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特集:原子力政策 発電費用「安さ」疑問も 国が多額経費投入

 原子力発電は「火力発電や水力発電と比べ、単位電力あたりのコストが安い」ことが、国が原発を推進してきた一つの理由だった。だが、専門家の間でも見解が分かれ、条件によっては原子力のコストは他と同じか高くなる。「安さ」の根拠となっているのが、電力会社10社でつくる電気事業連合会(電事連)が04年にまとめた「モデル試算による各電源の発電コスト比較」だ。稼働率や運転年数など条件を変えて計算している。

 このうち、電事連がウェブなどで公開している、稼働率80%、運転年数を40年と想定したデータによると、コストは

 ▽水力11・9円

 ▽LNG火力6・2円

 ▽石炭火力5・7円

 ▽原子力5・3円

で、原子力が一番安い(単位は円/キロワット時)。廃棄物処分や廃炉などの「バックエンド費用」(0・81円)を加えても「火力と遜色ない」とする。

 ただ稼働率は、00年ごろは80%以上だったが、ここ5年は50%台後半から60%台後半で推移する。稼働率60%では、原子力と石炭、LNG火力が7円でほぼ肩を並べる。

 経済産業省系の財団法人・地球環境産業技術研究機構(京都府木津川市)の秋元圭吾グループリーダー(エネルギーシステム工学)は、送電や廃炉、廃棄物処理にかかる費用も含めて、05年ごろの発電コストを試算した。その結果は、石炭(稼働率70~80%)8~12円に対し、原子力は(同60~85%)8・1~12・5円。

 秋元さんは「石炭火力の方が安い場合もあるが、二酸化炭素の排出を考えると増やすという選択肢は取りづらい」と説明する。

 一方、立命館大の大島堅一教授(環境経済学)は、開発や立地のために国が投じた経費も加味して、70年~07年の発電コストを試算した。原子力は火力の約20倍にあたる2円/キロワット時の経費がコストを押し上げ、

 ▽原子力10・68円

 ▽火力9・9円

 ▽水力7・26円

で、原子力が火力を上回る。大島さんによると、試算には事故が起こった場合の補償費用は含まれていない。このため、福島原発事故の損害を考慮すれば、原子力のコストはさらに高くなる。【野田武】

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 ◇原子力をめぐる主な出来事

1945年 広島、長崎に原爆投下。第二次世界大戦終わる

  51年 電力再編成で9電力会社が発足

  54年 米のビキニ水爆実験で、第五福竜丸などの漁船員らが被ばく/国内で初めて原子力関係予算(2億5000万円)計上

  55年 原子力3法(原子力基本法、原子力委員会設置法、原子力局設置法)公布

  56年 原子力委員会/旧科学技術庁発足

  57年 原子力委員会が原発の早期導入方針を決定/国際原子力機関(IAEA)発足/日本初の原子炉「JRR-1」が臨界

  61年 原子力損害賠償法公布

  63年 手塚治虫の「鉄腕アトム」がアニメ化

  66年 国内の商業用原発として初めて東海発電所(日本原子力発電)が営業運転開始

  67年 旧動力炉・核燃料開発事業団(動燃。現日本原子力研究開発機構)発足

  69年 原子力船「むつ」進水

  70年 日本原子力発電敦賀発電所が営業運転開始。大阪万博会場へ送電する/関電美浜原発1号機が営業運転開始

  71年 東電福島第1原発1号機が運転開始

  73年 旧通産省に資源エネルギー庁設置

  74年 電源3法(発電用施設周辺地域整備法、電源開発促進税法、電源開発促進対策特別会計法)公布/「むつ」放射線漏れ

  78年 原子力委員会が改組され、新しい原子力委員会と原子力安全委員会が発足

  79年 米国でスリーマイル島原発事故

  85年 高速増殖原型炉「もんじゅ」着工

  86年 旧ソ連でチェルノブイリ原発事故

  91年 関電美浜2号機で蒸気発生器伝熱管の損傷事故発生

  92年 「むつ」の実験航海終了/青森県六ケ所村でウラン濃縮工場の操業開始

  94年 もんじゅが臨界達成

  95年 もんじゅでナトリウム火災事故

  96年 新潟県巻町で巻原発の建設の賛否を問う住民投票実施

  97年 旧動燃東海再処理施設アスファルト固化処理施設で火災爆発事故発生

  98年 東海発電所が運転終了

  99年 茨城県東海村でJCO臨界事故

2000年 原子力災害対策特別措置法が施行

  01年 中央省庁再編で経済産業省内に原子力安全・保安院設置/東海発電所の廃炉作業開始

  02年 東電の原発トラブル隠し発覚

  03年 「ふげん」が運転終了/トラブル隠し問題などで東電の全原発が運転停止

  06年 政府が「原子力立国計画」を発表

  07年 北陸電力志賀1号機で99年の臨界事故が発覚/福島第1・3号機でも78年の臨界事故が発覚/中越沖地震で東電柏崎刈羽原発7基のうち運転中の3、4、7号機と起動中の2号機が緊急停止

  08年 中部電力が浜岡原発1、2号機の廃炉と6号機の増設を決定

  09年 玄海3号機で国内初のプルサーマル発電開始

  10年 福島第1・3号機もプルサーマル発電

  11年 東日本大震災、福島第1原発事故発生/菅直人首相の要請を受け、中部電力が浜岡原発の運転を停止

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 ◇「地震列島」日本と原発

 ◆表の見方

1=主な事故・トラブル

2=地震・津波への主な対策

(1)、(2)、(3)…=号機

 表は左から1日現在の運転状況、運転開始年月(※は予定)、形式、定格出力(万キロワット)。運転状況は○=運転中(かっこ内は定期検査予定時期)、△=定期検査で停止、●=調整運転中、×=停止、建=建設中、計=計画中。形式はB=BWR(沸騰水型)▽AB=ABWR(改良型沸騰水型)▽P=PWR(加圧水型)▽AP=APWR(改良型加圧水型)▽G=GCR(ガス冷却型)▽AT=ATR(新型転換炉)▽F=FBR(高速増殖炉)。EPZ(防災対策重点地域)の人口は原発から8~10キロ圏内にかかる市町村人口の合計。

 <>は運転開始から40年以上、[]は30年以上経過した原発

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 【1】泊 北海道電力(北海道泊村)

1 非常用ディーゼル発電機2基が故障し、原子炉を手動停止(07年)

2 今後3年程度で水素処理装置導入

 EPZ=2万3853人

(1)△      89年 6月 P 57.9

(2)○(8月下旬)91年 4月 P 57.9

(3)●      09年12月 P 91.2

 【2】大間 Jパワー(青森県大間町)

 EPZ=7万2280人

   建 ※14年11月 AB 138.3

 【3】東通 東京・東北電力(青森県東通村)

1 給水ポンプ配管の水漏れ(07年)

2 原子炉建屋から水素を放出するための作業手順書整備

 EPZ=7万3186人

(1)(東北)△ 05年12月   B 110.0

(2)(東北)計 ※21年度以降 AB 138.5

(1)(東電)建 ※17年3月  AB 138.5

(2)(東電)計 ※20年度以降 AB 138.5

 【4】女川 東北電力(宮城県女川町・石巻市)

1 再循環系配管のひび割れ(08年)

2 外部電源確保のため電源車を配備

 EPZ=17万755人

(1)× 84年6月 B 52.4

(2)× 95年7月 B 82.5

(3)× 02年1月 B 82.5

 【5】浪江・小高 東北電力(福島県南相馬市・浪江町)

   計 ※2021年度 B 82.5

 【6】福島第1 東京電力(福島県大熊町・双葉町)

1 東電によるトラブル隠し(02年発覚)

2 復旧作業中。防潮堤などを設置

 EPZ=5万5347人

<(1)廃炉決定 71年 3月 B  46.0>

[(2)廃炉決定 74年 7月 B  78.4]

[(3)廃炉決定 76年 3月 B  78.4]

[(4)廃炉決定 78年10月 B  78.4]

[(5)△    78年 4月 B  78.4]

[(6)△    79年10月 B 110.0]

 【7】福島第2 東京電力(福島県楢葉町・富岡町)

1 再循環ポンプの破損事故(89年)

2 電源車を追加配備

 EPZ=4万626人

(1)× 82年4月 B110.0

(2)× 84年2月 B110.0

(3)× 85年6月 B110.0

(4)× 87年8月 B110.0

 【8】東海 日本原子力発電(茨城県東海村)

 廃炉 66年7月 G 16.6

 【9】東海第2 日本原子力発電(茨城県東海村)

1 制御棒13本にひび(06年)

2 2013年度までに原子炉建屋内に水素検知器を設置

 EPZ=49万8027人

[△  78年11月 B 110.0]

 【10】柏崎刈羽 東京電力(新潟県柏崎市・刈羽村)

1 新潟県中越沖地震で変圧器火災。微量の放射性物質が海に漏れる(07年)

2 高線量防護服を配備

 EPZ=9万6265人

(1)○(6日から) 85年 9月  B 110.0

(2)×       90年 9月  B 110.0

(3)×       93年 8月  B 110.0

(4)×       94年 8月  B 110.0

(5)○(来年1月) 90年 4月  B 110.0

(6)○(来年3月) 96年11月 AB 135.6

(7)○(23日から)97年 7月 AB 135.6

 【11】浜岡 中部電力(静岡県御前崎市)

1 気体廃棄物処理系で水素濃度が上昇するトラブル(08年)

2 来年度前半までに、原子炉建屋にベント装置設置

 EPZ=24万7130人

(1)廃炉 76年 3月   B  54.0

(2)廃炉 78年11月   B  84.0

(3)△  87年 8月   B 110.0

(4)×  93年 9月   B 113.7

(5)×  05年 1月  AB 138.0

(6)計  ※20年度以降 AB 140級

 【12】志賀 北陸電力(石川県志賀町)

1 燃料漏れとみられる放射能濃度上昇(09年)など

2 無線機、衛星電話を配備

 EPZ=8万143人

(1)× 93年7月  B  54.0

(2)△ 06年3月 AB 120.6

 【13】敦賀 日本原子力発電(福井県敦賀市)

1 排気筒から通常濃度以上の放射性ガスが漏出(今年5月)

2 2年以内に、非常用復水器への給水機能強化や、代替海水ポンプ配備などを実施

 EPZ=8万9884人

<(1)△  70年3月  B  35.7>

 (2)×  87年2月  P 116.0

 (3)計 ※17年7月 AP 153.8

 (4)計 ※18年7月 AP 153.8

 【14】ふげん 日本原子力研究開発機構(福井県敦賀市)

   廃炉 79年3月 AT 16.5

 【15】もんじゅ 日本原子力研究開発機構(福井県敦賀市)

1 ナトリウム火災事故(95年)

2 原子炉補助建屋に、水素蓄積を防止する排気口を設置へ

 EPZ=8万9884人

   建 未定 F 28

 ふげん、もんじゅは実験炉

 【16】美浜 関西電力(福井県美浜町)

1 復水配管の破断で蒸気や熱水が噴き出し、作業員11人が死傷(04年)

2 持ち運びできる非常用ディーゼル発電機の配置や、海水供給用のエンジン駆動ポンプの設置

 EPZ=7万8331人

<(1)△        70年11月 P 34.0>

[(2)○(今年12月) 72年 7月 P 50.0]

[(3)△        76年12月 P 82.6]

 【17】大飯 関西電力(福井県おおい町)

1 緊急炉心冷却装置(ECCS)で圧力が低下したため、原子炉を手動停止(今年7月)

2 持ち運びできる非常用ディーゼル発電機の配置や、海水供給用のエンジン駆動ポンプの設置

 EPZ=5万992人

[(1)△        79年 3月 P 117.5]

[(2)○(今年12月) 79年12月 P 117.5]

 (3)△        91年12月 P 118.0

 (4)△        93年 2月 P 118.0

 【18】高浜 関西電力(福井県高浜町)

1 制御棒1本が入らなくなる(07年)

2 持ち運びできる非常用ディーゼル発電機の配置や、海水供給用のエンジン駆動ポンプの設置

 EPZ=14万4176人

[(1)△        74年11月 P 82.6]

[(2)○(今年11月) 75年11月 P 82.6]

 (3)○(来年2月)  85年 1月 P 87.0

 (4)△        85年 6月 P 87.0

 【19】島根 中国電力(松江市)

1 約500カ所の機器の点検・交換漏れが発覚(10年)

2 2年以内をめどに、海抜約40メートルの高台への緊急用発電機設置や、防波壁の強化を実施

 EPZ=19万3331人

[(1)△       74年3月   B  46.0]

 (2)○(来年1月) 89年2月   B  82.0

 (3)建       未定     AB 137.3

 【20】上関(かみのせき) 中国電力(山口県上関町)

(1)計 ※18年3月 AB 137.3

(2)計 ※22年度  AB 137.3

 【21】伊方 四国電力(愛媛県伊方町)

1 湿分分離加熱器内からの蒸気漏れ(07年)

2 隣接する変電所から配電線を敷設し、非常用発電機の追加設置

 EPZ=4万9267人

[(1)○(今年9月) 77年 9月 P 56.6]

 (2)○(来年1月) 82年 3月 P 56.6

 (3)△       94年12月 P 89.0

 【22】玄海 九州電力(佐賀県玄海町)

1 1次冷却水の放射性ヨウ素濃度が上昇。燃料棒から放射性物質が漏れたためと推定(10年)

2 今後3年程度で、海水ポンプや非常用ディーゼル発電機の防水対策

 EPZ=15万8348人

[(1)○(今年12月) 75年10月 P  55.9]

[(2)△        81年 3月 P  55.9]

 (3)△        94年 3月 P 118.0

 (4)○(今年12月) 97年 7月 P 118.0

 【23】川内(せんだい) 九州電力(鹿児島県薩摩川内市)

1 蒸気発生器細管の損傷など

2 今後3年程度で、海水ポンプや非常用ディーゼル発電機の防水対策

 EPZ=13万710人

(1)△        84年 7月  P  89.0

(2)○(今年9月)  85年11月  P  89.0

(3)計       ※19年度   AP 159.0

毎日新聞 2011年8月2日 東京朝刊

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