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2011年8月2日(火)付

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低投票率―民主政治の基盤を崩す

有権者の4人に3人がそっぽを向く。こんな選挙って、ありなのか。おとといの埼玉県知事選の投票率は24.89%だった。全国の知事選での過去最低記録を更新した。3選をめざす現[記事全文]

日本と韓国―領土問題で熱くなるな

このところまた、日本と韓国の間で「領土」にまつわるあつれきが目につく。領土問題は、簡単に解決できるものではない。短兵急にことを構えず、事態をこじらせぬよう、自制した大人[記事全文]

低投票率―民主政治の基盤を崩す

 有権者の4人に3人がそっぽを向く。こんな選挙って、ありなのか。

 おとといの埼玉県知事選の投票率は24.89%だった。全国の知事選での過去最低記録を更新した。3選をめざす現職を、民主、自民、公明各党が相乗りで支援した。勝敗の行方はほぼ見えていた。

 それにしても、である。

 これほど多くの主権者が、政治に参加する権利を放棄することは、民主政治の基盤を掘り崩す深刻な事態と受けとめなければならない。

 有権者の地方選離れは、埼玉に限らない。この春の統一選の投票率も「戦後最低」のオンパレードだった。

 道府県議選は48.15%で初めて50%を切った。市長選、市議選、町村長選、町村議選もそろって戦後最低だった。知事選は戦後2番目に低かった。

 東日本大震災の直後で、人々の意識が選挙に切り替わらなかった側面はあろう。しかし、地方選の投票率の低下は近年、どうにも止まらない傾向なのだ。

 理由はさまざまある。選挙事情は首長選と議員選で違うし、都道府県と市町村でも異なるから、一概には語れない。それでも以下の指摘はできる。

 まずは政党や政治家が責任を果たすことだ。安易に相乗りすることなく、しっかりとした選択肢を示すべきだ。

 次に有権者も考えてほしい。「首長や議員なんて誰がやっても同じだ」などと思ったら大間違いだ。大震災で、自治体のリーダーの力量の重要性を思い知らされたばかりではないか。推したい候補者がいなければ、よりましな人を見つけよう。

 その上で、選挙制度を改善していくことが不可欠だ。

 たとえば、候補者に世襲や業界団体、労働組合の関係者らではない「普通の市民」「女性」「若者」を増やそう。

 そのためには会社員や公務員が退職しなくても立候補できる「在職立候補制度」や、任期を終えたら元の職場に戻れる「休職・復職制度」を検討すべきだ。市議が現職のまま県議選に挑戦できるようになるだけでも、関心は高まるだろう。

 これから分権改革が進み、自治体に権限や財源が渡れば、首長の責任は増し、チェックする議会の役割も重くなる。そのときに、「住民不在」のような低投票率では、有権者に不利益が及びかねない。

 政治に不満を持つだけでなく、身近なところから改善していこう。そのためにも、地方選にもっと目を向けよう。

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日本と韓国―領土問題で熱くなるな

 このところまた、日本と韓国の間で「領土」にまつわるあつれきが目につく。

 領土問題は、簡単に解決できるものではない。短兵急にことを構えず、事態をこじらせぬよう、自制した大人の対応が双方に求められる。

 それだけに、きのうの出来事は残念だった。

 自民党の国会議員3人が韓国への入国を拒まれた。日韓が領有権を主張する竹島に関連し、島から約90キロの鬱陵島(ウルルンド)を視察する計画だった。「韓国の主張を知るため」の訪問だという。

 議員と行動をともにする予定だった竹島研究の日本人学者も入国を認められなかった。異例のことと言っていい。

 韓国政府は「公共の安全を害する恐れがあり、両国の友好関係に役立たないため」と議員側に説明したという。

 確かに一部韓国民の激しい反対行動があり、無用の混乱を回避するためとはいえ、大仰な対応ではなかったか。

 では、議員側はどうか。

 領土や歴史認識の問題で、韓国や中国に厳しい態度をとる人たちである。入国拒否は事前に知らされていた。「そこで行かねば恫喝(どうかつ)に屈することになる」と言って韓国に向かった。

 これでは、領土問題の解決に資するような展望も戦略も持たないまま、騒ぎを巻き起こすだけのパフォーマンスと見られても仕方あるまい。

 6月に、大韓航空が新型機のデモ飛行をわざわざ竹島の上空で実施した。日本の外務省は対抗して、職員の大韓機利用を1カ月間、自粛させている。

 5月には、韓国の野党国会議員がロシアの許可を得て北方領土の国後島を視察したり、閣僚が竹島を訪れたりした。

 また今春の日本の教科書検定結果で竹島に関する記述が増えると、韓国政府は反発して、竹島近海に海洋調査基地を造る構想を明らかにした。

 韓国は実効支配をますます強め、日本にとって快いものではない。日韓とも、公式の立場がからむだけに、引くに引けない応酬になっている。

 ここはまず、刺激しあうことを避け、悪循環にこれ以上はまらぬよう自制すべきだ。

 解決への効果も期待できない行動を強行することが「毅然(きぜん)とした外交」ではないし、自制は「弱腰」ではない。

 日韓の安全保障に直結する北朝鮮問題もあるいま、連携を深めて関係を質的に上げる。そうしていずれ領土問題も冷静に話し合える環境をつくる。それが政治に携わる者の責務である。

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