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  催眠学園 作者:変態
それは偶然に始まった
今日から教育実習が始まる。期間は2週間だ。期待と不安が混じっているって感じかなぁ。本当は母校に実習に行くのがここの決まりみたいだけど、俺は事情が事情なだけに特別に家に近い○○学園へ行くことになったのだ。近いと言っても歩いていける距離ではなく、電車で2駅ほどだ。

学生の列に紛れて、今にも今日初めて着ましたって格好のスーツ姿は浮くな~。本当はそんなことないのだけど、みんなにじろじろ見られているようでなんとなく落ち着かない。

特に制服姿の女子高生に見られているような。ちょっと自信過剰かな。

俺も高校時代は、てくてく歩いて通ったものだ。そういえばこんなことも、あんなこともあったな~。卒業してからそれほど時間がたっていないのに、ノスタルジックな気分になっている俺にふっと気づいた。あの頃はよかったなー、何も考えずに過ごしていたんだなーって。

俺は、だんだんとあの出来事に自分の記憶が近づいていることにうすうす気づいていた。

もうあのことを思っても仕方がない。死んだ両親は帰ってこないのだから。

記憶が核心部に近づいたところで、学園の校門が見えてきた。

駅から校門までは徒歩10分ぐらいだろうか?もう、俺の考えは他のことに切り替わっていた。これは、知らず知らずに覚えた安全装置なのかもしれない。

まず、何をするんだっけ?

学校から来た案内を内ポケットから出す。いっつもジャンパーだから内ポケットからものを出すなんて慣れないから腕がつりそうになる、、ってのは冗談だけど、なんだか動きがぎくしゃくしてるぞ。えーっと、まず職員室に行って担当の先生に挨拶か、城ノ内先生を訪ねればいいんだな。職員室は2Fにあった。ここの学園は山の斜面を切り開いて作ったために、階段状の土台に校舎が建てられている。校舎は全部で3棟あり、一番手前の職員室が入っている建物は3階建だが(すべての校舎が3階建てなのだが)ここの2階と隣の1階がつながっていて、さらにその2階と隣の1階がつながっている。つまり一番手前の1階からみると一番奥の3階は実際は5階の高さになるのだ。まーそんなことどうでもいいのだが、説明している間に職員室の前についた。いつ来ても職員室ってのは緊張するねー。

成績があまりよいとは言えなかった俺はしょっちゅう呼び出されて説教されていた。それも複数の先生に。そういう意味じゃ、有名人だったもしれない。

上づった声で近くの先生だぶんに尋ねた。

「実習で来た上原です。城ノ内先生いらっしゃいますか?」

一応、礼儀はわきまえているので、間違っても『先生いるー!』などとは言わない。

今なんか、先生と生徒の関係も友達みたいなもので、こんな言い方する輩も多いと聞くが、何とも思わないのだろうか、先生も。

「あのコピー機の隣の先生ですよ。」

と教えてくれた。するとその先生がこちらを見て手招きしている。自分の名前が呼ばれたので振り返ったのだろう。特に今日は教育実習の初日なので、誰かが尋ねてくることは分かっていたはずだ。

けっこうきれいな先生だ。30ちょっと前ってところかな。ここでの2週間が楽しいものになりそうな気がちょっとしてきた(単純だー)。

「あのー上原です、教育実習の。」

「上原君ね、○○大学の。あー、特別にこの学園になったって子ね。」

なんだかこういう言われかたされると悪い事して流れてきたみたいだなぁー。ちょっと嫌な気分になった。

「専攻は、理学部生物科、というと教科は理科ね。」

「はー、そういうことになりますね。」

「理科は白井先生だから、後で紹介してあげるわね。もう少ししたら朝礼が始まるから、まずは講堂に行ってそこで生徒に紹介するわ。今年は実習生が3人ね。」

「他にもいるんですか?」

「ええ、園田くんと、藤原さん。数学と、音楽ね。校長に紹介するからついてきて。」

「あ、は、はい」

先生に促されるまま、金魚の糞のように職員室の机の間をぬっていく。俺は結構背が高いので、俺より背の低い城ノ内先生のあとについていく姿はなんか変。わかるよね。

職員室の脇のドアを開けると、そこが校長室だった。

「校長先生、教育実習生の上原敦君です。理科担当になります。」

くるっと、椅子が回転して校長がこちらを向いた。えっ、女だ。それもばーさんじゃない!

意外な展開(そうかなぁ~)にちょっとびっくりした。

「何、鳩が豆鉄砲くらったような顔しているのよ。」

と、城ノ内先生がつっこんでくる。

「みんな同じリアクションね。もうなれちゃったわ。」

と校長が言葉を発した。

「私がきれいなんで、みんなびっくりするのよね。あっ違った?男じゃないし、おばあさんでもないからが正解よね。」

見事に一人でつっこんで一人でぼけている。

が、まさしくその通りである。よせばいいのにそののりの良さに思わず、

「どうしてですか?」

と思いっきり聞いてしまった。

「上原君!いきなりなんですか、初対面で。」

と、城ノ内先生が制する。

「いいわよ、どうせ、生徒に変なこと吹き込まれるのだから、あらかじめ知っててもらった方が、後で説明するよりいいわ。

ここの学園は私のおじいさんが創立したの、創立30年ってところね。で、そのおじいさんが昨年亡くなったの82歳で。その人ね。」

と壁に掛かっている写真を指さした。そこにはりっぱな白いひげを蓄えた本当にじいさんがいた。

「それでね、次は私の父が継ぐはずだった。それが当然だものね。でも、おじいさんのお葬式の帰りに飲みすぎで工事中のマンホールに落ちてあっさりと死んじゃったわ。その時私は思ったわ、人って簡単に死ぬのねって。母は全く経営の知識なんてないし、いつかは継がせようと、経営の英才教育を受けさせていた私に白羽の矢が刺さったって訳。なんで三十路そこらで学校をつがにゃいかんわけ?とその時は思ったわ。恋多き乙女がよ。」

「はー、そうなんですか。」

俺は自分の境遇と照らし合わせて、急に校長に親近感がわいてきた。

「でも、もー慣れたけどね。」

と、おどけて見せた彼女の表情が何とも言えず、いとおしかった。

「あなたも両親を亡くしているわね。私もその気持ちはわかるわ。」

いつもは、こんな言葉言われたら『何言ってるんだ、俺の本当の本当の気持ちも知らないで知ったかぶりすんなよ。』と斜に構えた俺だが、今回のこの校長の言葉はすんなりと受け入れることができた。もしかしたら俺の境遇を知って自分の事を話してくれたのかも。そうだとしたら恐るべしこの校長。

「ところで、上原君。君パソコン詳しい?」

いきなり話題転換だー。

「はー、卒論でパソコン使ってますし。自分でも組み立てことありますよ、パソコン」

「そー、それならちょっと相談に乗ってくんない。いつも使っているパソコンが調子悪いのよ。」

「いいすよー。」

あっ、いかん。この校長があまりにもフレンドリーに問いかけてくるので、友達に話すみたいに答えていた。

案の定、城ノ内先生から、

「上原君、校長先生になんて口聞くの。先生のなろうという人が気をつけてくださいよ。」

「まぁまぁ、あまり堅くならなくてもいいけど、最低限の言葉遣いは意識しないと、生徒になめられますよ。先生としての自覚を持ってね。あと、アドバイスだけど、体現止めと倒置法は効果的だけど、余り使いすぎると陳腐化するので使い方には気をつけてね。」

と、校長がフォローしてくれる。しっかりと俺のしゃべり方の癖を見抜いているとは、だてに校長はやっていないな。

「あっ、校長先生!もう朝礼の時間ですよ。講堂に実習生を連れて行かなければ。」

「そうですか、上原君、パソコンは後で暇な時間にでもみてくださいね。」

「あ、はい。」

俺は、城ノ内先生に促されて教育実習生控え室に連れて行かれた。そこには男女二人が座っていた。先ほど言っていた二人だろう。

「これから講堂に行って全校生徒の前で紹介をいたします。私についてきてください。」

「あっ、その前にこの人が上原君、理科の実習生です。上原君、さっき話したこの人が園田君、女性が藤原さんよ。」

と、手でさして紹介してくれた。二人とも立ち上がって

「園田です、よろしく。」

「藤原です、よろしくお願いします。」

とそれぞれ挨拶した。

「あっ、遅れまして、、じゃない、初めまして上原です、よろしく。」

当然の事ながら、俺の視線は藤原さんに注がれた。きれいだが、つんとしたところがなく、穏和な笑顔なすてきな人だ。これからの2週間が楽しくなりそうな予感がしてきた(こればっか)。

「それじゃ、行きましょうか。」

俺たちは、城ノ内先生の後に続いて講堂へ歩いていった。

園田君の第一印象は、客観的に見て、あくまでも客観的に見て俺より劣るが、人の良さそうな感じである。ただ、そのにこにこ顔の裏に何かありそうな感じがした。あくまで第一印象であるから、人を勝手に判断してはいけないことぐらいわかっている。徐々にわかってくると思う。

講堂につくと舞台に上がらされた。舞台の端ではあったが、このような場所に来ると緊張して前がよく見えないものだ。何百人もの生徒がこっちを見ていると思うと、自分が見られているわけではないが、こそばゆいものだ。

すぐに校長がやってきて、出席者は全員そろったようだ。すると、どこからともなく変なメロディが流れてきた。変とはいったが、それはある一定のリズムをもった音で決して不快なものではなかった。テンポが蛍の光のようにゆったりしていた。それは3分ほど続いた。その間は誰も目をつぶって聞いていた。つぶっていないのは・・・・と周りを見渡すと俺だけのようだった。

曲が終わると、校長が演壇から第一声をあげた。

「みなさん、おはようございます。また新たな1週間が始まります・・・・」

とお決まりの朝の挨拶が始まった。これって自分が高校生の時もそうだったが、長くてつまらないものなんだよな。早く終わらないかっていつも思っていた。ただ、今日ばかりはそうは言ってはいられない。自分が紹介されるのだから。

「・・・・それでは、今日から2週間、教育実習を受けられる先生の方々をご紹介致します。名前を呼ばれたら1歩前に出てください、まずは、本校24期卒業の園田英二先生、数学を担当していただきます。・・・・・次は、26期卒業の藤原玲先生、音楽を担当していただきます。・・・・最後に本校出身ではありませんが理科を担当していただく上原敦先生です。」

俺が紹介されたとき、生徒の間でざわざわとざわめきが聞こえたようだった。当たり前だよな、ここじゃ出身校へ教育実習に来るのが普通なので俺のように出身校じゃないってどういう訳があるのだろうって、そりゃ興味が沸くわな。

校長の話は続いていた。

「みなさんは、2週間の短い間ですが教師はどういうものか、教育の必要性について常に考えながら過ごしてもらいたいと思います。そして、終えた後自分が教師という職業を選ぶ自信ができたとき、次のステップに進んでもらいたいと思います。」

校長の話が終わり俺たちはやっと解放された。生徒達とはちょっと遅れてぞろぞろと教室へ帰っていく。さっきのメロディは何なのだろう、気になっていたので藤原さんに尋ねてみた。お近づきになりたいという不純な動機もあったのだが。

「藤原さん、さっき朝礼が始まる前流れたメロディはなんですか?みんな目をつぶって聞いていたようだけど。」

「あ、あれですか。先代の校長が集中力を高めるって、取り入れたもので、この学園の名物にもなっているんですよ。」

「はー、」

俺は気が抜けた返事になった。

「入学時から聞かされているから、最初は変と思ってもそのうち慣れてきちゃうのよ。私たちも高校3年間ずっと聞いていたわ。」

あまりたいしたものではなかったらしい。先代の校長(つまり今の校長のおじいさん)が、この学園をPRするため何か特徴をと考えたものらしい。

「けっこう、あれって落ち着くのよね。ね、園田さん!」

突然振られた園田さん(年上とわかったので一応園田さんにする)は、びっくりしたように振り返った。

「あー、そうだね、あはは。僕は体が弱くほとんど学校に来なかったので、あまり聞いて

いないんだよね。テストの時ぐらいしか学校に来ていないから。いまじゃ体もよくなって無理をしなければ普通の生活ができるになったけどね。」

この人も訳ありか。人にはそれなりの歴史があるんだね。さっき感じた暗さってこういう背景があったのだ。やはり人は見かけだけで判断してはいけないな、反省反省。

俺たちは、それぞれの担当の先生に挨拶するために分かれた。藤原さんは園田さんと同じ方向だった。残念、もう少し話したかったのに。

俺は理科準備室に行った。担当は白井先生だ。話を聞くと、あと3年ぐらいで定年ということだ。参考に先生の授業を聞かせてもらったが、教科書ももたず、チョーク箱だけであった。それにもかかわらず、黒板いっぱいに色とりどりの図を書いて説明する姿に感動してしまった。授業内容がすべて頭に入っているようだった。

必要な事項を聞いたら、今日はもういいよ、言われた。明日から授業を受け持ってもらうから予習してきてと課題を渡された。

俺は、朝の約束を果たすために職員室に寄ると校長を尋ねた。在室らしい。

「失礼します、上原です。」

「あっ、もういいの。変なこと頼んで悪いわね。」

「いやー、別にいいですよ。パソコンをいじるのは好きですし。」

校長から、現象を聞くとある程度わかってきた。このパソコンは前の校長が使っていたものらしいので、ずいぶん古いものであった。

「FDDが古くなってデータ読めなくなってきてますね。もう部品もないし、壊れる前にパソコンを新しいものに変えたらどうですか?」

「そうね、それはかねがね思っていて新しいのは買ったのだけど、どういうふうにしていいのか、わからなかったのよ。」

「それじゃ、私がデータ移行をやっておきますよ。FDしかないからデータもそれほどないと思いますし。」

「助かるわ、お願いするわ。私はちょっと出てくるから適当にやってもらえる」

と、言って部屋を出て行った。実習生一人を校長室に残すとは無防備ではないだろうか。よほど信頼されているのだろうか。・・・・しばらくしてその理由がわかってきた。このパソコンには本当に重要なデータがないのだ。記号のような羅列で何が書いているのか全く分からない。古いパソコンのFDDは分解して埃を取ると一応動くようになったので、まだ使えるとは思うが、もう寿命だろう。データを一通り新しいパソコンに移しておいた。新しいパソコンはHDD付き(当たり前だが)なので、FDのデータなんてゴミみたいなものだ。しばらくして校長がコーヒーを持って帰ってきた。

「ご苦労様、どう調子は?」

「すべてのデータを移しておきました、これからは新しいパソコンでできますよ。ところで、これって何のデータですか?」

「これ、実は私もわからないのよ。父から大事なものだから大切に保管するようにと言われていたもので、内容は父が引退するときに教えるといっていたけど、突然死んじゃったしね。」

「何かの暗号みたいですけど、キーがないと解読は無理ですね。」

「あー、そうだ。御礼といっては悪いけど。このパソコンもらってくれない。捨てるのもお金かかるのよねー。分かる人だと何か使い道もあるでしょう。」

こんなパソコンいらないよ、と出かかったが、あの暗号がちょっと気になっていたし、ここでもらっておけばポイント稼ぎになるという打算的な判断が瞬時に働いた。

「あーいいですよ。フロッピーももらっていいですか。フォーマットし直せば使えますから。」

「いいわよ。もらってどうせもう使わないから。」

俺は、校長室を後にした。どうしようか。もう家に帰って明日の予習でもするか。

玄関を探してうろうろしていたとき、ふと音楽室の看板が見えた。そうだ、藤原さんと帰ろう。駅までは話ができるだろう。そう考えると、音楽準備室に向かった。中からは、ぼそぼそと声が聞こえる。担当先生と打ち合わせでもしているのだろうか。それだとじゃまをしてはまずいので、残念だが一人で帰ることにしよう。そう思って準備室を出ようとした。その時、気配を後ろに感じて振り返った。藤原さんだった。この幸運に感謝しよう。

「一緒に帰ろうと思って、駅までどうですか。」

と一気に言ってしまった。ちょっと慌てていたかもしれない。藤原さんはこっちを見ていたが、なんだか反応が鈍い。ちょっとぼーっとした感じであった。

「あーー、上原君、どうしたのー。」

緩慢なしゃべり方である。さっきの言ったことが聞こえなかったのかもしれない。再度、

「一緒に帰ろうと思って、駅までどうですか。」

とオウムみたいに繰り返した。

「あーー、今日は園田さんと帰る約束・し・たん・ですー。先に帰ってくれませんかー」

いきなりショックな言葉。あの園田さんがもうすでに約束していたとは。3人で帰ろうとする代替案も言わないまま却下されてしまった。

「あはは、そうですかーー、残念だなぁー、じゃまたね~~。」

と、失意のまま音楽準備室を後にした。俺は、一人でとぼとぼと駅から電車に乗って家に帰った。

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