(千葉)のデータ(本ブログ記事の図2)をもとに、「3月16日を最後に原子炉からの直接放出の証拠であるXe-133がほとんど見え」ないということを根拠に、それ以後の放出はなかったと言っていますが、よく拡大して見れば、他のグラフに隠れているだけで、確実にXe-133のピークは確認できます。


図7 3/18-3/20 空気中の核種 図8 3/20-3/22 空気中の核種
また、つくばの高エネルギー加速器研究機構で採取された「
空気中の放射性物質の種類と濃度の測定結果」のグラフを抜粋しました。図7が第六回採取資料(2011年3月18日10:16〜3月20日9:55)で、図8が第七回採取資料(2011年3月20日10:00〜3月22日9:54)です。両者を比較すると、その組成が全く異なることがわかります。このことは、21日以降の空気中の放射能汚染が、それまでとは別の汚染源からもたらされたものであることを示唆しています。
早野先生は上記の図2の降雨量と放射性物質降下との相関関係に注目し、前者が後者の原因であったと論じています。確かに、原発事故後、21日で初めて広範囲の降雨があったことは確かです。ですが、この比較は、あまりにも時間軸を荒く見過ぎだと思います。じっさい、3月21日の雨のデータと、空間線量の上昇データとの時間データをより細かく調べれば、茨城県では雨が降る前に、放射線量が上昇していることが確認できます。


図9 3/21 4時の茨城県の雨雲 図10 3/21 茨城県の空間線量
これは、「3/21のフォールアウトは上空の放射性物質が雨によって落ちてきただけである」という説明とは相容れません。

図11 図12
また、3/21、全国的に雨雲は西から東に移動してきています(
tenki.jp 3/21 雨雲の動き)。 もし、早野先生の説が正しければ、フォールアウトもまた西から東へと進んでいなければいけないはずです。ところが、図9 「
茨城県東部 放射線モニターデータ解析」(理化学研究所仁科加速器研究センター専任研究員 板橋健太様作成)の3/21のデータを 茨城県の空間線量の増加を確認すると、疑いなく北(福島第一原発方面)から南南西へと、放射性プルームが移動していることが確認できます。また、先にご紹介したブログ「
3/21 柏市を汚染した放射能プルームについて」によると、時速20-30kmで、「午前3時20分に大沼で観測された上昇が東海村、水戸、鉾田、つくば市へ伝播している」ことが確認できます(図12)。