生活保護受給者に自治体が引っ越し費用を支給する制度をめぐり、神戸市内の運送会社が神戸市に費用を水増し申請した疑いがあるとして、同社社員と元社員が、兵庫県警を通じ「詐欺行為」などと同市に告発していたことが分かった。2人は「(会社は)受給者に仕事をもらう見返りに現金を渡す約束をしている」と説明。申請を受けていた市は、同社への発注を打ち切るとともに、調査に乗り出した。
転居費を水増しし費用を詐取する事件は、暴力団関係者による「貧困ビジネス」として全国で相次いだ。専門家は「一般の業者や受給者にまで広がっている可能性がある」と指摘している。
告発によると、受給者は妻と離婚したため単身で引っ越しを予定。6月中旬、元社員に「受注できるようにするので現金がほしい」と相談した。元社員は断ったが別の社員が請け負い、同24日付で総額14万5千円の見積書を市に申請した。社内向けには総額9万5千円の見積書を出し、5万円の利益を受給者に還元する約束をしたという。
社内向け見積書は申請分に比べ、どの項目も運送量が減らされ、ソファ3台が1台に、扇風機3台が0台になるなどしていた。社員らは6月末に県警に相談し「共犯になるのが嫌で打ち明けたが、受注実績を上げる手段として社内で常態化している」などと話した。
県警から連絡を受けた市は「不正の疑いを否定できない」と判断。引っ越し業者を変えさせ、関係者から事情を聴くなど調査を始めた。
同社社長は「見積書を作った社員に事情を聴いても分からない部分が多く、現段階ではきちんと指導してきたはず、としか答えられない」と話している。
【生活保護受給者への転居費支給】
生活保護法に定められ、自治体が支給する。支給に際しては自治体が審査。「やむを得ない事情」がある場合に認める。神戸市では、生活保護受給者が選んだ3社の見積もりから、最も安い額を提示した業者に発注する。
(2011/08/04 08:00)
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