悪魔聖歌隊　歪んだ楽園

今回は宮殿での日常ということで、洗脳を受けた後の歪みっぷりを楽しんでいただければと思います。とりあえず今のところ思いついたシチュは全て書けたかな

次元を超え、あらゆる世界に行き来できる不思議な空間にある宮殿。
その宮殿の主である口紅歌姫は豪奢な寝台から身を起こした。
「おはようございます、歌姫様」
横を向くと昨晩夜伽を命じた、赤毛のウサギの耳のような特徴的な髪型の悪魔聖歌隊の一人が洗顔の準備を整えていた。もしこの場に、正気であった頃、彼女と相思相愛であった某サイボーグが居たら、おそらく怒髪天を突く光景が見られるだろう。
しかし、現段階ではまだ彼は恋人が次元を超えて攫われたことは知らない。
悪魔聖歌隊の一人－元の世界では命と呼ばれていた－は微笑みを浮かべている。これは口紅歌姫が、宮殿に於いて悪魔聖歌隊は個性、感情を出し自発的に振舞って良いという命令を出した為である。
こうすると、「お化粧」と虚ろな目を除けば、正気であった頃と変わらないような光景が宮殿のあちこちで見かける。
しかし、仮に正気の者が彼女らの会話や生活に混じったとしたら、その異様さに目を背けるだろう。

なぜなら、彼女らの会話や思考の行き着くところは毎回全て
「主である口紅歌姫を称える」、「施された化粧を賛美する」、「いかに主に奉仕するか」、「ゴーマの聖歌をいかに上手く歌うか」
の4つに帰結するからである。最も彼女らの認識としては、こうした枷は空気のごとく当然のものであり、疑う者は無く、これからも現れないことは確実である。
「お化粧」による呪縛はどこまでも強固であった。

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洗顔を済ますと口紅歌姫は起き出しの鍛錬をするために道場となっている一室へ向かった。元々ゴーマ怪人は妖力を身につけた者達が、各々の武道を極めることで得た姿なのである、彼女も歌唱拳の達人であり、鍛錬は妖力の増進を兼ねた日課となっている。
道場では多くの悪魔聖歌隊が鍛錬に勤めていた。ゴーマの下級兵士であるコットポトロが元の世界のゴーマと共に滅んだ今となっては、口紅歌姫はその代わりとなる兵士が必要であったので、鍛錬を奨励している。元々戦闘技術を持っているものはそのまま鍛えさせ、何の心得も無い者には歌唱拳を伝授し、元の世界を上回る戦力となっている。
見ると道場の一角では現に歌唱拳の鍛錬を行っており、本来ならばこうした物とは一生縁の無いはずの娘や、武術を修める必要も無い年端の行かぬ女の子達が、口紅歌姫の持つのと同型の唇状の剣を一心不乱に振るっている。

「お越し頂き光栄です、歌姫様」
道場に入ると、それまで鍛錬を行っていた女達は一斉に口紅歌姫の方を向き、跪いた。口紅歌姫はそれを受け、鍛錬を続けるよう指示を出し、全員元に戻った所で、今日の組み手の相手となる女を呼んだ。
その女を一般的な男性が見たら、まず十中八九胸部に視線が行き、「でかい」という思考が生まれるだろう。元は死神と呼ばれる存在であったその女性は、今は悪魔聖歌隊の一員だが、つい最近「お化粧」を施す際に、口紅歌姫に一撃を食らわせたのである。彼女から引き出した情報によれば、その世界ではさらに腕利きの猛者がいるのは確実であったので、聖歌隊に頼らない己の強さを万全なものにするため、今回組み手の相手をさせたのである。
「いい、全力で攻撃しなさい！」
「かしこまりました。－唸れ灰猫！」
抜き放った日本刀の刀身が、灰に変化して口紅歌姫を包む。しかし、彼女は慌てず、まず剣を振って正面の灰を散らす、次に地面に向かって、歌唱拳の歌声を変化して攻撃に用いる特性を生かし、やや威力を抑えた歌姫爆裂波を放ち、相手までの空間を確保するや否や踏み込んだ。

相手が反応する前に既に唇状の剣が首筋を捉えていた。

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鍛錬を終え、武道家としてまた新たな戦法を見出し、上機嫌の口紅歌姫は湯浴みをするため、浴場へ向かった。
口紅歌姫専用の浴室は、なぜか中国風の宮殿のなかに日本のような形の浴槽、ヨーロッパ又はローマ風の装飾を備えている。最もゴーマという組織自体、なぜか古代中国で猛威を振るった時から礼服がタキシードだったりするので、詮索しても無駄だろう。身につけている黒いブーツ、長手袋、レオタードを脱ぎ、肩飾りを外すと、頭の口紅はそのままだが、文字どうり真白い肌があらわになった。この肌は口紅歌姫にとっても自慢であり、自ら評して「スベスベで最高に美しい」そうである。
どのくらい大切にしていたと言うと、かつてダイレンジャーとの戦闘中、紅一点のホウオウレンジャーに顔を傷つけられた際は、それまでの任務を全放棄し、上司の指令も無視してホウオウレンジャー抹殺に全力を注ぐぐらいである。

浴槽に浸かってからしばらくすると、今日の湯浴み係の悪魔聖歌隊が二人入ってきた。二人はオッドアイの姉妹で、命を持った人形であるという。始めその情報に接したとき、口紅歌姫は同僚である鍵道化師を思い浮かべた。鍵道化師は、あらゆる枷を「開錠」する能力を生かして、抜き取った子供の魂を人形に宿し暴れさせる作戦を遂行していた。しかし彼女らは別に他人から移植したわけではないらしい。なかなか異世界も面白いものがあると感心したのだった。
二人に体を洗わせる。二人とも幼い容姿だが、今やその顔は艶やかな紫色の口紅とアイシャドウの化粧が施されている。
「歌姫様のお肌、最高に美しいですぅ」「本当に綺麗ですね」
正気であったなら口が裂けても言わないであろう賛辞を述べる姉妹。しかし今の彼女らにとっては、主人である口紅歌姫は正に至高の存在であり、称え、服従する以外の発想は浮かぶはずもない。

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湯浴みを終えると、朝食の前に今日はどの世界へ行くか決めようと考え、異世界を映す無数の鏡のある間に移動する。
その途中、吹き抜けとなっていて、もっぱら聖歌の練習に使われている大広間が見渡せる。
いくつかのグループに分かれて聖歌を歌っているようだ。
「さぁ、歌姫様に捧げるつもりで歌うのよぉ」
「♪～♪～♪」
湯浴み係だった人形姉妹は他の姉妹と合流して聖歌を練習している。練習を率先して行っているのはその中でも自分に最も激しく抵抗した黒いドレスの娘である光景は、滑稽にすら感じられる。

「♪～♪♪～」
別の一角では、かつてどこかのプロダクションに所属し、「アイドル」とされていた少女達がいる。彼女らは様々な歌を歌う存在であったのが、現在頭にあるのはゴーマの聖歌のみである。悪魔聖歌隊の女達にとって、もはやそれ以外の歌は存在すら認められない低級なものになってしまう。

どの者も必死に聖歌を歌っている、まるでそれ以外の生き方はないかのように
口紅歌姫にとって、ほほえましい光景を目にした後、彼女は鏡の間に入り計画を練る。この後、おそらくまたこの宮殿に住まう悪魔聖歌隊が増える。彼女達を愛でるのも楽しみの一つである。
「♪～♪～」「♪～♪～」
広間から聞こえてくる声が大きくなり、曲も一つになった。おそらく、他の場所にいた悪魔聖歌隊も合流し、自発的に合唱を始めたのだろう。こうした訓練によって、彼女らの持つ妖力は増進し、その主である口紅歌姫も強化されるのである。
本来妖力はゴーマ族の血を引く者にしか習得できないが、悪魔聖歌隊に変えられた女達はゴーマに近い存在になり、妖力を発することが出来るようになる。

そして、妖力を身につけたことで、女達はゴーマ怪人と同じく、実質不老の存在となっている。そしてこのことは、「お化粧」による呪縛が永久に続くことを意味する。
もっとも今の捻じ曲げられた彼女らの認識では、紫の口紅とアイシャドウによる「お化粧」こそが最も素晴らしいものであり、呪縛を受けていることなど意識にも上らないだろうが…

この呪縛から解き放たれることは無いのだろうか？いや、あるにはある。口紅歌姫が倒されれば「お化粧」は消え、呪縛から解き放たれるのだ。
しかし、果たして更なる力を身に着け、強力な部下を持つにいたった口紅歌姫に、一度は勝利したダイレンジャーであっても立ち向かうことが出来るのであろうか？

彼女が倒されるまでは、この宮殿に広がる歪んだ楽園は永遠に続くのである。

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投稿者胡瓜

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投稿日2011年07月20日 12:52

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