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[29085] 【一発ネタ】ロボットものを書いてみた【っぽいもの】
Name: 樹◆ad05b155 ID:68f682b1
Date: 2011/07/31 12:54

 開幕は、甲高く鳴り響く接敵警報によって知らされた。

 辺境にある研究施設を防衛するために造られた軍事基地。まだ太陽の高い、奇襲には最も向かないような時間帯のことだった。
 警報により、尻を叩かれたかのように兵士たちが動き出す。
 その中の一人である、まだ年若い新兵は休憩時間中に事態が起こったことに舌打ちした。せっかく珍しく勝っていたのになと、仲間内でやっていた賭けポーカーの場を眺める。こういう場合、大抵勝負は流れてしまうのだ。
 おお助かったと不謹慎なことを述べる友人を軽く殴り、彼はさっさと持ち場につくべく装備を整えた。着替えと小銃の動作確認を行い急に慌ただしくなった基地内を駆ける。

 駆けながら、突然の事態に対して考えを巡らせる。
 戦闘警戒でも準備でもなく、いきなりの臨戦態勢。小規模とはいえそれなりの兵力が常駐しているこの基地がその動きを取るという事実に嫌な予感を覚える。
 よほどの大部隊による襲撃なのだろうか。しかし、そのような噂を聞いたことはない。いくら秘密裏に行動していたとしても大規模な人員の移動をすれば隠しきれるものではなく、どこどこの組織が不穏な動きをしているといった話は下っ端の彼も聞くことができるのだ。無論、偶然知らなかっただけという可能性もあるが、噂とはいえ命に関わることだけに情報収集はこまめにしている。聞き逃したとは考えにくい。

 一体何が起こっているのか。
 おそらく答えは、敵の情報はすぐに司令部から告げられるだろう。周囲の警戒をしつつも、彼は通信機から伝わる音声を一音も余さず拾うため聴覚に神経を集中させた。

 聞き慣れた上司の声が響く。敵影は一、所持兵器は――

 そこで、通信は爆音によって強制的に中断させられた。
 敵の数に驚く間もなく変化する状況に混乱する。音源の方へと顔を向けると、そこには基地の防壁をあっさりと壊して侵入してきた巨大なナニカが居た。

 鋼鉄で作り上げられた巨人。

 そうとしか表現できない代物だった。

 今は着地にあわせて膝を曲げているが、伸ばせばおそらく全高は十メートル以上。角ばった武骨な装甲によって形作られた二腕二脚。頭部らしき部位には人間ではありえない単眼。機械でできた歪な人型がそこにいた。

 実戦経験の浅い新兵である彼にとってそれを見るのは初めてだった。
 だがそれでも知識だけは、漏れ聞こえてくる噂からあった。巨体に比例した大きさを持つ銃やミサイルを装備したそれは、曰く、たった一機の存在だけで戦況が塗り替えられる最強の人型兵器だと。

 ちくしょう、と。
 隣にいた同僚が喚きながら小銃の引き金に手を掛けた。破裂音と共に弾丸が打ち出されるが、しかし、人間相手ならば十分な殺傷能力を持つそれも巨人には通用しない。
 スケールが違いすぎるのだとすぐに理解する、自分たちにどうこうできる敵ではない。
 が、だからといって逃げるという選択肢もなかった。思いつく限りの罵倒を吐き出し、無駄とわかりながらも同じく銃を構える。歩兵である自分たちの仕事は基地の主力が出てくるまでの時間稼ぎだ。
 日頃の訓練の賜物か、あるいはただ恐怖からくるものなのか、作業機械じみた挙動で引き金を絞る。

 早くしてくれよ――その願いは聞き届けられ、彼が死ぬ前に基地は完全な臨戦態勢へと移行した。
 ゆっくりと立ち上がる人型に向け、固定砲台や攻撃ヘリから弾丸の雨が降らされる。未だ体勢を整える以上の動きを見せない敵に対しそれらは次々と着弾してゆく。時間の経過とともに基地側の攻撃は苛烈さを増し、やがて大型のミサイルが複数射出され敵機体を爆炎に包んだ。

 大仰な見かけをしていた割にはあっけない決着だ。

 そう、相手が普通の敵ならば兵士は考えただろう。

 分厚い装甲を持つ戦車ですら一撃で沈む威力のものをあれだけ食らって無事なわけがない、たった一機で侵入してきた敵はその愚行に相応しい末路を辿ったのだと判断しただろう。

 しかし敵は化け物だ。幾度となく戦場を駆け抜けてきた教官や先輩らが声を震わせるような凶悪な兵器がこの程度だとは思えない。

 緊張で干からびた口で浅く息をする。
 果たして、その予感は正しかった。
 爆風によって高く舞っていた土煙の中で彼は甲高い吸引音と、一拍遅れて大気を震わせる重低音を聞いた。

 そして。
 先程の斉射以上の爆音を轟かせて煙幕の中から鉄の塊が飛び出してきた。
 大質量が高速で移動したことで破壊的な衝撃が起きる。
 幸運にも突撃方向がずれていたため、彼自身への被害はそれほどでもなかった。せいぜい強風の煽りを受けて倒れた際に額を浅く切った程度だ。
 しかし呻きながら起き上った彼が抱いたのは絶望だった。

 基地の中枢、管制室が完膚なきまでに破壊されていた。

 もはや廃墟となったその場所にたたずむのは鋼鉄の巨人。その光景だけで何があったのかを悟る。『轢いた』のだ。ただの一発の弾丸も消費することなく、その身の質量だけで破壊した。
 あまりの事態に基地全体の動きが一瞬止まる。
 我に返った兵士たちが再び攻撃をするまでの間、僅か一秒。良くそれだけの時間でと褒めるべき練度だ。惜しむらくは敵がそれ以上に優秀で残酷だったことだろう。

 巨人が両腕を持ち上げ、ライフル銃に酷似した兵器を上空のヘリ部隊へと向ける。
 馬鹿げた大きさの引き金を、同じく馬鹿げた大きさの指が押し込む。
 閃光と爆音。
 ヘリ部隊が慌てて回避行動をとった時にはもう遅く、正確な射撃が機体を削っていた。二つの銃口から放たれた弾丸がプロペラを討ち抜く、あるいは直接的に搭乗者の命を奪って浮力を失わせる。墜落したそれらは一つの爆弾となって地上にいた他の兵士を吹き飛ばす。

 通信機から誰かの悪態が聞こえる。化物、と。怒りと恐怖が混じり合った声色だった。
 そうしている間にも人型の攻撃は続けられる。よほど優れた射撃管制装置を積んでいるのか狙われた機体、施設が次々と沈む。
 管制室をやられた時点ですでにこちらの敗北は決まったようなものなのかもしれないが、かといってこのまま抵抗もせずに死を待つことなどできない。生存者内で最も階級が高い者が臨時の指揮を取り、再び迎撃が始まった。

 撃墜を免れた攻撃ヘリ、砲台、戦車が一斉に火を吹く。向こうの装甲が硬いのならば、抜けるまで砲撃を続けるまでのことだ。
 だが――先程までと異なり、今回は敵も素直に放火に晒されてはくれなかった。
 人型の背面から青色の、視認できる程に鮮やかな噴射炎が伸びる。並外れた出力のブースターが、空力を考えていないデザインの機体をいとも容易く空中に浮かび上がらせる。
 推力偏向ノズルを動かし、敵の人型は急速にその場から離脱した。砲撃は外れ、「元」管制室を虚しく貫いた。
 あの装甲、あの火力でさらに空中機動まで行える。その異常さに歯噛みしつつも手は休めない。兵士たちは狙いを素早く修正し、砲口を空に向ける。

 再び弾薬の雨が降る。外れたものは基地に落ち自分たちを傷つけるだろうが、ためらった先にあるのは確実な死だけだ。同士討ちの危険性を無視して敵を討とうとする。
 覚悟を決めた決断。
 しかし、それでもなお、化物には通用しない。
 敵は鋼の巨体を軽々と左右に振って砲とミサイルを躱していった。ふざけた回避力だ。そのくせ思い出したかのように時折火を吹く敵の砲は正確に基地の戦力を奪っていく。巨大な徹甲弾と思われる銃撃は戦車すら容易く貫き、肩部分に装備されている発射装置からは小型のミサイルが降ってくる。

 暴力の化身とも思えるその姿に、いつの間にか通信機から聞こえる声は狂気の割合が増していった。
 仲間をやられた怒りに半狂乱になりながらトリガーを引く者。
 死を受け入れてしまい大切な人の名を呼ぶ者。
 すでに言葉としての意味をなさない叫びを上げる者。
 上官が怒鳴り冷静に任務を遂行するよう指示を出し……その直後、爆音とともに通信が途絶える。その意味を悟って再び混迷の具合が深まる。
 戦闘開始から約十五分。すでに基地機能の大半は死に、残る戦力も時間経過とともに削られていた。
 撤退しようにもあの運動性能を目にしてしまえば逃げられるとは思えない。だからこその必死の抵抗だったのだが、結局は同じだったようだ。
 完全な敗北。
 自分にできたことといえば敵の動きを目で追うことだけ。そして視線の先のそれは今、まさにこちらに向けて移動してきているところだった。

 ブースターの噴出音。
 次いで、ずしりと地の底から響くような重苦しい振動。

 衝撃で舞った土埃から目を庇うため、とっさに両腕を顔の前に翳す。
 風が落ち着き、彼が再び視界を取り戻したとき、そこにあったのは絶望だった。十メートルも離れていない前方に巨人が降り立っていた。機械でできた単眼を不気味に輝かせ、こちらを睥睨している。
 呆然とその場に立ち尽くす。
 迫りくる死への恐怖もあったが、それ以上にその兵器の理不尽さがそうさせた。
 泣き笑いの表情を浮かべる彼。その視線の先にあるのは、人型の装甲だった。戦闘開始時とほとんど変わらず、無傷でこそないものの、戦闘行動に支障をきたさない程度の破損しかなく鈍色の輝きを保っている全身。

 そこまで大規模なものではないとはいえ、基地一つ分の戦力。それを正面から相手にし壊滅させた結果がそれだけだ。
 全面複合装甲でもあり得ない硬さ。どう考えても見た目からの推測装甲厚と釣り合わないそれの正体は、内部に積まれた巨大なジェネレータ、そこからの莫大な電力供給によって展開される特殊な防御膜。一兵士である彼には技術的なことはわからないが、ヘリや戦車といった従来兵器への転用は難しいらしい専用装甲であるとだけは聞いたことがあった。

 でたらめだ、と思う。
 ヘリよりも自由かつ高速な三次元機動に、戦車よりも強力な火力と装甲。そんな相手に一体どうやって勝てというのか。
 ゆっくりと銃口が持ち上がり、こちらに向けられる。
 すでに自分の死は確定したも同然だ。抱える小銃にまだ弾は残っていたが、その程度では鋼の化け物に対しては抵抗にすらならない。
 最後に彼は忌々しさを込めて、仲間たちを蹂躙した敵の名前を口にした。


「……《レイヴン》…………」


 呟きと同時、視界が白色に染まる。
 火を吹いて打ち出された弾丸は兵士の背後にあった戦闘車両を貫通した。
 爆風に彼の体は抵抗感なく浮き上がり、数秒ほどして再び地面に叩きつけられ、地面に赤黒い血液を散らす。

 それが終幕の合図だった。
 圧倒的な暴力によって基地は沈黙した。



 レイヴン――それは最強の人型兵器アーマードコアを繰り、多額の報酬と引き換えに依頼を遂行する傭兵の代名詞。
 支配という名の権力が横行する世界において何にも与することのない例外的な存在。




 渡り鴉たちの物語が今、始まらない。




 not to be continued...


――――――――――
オリジナルロボットものを書こうとしていたらいつのまにかアーマードコアの二次になっていた件について
まあ続かないんですけど、というかこんな突っ込みどころ満載な文章では続けられないんですけど
書きたいシーン(最後に兵士が「レイヴン」って呟くところとか)を先に書いて、それから導入の文章を繋げる形式で進めていったら案の定ちぐはぐな感じに。三人称に初挑戦ということもあり全体的にカオス
機械物の練習作ってことでお願いします


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