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  魔法の夜 作者:モッカン
はじまり
 午前七時二分。
 甲高い目覚ましの音で玖珂(くが)隆太(りゅうた)は眼を覚ます。目の前に真っ白な天井が映り込む。
 ギシギシとベットを軋ませてベットから降りると、一階から母親の声が聞こえてきた。
 隆太はため息をついて二階の階段を気だるそうに降る。階段を降り切ると曇りガラスの付いた扉が見えてくる。面倒だがそれを開けリビングに入った。
 すると、妙に苦いような匂いが鼻についた。
「隆太。朝ごはん出来てるわよ」
 そう言って声をかけてきたのは隆太の母親だ。
「何度も言ってるだろ! 朝ごはんは作らなくていいって」
 キレ気味に答えたが能天気な母親はたいして気にした様子はない。
「朝ごはんを食べないと元気がでませんよぉ」
 それどころか間抜けな声で叱ってくる。
 はぁ。佐々神はまたため息をつく。
「これのどこが朝ごはんなんだ。自分で作るからいいって言ってるだろ!」
 真っ黒な何かを指差して言う。今日はトーストか? 判断が出来ない。
 この母親は料理は上手いほうなのだが、朝は眠気によりからっきしダメだ。毎朝トーストやスクランブルエッグなんかをよく出してくるが、どれも違いが分からないほど真っ黒だ。
 理科の実験でもああはならないぞ、と心の中で突っ込む。
「あらぁ、反抗期なのかしら? 反抗したくなる気持ちも分からなくはないけどぉ……。朝ごはんはしっかり食べないとダメですよ?」
 などと、本気でおっしゃってるバカ母親は放っておき、トースターに食パンを無造作に突っ込む。
「どうしてお母さんのご飯は食べてくれないのでしょうかぁ? こんなにおいしいのに」
 そう言うと真っ黒なトースト? らしき物を一口かじった。
 ジャリッ! と砂利でも食べているような音が聞こえてきた。
「あらら。少し失敗してしまいましたわぁ」
 少しどころじゃないだろ、とまた心の中で突っ込む。
 チン! とトーストの焼けた音がすると、皿にトーストを乗せる。そこにバターを適当に塗って食べる。というのが隆太の日課になっていた。


 簡単な食事を済ませると、二階の自室に戻った。
 そして着替えを始める。白いワイシャツに袖を通し、黒いズボンを穿きベルトを締める。藍色の地に金の刺繍の入ったネクタイを締め、その上に紺色のブレザーを羽織った。鏡を見るとツンツンとはねた明るい茶色の髪の側面が少しはねていた。
「直すか」
 隆太は洗面所で軽く髪の毛を整えた。
「んじゃ、いってくる」
 そう母親に告げて、靴を履く。今日は始業式なのでいつもより早めに出る。
「はぁい。気をつけていってらっしゃい」
 母親は七歳くらいの子どもに言うような口調で見送る。


 玄関を出て少し歩いてから携帯を確認する。
 午前七時四三分……
 まだまだ始業式に間に合う。
「コンビニでも寄っていくか」
 隆太は駅前にあるコンビニへと入った。
「そう言えば今日は水曜日か……。マンデーの発売日じゃん」
 少しテンションをあげてマンデーを探す。というか探すまでもなく「本日発売!!」のところに置いてあった。
 マンデーとは佐々神が好きな週刊少年誌で、特に「名探偵次男」や「猫夜叉」などは佐々神だけならず人気だ。
 さっそく手にとって読み始めた。
 店内の有線放送を聞きながらさらに集中し読み耽っていると、ふと、時計が気になった。
 嫌な予感がする。そう思って店内の時計を確認する。
 時刻は午前八時一分。
 ちなみにいつも家を出ている時間は七時五〇分だ。もちろん学校に余裕で着いているわけもなく。いつもギリギリだ。
 焦って店を後にする。全速力で電車に乗り、全速力で降りて、全速力で学校へ向かった。


「はぁ、はぁ、はぁ。間にあったぁ」
 膝に両をつき、鉄で出来た下駄箱で靴から上履きへと履き替える。
「コラ! 佐々神君。新学期早々ギリギリですか?」
 そう言って声をかけてきたのが去年の担任、横村(よっこむら)先生だ。
 身長は一五〇センチ強。
 すらっとした体でいつもブラウスの上に緑のセーターを着て、下には白のひざ下までのスカート。そして、スカートの下にはストッキングを穿いている。顔立ちは美人というよりかわいいと表現したほうがいいだろう。個人的偏見だが眼鏡をかけていてなんだか「図書委員」っぽい。
「そういう先生は間に合うんですか?」
 そう問うと、見る見るうちに表情が変わっていく。見るからに焦っている。
「あ……あぁああぁああぁあああ」
 突然大声で叫んだ。
「そ、そうでした。職員は最終確認の会議があるんでした。玖珂君も遅刻しないようにね」
 そう言うと、上りと下りの両方が存在する階段の上に向かって駆けて行った。
 ちなみに下りの階段は立ち入り禁止だ。この学校には地下が存在するが教材など様々な資料が置いてあるため、一般生徒は立ち入り禁止となっている。
 美山先生はあんなドジっばかりしているので、生徒からは慕われているというより懐かれている。
 隆太は廊下に張り出されたクラス表を見に行く。この学校では階段の横にある掲示板に掲示されていて、クラス表の前には生徒が五、六人くらいしかいなかった。
 みんな早いなぁ、などと思いながら自分のクラスを確認する。
「えっと……A……B……C」
 Aから順にクラスを確認する。
「お、あった」
 Fのところでようやく見つける。
 この学校はAからFの六クラスに分かれている。別に頭がいい順にABCと振り分けられているわけじゃない……と信じたい。
 去年もFだったからなぁ。多分担任は美山先生だろうなぁ、と佐々神は想像しながら階段を上っていく。
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