日本も例外ではない―先進国における移民問題の構造と解決のヒント―
◎永松明紘(放送大学教養学部 3年生)
グローバリゼーションの深化と移民問題
近年、移民社会を抱える先進諸国において国民と移民との間で激しい対立や衝突が頻繁に発生するようになった。その主な原因はグローバリゼーションの深化に伴う不法移民、外国人の流入の増加、少子高齢化、それに伴い労働力減少に対応するための国の政策、大企業による移民という安価な未熟練労働力の優先的雇用である。
移民問題の実情と政府、企業の方針
移民問題は何も現代に始まった事象ではない。例えばフランスでは19世紀末にすでに人口が減少し始める。一方、移民社会がすでに成立しておりフランス革命前には移民排斥運動も起こっていた。これは多少状況が違っていても現在も同様である。少子化、高齢化社会で年々人口増加率が減少しつつあり、このままでは国は危機に瀕する。この対策として欧米の各先進諸国は、国の施策として海外から多数の労働力となる移民を受け入れている。その施策の特徴として欧米では、社会保障、教育といった面で「負担のかからない」、先進国にふさわしい人材を今では選択的に受け入れている。
この結果国民は、優秀でより手間のかからない高い技術を持った高学歴の移民労働者と安価で使い勝手の良い非熟練労働者の移民から必然的に多くの雇用機会を奪われ、文化・宗教・人種の相違も相まって、移民と政府の政策に激しい怒りを覚え不満を募らせている。
大企業、多国籍企業特に製造業の経済合理性を追及した方針も不満の対象である。つまり国民は大企業が雇用創出、国内の経済活動の活発化といった社会的責任、義務を果たさず私的利益の追求に固執し国内産業を空洞化させていると非難している。
移民の苛立ち
一方不満は移民たちにも上がっている。国民と平等に扱われておらず国民としての権利が与えられていないことや、移民社会・コミュニティへ対する偏見、差別への怒りである。これは所得水準の低い、貧困層のイスラム系の移民に特に顕著に見られる。去年十一月にフランスで発生した貧しいイスラム系の若年層による暴動はそれをよく表している。
移民・国民・企業へアプローチを
では、こういった移民に関して現代の先進工業国が不可避的に直面する問題をいかなる政策で解決しうるのか。移民問題に関しては主に三つの政策を追求すべきであろう。
第一に移民に対して国が保護や国民的権利を与えることである。具体的には社会保障、生活保護、教育の機会の付与、有能な移民に対する滞在、労働許可証の発行基準の緩和、移民を支援している国内のボランティア団体への助成等である。そのために政府は移民政策の重要性を認識し、この分野の予算を増加して財源確保に努めるべきである。今まで不十分であった移民の権利保護状況をある程度改善することで彼らの不満も和らぎ、しっかりと国民として扱われているとの感覚を与え国家への貢献はさらに強まるだろう。さすれば国内の治安、経済的不安定要素も払拭され、望ましい環境が社会的に醸成される。
第二に国民自身の認識の問題を解決させるために政府が積極的に働きかける必要がある。つまり自国の危機的現状、人口減少、国力低下、経済の規模の縮小などの危機に対応するために移民が大量に雇用されており、また彼らは納税者としても社会的に重要な仕事や役割を担う、国の経済を支えている重要で不可欠な存在であるという事実を、国民に認識させる意識改革を行わればならない。
同時に不法移民の取締り強化のため出入国、国境管理の徹底、生体認証による身分の特定、といった方法で国民の不安に対処する必要もある。
第三に税や諸規制を免れるための国外進出、東欧、中東、アジア、アフリカからの過剰な海外、国外雇用を行い国内産業を空洞化させている大企業に対して方針の改善や活動に一定の制限を加え優先的に国内経済や景気の改善に貢献するように求めることである。そのために政府は企業に対して国内で経済活動をすることへのインセンティブを与え最適な経済環境整備のために過酷な税の徴収と景気の改善に取り組む必要がある。
日本も例外ではない
最後に日本社会への示唆であるが日本も他の先進諸国と同様に少子高齢社会で労働力人口の減少、産業を担う人材の確保が困難といった問題に直面している。日本が将来において現在の経済力、国力を維持したいのならば、外国人労働者の受け入れは避けがたい。
しかし日本は過去から現在にわたって移民の受け入れには積極的ではなかった。理由はその独自の文化から移民の社会的同化が困難であるとされている点が大きい。
日本が今後とるべき対応として2000年にドイツで導入された「グリーンカード制度(国外のIT専門労働者への特別労働許可証)」や米での「一時就労プログラム(短期間の就労が可能、期限が過ぎたら帰国しなければならない)」は参考になるだろう。
先進国の抱える移民問題について述べてきたが、この三つの政策のいずれもが問題を完全に解決するには不十分だ。各国政府は努力してこれら政策を効果的に実行していかなければならない。