経済学には、大きく分けて次の4つがあります。
1) 純粋に学問的な興味で、お金の流れとか人の仕事を整理する、
2) 国家の経済を解析し、よりよく運営するために役立てる、
3) お金の流れを理解し、あるいは投資したりして儲ける、
4) 庶民の生活がどうなるかに焦点を合わせる、
このブログでは1)から3)を理解したうえで、それらは「偉い人」に必要なことだから、割愛します。そして、4)だけを書くようにしたいと思います。
実は、先日から書いている国債の問題も、預金者からみる場合、銀行から、政府から、納税者からといろいろありますが、私は一貫して庶民からみることにしています。
これまでも庶民のための経済学とか金融学というのはあるのですが、もう一つ、シックリ来ません。すぐ政府や財政の話になってしまうからです。
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ところで、アメリカ経済が傾いてきたこともあって、円が76円に迫るようになってきました。テレビでは解説者が同じように、
「1円、円高になるとホンダが150億円の損がでる」
と円高の一面、それもある特定の企業がどのような影響を受けるかということだけを解説していました。もともと為替というのはわかりにくいので、それを断片的に間違った解説されると、多くの人は「円高はまずい、円安の方が良い」と思うのは当然でしょう。
そうでもないのです。
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世界の各国が同じお金を使っているならよいのですが、経済力が違うこともあって通貨を統一するというのは案外、難しいものです。そこで、現実的には、国内では円やドルを使い、それを「円とドルの交換レート」などの形で調整するほうがよいことになっています。
かつて世界的に共通に使われる通貨はイギリスのポンドでしたが、イギリスに変わってアメリカが伸びてきたので、このところアメリカ・ドルが世界のもっとも共通的(信頼できる)通貨になっています。
そして、国の力が上がってくると、その国の通貨が重んじられるので、高くなります。日本が1ドルあたり360円の時代(やや固定的だったが)から、現在のように80円になったのは、日本の力が4倍ちかくになったに他なりません。
全体としては日本人の人生はそれだけ豊かになり、おめでたいことです。だから、今度の円高も全体としては「悪い方向」ではなく「良い方向」であることをしっかり頭に入れておきたいものです。
第一の結論:円高は庶民にとっては良い方向である。
ところが、せっかく良い方向になったものを、一部の人たちだけでその利益を独占したいという話になります。ここで騙されてはいけないということになります。
・・・・・・・・・ダマシ・・・・・・・・
もし、日本が鎖国していて外国との貿易がほとんどなければ、円高でも円安でもほとんど庶民には影響がありません。ところが、現在は、日本の食料の60%を輸入し、石油、石炭、天然ガス(単に石油と言うことにする)はすべて輸入、さらに多くの工業製品を輸出しているので、円高の影響は庶民にも影響しそうな気配です。
でも、それほど簡単ではありません。
まず、輸入するものは値段が下がりますから、食料は安くなり、石油は安くなります。大震災や原発事故があって日本の食糧が不安定なので、タイミングはとても良いのです(円高が困るのではなく、良いタイミングなのです!!)。
また原発事故でウランの代わりに石油や石炭をフル稼働で燃やして電気を作らなければならないので、これなら円高歓迎です。どんどん円高になれば、原発を止めても電気代は上がらないでしょう。
一方、日本の中で作られる輸出製品は円が高くなるから、最初は輸出するときに値引き販売が必要となりますから、収益が減ります。これが「ホンダが150億円」という内容です。
庶民にとって、どちらが良いでしょうか?
食品や石油は輸入価格が下がってくるのですが、「すぐには価格に反映で来ません」といういいわけで値段が下がりません。輸入は企業が行っているので、得になってもなかなかその利益を国民に還元しないのです。
反対に、自動車会社などは説明がわかりやすいので、直ちに人員を整理したり、賃上げを抑制したりしやすいのです。ここをテレビのコメンテーターが後押しをするので、庶民はなかなか円高のメリットを感じられないというところがあります。
原発事故と同じで、「専門家が、その専門知識を国民のために使わず、自分たちの利益のために使う」ということです。
私は円高になるのは庶民にとってとても良いことだと思います。ほとんどの人は現金を「円」で持っているのですし、日常的に買うのは輸入が60%の食糧と、輸入が100%のエネルギーですから、いいばかりです。
円が10%(約8円)あがったら、貯金や給料が5%上がるようなものですから、庶民にとって良いばかりです。問題は、食糧やエネルギーのコスト安を製造業に活かすこと、税金や規制をゆるめて国内で仕事がやりやすくすることなどが円高の悪い影響を受ける企業の問題で、製造業が海外に出なくても良いように、発送電の分離、役所の縮小、環境問題の幻想を止めることなどが大切です。
(平成23年8月3日 午前10時 執筆)
武田邦彦
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