だからといって、ケガをして立場の弱い患者に「交通事故は健康保険を使えない」とウソをつき、割高な自由診療を適用するという行為は決して許されるものではない。ましてや冒頭のAさんのケースは加害者のいない単独事故で、賠償金を払ってくれる相手もいない。そうした患者にも当然のように自由診療を適用するのはモラルの問題を超えている。こうしたやり方を続けることは医療機関への不信感を増すことになり、決してよい結果は生まないだろう。
再び大学病院に行く日までに情報収集をしたAさんは、抜糸後の会計のときに「交通事故も保険診療が使えることは、厚生労働省の通達でも認めています。私も健康保険が使えると思うのですが……」と控えめに伝えてみた。
困惑顔の事務職員は上司に相談すると、保険診療での領収書を新しく切り直し、自由診療との差額の4万6750円をあっさり返還してくれたという。
Aさんは無事にお金を取り戻すことができたが、今でも「交通事故は健康保険が使えない」と信じて、そのままになっている人も多いのではないだろうか。まさに「知らないと損する」を実感する出来事であった。