政治家の市川房枝、小説家の野上弥生子(やえこ)ら、先駆的に活躍した10人の女性のインタビュー映像が約35年ぶりによみがえった。ジャーナリストの渡辺晴子さん(73)が制作したビデオ作品を、20~30代の女性研究者らが再編集して6月末、DVDとして完成させた。時代を切り開いた女性たちの歩みは、次世代への励みになりそうだ。【反橋希美】
基になったビデオ作品「ウィメン・パイオニアズ」は、渡辺さんが75~76年、NHKで初の女性解説者になった縫田曄子(ようこ)さん(89)と共同で制作した。75年は国際婦人年。渡辺さんは「尊敬できる日本女性がいることを国際社会にアピールしたかった」と振り返る。
出演者は市川房枝や縫田さん本人のほか、家族計画運動を進めた加藤シヅエ、国内初の女性裁判官となった三淵嘉子ら近現代女性史に名だたる人物。縫田さん以外は全員故人だ。
ビデオは昨夏、作品を後世に生かしたいと渡辺さんが財団法人大阪府男女共同参画推進財団に寄贈した。財団は、女性研究者7人の協力を得てプロジェクトチームを結成。用語の解説や年表作成などに約1年をかけ、再編集した。
インタビューは主に縫田さんが担当。各人の業績を紹介した後、活動のきっかけや軌跡を丁寧に尋ねている。育った家庭環境や「今度生まれるとしたら男か女か」といった質問で、人となりを描き出している。
チームのメンバーは「新しい発見が多かった」と口をそろえる。当時82歳の市川房枝のさばさばした話しぶりに、「かっこよくて親近感を覚えた」と語るのは関西大准教授の豊田真穂さん(35)だ。「教科書でしか知らなかった人たちの息づかいが見られた意義は大きい」
大阪府立大助教の伊藤良子さん(34)は、浅賀ふさの編集を担当した。米国で働きつつ絵の勉強をした後、社会福祉の道に進み、国内初の医療ソーシャルワーカーになった浅賀について「人脈やチャンスをとらえ、大きなことを成し遂げた女性の生き方が見られる。『私もできるかも』というメッセージになる」と話した。
同志社大嘱託研究員の林葉子さん(37)は「明治、大正の女性先駆者を昭和の渡辺さんが取材した作品は、教材としても価値がある」と勧める。
1巻(5000円)で1人のインタビューを日英2カ国語で収録し、全10巻。全巻分を記録したブックレット(1800円)もある。問い合わせは財団(電話06・6910・8615)。
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■DVDに収録された女性(カッコ内は存命期間)
縫田曄子 (1922~) 放送ジャーナリスト
高田ユリ (1916~2003) 消費者運動家
市川房枝 (1893~1981) 政治家
三淵嘉子 (1914~1984) 弁護士、裁判官
加藤シヅエ(1897~2001) 家族計画運動家
阿武喜美子(1910~2009) 科学者
浅賀ふさ (1894~1986) 医療ソーシャルワーカー
江上フジ (1911~1980) 放送ジャーナリスト
山高しげり(1899~1977) 女性運動家
野上弥生子(1885~1985) 小説家
毎日新聞 2011年8月1日 東京朝刊