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[28140] 【ネタ】餓狼少女まどか☆マギカ【習作】
Name: クライベイビー◆2205aff7 ID:86f2e92d
Date: 2011/06/02 06:07
―――注意―――

今回初めてssを書かせてもらいました。
この作品は題名通りまどかが肉弾戦しまくりの再構成のものになります。
この作品をよりよいものにするために感想をお待ちしております。



[28140] 餓狼少女まどか☆マギカ―1―
Name: クライベイビー◆2205aff7 ID:86f2e92d
Date: 2011/06/27 04:25
鹿目まどかは夢を見た。

まどかは見慣れた街にいた。
しかし、空には暗雲が立ち込めいつもと雰囲気が違っていた。
そこで黒髪の少女が戦っていた。

相手が何かは分からなかった。
そいつは大きな歯車を重ねたものから身体の上半身だけひねり出した姿をしていた。
下半身を歯車で覆ってあるようにも見えた。
絶望的な戦いであった。

それを呆然と見ていたまどかに声をかけるものがいた。
猫の耳のようなものからさらに耳を垂らしているように見えた。
その生き物はまどかに当然だと言う。
少女がそれを覚悟していることも。
しかし、夢の中のまどかはそれに納得できない。
さらにその生き物はまどかが契約すれば少女を助けられると言う。

まどかはその生き物に少女を助けたいと言う。
そこで目が覚めた――――――。

その少女は桃色の髪をしていた。
かわいらしいと形容するべき顔をしていた。少女特有の儚いという印象があった。
しかし、その中には逞しいというべきものがあった。それは少女の身体からあふれているようであった。
その2つが奇妙に調和していた。

いまは起きたばかりなので寝間着姿である。

その寝間着の中にあふれているものがあった。全身に筋肉がかなり付いていることが分かる。
袖から出ている手を見るとかなりごつごつしている。こぶしを作れば木の板を何枚も割れそうな手をしていた。
足も手と同様にあった。

まどかは目を覚ましてから先ほどの夢について考えていた。

本当にそこにいたかのようなはっきりとした夢だった。
過去にそういう場面に遭遇したかのようなリアリティがあった。
そして、夢の中の自分の行動についても釈然としないものがあった。

本当に自分ならそいつを見た瞬間に挑んでたと思う。
なら、そいつを見た瞬間にそのことを考えねばならないはずだ。
それすら思わなかった。
夢の中の自分が自分じゃない、と言えば嘘になる。
夢の中の自分は間違いなく自分であったと思う。
その奇妙な矛盾について考えていた。

しかし、しばらく考えても答えが出なかった。
あまり長い時間考えていられなかった。
トレーニングに行かねばならない時間であった。

朝の5時ごろである。早朝なので人はほとんどいない。
いつもはにぎやかな通りも静かなものである。
霧が出ているせいか別の町に来ているようにも感じる。
その中をピンクのジャージ姿でまどかが走っている。

すでに走り始めてから10分ほど経っている。
かなりの速さで走っている。
しかし、まどかの息は乱れず、汗さえ掻いていなかった。
町内を50分ほど走ってから近くの公園に向かった。

まずまどかは柔軟をする。
股関節から足首、手首、首など全身の関節をほぐしていく。

それが終わると100回の腕立て伏せを軽々とした。
しかも、こぶしでである。

その後まどかは逆立ちをした。両手の指10本で体を支えている状態である。
その状態で軽々とプッシュを10回する。
それが終わると両手の子指を抜き、その状態でさらに10回プッシュする。
10回のプッシュごとに指を順番に抜いていき、2本の親指で全体重を支えることになる。

その状態で10回のプッシュをしてもまだ逆立ちをやめない。
今度は片手になり、1本の親指で10回のプッシュをする。
それを両方の腕でした後にようやく逆立ちをやめた。

まどかの身体にうっすら汗が浮かんでいた。
このようなトレーニングを毎朝欠かさずしていた。

トレーニングを終えて家に帰ると、まどかは家庭菜園のほうをのぞいてみた。
そこでは父の智久がプチトマトを収穫していた。
「まどか、母さんを起こしてくれないか」
「うん、分かった」

これも日課であった。母の詢子は寝起きが悪く、誰かが起こしてやらねばならない。

詢子を起こした後2人そろって洗面所に行った。母子が並んで身支度をしている。
「それにしても毎朝よく続くもんだね」
「馴れれば辛くはないよ」

詢子は毎朝厳しいトレーニングをするまどかにこのように言う。
このやり取りは毎朝繰り返されている。
そのあとに友人がラブレターをもらっただの、先生が男と長い間もっているだのの話をするのである。

「まどかもおしゃれしてみなって」
「いや、私がおしゃれしたところで…」
「たくましい身体が好きな人もいる。ほらこのリボン付けてみな」

詢子に勧められてそのリボンを付けてみる。赤いリボンであった。
「うん似合うよ。まどかの隠れファンもメロメロだ」
「そうかな」
そうしている間に身支度は終わった。

リビングに向かうと朝食は用意されていた。
そう言った後にまどかと詢子とタツヤが食事を始めた。
タツヤはまどかの弟で幼稚園児である。

まどかの朝食は量が多い。丼ぶりにご飯が大盛りである。
まどかの使っている食器はすべて通常のものより一回りほど大きかった。

「んばあ」
と、タツヤが叫ぶ。フォークが勢い余ってプチトマトを皿の外に跳ばしていた。
「ッシュ」
まどか呼気をあげデコピンでプチトマトを皿の上に弾いた。

「お見事」
「お見事」
両親が思わず見惚れてしまう、鮮やかな動作であった。

一足先に食べ終わったまどかは詢子とハイタッチをする。
朝の儀式のようなものである。
それから玄関に向かう。
「行ってきます」
まどかは学校に向かった。

まどかが通学路を歩いていると2人の友達と会った。
「おはよう」
「おはよう、まどか」
「まどかさん、おはようございます」

美樹さやかと志筑仁美である。
美樹さやかは青い髪をした勝気な娘であり、まどかとは違う意味で健康的な肢体を持っていた。
しかし、さやかの勝気さ故に周囲にそれを意識させることはあまりない。
志筑仁美は緑の髪のおっとりとした娘で、見るからに柔らかな物腰をしている。
その容貌と相まってよくもてる。
2人ともまどかのクラスメイトであり、親友である。

「直接告白できる人じゃないとだめだってさ」
「さすがまどかの母さん、かっこいい」
「私もそのように割り切れればいいのですが」
仁美がラブレターをもらった話である。

「私にはあんまり関係ない話かな」
「まどかは身体を鍛えることに熱心すぎる」
「部活には入られないの?」
「うん、私は強くなりたいだけなんだ」
「いい加減それ以外のことに興味を持ったら?もったいないよ」
「もったいないだなんてそんな…」

まどかは恥ずかしそうに言う。

「うるさい。まどかは私の婿になるのだ」
「きゃあ」

そういってまどかにさやかが抱きついた。
「私が婿なの?」
「まどかは守られるより守るほうでしょ」
「あら、私もまどかさんのお嫁さんになりたいですわ」
「仁美ちゃんまで」
そんな事をしながら歩いていると学校が見えてきた。

「目玉焼きの半熟、完熟なんてどうでもいい」
ホームルームでは担任の早乙女和子が不機嫌そうに言った。
彼氏と喧嘩をしたらしい。

そういうことを優先して話す和子にはみんなもう慣れている。

「では、今日転校してくる転校生を紹介します。暁美さん」
「はい」
教室がざわめく。
転校生が来ることは珍しいからである。

黒髪の少女が教室に入ってきた。
髪はストレートで腰まで届き、どことなく精神が摩耗しているようにも見える。
それが気にならないほどの美人であった。
まどかはその少女が今朝の夢で見た子とそっくりだと思った。

「暁美ほむらです。よろしくおねがいします」
そう言ってほむらはまどかを見た。
最初は偶然目を合わせただけだと思ったが、そうではないらしい。
明らかにまどかを意識してるようであった。

「じゃあ暁美さんの席はあっちよ」
ほむらが席に向かうのを見ながら、まどかは過去にほむらに会ったことがあるのか考えた。

ホームルームの後、ほむらの周りに女子が集まっていた。
さまざまなことを質問している。
―――とほむらがまどかに向かってきた。

「気分が悪いの。保健委員でしょ?つれてってくれる保健室」
「分かった」
なぜまどかが保健委員であるとほむらが知っているのか。
―――と、まどかは思うがありがたいとも思った。
ほむらと2人きりで話してみたいと思っていたからだ。

まどかが保健室への道を歩き、ほむらがそのあとをついてきている。
「暁美さん」
「ほむらでいいわ」
「ほむらちゃんは私と会ったことがあるの?」
一瞬ほむらの顔に驚きの表情が浮かぶ。
それを隠すようにしてほむらが言った。

「あなたは家族や友達を大切にしている?自分の人生を尊いものだと思う?」
「…私は家族や友達を大切に思っている」
「ならあなたは今の鹿目まどかのままいなさい、でなければすべてを失うことになる」
「ごめん、それはできない」
ほむらの身体びくんと震えた。まどかの言ったことに驚いただけではない。
まどかの身体から放たれた圧力がほむらの身体を叩いたのだ。

「私は今のままではいられない」
「どうして……」
「もっと強くなりたいから」
「な…なにを言っているの」
「やっぱりおかしいかな」
ほむらが口をあけて茫然とまどかを見る。まどかが振り返った。

「大丈夫、私が強くなるのは失わないためだから」
凛とした表情でまどかが言う。自分の何かに自信を持っているような表情であった。

「なにそれ意味が分からない」
「本当に暁美さんと会ったことがないんですの?」
放課後、まどかは喫茶店にいた。
保健室に行く時のことをさやかと仁美に話していた。

「会ったのは今日が初めてだよ」
「けしからん。才色兼備の美人さんだと思ったら実はサイコな電波さん。
萌か、そこが萌なのか~~~」
「もう、なに言ってるのさやかちゃん」
「でもさすが私の婿、転校生にびしっと言ってやるとは」
「まどかさんって度胸ありますわね」
「あんなこと言っちゃって大丈夫だったかな」
あのあと保健室に着くまでまどかとほむらは一言も口をきけなかった。
それをまどかは気にしていた。

「気にする必要はないよ、向こうから言ってきたんだから」
「そうですわ、気にする必要はないですわよ…あらもうこんな時間」
「仁美ちゃん今日もおけいこごと?」
「ええ、毎日毎日おけいこで受験大丈夫かしら…それではお先に失礼しますわ」
「じゃあね仁美ちゃん」
「じゃあね仁美」
仁美が会計を済ませ急ぎ足で喫茶店から出ていく。

「じゃあ私たちも帰ろう」
「ちょっと待ってまどか。CD屋にちょっと寄って行かない」
「ちょっとだけならいいよ」
「ありがとう」
そう言ってまどかたちも喫茶店で会計を済ませ外に出た。

CD屋に着いてからは2人がそれぞれお目当ての曲を聴いていた。
まどかは午後に鍛錬を行うために1曲だけ聞いて帰るつもりであった。
曲が中盤に差し掛かったとき、まどかを呼ぶ声が頭の中に響いた。
「…助けて…まどか」
「え…なに?」
「まどか…助けて…早く」
「いま行くからね」

まどかは少し戸惑ったがすぐにその声の主を探すことに決めた。
近くの廃墟が怪しいと思った。なにか異様な雰囲気をそこから感じ取ったからである。
その廃墟の中に入ると産毛が逆立つのを感じた。
外から感じたものはほんの一端だったらしい。
「…あっちか」

建物の中は音がよく響く。
なにかが必死に駆けている音とそれを追いかける音がまどかの耳にはよく聞こえた。
なによりその音の方向から異様な雰囲気が流れてくるのを感じた。
まどかが走る。かなり速い。肉食獣のようなしなやかな走り方である。
しばらく走っていると夢の中で見たのとそっくりな白い生き物がいた。
駆け寄って近くでその生き物を見てみるとどうやら怪我をしているようであった。

「大丈夫、いま助けるからね」
そう言ってその生き物を抱いたまどかの背後に何者かが立っていた。
それにはっと気づいて振り返る。

「…ほむらちゃん!」
「鹿目まどか、邪魔しないで…そいつは置いて行きなさい」
まどかはほむらに言った。
「どうしてもこの子にひどいことするの?」
「あなたには関係のないことだわ」
どうやらこの謎の生き物を見逃す気はないらしい。
ならば、とまどかは自分のするべきことは一つしかないと思う。
ほむらに気づかれない程度に腰を落とした。

そのときほむらが煙につ包まれていた。
まどかの後を必死で追っていたさやかがようやく追いついたのだ。
そのさやかが消火器をほむらに向けていた。

「早くこっちよ」
さやかがそう言うが、すでにまどかは走っていた。
「え…ちょっとまどか…!」

まどかは器用に片手に謎の生き物を抱き、さやかを担いで走った。
まどかはそのほうが早いと思ったからである。実際、その状態でもかなりのスピードで走っている。
さやかは降ろして欲しいと言うがいまは逃げることが先決であり、さやかの願いが聞き入られることはなかった。
諦めたさやかがこの状況について聞こうとしたとき、さらなる異変が起こった。

周囲の風景が変わっていた。間違いなく今までいた廃墟とは違う。
暗くて不気味な光景であった。その中をなにかがうごめいてた。

ひげを付けた雲という奇怪な姿をしていた。

いつの間にかその雲の群れにまどかたちに迫っていた。
さやかがおびえた。雲たちが害意を持っていることは明らかだったからだ。

まどかは逃げようとしたが目の前が行き止まりになっていた。
まどかはさやかを近くの壁際に降ろし、怪我をしている生き物を抱かせた。
「絶対ここを動かないでね」

まどかがそう言った瞬間に、さやかはまどかが何をする気か分かった。
「そんな…いくらまどかでも無茶だよ」
「大丈夫、絶対に負けないから」

まどかが構えをとった。
両腕を上げ顔の前で軽くこぶしを軽く握る。両足はかかとを地面から浮かせていた。
ムエタイの構えに似ていた。

そのまどかから放たれているものがあった。
それが空間の異様な空気を侵食していった。
まどかの周囲がぐにゃりと歪んだ。

その雲たちがまどかに襲いかかった。
まず、まどかは薙ぐようにしてこぶしを放つ。それが何体もの雲を潰していった。それを何発も連続して放つ。

その足下目掛けて雲が跳んだ。
まどかは腰からひねり右足を跳ね上げる。
その蹴りはその雲のみならず、上半身を襲ってきた雲をも潰していた。
その跳ね上がった足でさらに薙ぐような蹴り技を連続して放つ。
まるで鞭のようにしなる蹴りであった。

雲たちが迫ってくるよりもまどかが潰すほうが早かった。
まどかの放つ異様なものが雲たちを磁石のようにひきつけた。
それが闘いの最中より強くなり、雲たちの引き寄せられる勢いがより強くなる。
それでもまどかは止まらない。
いつの間にか雲たちは消え、周囲はもとの廃墟に戻っていた。

人影が現れた。
「これはどういうことなのかしら」
黄色い髪をしている穏やかそうな少女であった。
縦ロールという特徴的な髪形をしているが、それがその少女には自然であるに思える。
胸が大きい。
先ほどの空間についてなにか知っている様子である。

まどかが聞いた。
「あなたは?」
「あら、あなたたちキュゥべえを助けてくれたの?ありがとう」
「キュゥべえって言うんですかこの子」

ほむらが後ろからやってきた。まどかはいつでもさやかを背負える体制を取る。
しかし、意外なことに所々まどかたちにはわからない内容の話を2人が交わすとほむらは引き下がった。
「ねえ、キュゥべえを治したいから、そこに置いてくれないかしら」
「治す?」
「ああ、そういえば言ってなかったわね」
そう言うと少女は黄色く光った石ころを取り出し、さやかに近づいた。
さやかは呆然とキュゥべえを抱きつづけていたが、それに構わずマミがキュゥベえに光を放つ。
それから放たれる光がキュゥベえを包み込むと傷が塞がっていく。
さやかとまどかは眼を丸くした。
「私の名前は巴マミ。見滝原中学校の3年生で魔法少女をやっているわ」
そう言った。



[28140] 餓狼少女まどか☆マギカ―2―
Name: クライベイビー◆2205aff7 ID:86f2e92d
Date: 2011/06/07 16:39
「助かったよ。ありがとうまどか」

マミに傷を直されたキュゥべえが言う。
キュゥべえを抱いているさやかはいまだに呆けた表情である。
さやかに抱かれながらキュゥべえは続けた。
「僕の名前はキュゥべえ。僕と契約して魔法少女になってよ」

―――よく整理された部屋であった。
学生の一人暮らしという割にはなかなかのものである。
家具だけでなく小物がたくさん、とは言ってもよく計算された配置で置いてあり部屋の雰囲気に調和している。

巴マミの部屋であった。
あの後、キュゥべえを治し呆然としていたさやかを落ちつかせるとマミが部屋に誘ったのだ。
マミの部屋に行くまでの間に何が起きたか、一部始終を話した。
ようやく回復したさやかがまどかの闘っている最中のことについてが話すと、一瞬マミの表情が固くなった。

マミの部屋についてからはマミの用意したケーキと紅茶を囲んで話している。
「おいしい」
まどかがそのケーキを一口で平らげる。ほっぺを膨らませるその姿はリスを彷彿とさせた。
「それにしても使い魔相手とはいえ素手で立ち向かうなんて」
「ああマミさんにも見せてあげたかった、まどかのムエタイを。夢物語かと思ったよ」
格闘技に造詣が深いまどかの親友であるさやかだ。
ムエタイとキックボクシングの違いが分かるくらいには格闘技に詳しい。

その後マミは魔女と魔法少女の関係について言った。

魔女とは人々の絶望が寄り集まってできる。
魔女たちは人々に絶望をばらまきそれがまた新たな魔女を生む。
しかし、魔女は普段結界に潜んでいるので人々には気づかれない。
魔法少女はそんな魔女たちを退治する。
そして魔法少女になるためにはキュゥべえと契約してソウルジェムを持たなければならない。
その契約にも素質も必要あり、その素質に応じたレベルの願い1つだけをかなえることができる。

マミが言ったことを要約すると、そのようなことであった。

「でもすぐには決められないわよね」
「まあ、命がけって言われちゃあねぇ」
「だから提案があるの…魔女退治に付き合ってみない」
まどかが言った。
「あのマミさん…」
「なに、鹿目さん?」
「私も一緒に闘わせてください」
まどかが言う。しかし、マミは厳しい顔をして言った。
「駄目よ。使い魔と魔女とでは比べ物にならないわ」
「そうだよ、生身で化け物と闘ったらだめだよまどか」
「美樹さんの言うとおりだわ。魔女と闘うことだけは許さないわ」
マミの口調が厳しいものになっていた。
「…分かりました」
まどかは残念そうに言った。

翌日の朝まどかが逆立ちのプッシュを行っている。ピンクのジャージに身を包んでいる。
その足の裏の上にはキュゥべえが乗っている。あまり重いものでもないがまどかが思いつきで乗せたのである。
逆立ちのプッシュをしてからいくらか時間が経っているのだろう。
まどかの肌にうっすらと汗が浮かんでいる。
「ねえ、まどか。なんで君はそんな風に鍛えるんだい?」
キュゥべえが不思議そうに尋ねる。
まどかが強い笑みを浮かべて言う。
「強くなりたいからね」
「契約すればきっと誰よりも強くなるよ」
「…そういう問題じゃないんだ」
まどかの笑みが苦笑に変わる。
その苦笑はキュゥべえが言ったことに対してだけでなく、自分も含まれていた。
素手に凝る自分に対しての呆れがあった。

そんな苦笑を浮かべながらまどかには考えていることがあった。
マミのことであった。
マミは1人で闘っている。
そんなマミと一緒に闘ってあげたいと思う。
しかし、マミはそれを許さなかった。
それも当然のことだと思う。
なら、せめてマミに心配をかけないように力を貸せる方法がないか、とまどかは考えていた。
その時、まどかの目にこぶしサイズの石が目に入った。

訓練を終え、朝食を食べてから家を出た後、さやかと仁美と一緒に学校に行く。
まどかの肩の上にはキュゥべえが乗っていたがやはりまどかとさやか以外は気づいてなかった。
仁美が何やら勘違いをしていたが、それ以外は何も変わらない。
昨日使い魔に襲われた割に平和なものである。

「でも大丈夫なの?学校にはあの転校生がいるよ。そいつに襲われたら…」
教室でさやかが言う。正確に言うと実際に声に出してではなく念話と呼ぶべきもので会話していた。
頭の中だけでまどかたちは話していたのだ。
キュゥべえにはそういう能力があった。

「大丈夫、こんなに人がいたんじゃ暁美ほむらも手出しできないよ」
「いざというときは私が暁美さんを止めるわ」
「マミさん、いざというときは私やまどかがついていますよ」
「美樹さんはともかくまどかさんは頼もしいわね」
「ふふん」
「まどかも笑うな」
そのような談笑をしているとほむらが教室に入ってきた。
さやかの身体がこわばる。
まどかはいつでも行動できるようひそかに身構えた。

しかし、ほむらは何もしてこなかった。

―――まどかとさやかは屋上で弁当を食べていた。
まどかは弁当専用の鞄に弁当を持ってきている。炊飯器ほどの大きさがあった。
2層構造になっていて、それぞれにご飯とおかずが詰め込まれていた。
キュゥべえはまどかたちからおかずを分けてもらっていた。
2人と1匹は契約について話していた。

「うーん、やっぱり命がけっていうのはちょっとねえ」
「そうかい?普通は即答してくるんだけどね」
キュゥべえが意外そうに言う。

それを聞いてさやかが言った。
「ねえまどか。私ってさ、幸せボケしてるのかな?」
「幸せボケって?」
「世界にはさあ命をかけてもかなえたい願いをもってるいるでしょ。
それがない私はさあ幸せすぎて命をかけてかなえたい願い事なんてないんだよ。
幸せボケしてるんだ」

さやかが金網に手をかける。自分の中にある後ろめたい感情を吐き出すようにして言った。
「そんな私以外に与えられるべきチャンスだと思わない?」
さやかがまどかに振り向いて言う。

「私はそれに気がついたさやかちゃんはすごいと思うよ」
「……」
「私が契約しないって決めたのだって大した理由じゃないんだ」
まどかが自分で作ったこぶし見て言う。

「強くなりたいんだ…できることなら素手で。ただの下らない意地なんだよ」
まどかが微笑を浮かべて言う。優しく諭しているようにも見えた。
「大丈夫だよ。さやかちゃんがそう思ったことだってきっと無駄にはならないよ」
さやかはまどかの微笑にほだされるようにして、ゆっくりと笑った。

―――つかつかという足音が聞こえる。
まどかが屋上の入り口を見た。
ほむらが屋上にやって来ているところであった。
まどかとさやかがほむらを見る。
ほむらもまどかとさやかを見る。
このときまどかは弁当を膝の上に乗せていた。
炊飯器ほどの弁当が目に入ったほむらは笑っているような困っているような顔をした。
まどかがキュゥべえを引き寄せる。

そんなまどかを見てほむらが言う。
「大丈夫よ。本当ならそいつと引き合わせる前に終わらせたかったけど、もう手遅れだし」
「物騒なことを言うね」
ほむらの表情が元に戻る。まどかは微笑を浮かべたままだ。
「で、どうするつもり」
「…契約するつもりはない」
「そう良かった。安心したわ」
「ねえ1つ聞いていい?」
「なに?」
「あなたはどうしてキュゥべえにあんなことをしたの?」
「…もう自分と同じ被害者を生まれて欲しくないからよ」
「へぇ…それは命がけで戦い続けることを言っているの?」
「もうこれ以上は話せない……絶対にそいつと契約しないで」
そう言ってほむらは屋上から降りて行った。

学校が終わった後まどかたちはマミと落ち合った。
喫茶店で話をしてから魔女退治に行こうということになった。
「さてこれから魔女退治に行くことになるけど何か準備してきた?」
「こんなもの用意してきました」
そう言って金属バットを鞄から取り出す。
「まあ、ちゃんと考えてきたことはありがたいわ」
マミは苦笑しながら言う。

「まどかさんは何か用意あるの?」
「はい。これを持って来ました」
そう言って鞄からこぶしほどの大きさの石を取り出した。
訓練をしているときに見つけたものである。
さやかとマミは目に見えて動揺した。
「……まどか…何これ?」
「えっと……どうやって使うのかしら?」
「投げて使います」
まどかが事もなげに言った。
当然のことのように言うまどかに2人は圧倒された。
妙なところで気が強いと言われるのは、まどかのこういうところに原因があった。
使い魔程度が相手なら十分効果的だろうとマミは思うことにした。

―――会話もそこそこにまどかたちは魔女退治に向かった。
ただひたすら地味な作業である。
魔女が出そうなところをソウルジェムの反応があるまで巡回し続けるというものである。
まどかたちが適当に話しながら歩いているとソウルジェムが強く光りだした。
どうやらビルに魔女が結界を張っているようである。

ビルに近付くとまどかには屋上に女性が見えた。今にも飛び降りそうな状況であった。
「マミさん!」
「…っ!」
マミが気がついた時にはもうその女性は飛び降りていた。マミがその女性のもとに駆けながら光に包まれる。
その光が晴れたときにマミは黄色を基調にした衣装に身を包んでいた。
その横をまどかが駆ける。

マミから光の筋が放たれる。それが女性を包み込み、落下の勢いをやさしく受け止めた。
まどかは女性に近づき目立った怪我がないことを確かめると、胸に耳を当てた。
異常はないようである。
まどかたちは胸をなでおろした。

「女の人にあった紋章のようなものは何ですか」
女性の首の付け根にあった不思議なマークについて、まどかは聞いた。
怪我の類ではないように思えたので確認を優先したが一応聞いておくべきだと思ったのだ。
「魔女の口付けよ」
「口づけ?」
「魔女に魅入られたものにはこれができるのよ。魔女が近くにいる証拠ね」

なるほどとまどかは思う。そう言われてみれば何かの気配を感じる。
まどかの肌がそういう異様な空気を察知していた。

「それじゃあ行こうかしら、その前に…」
「おお」
おもむろにマミがさやかの持っている金属バットをつかんだ。
バットが一瞬ぐにゃぐにゃになったかと思うと、なかなかにファンシーな外見の棍棒に変わっていた。

「用意はいい?」
そう言ってマミが振り返る。
「はい」
「はい」
さやかは少しぎこちなく応え、まどかは笑顔で応える。

マミが魔女の結界への入口を開き、飛び込んだ。
まどかとさやかはそれにつづいた。

結界の中に入るとまどかたちを使い魔たちが待ち受けていた。
かなりの数いる。
それを召還したマスケット銃でマミが使い魔を打ち抜いてゆく。

危なげない闘いであった。
射程が広いためにまどかたちを守りながらでも楽に闘っている。

しばらく進むと結界の最深部まで来ていた。そこには扉があった。
それを次々と開いていくと広い空間があった。
魔女が姿を見せた。
その空間の中にたたずんでいた。
蝶の羽を持ち、頭であろう部分には薔薇が付いていた。
「うわっグロイ」
さやかが言う。まどかも同じ見解であった。

「ここから出ないでね」
マミがバットから変えた棍棒を地面に突き刺すと、そこを起点として円形に光が発生した。
結界ができていた。
使い魔くらいなら寄せ付けないものである。
さやかはおとなしく従う。まどかもそれに従った。
こぶしも蹴りも届く距離ではない。
しかし、まどかは自分にできることがないとは思っていない。

まどかにはマミを援護する手段があった。

魔女に向かって飛び出したマミはマスケット銃を地面に突き刺すようにして召喚した。

それを拾いながら、つぎつぎと銃弾を撃ち込んでいく。
魔女はそれを縫うように飛んでかわす。
魔女の触手が大きなバイオリンの箱をつかみ投げる。
マミは勢いよく飛んできたそれに銃弾を放つ。勢いを削いで跳んでよける。

その跳んだ先でまたマスケット銃を召喚し、銃弾を放つ。

そのマミの足元に触手が静かに伸びてきている。マミの死角から伸びてきていた。
マミは気づいていない様子であった。

「…なっ!?」
マミが驚愕の声を上げる。
触手がマミをつかもうとした瞬間、勢いよく飛んできた何かが触手を引き千切ったのだ。
まどかが持っていたこぶしほどの石であった。

―――まどかはマミの足元の触手に気がついた。
まずいと思う。このままではマミが触手につかまってしまう。
まどかはこぶしほどの石を握る。足を振り上げ大きく振りかぶる。
「まどか……何をしているの?」
マミを見ていたさやかはようやくまどかの様子に気がついた。
さやかにはまどかの身体がひとまわり大きくなったように見えた。
まどかが腕を大きく振り、石を投げた。

そのまどかが投げた石が触手を引き千切ったのだ。

それを見た魔女が突然まどかたちに向かってきた。
いや、正確にはまどかにをターゲットにしていた。
まどかの投擲を脅威に感じたらしかった。

マミがマスケット銃で止めようとするが、銃弾は当たらない。
「こっちに来る!」
「な…早く逃げなさい!」
さやかとマミが焦ったように言う。
どうやら結界は魔女が相手では頼りないものらしい。

キュゥべえが言う。
「マミは間に合わない。早く僕と契約するんだ!」
魔女はもうすぐそこまで迫っている。
そのとき結界の外に出る人影があった。

まどかである。

「なっ…鹿目さん!」
マミが声を張り上げた。
まどかはそれが耳に入らない様子で魔女を見つめている。
そうしている間にまどかと魔女の距離は狭まって行く。

魔女の放つ魔力にまどかが包まれる。
それでもまどかに怯えた様子がなかった。
逆に身体の中で湧き上がる闘士を表すようにまどかが笑みを浮かべた。

魔女とはこういうものかと思う。
今まさに未知のものと戦うのだということを強く意識する。
まどかは自分の体温が高くなるのを感じた。

さやかはそんなまどかを止めようとしなかった。
まどかに溢れているものがそれを許さなかったのだ。
さやかは静かに結界の中からまどかを見守る他なかった。

まどかは腰を低くする。
右手を前に突き出し、左手で作ったこぶしをひねり腰の横に軽く置く。
足は肩幅以上大きく広げた。

正拳突きの構えであった。その場で魔女を迎撃するつもりであった。

魔女が猛スピードで飛び込んでくる。
まどかが正拳を放つ。
魔女の顔面であろう箇所に正拳がめり込み、魔女の動きが止まった。
魔女が突っ込んできたときの勢いが正拳突き1つで殺された。

「そんな……あり得ない」
マミが呆然とつぶやいた。まどかを助けに行くこと忘れてしまうほどの衝撃がマミを襲った。
マミからぬ失態である。
もはやその闘いに手を出せる者はいなかった。

「くううっ」
まどかが呻く。魔女を正面から正拳で迎撃したが、まどかのほうにも強い衝撃があったからだ。
しかし、それに構わず正拳突きを2撃、3撃、4撃と打ち込んでいく。
5撃目は魔女が後方に大きく飛び上がることで避ける。そのまま空中に逃げるつもりなのであろう、魔女は羽を広げる。
まどかが跳躍する。魔女が上昇しきる前にしがみ付く。魔女はまどかをしがみ付けたままさらに上昇する。
魔女がまどかを振り払おうともがく。
まどかは手がめり込むほどの力で魔女を掴みながら、魔女の後方に回り込む。
片手で魔女をつかみながらもう片方の手で手刀を作る。
魔女の片方の羽に貫き手を放つ。
羽を突き破る。
その突き破った貫き手で引っこ抜くようにして魔女の羽を剥ぎ取る。
「みぎゃあああああ」
魔女が絶叫を上げる。
それと同時に魔女の身体ががくんと下がる。
頭を下に、魔女が放物線を描いて落下していく。
まどかは素早く頭を上にすると、力を込めるために腕と脚を曲げる。自然と魔女に身体を押しつけるような形になった。
魔女が地面に激突する。
その直前に込めた力を解放した。
まどかの身体が勢いよく跳ね上がる。その頂点で後方に一回転して着地する。

まどかが魔女に視線を向ける。
魔女の身体には変色した箇所が無数にあった。まどかが力強くつかんだ箇所である。
残ったもう片方の羽は落下の衝撃でひしゃげている。
魔女はピクリとも動かない。

すると魔女の身体から光があふれてきた。最初はほんの少しだったそれが魔女を包み込むと、魔女の姿が消えていた。
それと同時に結界の風景がまるで蜃気楼だったかのように消える。
元のビルの風景に戻っていた。
「押忍」
すべてが終わったことを確認するとまどかは呟くように言った。

「心配させやがって」
さやかがまどかの胸に顔をうずめながら言う。
泣いているようにさやかの肩がふるえていた。
まどかは少し恥ずかしそうな顔をさやかを両の手で包み込む。

そんな2人にマミが申し訳なさそうに近づいて言った。
「ごめんなさい。私、魔法少女失格だわ」
自分が呆然としたことに対して言っていた。

もし、自分を取り戻していれば加勢することもできた。
少なくともまどかに危険な着地をさせることはなかった。
しかも、まどかを危険な目にあわせただけでなく、さやかを泣かせてしまった。
それらに対しての罪悪感があった。

「…確かにそうかもしれませんね」
まどかが静かに言う。マミは辛そうに顔を下に向ける。
「でもこれからは違います」
「えっ」
「1人で闘っていればそういうこともあります……だから私も一緒に闘います」
「だめだよまどか」
「大丈夫だよ、さやかちゃん」
「でも」
「マミさんがこれから1人じゃないように、私も1人じゃない」
「……でも!」
「お願い信じて」
まどかが言う。凛とした表情をしている。
さやかはまどかのその表情の意味を知っている。
まどかがやり抜くと決めた時にいつもする表情であった。
もう誰もまどかを止めることはできないだろう。
さやかはそう思った。

「…分かったわ。なにがなんでもやり抜くのよ…絶対に」
「ありがとうさやかちゃん……マミさんお願いします。私も一緒に闘わせてください」
マミがさやかをそして、まどかを見る。
「…あなた達には驚かされたわ…いいわ、これからよろしくね、鹿目さん」
マミが諦めたように言う。
その内容はまどかが闘うことを認めたさやかに対しても向けられていた。
その中には少しだけ嬉しそうな仕草と今にも泣いてしまいそうな雰囲気が混ざっていた。

「ねえ、マミさん」
「なにかしら」
ふと、まどかが思いついたように言った。
「明日は私たちと一緒にお弁当を食べませんか?」



[28140] 餓狼少女まどか☆マギカ―3―
Name: クライベイビー◆2205aff7 ID:86f2e92d
Date: 2011/07/03 14:17
ある病院の一室であった。
小さめの冷蔵庫と洗面台が壁際に設置してあり、窓際に1つのベットが置いてある。
その窓からは見滝原の風景を見ることができる。
その窓は今は開け放たれており、さわやかな風が入ってくる。

そこに2人の男女がいた。

1人は青い髪をした少女である。さやかであった。
ベットのそばの椅子に座っている。
もう1人は少年であった。どこか女性的なものを感じさせる容貌をしている。
上条恭介。さやかの幼馴染である。
ベッドの上で上半身を起こしている。
左腕をベットの上にごろんと転がしている。

恭介はバイオリンの才能を持っていた。
将来を有望視されているヴァイオリニストであった。

その腕が動かなくなっていた。
左腕である。
弦を押させるほうの腕である。
不慮の事故で手首から先の感覚がなくなり、指が思うように動かないのだ。

さやかは放課後時間のある限り、恭介のお見舞いに来ていた。

さやかがCDを恭介に渡す。クラシックの曲名が英語で書いてある。
恭介がそれを右手で受け取った。
それを受け取るときの浮かんでいる笑みが恭介の心境を表していた。

「いつもありがとうさやか。君は名曲を選ぶ達人だね」
恭介の声が興奮で濡れていた。その声はさやかに何かを促しているようでもある。
「分かってるって」
恭介が自分に何を望んでいるかさやかは知っていた。
「まどかのことだよね」
見た目とは裏腹に剛毅な親友を思い浮かべ、誇らしげに笑った。

それはほんの些細なきっかけだった。
ほんの小話としてまどかのことを話したのだ。
それからである。
さやかが見舞いに行くたびにまどかの詳細な話をするようになった。

―――あるときはまどかが聞かせてくれた格闘技のうんちくを
―――あるときはまどかが見せてくれた型や技の素晴らしさを
―――あるときはまどかの筋肉のしなやかさ、それを見たときどう思ったかを
―――どのようにトレーニングをしているかを

まどかに関することで話が尽きることはなかった。
その話を聞くたびに恭介の身体の中に燃えるものがあった。
まどかとは知り合いではあるが、さやかから聞かされる前まではそんなことは知らなかった。
女子が強くなることを志す、その事実に愕然とした。

その驚愕が熱に変わった。その熱が恭介を激しいリハビリに突き動かした。
激しいといっても医者に許された範囲内ではあったが、その範囲内でできることは全てやった。
初めて感じた苦痛もあったがそれでもやめなかった。
それが成果として現れた。

最初は車いすでの移動しかできなかった。
それが杖を使って歩けるようになり、さらに、今ではスクワットを1日に何十回かは出来るようになっていた。
予定ではまだ車いすを使っているはずである。
それが恭介の淡い自信になっていた。
より短時間で成し遂げた自分に対しての自信である。

後は左腕が動くようになるだけである。
そういうこともあってか、さやかも進んでまどかの話をしていた。

そういう話をしているといつの間にか日が暮れていた。
さやかの帰り際に恭介が言った。
「鹿目さんの話は本当におもしろいね」
「いやぁ、我ながらおもしろい友人を持ったよ」
「本当に楽しかったよ。またいつでも来てくれ」
「うん、それじゃあ」
そう言って、さやかが病室を出て行く。
出て行ったのを確認するとCDをポータブルのプレイヤーで聞き始めた。
右手でイヤホンをつける。
聞きながら先ほどの会話を思い出した恭介の口元は、自然と三日月を描いていた。










屋上でまどかが昼飯を食べている。
炊飯器ほどの大きさがある弁当箱である。そこにご飯とおかずがたっぷりと入っている。
それと隣り合うようにして2人の少女が座っている。その少女たちも弁当を持っている。
さやかとマミである。魔女退治の後まどかがマミを誘ったのである。
キュゥべえはベンチの隅で丸くなっている。

「う~~ん、まどかのご飯は相変わらずおいしいね」
「そうね。でも量がすごいわね」
「私の身体にはちょうどいい量ですよ」
「さすが格闘家だけあって言うこと違うわ」
「照れるね」
そう言ってまどかが口いっぱいにご飯を放り込む。そういう食べ方が不思議と似合っていた。

「そう言えば」
マミが何かを思い出したように言った。
「美樹さんは何か願い事は決まったの?」
「…そのことなんですけど…他人のために願いをかなえるってどうなんでしょう」
「それって上条君のこと?」
「うん…まあね」
キュゥべえと契約することは魔法少女になることである。
その契約の際に1回だけ願い事をかなえるチャンスがあるのだが、マミはそのことを言っていた。

「あまり感心しないわね」
「…やっぱりそう思いますか」
「あら、わかってたの」
「…水は差したくないので」

さやかは恭介について考えていた。
恭介の左腕は今動かないし、最悪の場合動かないかもしれない。
もし、恭介の左腕が動かなくなればヴァイオリンを続けることはできないだろう。
それに対して自分は大したことはできないだろう。
しかし、例え一生を懸けたとしても叶わないことが叶うチャンスが目の前に転がっている。
命懸けで願いを叶えたい人がいるのならチャンスを譲りたい。

しかし、その一方で余計なお世話なのではないかとも思っていた。
さやかは恭介のリハビリの様子を何度か見たことがあった。
そこには情熱を持ったただ1人の男がいた。苦痛に耐える男の姿があった。

「そこまで分かっているならなにも言うことはないわ。ただ契約するなら納得したうえでして欲しくて」
「そういえば、マミさんはどんな願い事を叶えてもらったんですか」

さやかがそう言うとマミは少しだけ戸惑うそぶりを見せた。
「…さやかちゃん」
「いや…すいません。言いたくないようなこと聞いちゃって」
「いいのよ。ただ私の場合は選んでる余裕はなかったから…」
そう言うマミは過去を思い出すように言った。
しかし、不思議と悲しさはなかった。

マミの願いは交通事故から助かることだった。
家族旅行で車での移動中に交通事故にあったのだ。
炎に包まれた車の中でただ焼け死ぬところでキュゥべえに会ったのだ。選んでいる暇はなかった。
そのときの光景を思い出したマミであったが、自分があまり動揺していないことに気がついた。

―――どうして悲しくないの?
そう考えたときにまどかがこれから一緒に闘ってくれるからだということに思い当った。
今までであれば1人で闘うこれからの自分も相まって余計に気分が沈んでいただろう。
しかし、まどかが隣に居てくれるだけでなく闘ってくれる。
だから悲しくないのだ。
いままでさびしいと思っていたからこそ、より強烈に満たされているように感じるのだ。

生身の人間を対魔女戦で頼もしく感じること自体が異常であるが、まどかが素手で魔女を叩きのめしたときのインパクトがそれに勝った。
まどかを止めていたかもしれないさやかの激励がそれに拍車をかけた側面もある。
さやかの激励がまどかの決意の強さを表していたようにマミには思えた。

「そうね…鹿目さん一緒に闘ってくれるのよね」
「はい」
「ありがとう…美樹さんも鹿目さんを応援してくれてありがとう」
「うん。さやかちゃんもありがとう」
「いや~、どうせ止めても聞かなかったでしょ」
そう言ってさやかが笑う。それにつられてまどかとマミは笑みを浮かべた。

マミにとっては久しぶりに楽しい昼食であった。










まどかとさやかは病院に来ていた。
さやかのお見舞いにまどかが付き合うことになったのだ。
最初はマミの魔女狩りについていこうと思っていたが、マミにさやかと一緒にいて欲しいと言われた。
契約のことで決心がつくまでさやかと一緒にいてあげて欲しい。
さやかの相談相手として親友のまどかが最も適しているという考えによってである。

そうして病院に来たまどかとさやかであったが、病室に恭介はいなかった。
看護婦に聞いても分からないとのことで、病院内をほっつき歩いてるのだろうとまどかとさやかは思った。
この病院は広いので探してもかなりの時間を要するだろう。
かといっていつ病室に戻ってくるか分からないので、その日は諦めることになった。

そうして病院の外を出たときまどかは何かの気配を感じた。
その気配が流れてくる方向を見ると意外なものを見つけた。

「グリーフシード?」
「え?」

遅れてさやかもそれを見る。
それは球体から針を生やしたような黒い石であった。
まさしくグリーフシードであった。

グリーフシードとは魔女を倒して初めて手に入るものである。
魔女の卵であるが基本的には害がなく、消耗した魔力を回復してくれる。
前日、魔女退治が終わった際にマミからそう聞いている。

それが病院の外壁に刺さっていた。

「大変だ、このままじゃ魔女の結界ができてしまう」
「そんな!?」
キュゥべえの言葉にさやかが動揺を見せる。
それを見てまどかは決意を固めるように言った。
「わたしがここに残るからさやかちゃんはマミさんを呼んで来て」
「でも―」
「マミさんの携帯番号聞いてないし、わたしが見張っていれば少しは安全でしょう」
「じゃあ僕はまどかと一緒にいるよ。テレパシーで安全なルートを案内できるし」
「…わかった、こっちのことは任せたよまどか」
そう言ってさやかはマミを呼びに行った。

グリーフシードは怪しい光を出している。
その光がひと際大きく輝いた瞬間、この世にあらざる世界が出来上がった。









まどかは結界の中で使い魔たちと闘っていた。
使い魔たちが四方八方襲ってきているがそれらを一撃ずつ叩きのめしている。
拳、肘、手刀、足、足刀―――
回転しながら身体のあらゆる部位を使っている。
守る対象もいないので伸び伸びとした動きである。
その表情にはゆとりさえ感じさせる。

キュゥべえは危ないのでまどかから少し離れたところから付いていく。
使い魔が全滅したときすでに魔女の住処、すなわち結界の最深部にたどり着いていた。

そこには人形がいた。
マントをはおったマスコット思えるほど愛らしい姿をしている。
そこから放たれる絶望の混じった魔力の奔流がそれを魔女だと証明していた。
まどかはその場で構えた。
右足を後ろ左足を前、左手で作った拳を前に右手を身体によせた。
一見ボクシングの構えにも見えるがそうではない。
それよりも腕の間隔が広い。突きだけでなく蹴りにも対応できる構えである。

まどかと魔女が睨み合う。
まどかの身体から殺気がにじみ出る。
それに反応するように魔女の身体がぴくりと跳ねる。
しかし、飛びかかってはこない。

いくらかそうしてからまどかは口を開いた。
「魔女さん。その手には引っかからないよ」
魔女はまどかの意図を察したようなそぶりを見せるが動かない。

瞬間―――
まどかが魔女に迫った。予備動作を感じさせない動きである。
向こうから仕掛けてこないのを悟ったまどかはこちらから攻めることにした。

―――拳
前傾姿勢のまどかは突きを放つ。
まどかの予想に反し、その突きは魔女をあっけなく吹き飛ばした。
魔女の顔面はその一撃で陥没している。
一撃受ければ絶命しかねない拳をまどかは叩きこんだ。
しかし、まどかは警戒を解かない。
拳を叩き込んだ瞬間にある感情が流れてきたからだ。
初めて対面したはずのまどかに対しての強い怒りである。

なにをしかけてくるの?
魔女がこんな簡単にやられるはずがないよ。
まだ終わってないんでしょう?
怒ってるんでしょう?
気に入らないんでしょう?
わたしはここにいる。
だから、不意打ちでも何でもすればいい。

魔女の口がいびつに開かれる。
そのくちから本体が一直線に飛び出してきた。
それは蛇のような黒い身体に赤の斑模様、そして白い頭部を持った魔女であった。

ああ、わたしを食べようとしてる。
でもその牙じゃわたしの筋肉は噛み切れない。
それにほら。
後ろに下がれば簡単に避けれる。

「まどかぁ!」
うん?この声はほむらちゃん?
わたしのこと心配してくれてるんだ。
うれしいよ。
でも大丈夫、もう終わるから。

まどかの左足が垂直に跳ね上がる。
魔女に叩き下ろす。
魔女の頭部がかかとと地面でサンドイッチにされた。
ネリョチャギ―
テコンドーでそう呼ばれる蹴り技で、分かりやすく言うとかかと落としである。

そのかかと落としはサンドイッチだけでは済まさなかった。
さらにその魔女の頭部にかかとが埋まっていく。
最終的にはつま先が見えなくなるまで頭部に埋まった。
頭部はほとんどつぶされ、衝撃から魔女の口からおそらくは脳漿とおもわれる部分が吐き出された。

絶命している。
まどかがそれを確認したとき、結界が消えてなくなっていった。










結界がなくなるとそこにはほむらがいた。
まどかが闘うことがどうしても許せないのだろう。
ほむらが詰め寄ろうとしたそのとき、震える声をかける者がいた。
「…鹿目さん」
「上条君」
「…まずいところを見られたわ」
恭介が全身を震わせながら歩いて来ているところであった。
歯をかちかちと言わせている。

「僕を…」
何かをこらえるように言葉を吐き出す。
上手く口が動かせないらしい。
それでも肺から空気を絞り出すように、祈るように言った。
「弟子にしてくれぇっ!!」



[28140] 餓狼少女まどか☆マギカ―4―
Name: クライベイビー◆2205aff7 ID:86f2e92d
Date: 2011/07/30 19:36
左腕が動かない。
担当医からそう言われた恭介であったが、意外とショックは少なかった。
その事実を受け入れることは簡単だった。
しかし、その先がいけなかった。

いままでヴァイオリンで生きていくだろうことに疑いがなかった。
それがなくなった。
ヴァイオリンに向けていた情熱の行き場をなくしてしまった。
それどころかその情熱すら感じられなくなってしまった。
そういう意味で恭介の心は空っぽだった。

それを紛らわすように歩いていた。
それとどう向き合えばいいのか恭介にはわからなかった。
そうして歩いていると、いつの間にか得体のしれない場所にいた。
魔女の結界、その異様な空間で対峙しているものがあった。

鹿目まどかと人形のような魔女である。
一見ただの人形にしか見えないが恭介には自然と分かった。
おそらくはあの人形がこの空間を作ったのであり、それにふさわしい力を持っているのだろう。
普通であればまどかが敵うはずがないように見える。
しかし、まどかの身体から溢れているものがまどかとそれを互角に見せた。
おそらくは長い闘いになる。
そこまで思った時―――

まどかは魔女を打ちのめした。
圧倒的であった。

そのやり取り、特に一番最後のかかと落としを見たとき震えが止まらなくなった。
身体の中から震えが湧いても湧いても止まらないのだ。
―――たまらない
先ほどまでの無気力など吹き飛んでいた。
空っぽだった心に熱いものが流れ込んできた。
―――これしかない
恭介の足は自然とまどかのほうに引き寄せられていた。
ぶるぶる震える足をなんとか交互に出す。
「僕を…」
息がうまく吸えない。
それでもなんとか肺に残った空気を絞りだした。
「弟子にしてくれぇ!!」

まどかは恭介を見る。
その眼の中に何が宿っているか見通すような眼をしている。
それが恭介に宿る熱を捉えた。
ぶるりと震えてからまどかは興奮でぬれた声で言った。
「上条君はなんで弟子入りしたいのかな?」
「強くなりたいからです」
かすれた声で恭介が言った。
「わたしがやったあんなことを覚えたいの?」
「はい」
「蹴りや突きを覚えたいの?」
「はい」
「練習きついけど大丈夫?」
「やれます」
そして最後にこう言った。
「わたしでいいんだね」
「はい」
恭介の声が赤みのかかった空に消えていった。

そのあとさやかとマミと合流した。
ほむらはマミとさやかを見て慌てて姿を消した。
まどかがことの顛末を説明すると、さやかは恭介と一言二言交わした。
「弟子入りするんだって」
「ああ」
「やりたいことが見つかってよかったね」
「うん、とってもうれしいよ」
恭介が言うとさやかのこわばっていた顔がいくらか緩んだ。
さやかは言った。
「まどか、恭介のこと頼んだよ」
まどかは静かにうなずく。
そのあと恭介が近いうちに退院になることを伝えた。
そして、まどかとさやかはマミと携帯の番号を交換して解散になった。





翌日の朝、トレーニングを終えたまどかは朝食を摂っていた。
何かが書かれた紙をじぃっと見ている。
それを詢子がやんわりと注意する。
「まどか、ご飯中は行儀良くしよう」
「ごめん、ちょっと待って」
そう言ってかばんの中に紙をしまった。
「なに?新しいトレーニングメニュー?」
詢子が言った。
「うん…まあそうかな」
まどかは少しぼかすようにして答えた。
実際に言えば確かにまどかの新メニューがそこには書かれていた。
しかし、それだけでなく恭介にどのようなものを教えるかというメニューもそこには書いてあった。
時折浮かぶまどかの笑みが心情を表していた。

その日学校ではさやかが妙に明るかった。
恭介がヴァイオリンを弾けなくなっても新しい目標を持ったことがうれしいらしい。
一晩たってからようやくその感情にさやかは追いついた。
まどかと顔を合わせるときは決まって恭介について話した。
それは仁美とマミが一緒のときでも変わらなかった。
それを聞いた仁美は怪訝な顔をし、マミは反対に笑顔になった。





放課後、まどかが歩いている。
川沿いの道で、向かいには工場が見える。
もうすでに夕方であり空に赤みがかかっている。
まどかはごく自然に歩いているように見える。
しかし、神経は尖らせてある。
何かを探しているようにも見える。

実際まどかは魔女の気配を探っていた。
魔女や使い間の放つ独特の気配は遠くからでもわかるという自信があった。
それは昨日、グリーフシードをその気配によって見つけたことで確信に変わった。
それで2手に別れて探すことになったのだ。
片方が見つけたら連絡して、2人揃ったところで決壊に突入という段取りになっている。

そのまどかの後ろから追いかける者がいた。
暁美ほむらだ。
ほむらは追いついてからまどかに言う。
「もうこんなことはやめて」
「どうして」
「こんなことを続けていたらあなたは死んでしまう。ましてや生身の人間が…」
さえぎるようにまどかが言った。
「大丈夫。それにわたしが魔女を狩ることで町の人間が守れるならやめないよ」
「ダメよ。それにあなたが亡くなったら家族が悲しむでしょう」
ほむらは相変わらず顔色を変えずに話している。

「本当はねそれだけじゃないんだ…」
声色が変わった。
怖いものがまどかから溢れてきた。
「わたしは闘えるんだ」
「――――」
「理由がなくても闘えるんだ」
「!?」
「もし魔女がいなくても強い人とスパーリングもするし試合だってするし、もしかしたらストリートファイトだってあり得るかもしれない」
「―――」
「魔女がいてもいなくても同じなんだ」

ほむらがくずれ落ちた。
膝に力が入らなくなっていた。
まどかが言っていることを考えれば言葉で説得などできるものではない。
本当であれば相手が人間から魔女になっただけだということになる。
それをほむらは理解した。

まどかは言う。
「だからもう引き返せないんだ」
「……まどか」
「やめないよ」
そういってまどかはほむらに背を向けた。

「勝負しなさい。鹿目まどか」
その背にほむらが言った。
もう先ほどの動揺は見られなかった。
「もしあなたが負けたなら魔女とはもう関わらないで」
「いいよ」
「じゃあ場所を変えましょう。いい場所を知っているわ」





場所はそう遠いところではなかった。
近くの公園で一面芝生で覆われている。
もしここで相手を投げてもある程度のダメージは軽減されそうであった。
「どちらかが地面に倒れたら負けね」
そこに着くなりほむらが言った。
まどかとしても進んでだれかを傷つけたくない。
ほむらが他人には思えないまどかにとって悪くない提案であった。
魔法少女に変身したほむらがまどかに言う。
「じゃあ始めましょうか」

まどかは無言で構える。
ほむらも構えた。
2人の距離は2.5mほどある。
まどかは腰を低く構えている。両の掌を顔面から拳みっつ分、離したところに置いた。
組みつくことが狙いだとはっきりとわかる。
ほむらは左手についた盾を右手で持っただけの構えだ。格闘技のセオリーとは程遠い。

そしてまどかはその意味を察した。

まず魔法少女としての能力が鍵になっている。
発動した瞬間に勝負が決するほどのものかもしれない。
少なくとも時間稼ぎくらいにはなるのだろう。
そうでなければほむらは隙だらけの構えは取らない。

そして、その能力以外にほむらの勝機はなかった。
魔法少女の身体能力は高い。しかし、それは普通人と比べればである。
まどかにそれは当てはまらず、接近戦では勝つ方法はないからだ。

そして、おそらくほむらはまどかが隙を見せるのを待っている。
まどかが姿勢をくずした時に発動するつもりなのだろう。
まどかが万全の状態で発動しようとすれば先にやられる。
そういう確信がほむらにあった。
つまり、まどかがほむらに組みつくのが先かその組みつくまでの間にほむらが能力を発動するかが勝負になる。

しかし、まどかのその考えには誤りがあった。
ほむらが最も早く能力を発動できるのはその構えであるが、構えなくても能力を発動できることだ。

ほむらがまどかの挙動をじいっと見ている。
そういうにらみ合いがしばらく続いた。
―――疾
まどかが動いた。
タックルである。
予備動作はほんの少ししかない。
ほむらは能力を発動しようとする。
しかしまどかはわずかに届かない。
―――決まった
ほむらがそこまで思ったときほむらの意識がぶれた。

まどかの蹴りだ。
タックルの前傾姿勢からまどかは蹴りを放ったのだ。
タックルで来ると思っていたところで蹴りを放たれたほむらは全く反応できなかった。
能力を発動する直前の絶妙なタイミングで放たれた予想外の蹴りは、ほむらの顎をかすめていた。
その脳震盪によってほむらの意識が一瞬ぶれたのだ。

まどかの身体はそうしている間にも前に出ていた。
まどかの体は宙に浮いている。
蹴りを放つときに地面を蹴っていたからだ。
ほむらが予想外の行動であっけにとられている間に、まどかはその体勢でしがみいた。
ほむらは能力を発動しない。
身体が接触している状態では発動できないのだ。
まどかはほむらをそのまま押し倒した。

「私の勝ちだね」
まどかが笑って言った。
ほむらはその笑みの中に獣を見た気がした。

まどかとほむらが歩いている。
ほむらがまどかについてきている形だ。
「…わかったわ」
不意にほむらが言った。
「あなたが闘うことをやめないことはよくわかったわ」
「―――」
「わたしはあなたを止めないし止められない」
「…ありがとう」

それを聞いてからほむらは俯いて言った。
「ねえ、わたしに何か出来ることある。練習の手伝いとか…」
「わたしはねほむらちゃん、ほむらちゃんと遊びに行ったりそういうことしたいな」
「え?」
「それでささやかちゃんとマミさんも誘っていっしょに行くの。きっと楽しいよ」
「……」
「だからみんなと仲良くして欲しいな」
「…努力するわ」
「できるよきっと。だってわたしが怪我しないようにわざわざ芝生の公園に連れてったんでしょ」
「…なんのことかしら」
そう言いながらもほむらは顔をうっすら赤くした。


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