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[29157] 世界に反抗してみたい
Name: 藻式パンッアー◆d63afb97 ID:8a388b8d
Date: 2011/08/03 21:16
世界は五分前に始まっている。
私たちは数秒前に作られた、仮初だが精巧で繊細な記憶に縋りつき生きている。

それを私たちの間では『世界五分前仮説』又は『世界誕生数秒前説』とも言われているが、それは些細な事だ。
現時点で最も重要な事は何なのか、それは一体誰が『精巧で繊細な記憶』を作ったのかだ。

仮に『世界五分前仮説』が正しいとするならば、五分前始まった世界を作った者がいるはずだ。
その妄想の産物でしかない存在を私たちは『観測者』と呼んでいる。


ここに一つの絵本が有る、■■■は今それを観測している、内容はとてもメルヘンだ。
悪魔にさらわれた王女様を、勇者様が助け出すストーリー、けれど勇者様と王女様は■■■を観測する事が出来ない、■■■は観測しているのに。
大きな壁があるからだ、次元と言う名の大きな壁が。

これの例えと同じように『観測者』という存在が別の次元に存在すると予測されている。

しかし人類も何もせず、今まで生きてきたわけではない。
2021年現在から10年前の8月15日、世界分岐に伴う局地的時空振動が観測された。
『観測者』が見せた隙、油断、慢心。

8月15日それは初めて私たち人類が『観測者』を観測した日―――――――――。





第一話 奮闘




「っ―――――――――――!」

避けないと死んじゃうわよ、アイツのそのたった一言で身体に明確な寒気が奔った。
その言葉がハッタリであれ真実であれ、それは敵の精神に干渉する悪辣な罠、圧倒的自分が有利なこの状況で、相手の動き次第で如何とでも捻り殺せるこの状況で、
未だ見えぬが襲い掛かるであろう脅威から自身の“死”を感覚した。

――ビュン…っ!――


眉間を狙う一撃。私目掛け、何かが唐突に迫りくる。


――ドォオオオオオン!!――


閃光と爆音、発生源は先ほどまで自分が立っていた場所。爆発の前触れは無く、強いて言うのなら私が攻撃を観測したその刹那。


「―――――――ッ」

無言のまま、アイツは煙の向こう側にいるであろう私にナイフを投げつける。
生きているのか、死んでいるのか、軽傷なのか重傷なのかは分からないが、今の内にトドメを刺すべく致死の一撃を見舞わせる。


――ガキキィン!――


…そして、二つの金属音。私は生きていた。
ビュンと煙を引き裂いて、紅蓮色の少女は現れる。煤で衣服は薄汚れているが、アイツと同じく重傷は一つも無い。


「……うわぁ驚いた。何処から攻撃が来たのか全く分からない、それに突然爆発するなんて…流石にそれは予想出来いわ。」

「私の手品も中々だろう? 少しは驚いてくれて何よりだね。」

そうは言うものの、内心で苦い思いが少しも無い訳では無い。
私にはアイツの攻撃に反応する事はできない、今までは何とか持ち前の危機察知能力で脅威を悟り捌ききってこれたがもうもたないだろう。

一見私は有利だった、軽い暗器は装備しているだろうが基本アイツは無手、私は日本刀を装備している。どの観点から見ても私の勝利は必然だった。

けれど現実。少し見栄で捌き切ったと言ったが、実は捌いてる訳ではない、受けた攻撃のダメージを何とか最低限に納めているのだ。

「不思議そうな顔をしているな、攻撃が何処から来ているのか分からないという表情だ。」

アイツの一言に、私は否定できなかった。

「少し種明かしをしよう、いやはや…自分の能力を説明するのがこんなにも楽しい事だとは思わなかったぞ。」

―――ニィ、とアイツは笑う。面白可笑しいと壮絶な笑顔を顔に刻む。
なんといっても強敵なのだ、これが愉しく無いワケが無い。
そんな相手と死合いを行い、何より殺し合いを自分と行える強者と会話をする、こんなに楽しい出来事は今までになかったの。

「シュレーディンガーの猫―――知っているか?」

もちろん知っている。
箱を開ける前の「原子の状態」を量子力学では、「観測するまでわからないので、分裂していない原子と、分裂した原子が混ざった状態である」と説く。
これを箱の中に入っている物を原子から猫に変えた物の事だ。
原子の状態によって、猫の生死の状態が決定されるのだから、猫の状態も「生きた猫と、死んだ猫が混ざった状態」となっている。
量子力学では、「箱を開ける前は、生と死が混ざった状態で存在する。箱を開けた時に、生きるか死ぬかのどちらかの状態に変化する。

ようするに、観測するまで判らない――――。

「そう、理解できない、判らないんだよ、私の攻撃は。」

「――?よく、判らない。」

「そうか、判らないか……。」

そう言ってアイツは笑みを深める。ただそこに在るだけで強大な存在感は私の体の芯まで強く揺さぶる。
少しの間の後、アイツは静かに口を開いた。

「それなら、これは判るか?」

私はアイツの姿を凝視するが何も変わった所は無い。
静かに首を左右に振ると私の右手から刀が消えた。

「――――っな」

遅れて響く音。鉄と鉄が擦れる音だ。

――カキィン!――

「ほら、もう判るだろ――?」

なるほど、だからシュレーディンガーの猫…か。
心の中で苦笑してアイツの顔を見る。

「ええ、判った、理解した――――貴方の攻撃は、観測するまで判らない。」


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