全国のホームセンターで販売された腐葉土から高濃度の放射性セシウムが相次ぎ検出されている。いずれも栃木県鹿沼市で製造され、福島第1原発から約100キロ離れた那須の別荘地の落ち葉も使われていた。腐葉土では暫定許容値の設定や業者への指導が行われておらず、汚染は動画サイトへの市民の投稿で発覚。稲わらに続きまたも対策の「盲点」が露呈した農林水産省は、汚染公表から8日後の2日、ようやく許容値を設定した。【浅野翔太郎、中村藍】
動画は6月24日に「ユーチューブ」に投稿された。ホームセンター店頭にある腐葉土の袋の上に放射線測定器を置くと「ピピピ……」と検出音が鳴る。アクセス数は現時点で約10万回に上る。
投稿から約1カ月後の7月25日、秋田県は「コメリ」(本社・新潟市)の県内の店舗で売られていた腐葉土から1キロ当たり1万1000ベクレルの放射性セシウムを検出したと発表。同27日には鳥取県が「カインズホーム」(同・群馬県高崎市)の鳥取市内の店で販売する商品で、同1万4800ベクレルの検出を明らかにした。製造業者は異なるが、いずれも鹿沼市にある。
園芸用の「鹿沼土」で有名な鹿沼市には園芸用土や肥料のメーカー約60社が集まる。業者間では当初から動画が話題になっていた。ある業者は「震災後に集めた落ち葉がちょうど商品として出回るころで、戦々恐々だった。しかし行政からの指導もないので、出荷を続けた」と証言する。
問題発覚後に栃木県が県北部の落ち葉を調べたところ、セシウムは7万2000ベクレル。コメリに商品を出荷していた肥料会社社長は「血の気が引いた」という。「園芸業界に大打撃を与えてしまった。危ないと知っていたら、気をつけたのに」。震災後に集めた落ち葉をその前の在庫と混ぜてしまい、製造をすべて中止した。
同社の依頼で落ち葉を集めていた同県大田原市の造園業者は「納めた葉っぱの代金がもらえず、従業員に給料を払えない。誰が補償してくれるのか」と、やり場のない怒りを募らせる。業者は毎年秋ごろから翌年夏にかけて県北部の那須塩原市や那須町の別荘地を回り、許可を得た区画で落ち葉を収集。それを受け取った肥料会社が積み置き、6月になって外国産樹皮などと混ぜ、腐葉土として出荷したという。
全国のホームセンターなどで作る「日本DIY協会」(東京都千代田区)によると、腐葉土などの園芸用品はガーデニングや家庭菜園の流行により売上高が年々増え、今や主力商品の一つ。それだけに業界や消費者への影響も広がっている。
農水省は7月25日、東北から東海まで17都県で作られた腐葉土の使用、流通、生産の自粛を都道府県に通知した。カインズホームは腐葉土や培養土など179商品を全国約170の店頭から撤去。秋野菜の育苗で需要が伸びる時期と重なり、業界からは「早く安全性の基準を示してほしかった」との声が上がる。
土壌の放射性セシウムは農作物に一部移行する。店舗には消費者から問い合わせもあるが、農水省農産安全管理課は「現時点で判明している濃度の腐葉土を使っても、農作物のセシウムが暫定規制値を超えるとは考えにくい」としている。
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各社の腐葉土に関する問い合わせは▽コメリお客様相談室0120・371134▽カインズホームお客様相談室0120・877111。
毎日新聞 2011年8月2日 東京夕刊