2011年8月2日火曜日

今、アメリカ政府と共に、軍需産業そのものも追いつめられている

1990年に冷戦が終結してソビエトへの封じ込め政策がひとまず終わって、アメリカは新しい戦略の構築を迫られたが、その10年後に起きたのは「テロとの戦争」だった。

9.11事件でそれは加速して、アフガン・イラク攻撃へとつながっていくのだが、テロの戦争は軍隊と軍隊のぶつかり合いではない。相手は少人数で、攻めるときが来るまで姿さえ見えない。


武力を重視した国


それが「非対称戦争」である。2000年の戦争はまさにその「非対称」が軍事の問題点になった(された)。

冷戦が終わると「テロとの戦争」が持ち出されたことからも分かるとおり、それは軍が予算を獲得するために無理やり持ち出された予算獲得の策略ではないかとも言われている。

アメリカは国の成り立ちからして武力を重視した国であり、西部開拓から南北戦争まで武力がなければ前に進めなかった。

まず東部に拠点を作り、西へ西へとネイティブ・アメリカンを大虐殺しながら突き進み、それから太平洋戦争で日本を、朝鮮戦争で韓国を、そして冷戦ではロシアを、代理戦争ではベトナムを相手にして常に戦い続けてきた。

どの歴史を見ても、アメリカには「軍」がそこにあって、軍そのものがアメリカを支えてきたことが分かる。

アメリカが世界をコントロールできたのは、アメリカ文化が優れていたからではなく、アメリカの軍が世界最強だったからである。

動物の世界でも人間の世界でも、闘争・暴力・戦争がもっともうまい種族が生き残ってきたことを肌で実感している国が世界を制する。

それはとても原始的な話だが、真実だからしかたがない。

ローマ帝国が強大だったのはその武力が優れていたからで文化や宗教の問題ではない。オスマントルコに影響力があったのも武力が優れていたからだ。

チンギスハーンが広大な国土を支配できたのも武力が優れていたからで、産業革命以後の大英帝国が7つの海を支配できたのも当時最強の武力があったからである。

アメリカが最強の国家であるのは政治力が優れているからではない。文化でも思想でもない。武力である。アメリカ自身がそれを疑わず、そして軍事力を手放さない。

突如としてソ連という強大な帝国


問題なのは、軍事力の重要性を認識している国は軍事費をどんどん積み上げ、やがて多くの人々が軍事産業に関わるようになり、それを維持するためには軍事費の削減ができなくなってしまうことだ。

組織は一度作られれば自ら死ぬことはない。それは生き延びるためにあらゆる手が尽くされるようになる。まして、多くの人々がその重要性を認識しているのであれば、なおさら組織は拡張していき、決して自ら小さくなることはない。

必要な予算は増えることはあっても減ることはないということだ。国民がそれを負担に思うようになっても、個人よりも組織が優先されるようになる。

そして、組織は自らの存在意義を確認するために「活動」する。軍が活動するというのは、すなわち戦争するということだ。

かくして、アメリカは軍需産業が肥大化して、いつの時代でも戦争を求め続けることになる。

第二次世界大戦の際に、ドイツから亡命してきた科学者たちを雇って原子力爆弾を発明したのはアメリカ軍だったが、それによって戦争が終わると困ったことになった。

闘う相手がいなくなると、その瞬間に軍は「要らなくなる」のである。国民としては、もう戦いが終わったのに、なぜ軍事費をつける必要があるのか、ということになる。

そのとき、突如としてソ連という強大な帝国が現れ、突如としてアメリカと同じ核兵器を持ち、突如としてアメリカに対抗するようになり、突如として世界は二分されるようになった。

経済的に疲弊したソビエト連邦が自壊


実は、ソ連の核兵器はアメリカの各技術が流出したものであると言われている。なぜこのような軍事機密が流出するのか。

それはアメリカの軍需産業が自らの存在が不必要だと思われないように敵を作る必要があったからだ。敵がいる限り、軍事産業は必要だと思われ、軍事費の削減もない。

かくして共産主義はアメリカの軍需産業が生き延びるための便利な存在になっていった。共産主義はアメリカの敵だったが、もっとも必要とされていたのも共産主義だったとも言える。

冷戦、ドミノ理論、スパイ合戦、核による脅威は、すべてアメリカの軍需産業が生き延びるためのアイデアだったとも言える。そしてそれは45年も機能してきた。

共産主義という敵を作り出し、その脅威を誇張したことが、アメリカの軍需産業の成長へとつながった。

ところが、1990年に入ると経済的に疲弊したソビエト連邦が自壊してしまい、アメリカ軍は突如として巨大な敵を失った。軍需産業は削減の対象となり、不景気に陥り、業界の再編にまで追い込まれていった。

このときの統合・再編で軍需産業を支える企業のほとんどが名前が変わったが、これほど激しい業界再編の動きは類を見ない出来事だったほどだ。

業界再編が起きているというのは、すなわち業界全体が危機に陥っているということである。軍需産業は生き延びるために新たな敵が必要だったのだが、2000年になってやっとアメリカはそれを見つけたのだ。

それが、影も形もないのに脅威だけは巨大な「テロリスト集団」であり、テロリストを匿う「ならずもの国家」であり、暴力を支える「イスラム教」だった。

強大な敵が育って欲しい


ウサマ・ビンラディンは新しい米国の敵の象徴になり、アフガンやイラクは攻めるべき対象となり、それを通してイスラム全体がアメリカの敵のような雰囲気が醸し出されるようになった。

「イスラムが敵ではない」と言いながら、アメリカのやっていることはイスラム敵視であり、そうすることによってテロリストがイスラム国家のあちこちに生まれた。

なぜアメリカが稚拙な作戦を取ってイスラムの原理主義者やイスラムの敵対国家を作り出そうとしているのかというと、軍需産業が自分たちの存在意義を高めるためだとしか言いようがない。

軍需産業は敵がいないと自らが不必要だと思われるので、何としてでも強大な敵が育って欲しいと考えている。敵がいないと成り立たないのが軍事産業の皮肉なところである。

だから、わざと反米国家が生まれるような作戦を取るし、わざとテロを見逃すし、イラクもイランも過大に悪者扱いされる。

政治家の言動も、メディアの報道も、そのような軍需産業の生き残りのアイデアに利用されていると言っていい。

アメリカ政府に金がなくなった


ところで、その軍需産業の「唯一の顧客」はアメリカ政府だが、アメリカ政府が軍需産業に金を支払うためには国家予算がいる。

今、危機に瀕しているのはその「国家予算」である。アメリカ政府はブッシュ時代に莫大な累積債務を一気に膨らませたが、それに対応するために過剰にドルを印刷した。

あふれたドルは不動産に流れ込んで不動産バブルを産み出したのだが、2008年9月にはバブルが崩壊して未曾有の金融危機に陥った。

民間の大きすぎてつぶせない銀行を救うために、アメリカ政府は不良債権を全部引き受けたが、そのために今度はアメリカ政府そのものが危機に瀕するようになった。

今回、債務上限の引き上げ問題で世界中がアメリカのデフォルトを考えるようになったが、それが回避されたとしても依然として累積債務の問題は残っており、今後も手を変え品を変えて次々と政府を追い込んでいく。

これが意味するところは、今度、軍需産業がどんなに金が欲しくても、それを支払う政府そのものが衰弱して金を払えなくなっているということだ。

アメリカに金がなくなってしまって、もう軍事どころではなくなってしまっているのである。

今、アメリカ政府と共に、軍需産業そのものも追いつめられている。自らが生き延びるために何でもやる組織が追いつめられるほど怖いことはない。



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