きょうのコラム「時鐘」 2011年8月4日

 国民栄誉賞を受ける「なでしこジャパン」の大野忍選手の喜びの言葉が秀逸である。「栄養賞だと思った。おいしいものをもらえる」

エイヨとエイヨウ。典型的な「おやじギャグ」も、時と人を得るとキラリと輝く。恵まれない環境でサッカーを続ける選手には、1枚の賞状以上に強さを高める栄養分が必要だろう。栄養になってこそ栄誉賞の値打ちはある。駄じゃれを侮ってはいけない

世界に禅を広めた鈴木大拙も、似たような駄じゃれを残している。金沢の没落士族の家に生まれた大拙は、留学や出版の費用、家や書斎の建設費まで友人たちに無心し続け、懐が豊かでない人たちも彼を支えた。喜んで施しを与えることを「喜捨」という。「あれは喜捨ではなく『苦捨』だった」。そう大拙は記す

「苦捨」という言葉はない。キシャに掛けたクシャ。「世界の禅者」にして、おやじギャグ並みの腕前である。が、「苦捨」の意味は分かるし、通用してもいい言葉だとも思う

「なでしこ」に、感動をありがとう、と言うだけならたやすい。栄養や「苦捨」を忘れた栄誉賞なら、それこそしゃれにもなるまい。