■ 「讃岐うどん」の商標登録申請を却下−続報(京野菜の商標登録) 2011.8.1
先日(2011.7.20)の「讃岐うどん」の商標登録で、京野菜などの登録について、京都府の担当者に尋ねてみると書きましたが、このほど、メールで回答が来ました。
これによると、まず、日本国内では、「京野菜」ほか、いろいろな野菜について商標登録の出願をしたのですが、普通名称となっているという理由で、出願を拒絶されたそうです。
また、中国については、検疫条件により野菜の輸出が実質上できない状況であることから、現時点で商標登録をする予定はないとのことでした。
実際、 JETROの解説 によると、「現在のところ、日本から生鮮野菜は輸入されておらず、日本政府から中国政府にナガイモ等の輸入解禁を要請しているところ」だそうです。
なお、京野菜については、以上のとおりですが、京都府産の農林水産物・加工品全体について、ロゴマークを作成し、そのマークを中国において商標登録をする準備をしているところだとのことでした。
そういったロゴマークが中国で商標登録された場合、仮に、将来、中国国内で、「京野菜」「九条葱」などが、中国の業者によって商標登録されたとしても、このロゴマークを使えない以上、本物の京野菜のようなブランド力は持ち得ない、ということになります。
■ 「別府マンション事件」最高裁、再度の差し戻し
2011.7.21
いわゆる「別府マンション事件」について、本日、最高裁は、再度の破棄差し戻し判決を言い渡しました。
この事件は、建物の瑕疵について、所有者が、直接の契約関係にない施工業者等に対し、損害賠償を求めた事案です。
◆事件の概要は、こちら
最高裁は、平成19年に、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」がある場合には、施工業者等は賠償責任を負うと判断して、高裁に差し戻しました。
ところが、福岡高裁は、平成21年に、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、「建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合」をいうとして、損害賠償責任を否定しました。
最高裁は、本日、再度の上告審で、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、「居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵」をいうとして、「建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合」に限らず、 「当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合」には、当該瑕疵は、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に該当すると解するのが相当であるとの判断を示しました。
そして、具体的には、放置すると、外壁が剥落して通行人の上に落下するような場合や、ベランダ等の瑕疵により建物の利用者が転落するような場合には、上記の瑕疵にあたると判示したのです。
なお、判決の全文は、最高裁のホームページにあります(最近では、重要な判例は、その日のうちに最高裁のホームページに掲載されるようになっています)。
最高裁の判決は、一読しただけでは理解できないかと思いますので、図解してみました(私も、自分で図解することにより、ようやく、理解できました)。

結局、H19判決で、もうちょっと踏み込んで、H23判決のように述べていれば、福岡高裁も、H21判決のような不法行為の成立範囲を限定する解釈をとることはできなかったのではないかと思います。
そう考えると、H19〜H23の4年間は、一体なんだったんだろうという思いが拭えません。
部下に仕事を命じるに際して、抽象的な指示しか出さないでおいて、いざ、部下が失敗すると、「俺の言ったのは、そういうことではない」と、部下を叱りつける無能な上司、と言ったところでしょうか。
あるいは、上司の指示を都合よく曲解した部下に手を焼いて、(やれやれ、と思いつつも、そこは、ぐっとこらえて)咬んで含めるように、再度、指示を出す上司、と言った役回りかも知れません。
一つだけ心配なのは、◆事件の概要 にも記載したように、H19判決は、今回、具体的に最高裁が解釈を示した「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」のみならず、不法行為の成立要件として、当然と言えば当然なのですが、「それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された」ことを、要件としている点です。
H21判決を書いた福岡高裁の裁判官なら、「ベランダの瑕疵により利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険のあるとき」でも、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の存在は認めつつも、まだ、人が転落していないのだから、「生命、身体又は財産が侵害された」とは言えないとして、結局は、不法行為責任を認めないのではないか、という点が危惧されます。
■ 「讃岐うどん」の商標登録申請を却下
2011.7.20
中国での「讃岐烏冬」(讃岐うどん)の商標登録申請に対し、香川県や、地元の業界団体が異議申し立てをしていた事件で、中国商標局が異議を認めたとの報道がありました。
異議を認めた理由の一つに、「申立人により中国で先行使用され、出願人が飲食店の区分で登録すると誤認を生じさせやすい」ということが挙げられていました。
そうすると、仮に、日本国内で著名なものであっても、現時点で中国に輸出されていないものについては、中国で商標登録されてしまうことになります。
近年、中国の富裕層の間で日本の農産物に対する嗜好が拡大しており、農水省も、中国への農産物の輸出拡大に取り組んでいます。ところが、日本の農産物が広く中国に輸出されるようになる前に、中国国内で商標登録されてしまうと、輸出に際し、大きな障害となってきます(東電の原発事故の影響も、これに劣らず、大きな障害ですが、その点は、また、別稿で)。
そこで、気になったので、地元の「九条葱」「聖護院大根」「堀川牛蒡」といった、いわゆる「京野菜」について、どうなっているか調べてみました。
すると、京都府のホームページに、次の記載がありました。
「京野菜」等の商標登録(「改正商標法」<18.4.1施行>に基づく地域団体商標)を支援し、他県産京野菜との違いの明確化を図ります。
そこで、その後、どうなったかを調べてみると、特許庁のホームページに、京都の農産物の登録状況が出ていました。これによると、「京都米」「京の伝統野菜」というのは、登録されているのですが、「京野菜」や「九条葱」は、登録されていませんでした。
日本国内でも登録されていないということは、おそらく中国でも登録をしていないのでしょう。この先、どうなるのか心配です。京都府の担当者に尋ねてみることにします。結果は、また、改めて、御報告致します。
続報(京野菜の商標登録)2011.8.1
■ ウイルス作成罪の新設 2011.6.19
2011年6月17日、コンピュータウイルス作成罪の新設を含む刑法改正案が成立しました。
意外と思われるかも知れませんが、これまで、コンピュータウイルスを作成する行為そのものを処罰する規定はなかったのです。
そうすると、これまで、コンピュータウイルスの作成者が処罰されることはなかったのか、というと、必ずしも、そうではありません。
例えば、ウイルスに他人の著作物を組み込んでいた場合は、著作権法違反で処罰されており、他人の名誉を害する内容であれば、名誉毀損罪で処罰されていました。最近では、ウイルスが感染したパソコン内のファイルを壊したということで、器物損壊罪でウイルス作製者が逮捕されています。
今回のウイルス作成罪の新設の結果、こういった事情(他人の著作物の利用、名誉毀損、ファイル破壊)がなくとも、ウイルスを作成したというだけで、処罰されることになりました。
もちろん、ウイルスを作成する行為のすべてが処罰されるのではなく、「正当な理由なく」という限定が付されています。従って、アンチウイルスソフトの研究開発の過程でウイルスソフトを作成する行為については、処罰の対象外であることは言うまでもありません。
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