子ども手当廃止:色あせた民主の「目玉」 党内からも批判

2011年8月4日 23時54分 更新:8月5日 0時19分

定例会見で質問に答える岡田克也民主党幹事長=東京都千代田区の同党本部で2011年8月4日午後4時17分、藤井太郎撮影
定例会見で質問に答える岡田克也民主党幹事長=東京都千代田区の同党本部で2011年8月4日午後4時17分、藤井太郎撮影

 民主、自民、公明3党は4日、子ども手当の廃止とともに、12年度から自公政権当時の児童手当を復活・拡充する方針で合意した。民主党執行部は「子ども手当の理念は変わっていない」と強調する。しかし、3党合意には12年6月の所得制限導入が明記された。「すべてのこどもの育ちを社会全体で応援する」との理念は失われ、09年衆院選マニフェスト(政権公約)の目玉政策は色あせた。【鈴木直、大場伸也】

 「看板政策を取り下げ政権の正統性は大きく損なわれた」(谷垣禎一総裁)「所得制限を明確に入れ、(子ども手当に)決別できた」(石原伸晃幹事長)

 4日の3党合意を受け、自民党幹部は一斉に「民主党の変節」を印象づける戦術に出た。民主党の岡田克也幹事長は給付の拡充を「政権交代の成果」と強調し、「子育て支援の考えは貫かれている」と反論したものの、所得制限を受け入れた以上、説得力は乏しい。

 合意では、民主党の顔を立てるべく所得制限対象世帯にも「税制上、財政上の措置を検討」するとし、現金給付の余地を残した。が、自公両党は受け入れない姿勢だ。

 民主党がこだわってきた「控除から手当へ」も揺らいでいる。税控除は高所得層に有利だとして、子ども手当創設時に15歳以下の子供がいる世帯の税金を安くする年少扶養控除の廃止を決め、13年度までに完全実施する意向だった。それが野党に押され、合意文には控除復活の可能性を示唆する一文が入った。

 これには民主党内からも批判が噴き出した。4日、鳩山由紀夫前首相は同氏を支持するグループの会合で「(野党の)圧力に屈してしまえば理念そのものがうせてしまう危機だ」と述べ、妥協を重ねた党執行部を批判した。会合では「マニフェストの重要な旗を下ろすのはどうか」との不満が相次ぎ、夕方には小沢一郎元代表に近い北辰会の面々14人が、岡田幹事長に抗議文を手渡した。党執行部は内憂外患状態に陥っている。

 児童手当は72年の創設だ。それでも新制度は、古い設計思想をそのまま引き継ぐ。「額面年収960万円程度」の所得制限は、共働き世帯なら収入の多い方で判断される。年収が夫900万円、妻800万円の場合、世帯年収1700万円で手当が支給されるのに、夫が年収1000万円で妻が専業主婦の世帯には支給されない。高収入の夫のみ働く世帯を想定しており、時代に合わない面も出ている。

 ◆子ども手当3党合意要旨◆

・10月~来年3月は特別措置法で対応。12年度以降は児童手当を拡充して復活

・3歳未満と3~12歳の第3子以降、月額1万5000円▽3~12歳の第1、2子と中学生1万円=10月から

・所得制限は額面の年収960万円程度(夫婦とこども2人)=12年6月から

・子供が国内に居住していない場合、留学を除き支給せず。手当から保育料や給食費の天引きを可能に=10月から

・所得制限世帯について、年少扶養控除の廃止による減収を補うため税額控除や現金給付を検討

・所得制限世帯を含め、扶養控除のあり方について、12年度税制改正までに総合的に検討

 ◇特例公債法案、焦点に 終盤国会 与野党攻防

 民主、自民、公明3党が子ども手当の見直しで合意し、終盤国会の焦点は、赤字国債の発行を認める特例公債法案に移る。民主党は5日の衆院通過を目指したが、菅政権にさらなる政策転換を求める自民党など野党が反発。参院審議への影響を懸念した民主党は譲歩せざるを得ず、同法案の成立は今月中旬以降にずれ込む見通しになった。

 民主党は4日の衆院議院運営委員会理事会で、特例公債法案を5日の衆院財務金融委員会で採決することを想定し、同日の本会議開催を提案した。野党は「委員会採決の見通しがない」と反対したが、川端達夫委員長(民主)が職権で開催を決めたため、4日午後の委員会審議をすべて拒否した。

 同じころ、民自公3党の幹事長、政調会長は、子ども手当の見直し合意を受け、特例公債法案についても早期に結論を出すことで一致した。しかし、自民党は、高速道路無料化や高校無償化など残る「3K」政策の撤回を改めて要求。公明党も11年度第1次補正予算の財源に流用した基礎年金の国庫負担分2.5兆円の補填(ほてん)を主張し、与野党の溝は埋まらなかった。

 結局、「このまま強行採決すれば参院での審議入りが危うくなる」と判断した民主党が軟化。安住淳国対委員長が4日、自民、公明両党国対委員長に「5日の衆院財金委と本会議は開かない」と伝え、正常化にこぎつけた。公明党の漆原良夫国対委員長は4日夜、BS11の番組で「お盆前に衆院を通過すればいい」と述べ、3党協議を前提に会期内成立に理解を示した。

 民主、自民両党執行部には「21日に民主党代表選を行い、今国会中に新首相を指名して与野党協力の環境を整える」という日程を探る動きがある。一方で、自民党の町村信孝元官房長官は4日、「主要政策を変える時には国民の信を問わなければならない。(菅直人首相が)やりたいならどんどんやらせなさい」と指摘。同党ベテラン議員には特例公債法案で妥協すべきでないとの意見が根強い。【横田愛、吉永康朗】

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