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木語:日本人の「高鉄」批判=金子秀敏

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 中国では高速鉄道を略して「高鉄」という。浙江省で起きた高鉄の追突事故で、鉄道省の露骨な事故隠しを中国メディアが珍しく批判した。そのメディアを共産党中央宣伝部が露骨に締め付けている。

 中国政府の中でも鉄道省は「半軍半官」「独立王国」といわれる特別な存在だ。

 鉄道省の母体は人民解放軍の鉄道兵。国共内戦の時代、日本が残した満鉄を接収し軍事輸送に従事した。平時になって鉄道省ができても、軍は鉄道建設兵団と看板を変えて鉄道権益をはなさなかった。1984年、やっと鉄道省に組織を一本化した。各地の師団司令部が鉄道省の地方建設局になった。鉄道省の実態は軍なのだ。

 今回の高鉄事故をきっかけに、鉄道省解体論が浮上しているという。だが、鉄道省の背後には軍、保守派がいるから、改革派とぶつかるだろう。いやでも共産党内の権力闘争とからんでくる。

 高鉄事故が起きる前から鉄道省のありかたを厳しく批判した日本人がいる。北京大学大学院の研究生、加藤嘉一氏(27)だ。高校卒業後、北京大学に留学した。北京で研究を続けながら、英国「フィナンシャル・タイムズ」の中国語ネット版などに中国語の評論を発表している。

 2月、前鉄道相が汚職容疑で解任された。このときに加藤氏は中国の高鉄建設と日本の新幹線建設を比較して論じた。中国の高鉄が経済性を無視して規模を拡大したため、鉄道省は返済のめどのつかない膨大な債務をかかえている点を突いた。鉄道省は行き詰まると指摘し、中国国内で大きな反響を呼んだ。

 日本人が読んで納得できるのは、中国が「独自技術」にこだわる事情だ。前鉄道相は日本、フランス、ドイツ、カナダの企業を競わせ、電車形式の高速鉄道技術を導入しようとした。

 これに対して、国内の保守派は、鉄道省が独自開発した機関車けん引式の「中華之星」号を採用せよと騒いだ。小泉純一郎首相当時の反日デモのころは、日本製車両の輸入は「売国行為だ」と猛烈な攻撃にさらされた。日本やドイツの企業は事情を知っているので、中国が「独自技術」と宣伝しても強く抗議しない。

 鉄道省が世界最高速にこだわったのもわけがある。中国で改造した車両が原型車を上回るスピードを出せば、米国で特許が認められるからだ。

 事故の遠因は、外国の技術を謙虚に学ぶ度量のない保守愛国派の存在ともいえるだろう。加藤氏の新刊評論集の題は「愛国奴」。愛国心が過ぎるとろくなことはないということか。(専門編集委員)

毎日新聞 2011年8月4日 東京朝刊

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