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きょうの社説 2011年8月4日
◎長谷川等伯展 美術王国の奥行き示す作品群
能登から京に出た絵師が才能を大きく開花させ、狩野派に対抗する画壇の実力者になる
。長谷川等伯はこのように京都中心のサクセスストーリーで語られるあまり、能登時代が軽視されがちだったが、その時代に光を当てた長谷川等伯ふるさと調査で、若き日に類いまれな能力を発揮し、能登で生き生きと活躍していた実像が浮かび上がってきた。石川県七尾美術館で6日に開幕する「長谷川等伯展」は、これらの調査で分かった画聖 の能登時代の姿を、新たに発見された作品とともに紹介するものである。 中央の視点、あるいは作品中心で語られてきた等伯を、出身地である能登というフィル ターを通して見つめ直し、人物像を描き直す。ふるさと調査のその狙いは、前田家と等伯の深い関係をうかがわせる文書が新たに見つかるなど、多くの成果を挙げた。 身近になった等伯の作品群は美術王国石川の奥行きを示すものといえ、地域の視点から 、その源流を掘り下げていくのも面白い。等伯が手掛けた仏画は宗教と美術の結晶であり、そこから地域とのつながりに迫るヒントもあろう。今回の等伯展を、ふるさとの画聖をもっと深く知るきっかけにしたい。 長谷川等伯展には新たに確認された等伯による日蓮宗本住寺(ほんじゅうじ)(珠洲市 )所蔵の「日蓮聖人画像」や氷見、輪島両市の寺院で見つかった養父・長谷川宗清(そうせい)による仏画が展示されるなど、調査の成果が盛り込まれている。今回の展覧会は、等伯を名乗るまでの「信春」時代に焦点が当てられた。 昨年7月に始まった調査は石川、富山両県をはじめ、京都、横浜でも行われた。美術と 歴史の専門家が意見をすり合わせて調査を進めた結果、養父と養祖父からの強い影響を含め、能登時代は長谷川一族としての存在感が際立っていたことも判明した。等伯やゆかりの作品を今日まで伝えてきた寺院の役割も見逃すことはできない。 等伯にちなんだ、ふるさと教育や地域おこしの動きも広がっている。感想文・絵画コン クールの作品も募集しており、より多くの若者が等伯に触れてほしい。
◎コメの安全対策 より丁寧な検査と説明を
これから収穫期を迎えるコメの安全対策として、農林水産省が収穫後だけでなく、収穫
前にも放射性セシウム濃度の予備検査を実施する2段構えで臨むのは妥当な判断である。コメの作付けは4月に、土壌1キロ当たり5千ベクレルを超える福島県の一部地域で禁 止されているが、その時点では土壌汚染の詳細はまだ判明していなかった。福島の原発から遠く離れた宮城県北部の稲わらで高濃度のセシウムが検出されたように、汚染は予想を超え、不規則な形で広がった。作付けが認められた地域はすべて安全とは言い切れず、汚染米を市場に流通させないためには二重三重のチェックが必要になる。 コメは国民の主食であり、基準値超えの商品が流通すれば、他の食品以上に混乱が広が り、風評被害が深刻化する恐れがある。政府の対策が後手に回り、市場に流通した汚染牛肉と同じ轍を踏んではならない。まずは店頭に並ぶコメは安全であるという仕組みを整えることが大事である。 たとえ基準値以下であってもコメは日常的に口にするだけに、数値の根拠もより丁寧な 説明が求められる。土壌や空間から高濃度のセシウムが確認された地域が対象となる予備検査は、玄米の段階で実施されるが、精米した後、炊いた後などで数値はどの程度まで低減するのか疑問点は少なくない。専門家の間でも見解が分かれるとはいえ、生産者、消費者双方の不安にこたえられるよう政府は説明を尽くしてほしい。 福島県とその周辺地域は、コメ収穫量上位10県のうち9県が集中する一大産地である 。コメの検査は日本農業を放射能汚染から守る、まさに正念場といえる。コメの販売は多様なルートが存在するだけに、不正な流通を見逃さない体制づくりも必要である。 静岡県は早場米のサンプル調査で放射性物質が検出されなかったとの結果を公表した。 これから検査を実施する自治体は増えていくが、手法などにばらつきが生じないよう、国は検査の仕組みを周知徹底させ、機器の確保など必要な支援策を講じてほしい。
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