家庭用ゲーム機に押され,苦戦を強いられているかにみえる業務用ゲーム機業界。しかし現実は,さにあらず。これまでゲームセンターに縁遠かった女性や家族の取り込みに成功し,2001年9月の中間決算ではセガやナムコなどが軒並み増収となった。女性や家族を引き付けたのは,家庭用の体感アクションゲームと同様,「体感」だった。そこに「自分にもできそう」という期待感を盛り込み,高性能家庭用ゲーム機では味わえない「楽しさ」をユーザーに訴求している。
2000年春,業務用ゲーム機大手のナムコでは,試作品の社長発表会が開かれていた。ゲームセンターの明日を担うべき「候補生」が3台,プレゼンテーションをいまや遅しと待っている。トップバッターは,和太鼓を使ったゲーム。開発を担当した第1開発本部の大石益也係長が口を開こうとしたその瞬間,会議室に時ならぬ軍艦マーチが鳴り響いた。
その「犯人」は中村雅哉取締役会長兼社長だった。いきなりゲーム機に駆け寄るや,「バチ」を取り上げ和太鼓をたたき始めたのだ。およそ2分。ゲームを終えた中村会長の「成績」が画面に表示される。
「犬並みです」
試作機での成績評価は上から「車並み」「自転車並み」「人並み」「犬並み」。よりによって最低ランクとは。大石氏はじめ,関係スタッフの視点がプレーヤーに集中する。その視線を感じてか,会長は「俺は犬か」とつぶやきつつも笑顔で戻っていったという。
この反応に,関係スタッフは大きな手応えを感じたという。気に入らなければ寝てしまい無関心を装うこともあるという中村会長が,いきなりゲームを始め,笑顔でそのプレーを終えた。
「俺は犬か」。その一言は,彼らにとっては最上の「誉め言葉」だったのだ。
そんな出来事から10カ月後,くだんのゲームが「太鼓の達人」の名でゲームセンターに登場,たった2カ月で300台を出荷した。予想以上の好調さに早々と「太鼓の達人2」の製品化も決まった(図)。中村会長の目に狂いはなかったのである。
できそう」と思わせる
太鼓の達人は,バチを手に,自ら選択した音楽に合わせて太鼓を打つゲームである。ただし,無闇やたらに打つわけではない。画面の中を右から左に次々に流れてくる音符が,左隅の「判定枠」に重なった瞬間をとらえて打つ。音符は「ドン」と「カ」の2種類。ドンで太鼓の面を,カで縁をたたく。単調なテンポで打つだけでなく,連打あり強打あり,音楽に合わせてさまざまなバチさばきを見せなければならない。
こうしたルールは,ちょっと見ればだいたい見当が付く。全く事前に説明を受けていなかった中村会長がいきなりプレーできたのはそのためだ。そして,バチを手にいざ和太鼓をたたき始めると,瞬く間に「その気」になってしまう。感触や音が実に「本物っぽい」ためだ。
そこには,快進撃中の家庭用体感アクションゲームと同じく「分かりやすさ」「体感」という要素が巧妙に組み込まれているのである。
ただし,家庭用の体感アクションゲーム機と業務用ゲーム機では,少し事情が異なる。分かりやすければすぐに受け入れてもらえる,というわけでもないのだ。それは,課金方法の違いに起因する。
家庭用ゲーム機は,一度買ってしまえば何度でも,何時間でも遊べる。ところがゲームセンターなどにあるゲーム機は,1回プレーするごとに100円,200円と料金を払わなければならない。分かりやすい,体感できて楽しそう,というだけでなく,初めてでも「できるかもしれない」「そこそこの得点が出るかもしれない」という期待感を抱かせなければならない。「面白くなるためにはかなりの投資が必要」と思わせてしまうと,最初の1ゲームすらしてもらえないのだ。
(以下、「日経メカニカル2月号」に掲載)

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【図】音楽に合わせて和太鼓をたたくゲーム機「太鼓の達人」シリーズ (a)製品写真。写真はシリーズ2作目の「太鼓の達人2」。和太鼓を二つ取り付け,「祭」の文字と陣太鼓のちょうちんをあしらったデザインが人目を引く。誰が見ても太鼓をたたいて遊ぶゲームだと分かる。(b)ゲーム画面。
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