児玉参考人の国会における冒頭陳述がネットで大きな話題になっています。動画ではよく理解できなかったのですが、文字起ししてくださった方がいたので読んでみました。
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児玉龍彦参考人の、国の内部被曝対応への批判が凄すぎる上に、提言まですごい!(全内容書き起こし):ざまあみやがれい!
文字にして読んでみると、いくつか疑問が湧いてきます。
飛散したのは核燃料の一部か?
児玉氏は以下のように発言しています。(以下、下線は全て筆者による)
粒子の拡散というのは、非線形という科学になりまして、われわれの流体力学の計算ではもっとも難しいことになりますが、核燃料というのは、ようするに砂粒のようなものが、合成樹脂のようなものの中に埋め込まれております。
これがメルトダウンして放出されるとなると、細かい粒子がたくさん放出されるようになります。そうしたものが出てまいりますと、どういうことがおこるかというのが、今回の稲藁の問題です。
ここをとやかくいうのは本質ではないと思いますが、これを聞いた人は「核燃料が粒子となって飛び散った」と解釈するでしょう。
しかし、被災直後から「ベントによる放射性物質の放出」とされているように、燃料溶融と放射性物質の拡散は直接関係ないはずです。水素爆発による原子炉建屋の破壊も放射性物質拡散の原因でしょうが、核燃料の一部が吹き飛ばされたかどうかは誰にもわからないし、おそらくその可能性は低いでしょう。
科学者が国会で陳述するのにこんな乱雑な認識(というか、テキトーな表現)でいいのでしょうか?
プルトニウムはそんなに危険か
児玉氏の次の発言にも驚きました。
プルトニウムを飲んでも大丈夫という東大教授がいると聞いて、私はびっくりしましたが、α線は最も危険な物質であります。
wikipediaが正確だという保証はありませんが、私にはwikipediaの記述が妥当に思えます。半減期が何万年とか何億年というと「長く影響が残る=恐ろしい」と思いがちですが、それはすなわち「放射線をチョロチョロとしか出していない」ということです。
プルトニウムは体内摂取比率も非常に低く、ほとんどが時間と共に排出されてしまうので、紙1枚も通過できないα線では消化管の壁をひっかく程度のことでしょう。
児玉氏は他に専門的な難しそうな話もされていますが、こんなにわかりやすいところで定説と違う見解を示される以上、よほどニッチな研究をされているのか、トンデモ科学者かのどちらかなのだろうな、と推察します。
放射性ヨウ素の影響について
さらに私が最近勉強したことと全く違う見解も述べられました。
次にヨウ素131。これはヨウ素はご存知のように甲状腺に集まりますが、甲状腺への集積は成長期の甲状腺形成期がもっとも特徴的であり、小児に起こります。しかしながら1991年に最初、ウクライナの学者が甲状腺癌が多発しているというときに、日本やアメリカの研究者は、ネイチャーに、これは因果関係が分からないということを投稿しております。なぜそういったかというと1986年以前のデータがないから統計学的に有意だということが言えないということです。
しかし統計学的に有意だということが分かったのは、さきほども長瀧先生からお話しがありましたが、20年後です。20年後に何が分かったかというと、86年から起こったピークが消えたために、過去のデータがなくても因果関係があるということがエビデンスになった。いわゆるですから疫学的な証明というのは非常に難しくて、全部の事例が終わるまでだいたい証明できないです。
1つずつ見ていきましょう。
甲状腺への集積は成長期の甲状腺形成期がもっとも特徴的であり、小児に起こります。
これはたしかにそう言えるのかもしれませんが、もっとも大事な要因は「甲状腺にもともとヨウ素が満たされているか」であり、これは年齢に関係ないことです。
参考:
がんの放射線治療──その3 放射性ヨウ素内用療法|team nakagawaここには、内部被曝を利用した治療が有効になるように、海藻などによるヨウ素の摂取制限をすると書いてあります。つまり、年齢が高くてもヨウ素がカラカラの甲状腺には放射性ヨウ素がとりつくし、ヨウ素で満腹の甲状腺細胞には取り込まれないのです。
日本人は海藻などからヨウ素を摂取する量が多いので、乳幼児は別としてある程度の年齢であれば甲状腺はヨウ素で満たされている人が多いでしょう。ソ連の内陸部にはヨウ素のないカラカラ状態の甲状腺を持つ人が多かったので、深刻だったとされています。
1991年に最初、ウクライナの学者が甲状腺癌が多発しているというときに、日本やアメリカの研究者は、ネイチャーに、これは因果関係が分からないということを投稿しております。なぜそういったかというと1986年以前のデータがないから統計学的に有意だということが言えないということです。
これも不思議な説明です。検索してみたら
1997年の資料に「放射性ヨウ素(
131I)を用いた甲状腺疾患の治療は50年以上前から行われており」と書いてあります。
統計学的にどうこうではなくて、放射性ヨウ素が甲状腺がんの原因になることくらいは当然のこととして認知されていたはずです。
しかし統計学的に有意だということが分かったのは(中略)20年後です。(中略)ですから疫学的な証明というのは非常に難しくて、全部の事例が終わるまでだいたい証明できないです。
手前の説明がおかしいので結論部分がすっかりぼやけて見えてしまうのが残念ですが、疫学調査に膨大な事例と長い時間がかかるのは当然のことだと思います。こんな説明をしなくても、そんなことはわかります。
また、DNAの異常からがん発症までに10年以上かかるのが普通だと聞いてますので、20年くらいかけなければ影響があったかなかったかもわからないというのは正しいでしょう。そしてここに、先ほどの答えがあるような気がします。つまり、事故から5年後に癌が発症するというのは普通では考えられない、というのが、ネイチャーに書かれた日米の研究者の意見だったのではないでしょうか?
それにしても、この手の「わかってないから心配しろ」の理屈は他のトンデモ学者から何度か聞かされました。一種の脅迫だと私は感じています。
私たちは現在わかっている範囲内で科学を信用して対処するしかない。未来の知見を利用することはできないのだから、結果的にそれが間違いだったとしても、現在の仮説に基づいて行動するしかないのです。
「わかってないことを心配しろ」と言って普通の人たちの行動に余計な縛りをかけるのは、科学者の取るべき態度ではないと思います。
もちろん、政府にやるべきことを進言するのは、多ければ多いほどいいでしょう。でも、私が見ても他で聞く定説らしいものと相反することをこれだけ並べられれば、信用しろという方が無理だというものです。