東日本大震災の復旧から復興への取り組みが、わが国の直面する最優先の課題であることは誰もが承知している。
具体的にどんな復興事業を目指すかにもよるが、巨額の費用が長期間にわたって必要となることも理解できる。
それでなくとも、「火の車」の国家財政である。どうしても増税が必要と言うのであれば、お茶を濁したり、先送りしたりせず、まずは国民へ率直に説明することが、新たな国民負担を求める政府と与党の最低限の責任ではないか。
政府はきのう、全閣僚が参加する復興対策本部(本部長・菅直人首相)を開き、復興基本方針を決めた。
復興期間を10年間と定め、被災地の土地区画整理や高台への集団防災移転、被災者の就業・就学支援や水産業の基盤整備など、少なくとも総額23兆円規模の復旧・復興事業を実施する。
このうち、当初5年間を「集中復興期間」と位置付け、事業総額の約8割に相当する約19兆円を投じるという。
最大の問題は、巨額の復興費用をどう工面するかという財源問題である。
集中復興期間に投下する19兆円のうち、すでに2011年度の2次に及ぶ補正予算で6兆円は確保済みだ。
残る13兆円について政府は、子ども手当の見直しなど歳出削減と国有財産の売却など税外収入で計2兆6千億円程度を捻出する一方、10兆3千億円程度を臨時増税の対象とする案を固めていた。
また、臨時増税は「5年を基本に10年以内」で実施するが、その具体的な税目や増税幅などは8月以降の政府税制調査会の議論に委ねると先送りしていた。
ところが、この政府方針に対し、民主党から「復興財源を増税と決め付けるな」といった反発が噴き出したため、復興基本方針案に明記していた臨時増税の規模と期間を削除する修正で、政府と与党は何とか折り合ったという。
これでは、基本方針決定の出だしから腰砕けと言われても仕方あるまい。
いずれ、何らかの復興増税が避けられないとすれば、納税者である国民の理解と協力が欠かせないはずだ。国会審議でも野党を説き伏せねばならない。その前段で政府が与党の説得にも手間取っているようでは、先が思いやられる。
しかも、増税論議は「復興増税」だけではない。政府はきのう、B型肝炎訴訟の被害者救済で基金創設に必要な財源のうち7千億円を臨時増税で確保する基本方針を閣議決定した。
社会保障と税の一体改革でも、政府は10年代半ばまでに消費税率を10%へ引き上げる方針を打ち出している。
どれもこれも避けて通れない重要な解決課題だが、優先順位を定めて国民的な論議を深めていかねば「増税ラッシュ」の重荷に納税者は悲鳴を上げてしまう。
菅首相の退陣問題にけじめをつけ、政府と国民の信頼関係を回復することが急務であることは言うまでもない。
=2011/07/30付 西日本新聞朝刊=