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2011年8月4日(木)付

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賠償支援法―玉虫色のままでは困る

東京電力による原発事故の賠償を進めるための原子力損害賠償支援機構法が成立した。8月中にも電力各社などの出資で支援機構を設立。東電の資金繰りを支えるため、政府はまず、利子[記事全文]

再生エネ法案―これでは世界に遅れる

国民の関心が高い自然エネルギー普及への意志と戦略を、この政治家たちは持っているのか。首をかしげたくなる。再生可能エネルギー特別措置法案の修正論議が始まった。その柱は、風[記事全文]

賠償支援法―玉虫色のままでは困る

 東京電力による原発事故の賠償を進めるための原子力損害賠償支援機構法が成立した。

 8月中にも電力各社などの出資で支援機構を設立。東電の資金繰りを支えるため、政府はまず、利子のつかない交付国債2兆円を発行する。

 法案は自民、公明の要求を盛り込む形で修正された。だが、与野党ともそれぞれに電力改革派と維持派とが混在しており、せめぎ合いの結果、後からいかようにも解釈・運用できる玉虫色の条文が少なくない。

 野党の最大の要求だった「国の責任」については、「損害賠償の迅速かつ適切な実施」に国が万全をつくす旨の条文が追加された。そのうえで、交付国債による支援だけでは資金が不足した場合、賠償原資に国の予算を直接入れることができる条文も加わった。

 原発被災者にしわ寄せがいかないよう、最終的に国が賠償の責任を負うのはやむを得ない。ただ、それは東電を法的整理し、徹底的なリストラや減資、金融機関の債権放棄などで利害関係者の責任を最大限追及してからの話だ。

 その障害だった「東電を債務超過にさせない」との閣議決定は、衆参両院で「見直し」が付帯決議され、菅政権も国会の意思を尊重する意向を示した。

 東電を法的整理すると、弁済順位の低い賠償金が一律カットされてしまう問題も、賠償支援に対する国の責任の明示で解決のめどが立った。

 あとは、賠償範囲の決定や東電資産の洗い出し作業を急ぎ、債務超過が明確になった時点で法的手続きに入る。それが修正を経た法律の素直な読み方だ。

 ところが、国会審議の終盤で、東電の債務超過を避けるために経済産業省が作成したとされる「修正してはいけないポイント」を記した文書の存在が明らかになった。これが与野党協議に影響を与えた節もある。

 新法には、東電やその株主、貸手である金融機関などにどう責任を問うかといった具体的な言及はない。目を光らせていないと、運用次第で、なし崩し的に税金投入が進みかねない。

 もちろん、被災者は待ったなしの状況にあり、いつまでも議論を続けるわけにはいかない。支払い態勢など詰めなければいけない点もある。機構設立の作業自体は急ぐべきだ。

 玉虫色の中身が正しい方向に向かうかどうかは国会のチェック機能にかかっている。本来、被災者を救済するはずの国費投入が、東電の延命に使われてはならない。

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再生エネ法案―これでは世界に遅れる

 国民の関心が高い自然エネルギー普及への意志と戦略を、この政治家たちは持っているのか。首をかしげたくなる。

 再生可能エネルギー特別措置法案の修正論議が始まった。その柱は、風力や太陽光などで発電する電力を長期間、固定価格で電力会社に買い取らせる制度だ。自民、公明両党はこの買い取りによる電気代上乗せに上限をつけることを要求し、民主党も受け入れる方向だという。

 新制度による買い取り金額は電力代に上乗せされる。この上乗せ分を1キロワット時あたり0.5円を超えさせないとする案が有力になっている。標準家庭だと月額150円にあたる。電気代の急激な上昇を避けるためという言い分だ。

 経産省の試算では、これだと総発電量に占める自然エネルギーの割合は2020年までに4〜5%しか増えそうにない。

 普及をめざす自治体やNPOは落胆している。滋賀県の嘉田由紀子知事は「今の審議のままでは、普及法ではなく阻害法になる」と語り、関西の他の知事とともに批判声明を出した。

 明細書に記されていないが、電気代には原発の電源立地交付金などの消費者負担が、1世帯あたり月額300円ほど含まれているとの試算がある。つまり原発のためには、自然エネルギー買い取りに制限を求める人たちがいう負担増上限の、2倍の額がすでに課されている。

 電気代は今年に入って上昇している。石油、液化天然ガスなどの化石燃料の値上がりによって、東京電力管内の標準家庭では9月の電気代が2月に比べて月額500円以上高くなる。原発停止によって化石燃料の輸入が増えるので、今後さらに値上がりは避けられまい。

 化石燃料の輸入や原発にかかわる負担増には歯止めがなく、自然エネルギーの上乗せにだけ先に上限をつけるのか。国民の理解を得られるだろうか。

 自然エネルギー投資を促す、きめ細かで魅力的な制度にすることが法案の狙いだ。買い取り価格は、その目的実現と企業や家庭への影響とのバランスの中で熟考するべきだ。

 再生エネ法案は、菅直人首相の退陣3条件の一つだ。成立を急ぐ気持ちはわかるが、自然エネルギーの十分な普及につながらない内容となるなら、本末転倒も甚だしい。

 日本は風力発電を伸ばせる場所が多い。太陽光発電には技術の蓄積がある。急速に普及している欧州や中国に追いつき、新産業と雇用創出につなげる。そんな議論を期待したい。

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