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D&M 日経メカニカル2002年2月号 no.569
■ 特集 Cover Story
玩具(ゲーム)に学ぶ元気の秘密

 2001年,機器メーカーは未曾有の不況に翻弄された。まず,3年連続で2ケタ成長を遂げてきたパソコンが失速,一転マイナス成長に陥る。電子情報技術産業協会(JEITA)によれば,2001年度上半期の国内パソコン出荷台数は前年度同期比10%減,2001年度通年でも前年度割れになることは必至だ。それより痛いのは「ポストPC」として電子機器市場をけん引してきた携帯電話機の停滞。JEITAの集計では,移動通信体の国内出荷台数は2001年6月から11月まで,6カ月連続で前年同期比割れを記録している。
 「デジタル家電はほぼ全滅」といった様相を呈する中,前年比100%増という,驚異的な成長を遂げた製品群がある。「体感アクションゲーム」と呼ばれるものがそれだ。サッカーにホッケー,スノーボードなどのスポーツゲーム,さらにはガンゲームやカラオケなど,多種多様な製品が店頭に並ぶ。
 その実体は,テレビ受像機につなぐだけで「本物」に近いアクションを体感できる家庭用ゲーム機だ。初登場は2000年3月。2001年12月には大手玩具店の売り上げランキングで,上位25位に5製品を送り込んだ。製品バラエティーの拡大も目覚しい。2000年中はほんの数種類だったが,2001年に入ると10種類以上に増加。市場規模は2000年の50億円から,2001年には100億円へと倍増する見込みだ。
 中でも目立つのが,タカラが販売する「e-kara」の健闘ぶり。発売から1年2カ月で140万台を突破したという。それに負けじと,トミーの「ティービーホッケー」は発売から約1カ月で15万台を出荷した。2002年1月にはエポック社が新たに「エキサイトテニス」など3製品を発表,4月から順次発売する。他社も新製品を開発しており,その勢いはまだまだ続きそうだ。
 このブームを起爆剤に,家庭用ゲーム市場全体が活気づいているのも見逃せない。「体感アクションゲームのブームにテレビゲーム機の好調さも相まって,家族で楽しめるゲームが全体的に伸びている」(高島屋)。実際,高島屋の関東9店舗を合計した12月の販売成績をみると,PS2などのテレビゲーム機を除く家庭用ゲームの売り上げは,前年比で20%アップしたという。(荻原博之,狩集浩志,土肥研一)

  2001年12月売れ筋商品ランキング
(売上高ベース,東京・銀座の博品館トイパーク調べ)
Part1 不況に勝つ
大企業の「逆」を行き、成熟市場を掘り起こす
Part2 業務用ゲーム機
「こだわり」をちりばめ、期待感を駆り立てる
Part3 家庭用ゲーム機
ツボさえ押さえれば、まだまだコストは削れる

2001年12月売れ筋商品ランキング
(売上高ベース,東京・銀座の博品館トイパーク調べ)
1位 ニンテンドーゲームキューブ 任天堂 2万5000円
2位 ベイブレード タカラ 200円〜
3位 デジキュー タカラ 4980円
4位 レゴ ハリーポッターシリーズ レゴジャパン 650円〜
5位 ゲームボーイアドバンス 任天堂 9800円
6位 プレイステーション2(PS2) ソニー・コンピュータ
エンタテインメント
2万9800円
7位 キャンディバブル テンヨー 200円
8位 百獣戦隊ガオレンジャー
パワーアニマルシリーズ
バンダイ 1500円〜
9位 e-kara タカラ 5800円〜
10位 スーパーロボット ドリームフォース01 タカラ 4万9800円
11位 のほほんタイム プーさん サンアンドスター 4万9800円
12位 ティービーホッケー トミー 5980円
13位 ポケットホース トミー 2480円
14位 大乱闘スマッシュブラザーズDX 任天堂 6800円
15位 クイズ$ミリオネア エレクトロニクスゲーム トミー 5980円
16位 ハムちゃんず大集合 ダンスするのだ!走るのだ! エポック社 6980円
17位 こんにちはあかちゃん タカラ 3500円
18位 スーパーマリオアドバンス 任天堂 4800円
19位 プリモプエル バンダイ 6980円〜
20位 ギンギンボーダーズ タカラ 6800円
25位 エキサイトストライカー エポック社 6980円
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[Part1]不況に勝つ
大企業の「逆」を行き
成熟市場を掘り起こす

逆風にめげず,家庭用ゲーム機が元気だ。中でも成長株は,一昨年登場し市場規模を急拡大する,体を動かして遊ぶ「体感アクションゲーム」。人気の秘密は「プレイステーション2」や「ゲームキューブ」にはない「分かりやすさ」と「価格の手ごろさ」,さらには体感という新しい「楽しさ」を提供したことだ。そこには,コストをはかりに掛けながら,ゲームとして何が本当に必要か,こだわるところはこだわり,犠牲にするところは犠牲にする,確かな「目」が光っていた。

 JR京都線の草津駅から車で走ること約10分。住宅や町工場が立ち並ぶ一角に,その会社はある。
 従業員数約50人。ほんの小さな,この集団こそが家庭用ゲーム業界に一大旋風を巻き起こした「張本人」だということを,ほとんどの人は知らない。

元をたどれば,ただ1社
 新世代が手掛ける商品の一つに「体感アクションゲーム」と呼ばれる家庭用のアミューズメント機器がある。ゲーム機をテレビ受像機につなぎ,画面を見ながら体を動かして遊ぶ。
 こうした商品の先駆けが,エポック社が2000年3月に売り出した野球ゲーム「エキサイトスタジアム」だった。以降,エポック社は卓球ゲーム「エキサイトピンポン」やサッカーゲーム「エキサイトストライカー」,タカラは家庭用カラオケ「e-kara」やスノーボードゲーム「ギンギンボーダーズ」,トミーはホッケーゲーム「ティービーホッケー」などを発売(図)。それらがことごとくヒット商品となり,国内市場だけでも売り上げは2000年が約50億円,2001年には100億円に達しそうだ。
 これだけの急成長を遂げ,「おもちゃの世界に新ジャンルを築いた」と評される体感アクションゲーム。多くのおもちゃメーカーや販売会社が参入し,2001年12月現在,全世界で市場に出回っている商品数は30種類以上に上る。ところが,これらすべての心臓部には,同じプロセサ「XaviX」が搭載されていることは,意外に知られていない。玩具業界と関係の深い業務用ゲーム機メーカーですら「言われて初めて知った」と口をそろえる。
 その,知られざるプロセサを開発し一手に供給しているのが新世代(SSD)だ。ゲームの企画/提案,関連するソフトウエア,コントローラなどの開発から,さらには設計,製造までを手掛け,それらの成果をおもちゃメーカーや販売会社に対してライセンス供与している。
 ただし,販売に関してはおもちゃメーカーや販売会社に委ねることが多く,商品名も「新世代の…」ではなく「エポック社の…」「タカラの…」としているため,新世代というブランドが前面に出ることは少ない。が,その存在証明としては,どの体感アクションゲームをテレビにつないでみても,まず最初に「XaviX TECHNMOLOGY Licensed by SSD COMPANY LIMITED」という文字が画面に映し出されるようになっていることだ。黒子役に徹しているのである。 (以下、「日経メカニカル2月号」に掲載)


【図】家庭用体感アクションゲーム 最も奥がタカラの「ギンギンボーダーズ」。手前右からエポック社の「エキサイトストライカー」「エキサイトピンポン」,トミーの「ティービーホッケー」,タカラの「ガンガンアドベンチャー」。
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[Part2]業務用ゲーム機
「こだわり」をちりばめ
期待感を駆り立てる

家庭用ゲーム機に押され,苦戦を強いられているかにみえる業務用ゲーム機業界。しかし現実は,さにあらず。これまでゲームセンターに縁遠かった女性や家族の取り込みに成功し,2001年9月の中間決算ではセガやナムコなどが軒並み増収となった。女性や家族を引き付けたのは,家庭用の体感アクションゲームと同様,「体感」だった。そこに「自分にもできそう」という期待感を盛り込み,高性能家庭用ゲーム機では味わえない「楽しさ」をユーザーに訴求している。

 2000年春,業務用ゲーム機大手のナムコでは,試作品の社長発表会が開かれていた。ゲームセンターの明日を担うべき「候補生」が3台,プレゼンテーションをいまや遅しと待っている。トップバッターは,和太鼓を使ったゲーム。開発を担当した第1開発本部の大石益也係長が口を開こうとしたその瞬間,会議室に時ならぬ軍艦マーチが鳴り響いた。
 その「犯人」は中村雅哉取締役会長兼社長だった。いきなりゲーム機に駆け寄るや,「バチ」を取り上げ和太鼓をたたき始めたのだ。およそ2分。ゲームを終えた中村会長の「成績」が画面に表示される。
「犬並みです」
 試作機での成績評価は上から「車並み」「自転車並み」「人並み」「犬並み」。よりによって最低ランクとは。大石氏はじめ,関係スタッフの視点がプレーヤーに集中する。その視線を感じてか,会長は「俺は犬か」とつぶやきつつも笑顔で戻っていったという。
 この反応に,関係スタッフは大きな手応えを感じたという。気に入らなければ寝てしまい無関心を装うこともあるという中村会長が,いきなりゲームを始め,笑顔でそのプレーを終えた。
「俺は犬か」。その一言は,彼らにとっては最上の「誉め言葉」だったのだ。
 そんな出来事から10カ月後,くだんのゲームが「太鼓の達人」の名でゲームセンターに登場,たった2カ月で300台を出荷した。予想以上の好調さに早々と「太鼓の達人2」の製品化も決まった(図)。中村会長の目に狂いはなかったのである。

できそう」と思わせる
 太鼓の達人は,バチを手に,自ら選択した音楽に合わせて太鼓を打つゲームである。ただし,無闇やたらに打つわけではない。画面の中を右から左に次々に流れてくる音符が,左隅の「判定枠」に重なった瞬間をとらえて打つ。音符は「ドン」と「カ」の2種類。ドンで太鼓の面を,カで縁をたたく。単調なテンポで打つだけでなく,連打あり強打あり,音楽に合わせてさまざまなバチさばきを見せなければならない。
 こうしたルールは,ちょっと見ればだいたい見当が付く。全く事前に説明を受けていなかった中村会長がいきなりプレーできたのはそのためだ。そして,バチを手にいざ和太鼓をたたき始めると,瞬く間に「その気」になってしまう。感触や音が実に「本物っぽい」ためだ。
 そこには,快進撃中の家庭用体感アクションゲームと同じく「分かりやすさ」「体感」という要素が巧妙に組み込まれているのである。
 ただし,家庭用の体感アクションゲーム機と業務用ゲーム機では,少し事情が異なる。分かりやすければすぐに受け入れてもらえる,というわけでもないのだ。それは,課金方法の違いに起因する。
 家庭用ゲーム機は,一度買ってしまえば何度でも,何時間でも遊べる。ところがゲームセンターなどにあるゲーム機は,1回プレーするごとに100円,200円と料金を払わなければならない。分かりやすい,体感できて楽しそう,というだけでなく,初めてでも「できるかもしれない」「そこそこの得点が出るかもしれない」という期待感を抱かせなければならない。「面白くなるためにはかなりの投資が必要」と思わせてしまうと,最初の1ゲームすらしてもらえないのだ。 (以下、「日経メカニカル2月号」に掲載)


【図】音楽に合わせて和太鼓をたたくゲーム機「太鼓の達人」シリーズ
(a)製品写真。写真はシリーズ2作目の「太鼓の達人2」。和太鼓を二つ取り付け,「祭」の文字と陣太鼓のちょうちんをあしらったデザインが人目を引く。誰が見ても太鼓をたたいて遊ぶゲームだと分かる。(b)ゲーム画面。 NAMCO LTD.,ALL RIGHTS RESERVED
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[Part3]家庭用ゲーム機
ツボさえ押さえれば
まだまだコストは削れる

これまで,ゲームをしなかった大人が自分のために買う。「プレイステーション」や「ゲームキューブ」など家庭用ゲーム機には白い目を向ける親が「これなら一緒に遊べる」「体を動かすから健康にもいい」と子供に買い与える。体感アクションゲームのヒットは,こうした大人の存在を抜きには語れない。そこには,コストを抑えつつ,大人も子供も満足する「楽しさ」を付加する巧妙な仕掛けがある。ゆめゆめ「子供のおもちゃ」と侮るなかれ―。

 パッケージのデザインを一新しよう―。エポック社が野球ゲーム「エキサイトスタジアム」を発売してからわずか半年後のことだ。購入層が,思ったより広いことに対応した決断だった。
 エポック社は当初,野球ゲームのユーザーとして対象年齢6歳以上の,主に小学校低学年層を想定していた。そのため,顔となるパッケージは子供向けに大きく,にぎやかなデザインを採用していたが,売り出してみると,子供に限らず,中高生,大学生,さらにはサラリーマンまでが購入していく実態が浮き彫りになった。
 そこで急きょ,パッケージの変更に踏み切った。大人も買いやすいようにと,パッケージを小さくし,紙袋に入れて持ち帰れる大きさにしたほか,少し落ちついたデザインに変えたのだという(図)。
 こうした「子供も大人も虜にする」体感アクションゲームの最大の魅力は,バットやラケットを思い切り振って楽しむ,文字通り「体感」にある。この楽しみは,以前はゲームセンターまで足を運び,数分のプレーに100円,200円といった料金を払わなければ味わえないものだった。それを家庭で,時間無制限で遊べるようにしたわけだ。
 アピールすべきは手軽さ。当然,価格が重要な要素になる。そこで大きな優位性を示すことさえできれば「機能面で業務用ゲーム機を下回っていても構わない」(タカラ)。「楽しさ」さえ損なわれなければ。

コースを犠牲に
 2000年10月の発売以来,販売台数が50万台に達するというヒット商品になったエポック社の「エキサイトピンポン」。開発を担当したのは新世代である。画面の中の対戦相手に向かってラケット形コントローラを構え,相手が打ってきた玉を打ち返す。もちろん,玉がラケットに当たるわけではない。画面の中を自分のコートに向かって飛んでくる玉に合わせて,タイミング良くラケットを振る。すると,玉は乾いた音を残して相手のコートに飛んでいく。少し練習すれば,簡単にラリーが続くようになる。
 玉は左右に飛んでくるから,自然とフォアとバックを使い分ける。ラケットを振るタイミングが悪いと,空振りになったりアウトになったりする。逆に,タイミングが良く振りが速ければ,時速200km前後のスマッシュがさく裂する。このあたりの感覚は本物の卓球とほとんど変わらない。
 ただし,ゲームと本物の卓球の間には決定的な違いが二つある。一つは,ゲームではラケットには決して玉が当たらないことだ。その代わり,ラケットを振った瞬間,「ピン」「ポン」「ピン」「ポン」という妙に本物っぽい効果音が入る。それだけで,玉が当たらなくても「当たった気」になってしまう。
 もう一つの違いは,ゲームでは飛球のコースなどを無視したことである。本物の卓球では,返球の軌道(コース)は,飛んできた球のコースとラケットの相対位置,ラケット面の角度,ラケットを振るタイミング,振る方向などさまざまな要素で決まる。これを忠実に再現するには,ゲームに使うラケット形コントローラに複数軸の加速度センサや画面との相対位置を検知するセンサなどを搭載しなければならない。ところが,実機に使っているのは,振るタイミングを検知するための単純な加速度センサだけだ。
 理由はコスト。低コスト化の要求はかなり厳しく,3軸といった高価なセンサは使えない。載せると決めた1軸の加速度センサすらも,1個当たり数百円という市販品は高すぎて採用できなかった。そこで,このゲームを企画した新世代は,自ら加速度センサを開発した。 (以下、「日経メカニカル2月号」に掲載)

【図】エポック社の「エキサイトスタジアム」のパッケージ (a)発売当初。子供向けにパッケージが大きくにぎやかなデザイン。(b)半年後。購買層が子供から大人まで幅広いことから,パッケージを小さくし,少し落ちついたデザインに変更した。
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