ソフトバンクの孫正義社長は5日の毎日新聞のインタビューに対し、35道府県などと協力して進めるメガソーラー(大規模太陽光発電所)など自然エネルギー事業は、利益配当は受け取らずに社会貢献として取り組むことや、原発推進にかけてきた補助金を自然エネルギーに回せば普及が可能との考えを示した。【聞き手・乾達、山本明彦】
--大震災後、自然エネルギーの事業化に突き進む理由は。
◆日本が笑って暮らせない場所になってはいけないとの思いからだ。「安全で、安価で、安定的」に電力を供給できるという原発神話がすべて崩れており、最小限に減らすべきだ。
--ソフトバンクのビジネスとして進めるのはなぜですか。
◆本業でないし、本業にするつもりもない。自然エネルギー専門の新会社を作り、主要株主として方向性と枠組みは示すが、利益の配当は40年間は受け取らない。利益はすべて自然エネルギー関連に再投資する。
--孫社長は、再生可能エネルギー固定価格買い取り法案に乗じもうけようとしているとの声も聞きます。
◆政治にくっついて商売をする「政商」との批判もあるが、己のために利益を稼ぐ「商売人」になろうと思ったことは一度もない。社会を変え、人々の生活の礎を作る「事業家」として、苦しんでいる人のために一肌脱ぐだけ。一日も早く本業に戻りたい。
--5月に菅直人首相と会食し、「脱原発」の推進に影響を与えたと言われます。
◆私は原発事故以来いろいろな政治家に話したのと同じ話をしただけで、特に何かお願いしたことはない。
--35道府県などが協力するメガソーラー計画の進捗(しんちょく)は。
◆思った以上に候補地が集まっている。メガソーラー10カ所以上、風力と地熱もやる。ただ、送電設備を誰が負担するかルールが不透明で、原発促進の交付金を電力会社の送電線補強に組み替えるなどの支援策が必要だ。
--海江田万里経済産業相は、料金の上昇を抑えるため再生エネルギーの買い取りコストの転嫁に上限を設ける方針を示しました。
◆(転嫁額を)1キロワット時当たり0.5円にすれば(普及率上乗せは)4~5%で打ち止めになる。自然エネルギーを広げるのではなく、頭打ちにするのは本末転倒だ。0.5円は、10年先に1世帯当たりコーヒー1杯分の負担となるに過ぎない。
--法案についての議論では、ソフトバンクが当初想定していた買い取り価格1キロワット時40円に対し、30円台にするという話が出ています。
◆30円台前半なら太陽光発電事業は全滅だろう。欧米で常識のプロジェクト収益率6~8%を確保できなければ、金利もかかる中で誰がリスクを取ってやるかという話になる。買い取り価格が40円を大幅に下回るようなら、ソフトバンク以外の事業者は“笛吹けど踊らず”になる。
--発送電分離については。
◆やはり必要。電力会社が送電網を持ち、高い価格で競争事業者に利用させていると競争力が失われる。電力会社は数ある発電事業者の一つとなり、送電会社は全国一本化するのがよいのでは。
--分離した送電網を買収する考えは。
◆中立な送電会社があれば十分だ。国家で議論してやればいい。
毎日新聞 2011年8月6日 2時30分