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特集ワイド:上野にはやっぱり!「パンダ」

 東日本大震災や福島第1原発事故の影響で、めっきりメディアへの露出が減ってしまった上野のパンダ。4月の一般公開から4カ月。オスのリーリー(5歳)とメスのシンシン(6歳)はどうしているのか? 夏休みの子供たちでにぎわう上野の山を訪ねた。【大槻英二】

 ★大地震に2度

ゴロリとうつぶせになるオスのリーリー=上野動物園で西本勝撮影
ゴロリとうつぶせになるオスのリーリー=上野動物園で西本勝撮影

 夏休みが始まって間もない平日の午前中。上野動物園の表門をくぐって、すぐ右手にパンダ舎はあった。長時間待たされるのを覚悟していたが、入り口は身体障害者用、子供連れ用、大人用の3レーンに分けられ、列はすんなり進み、対面がかなった。シンシンは背を向けて木の幹にちょこんと座り、別室でリーリーは竹の葉をムシャムシャ食べていた。

 「パンダは暑さに弱いので、室温は25度を超えないように注意しています。空調の設定温度は20度。ただし、動物園も節電に協力しなければなりませんので、職員が詰めるモニター室は冷房を使わないようにしています」と飼育展示係の倉持浩さん(36)。熱中症対策もここでは人間よりパンダが優先だ。

 2頭が中国から来日したのは2月21日。深夜の到着にもかかわらず、報道陣が詰めかけ、大フィーバーが巻き起こった。3月22日から公開予定だったが、東日本大震災で延期に。震災時、2頭は驚いて走り回ったが、しばらくして落ち着きを取り戻し、竹を食べ始めた。08年の中国・四川大地震ではもっと激しい揺れに遭遇したといい、意外に肝が据わっているようだ。

 パンダ舎の前では、来園者がカメラ付き携帯電話をかざして「可愛い」「可愛い」を連発。特に、シンシンは来日前から「美形」と評判だったが、何がそんなに可愛いのか? 田畑直樹前副園長(58)は「イヌやネコなどの仲間は大人になると、鼻や口のあたりがせり出し、胴や足が伸びますが、パンダは大人になっても頭が大きい『赤ちゃん体形』のまま。しかも丸顔です。赤ちゃんを見て可愛いと思うように、人間は本能的に丸いものを可愛いと思うのでしょう」と解説する。シンシンは特に丸顔なのだそうだ。

 31日までの夏休み期間中、震災の被災者は入園無料。パンダは避難生活などで心労を重ねている子供らの心を癒やすという大事な役割も担う。

 ★客寄せ上手?

振り返れば「美人」?メスのシンシン=上野動物園で西本勝撮影
振り返れば「美人」?メスのシンシン=上野動物園で西本勝撮影

 公開初日の4月1日には、徹夜組を含め開園前から約2000人が列を作った。「みどりの日」で入園無料だった5月4日には、4時間半待ちの長い列ができた。4~7月の4カ月間で総入園者数は182万人。既に例年(10年度は267万人)の半数を超えた。「前年比約50%増で推移していますから、このまま年間450万人はいってほしいですね」と田畑さん。カンカン、ランラン来日3年目の764万人(74年度)には及ばないものの、レジャーが多様化し、震災もあった中で、パンダ人気は予想を超えるものだったという。

 効果は動物園にとどまらない。「うえのパンダ歓迎実行委員会」を発足させた上野地区の商店街などでつくる上野観光連盟の事務総長、茅野雅弘さん(51)も「ここまで人気とは思いませんでした」。震災以降、上野中通商店街の人通りは前年比3割減と落ち込んでいたが、パンダ公開で4月は前年並みに。震災がなければ、1・5倍にはなったとみるが、飲食店では客足がV字回復したところもあるという。

 実行委では「うえのパンダくん」というキャラクターを作製。バナーを作るなど街をあげて盛り上げた。キャラクターを商品化した際の使用料は「ジャイアントパンダ保護サポート基金」に還元する仕組みもつくった。「上野の人間は、36年間もパンダがいたので、いて当たり前と慢心していた。3年前にリンリンが死んで人通りが減り、やっぱり上野にはパンダが必要なんだと再認識させられましたね」と茅野さん。パンダは「上野の街の救世主」という。

 ★少しドライに

 パンダは神戸の動物園にも1頭、和歌山には8頭いるが、「上野のパンダ」への注目度は高い。やはり、72年に初来日したカンカン、ランランの印象が強く残っているからだろう。あのときは、レンタルではなく贈呈で「日中友好」のシンボルだった。で、今回は何の象徴?

 「パンダ外交」の著書があり、武蔵大などで非常勤講師を務める家永真幸(まさき)さん(29)=中国現代史=は「冷凍ギョーザ中毒事件やチベット問題があった08年に、中国の胡錦濤国家主席が来日して福田康夫首相(当時)と会談した際、『戦略的互恵関係』の構築を目指すという共同声明が発表された。その時、関連項目としてパンダの貸与も盛り込まれました。今回のパンダは、日中友好という感情的なものは前面に出さず、希少動物の保護について共同研究するという国際ルールにのっとり、ドライにおカネの話もして借り受けるという形。この40年間の日中関係の変化に対応したものです」と指摘する。

 自らも公開初日に上野に足を運んだという家永さんは「当初は年間95万ドル(約7600万円)のレンタル料が高過ぎるなどと批判的な論調も目立ちましたが、いざ来てみると、手のひらを返したような大盛り上がり。政治的な意味より、パンダそのものの魅力が勝ったということでしょう。それでも、上野にパンダが来るということは、日本との関係を安定させたいという中国側の政治的な意思表示である、ということには変わりありません」と話す。

 ★赤ちゃんは…

 次に期待されるのは赤ちゃん誕生。今春は公開前の3月下旬、網越しの「お見合い」まで進んだが、明日にも「同居」というときに、シンシンの発情の兆しが終息してしまった。慎重派のリーリーと、怖いもの知らずのシンシンだが、相性はまだわからないという。田畑さんは「繁殖が最大の目標ですから、来春に向けて準備を進めています。パンダの5、6歳は、人間なら20歳前後。パンダは妊娠期間に幅があるのですが、3月に交尾してうまくいけば、6月ぐらいに出産して、一般公開は9月か10月ぐらいという感じでしょうか」と期待する。飼育係の倉持さんは「まずは日々の健康管理を着実にこなして、結果として繁殖につながればと思います。環境づくりは万全に進めているので、あとは“本人”次第です」。

 震災から1年を迎える来春、上野動物園は開園130周年を迎える。パンダの赤ちゃんを連れたコウノトリは、来園するかな。

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毎日新聞 2011年8月2日 東京夕刊

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