たくさんの人に楽しんでもらいたい。一方でそんなものがまだ書けないから読者様の評価で成長したい
そんなジレンマを抱えつつ投稿しました
見込みがないなら早々に切って別なものを書くつもりでいます
これらの点をご確認いただけましたなら、どうぞ本文へ
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ポセイドン。大海呑み込む海蛇。フェニックス。ゴブリン。エルフ。ピクシー。
彼らは真実ではなく、幻想や伝説となった。
だがまだ、生きながらえているものたちがいる。
北の果ての地、険しい山脈への入り口である、小高い山の連なった地域。そこにも、生きながらえるものたちがいる。
一つには、山のどこかの洞窟に救う黒竜。一つには、あらゆる願いを叶えるという万願の門。
一つには、かの門を守る番人。中には黒竜と重ねる者もいるが、彼の外見はあくまで人だ。だがどんな軍にも屈さず、門を百年以上守り続けている。
最近、その門番に関して、新しい噂がささやかれはじめている。
形は美しくも、恐ろしい業を使う悪魔を従えるようになったとか。その力と数たるや、軍にも匹敵するとも。
果ては門番が軍を指揮するなどと、何かの冗談のような噂もささやかれている。
だが真実である。
ある商人の娘が、過去、門番に問いかけたことがある。
「ここは、あらゆる願いを叶えるという万願の門ではないのですか?」
「そんな都合のいいものはここにない。この門の役割は、」
「魔王を封じること」
薄茶色の外套を、淡い木漏れ日がまだらに彩る。
ゆるく拍子を刻む馬の蹄の音が、静寂に包まれた森の中で響く。
馬に乗り森の狭い一本道を過ぎるのは、三人の護衛と二人の商人だった。ほとんどが齢を重ねた大人の男である中、ひとり、物珍しい女商人が交じっている。女が商人をやっていることも珍しい。また珍しいのは、切れ長の目や丸い顔、鴉の濡れ羽のような髪や、髪を左側頭部でまとめるいくつかの玉で飾った髪飾りだった。これらはすべて、砂漠を越えたはるか東方の民族の特徴である。
だが何より珍しいのは、彼女がまだ十六、七であること。
小さなその体躯は、今、護衛と馬の首に挟まれる格好だ。護衛によって馬に載せられ、いつ何時も彼女をかばうことができるようにしてある。
また彼女とその護衛を、一人の商人が先導し、他の二人の護衛が、隊列の前後を守っている。
「ゴイル」
女商人は、同じ馬に乗る背後の護衛を鋭く呼んだ。
「はいお嬢」
ゴイルと呼ばれた護衛は、その岩のような体にふさわしい野太い声で応じた。
女商人は首をねじって、斜め上にあるゴイルの顔を無理やり見た。ゴイルに向けられた彼女の顔は、少女らしいかわいらしさを残しつつ、商人らしく理知的な雰囲気を同時に持ち合わせていた。
「妙な感じね」
「は、これは我慢していただくほかは。このように道が狭いと、横からの襲撃に対応しづらいですからな」
「違う。けど関係あり。この森、静かすぎよ」
「森が静かなのは」
当たり前、とゴイルは言おうとしたのだろう。それが一度口をつぐみ、すっと目を細めた。視覚を意図的に鈍くすることで、他の感覚を絞ったのだ。
「なるほど。何かいないかということばかり気にしておりましたが。これは、何もいなさすぎる。人どころか、獣が一匹も気配を感じられません。あくまで感じられる範囲に、ですが」
「ウェルズの大聖堂以来じゃない?」
「あそこはむしろ何かがいました」
およそ天使とか精霊とか呼ばれる代物が、だろう。
「この先にもいるんでしょう。ある、というほうが正確かもね」
「万願の門、ですか。正直信じかねますが」
「それを決めるのは私たちじゃないのよ」
「リーセン嬢」
ふいに、前を行っていた男の商人が二人を振り返った。やすりで顔を削ったかのような男で、細く頬のややこけた顔をしている。まだ成り上がりの商人らしい、磨耗したままの神経と維持された神経質さを表しているといえよう。
リーセン、と呼ばれた女商人が再び前を向くと、その男の商人は微笑んでみせた。
「もうすぐ森を抜けます。村の連中の話を信じれば、その威容を誇る門が見えてくるでしょう」
リーセンは微笑み返し、艶のある唇から言葉をつむいだ。
「ええ。楽しみです」
まもなく、森を抜ける。
商隊の皆が、口を開いて言葉を失った。
森を抜けた先にあったのは、巨大な黒鉄の門だった。大きさはきっと、伝説に聞く巨人よりもあるだろう。実際に巨人が作ったのだと聞かされても不思議はない。
門は表面が炎を模したように波うち、取っ手だろう、巨大な輪が門扉の内よりの半ばほどに取り付けられている。
だがぽつねんと門があるだけなのだ。これでは、通常の門の役割が果たされるわけもない。
誰が何のために造ったのか。商隊の誰もが疑問を禁じえなかったが、伝説の門であることを思い出せば不思議と納得がいく。人の理解の及ぶところではなく、ただそうであるのだと思うほかない。
あるいは信じさせる力が、この門にはあったのだ。