• 新興都市の外人伝説
  • 5月はじめにつくば市の林の中で、筑波大学に入学したばかりの女子大生が絞殺死体で発見される、と言う事件がありました。この女子大生は入学して学生宿舎に移った後わずか数日で姿を消しており、失踪直前には外国人と一緒にいたところを目撃されている、と報道されています。

    一部の新聞には「イタリア系」とまで書かれていたのですが、外国人をちらっと見て何系かわかる人がいるというのもさすがに国際都市つくばこそだというしかなく、まあ容疑者は追いつめられたも同然でしょう(もっとも、赤白緑の服でも着て陽気にぼんじょるの!とそこいらじゅうに挨拶してたのかもしれないが、そうなら容疑は薄いでしょうな)。

    被害者にはお気の毒としか言いようがなく、1日も早い解決を願うものですが、この事件報道で筆者が真っ先に思い出したのは、このつくば市に広がっていた「外人伝説」なのです。

    ご存じのようにつくば市というのは、つくば科学博覧会というプロジェクトを期に、筑波山の麓にひろがる原野の中に無理矢理こしらえた街で、洒落た都市風の街並みから一つ道を外れると、昭和30年代の農村風景にタイムスリップしてしまうこともしばしばあると言う不思議な街です。

    数少ない都市施設は万博時代から使い回されていて、一見モダンな外観を示していてもそろそろ耐用年限が来ており、まるで1950年代にイメージされた未来都市(おまけに核戦争後と言う設定か)という雰囲気を持っています。そうした施設の一つに中心部のホテル、デパートを結ぶショッピングモールがあるのですが、利用者の絶対数がそう多くないことも重なり、昼なお寂しい一角がそこかしこに散在しているのです。そのような背景で主に学生たちによって媒介された伝説はこういうものです。

    「ショッピングモールには公衆トイレが何カ所かあるが、そこにはアラブ系の外人が出没し、若い女性を見つけると引きづりこんで暴行する。被害者たちは警察に訴えるのだが、ゴーストタウン化が進んだり、改修を迫られたりすることを恐れている市当局によって表面化を押さえられている」というもの。殺された被害者もいるが、死体はいずこへとなく隠され、家出として処理されている、というような尾鰭が付くこともあるようです。

    街が出来た初めの頃は、研究施設への出向者とか大学関係者、学生ばかりで街に居着いて生活の場とする人々がまだ少なかったのが、次第に常住住民が増えて来た段階でこの伝説は生じ、普通の地方都市になりつつある昨今下火になっていったという経過があるようです。市民的一体感が希薄な住民達にとっては、ガランとした都市施設の片隅から魔の手をのばしてくるのは、絶対的他者としてのアラブ系外人であった、というわけ。これが「黒人」というのではそのまんま過ぎて神話要素を失うでしょう。この伝説が下火になった頃、筑波大学のキャンパス内で「悪魔の詩」の訳者である教官が、アラブ系の暗殺者に殺されると言う事件(未解決)があったのは皮肉です。

    今回の女子大生殺人事件は上の伝説を具体化するような内容でしたが、今後この事件の詳細が明らかにされて行くに従い、この伝説の命脈は完全につきるのではないでしょうか。ニュースショー的な瑣末化と陳腐化は伝説形成のエネルギーをもっとも削ぐものですから。(1999/05/07)

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    #これは「医学都市伝説」ではありませんが、生活圏が重なっているところで直接見聞きしたもので、強いて言うなら「大学ネタ」だというあたりでご勘弁の程を。


  • 「朝立ち」の生理
  • 男性なら誰でも自覚したことがあるはずのいわゆる「朝立ち」という現象について、専門家が結構たむろしていると言う噂のあるUG系の掲示板に「何故ああ言う現象が起こるのか」という質問が書き込まれていました。それに対して即座に書き込まれた答えは「膀胱が充満して刺激になるから」と言うもの。この説明は結構支持する人が多いらしく、「膀胱充満で前立腺が圧迫され、それが刺激になる」とか「ペニスが勃起しているときは排尿しにくい機構を利用して失禁を防いでいる」などという説明まで追加されていました。

    これに対して「起きている時、おしっこがしたくなって勃起することなどないのだから、その説明はおかしい」という指摘もあったのですが、「寝ているときには直接脳が指令し、起きているときには意識でコントロールされている」という再反論。大体勃起などと言う現象が意識でコントロールされるはずがなく、起きてるときと寝ているときで身体コントロールの切り替えがきっちりと起こるなんて事がおこることはまずないので、おそらく医学生か研修医らしいこの「膀胱尿充満勃起原因説」支持者の現実観察能力にはかなりの疑問を感じるのですが、結構確信的らしいのが面白い。

    筆者も医学生の頃、これを先輩に質問したら、即座に「小便がたまるからだ」と言われた経験があります。基礎医学の教科書には勃起のメカニズムは書いてあっても、「朝立ち」の説明などはなく、直接の医学営業行為に無関係なこういう疑問が医学教育で解決されることはまずありません。筆者の場合はたまたま読んだ睡眠生理の専門書で、「レム睡眠の時に勃起が伴う」という記載から、実際の体験とほぼ対応する理屈を知ることが出来ました。人間は眠っているとき、徐波睡眠と言われる遅い周波数の脳波がでる睡眠と、レム睡眠という一見覚醒時脳波に近い波を出す時期を交互に繰り返しており、レム期は夢を見たり、筋弛緩やらがおこっていて(色々説明があったがもう忘れた)、その一環として男性の場合は勃起現象が、女性の場合も性器の充血現象が見られると言うことでした。

    従って、朝立ちとはいうものの、同じ現象は一晩に数回起こっており、実際途中で目覚めた時には男性なら皆経験することで、尿意などとは無関係であるのは体験的に知っているはずなのですが、どこかで植え付けられた思いこみに、中途半端な生理学的知識が重なると、妙な伝説様の説明が出来ることになります。医学教育は素朴な疑問に答えたりするにのは無力だが、自分の体験も無視して、思いこみを一見理に合っているかのように屁理屈で塗り固めたりする能力をはぐくむ力はあるようです(確かにそれは臨床で要求される能力ではある)。伝説は知識の欠如からではなく、過剰な説明から生まれるという好例ではないでしょうか。専門家に近い立場の人々が伝搬するこの手の伝説はもう少し追求する必要がありそうです。(1999/05/15)

    #この関連でMEDLINEを検索したら、具体的な朝立ちメカニズムをいまさら説明するような論文は見つかりませんでしたが、身体因性男性不能と心因性を鑑別するのに有用というのが結構見つかりました。コストを掛けて調べた勃起メカニズムの身体レベル失調の有無と、朝立ちの有無はほぼ100%近く一致するそうな。しかし、MEDLINEの前に一般検索で調べたら、アダルトサイトばっかり山のように引っかかったのには参りました。

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  • 開業医妻暴行伝説
  • これは2つ上で紹介したつくば市の外人伝説によく似ていますが、根本的に違うのは被害者が特定されて噂されていることです。当然噂が流布している地域も限られますが、時々特定されていたはずの被害者が別の人の話として、離れた場所でも語られたりしていることがあったりするのが伝説の伝説たる特徴です。

    「ある農村地区に開業するA医師は、初老にさしかかる年代だが独身で過ごしてきた。それがかなり年の離れた妻をめとることとなった。新妻はかいがいしくA医師の診療所を手伝って、近所でも評判だったが、2年ほどたったある日からこの妻の姿はぷっつりと消えてしまった。近所の人が診療の折りにA医師に尋ねても曖昧にごまかすばかり。ある人が言いにくそうに漏らしたところによれば、散歩していた医師の妻が、近くの工場に集団で働いていたアラブ人に暴行され、妻は精神に変調を来たしてしまったが、A医師は世間体を考えて被害届も出さずに妻を実家に帰した。妻は現在廃人同様となっている。(自殺したと言うバージョンもある)」

    事実ならまことに痛ましい事件なのですが、医者仲間経由で聞いた事情は全然違います。A医師は都会の病院勤めから、全く地縁のない農村地区に開業して程々にやっていた方ですが、あんまり患者さんあしらいがうまくないというか、営業感覚に乏しいところがあり、いまいち地域にとけ込んでいなかったようです。氏には糟糠の妻がいたのですが、開業を決意したころに女性問題を起こし離婚(というより女性問題を契機に病院を辞めて開業したらしい)、そしてその問題の相手の女性と数年後に再婚したということのよう。ところがよくある話で、一緒に暮らすようになるとうまく行かなくなり、2年程で破局して相手は家を出たということ。

    あまり地域とのつきあいのない医師の家庭事情が、周辺の人にあれこれと憶測されている内に伝説化したもののよう。村落共同体の構成員にとっては共同体内部の「他者」で、なおかつ表だっては排除意識を持ちにくい対象に、たまたま地域の脅かし対象として存在していたアラブ人という絶対的他者によって理不尽な攻撃が加えられる、という見事な無意識的制裁の構図がうかがえます。他人の不幸は蜜の味とは言いますが、不倫の末の再婚の失敗というような中途半端なものでは生臭すぎて単なるひそひそ話で終わってしまった事でしょう。(1999/05/23)

    #この話は地域を特定すればとうぜん当事者も特定されてしまいますので、少々アレンジしている部分があります。ご容赦の程を。

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  • 頭蓋骨標本の謎
  • 先に挙げたつくば市の女性失踪伝説と開業医妻暴行伝説は、前書きにも書いた古典的な「試着室から消える新婚妻」のバリエーションだと考えられます。これの原型ともいえるのが1969年頃にフランスはオルレアン付近で蔓延したといわれるうわさ話。若い女性が次々に行方をくらませている、それはどうもユダヤ人が一枚かんでいるらしく、ユダヤ系が多い服飾店に入った女性が、試着室などで拉致され、中東方面に性的な奴隷として売られているらしい、という内容だったそうです。

    フランス人というのは、先の大戦の時、侵攻してきたナチスドイツに命令されるまでもなく、彼らよりよっぽど熱心にユダヤ人狩りをしたと言われるほど、反ユダヤ感情ではヨーロッパでも老舗なんだそうで、ナチスの悪行のおかげでタブー化していたその反ユダヤの隠然たる噴出が、その噂のエネルギーであったと言うような分析がされている書籍を読んだような気がします。(みすず書房「オルレアンのうわさ」エドガール・モラン)

    日本の場合は拉致・暴行の主体とされる外国人に対する差別感というのは確かに存在するものの、ヨーロッパ人の反ユダヤ感のようなはっきりとした輪郭を持つものと言うより、定義困難な不安感を仮託する存在としてたまたま選ばれたと言う面が強いように思われます。最近流行っていると言う「だるま伝説:アジアの骨董屋で、手足のない生き人形の様なものを売っているのを見ていたら、その一つが「僕は日本人旅行者だが捕まってこんな身体にされて売り物になっている」と助けを求めた、と言う内容。女性がこの身体にされて性奴隷として売られていると言う変形もあるらしい」、これなども同じ範疇のバリエーションですが、どの様な相手に拉致されるかというより、拉致された後の奇怪かつ残酷な扱いに完全に焦点が移っています。日常性の周辺をとりまく曖昧な部分への不安が、明白な対象への敵意によって縁取られているよりは、こうしたグロテスクなメルヘンの方がよっぽど健康的だとはいえます。ただ、形式はどうであれ、営利のため人知れず拉致・誘拐が行われているらしい、という内容が時代を超えて語り継がれるのには何らかの根拠があるのかも。まあ政治的動機なら国家的規模でこういうことをやる所があるようですが…。

    前置きが妙に長くなりましたが、今回の本題に移りましょう。当院の某院長は元来麻酔科が専門で、ペインクリニックなども得意の一つなのですが、顔面の神経ブロックをするときなどに参考にするからと言って、頭蓋骨標本を買いました。それも模型で良いじゃないかと言う声を無視して、結構な額の「本物」を買い求めたのです。その箱書きを読んでみれば、原産地?はインドとなっています。モノは小ぶりで、完全に晒されているわけではなく、触るとじっとりとした脂肪や蛋白成分をまだ含んでいるようです。顎の構造などから女性と思われ、歯牙は綺麗にそろってすり減った所もなく、親知らずがまだ埋もれていること、頭蓋骨の縫合の様子などから、せいぜい10代後半から20代前半だと推定されます。

    考えてみるに、若い人の自然死を待っていて、このように綺麗な標本が得られるものでしょうか?大規模な死体の買い付けと流通経路の存在、綺麗な標本にならない場合の有効利用方法が確立されていないと、これを企業化するのは困難ではないでしょうか。そう言うリスクの多い方法でなく、良い標本になると思われる人をまず選び、素早く製品化すると言うやり方がもっとも手早く、確実な標本制作業者のありかたではないでしょうか。どうも筆者はインドの山奥の人里離れたところで、カルシュウム剤など与えられながら、朝晩歯磨きはきっちりとしつけられている哀れな少年少女たちをついつい想像してしまいます。その内の何人かは逃亡を防ぐためにダルマにされた日本人旅行者かも、なんてさらに妄想は発展したりして。(1999/06/09)

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  • 恐怖の金縛り体験
  • 都市伝説がらみの話題をあつかう国内サイトをネタ探しのためにあちこち訪問してみると、いわゆる超常現象に関する興味とオーバーラップしている所が多いようで、恐怖体験、UFO体験、霊的現象の報告が各種取りそろえられた献立がよくみうけられます。このコーナーでもお化けやポルターガイストを取り上げたことはありますが、筆者の興味はあくまでそういうことを信じ、伝達する人間達の側にあり、「超常現象」そのものはどうでも良いというのが基本的態度です。全く否定的な訳ではありませんが、いくらでも合理的に解釈できることを、わざわざ不可思議に考えたがる人間の思考形態のほうがよっぽど謎だと思っているわけです。筆者自身、かなり鮮明なUFO体験がありますが、あれは地球外生物による現象というよりは未知の脳内現象だと思っているし、恐らく宗教的神秘体験の大多数も同様なものだろうと思います。勿論地球外文明や神秘の世界が実在するのかもしれないし、そちらの方向で世界を解釈するのは全く自由なことで、お互いに論理的に反駁出来るようなことでないのは承知しています。

    さて、前置きはそれぐらいにして(どうもネタ切れになると前置きが長いなぁ)、今回は「金縛り」について検討します。先にふれた不思議体験報告サイトなどで、圧倒的な報告数を誇るのがこの金縛りで、超常現象体験の入門コースになっていると言っても過言ではありません。殆どの報告者は、寝入りばなもしくは起きがけに、特有の恐怖を伴った切迫感(何かが自分に迫ってくる、重いものにのしかかられるなど、それらの姿や声が具体的に見えることや聞こえることもある)で始まり、意識は鮮明だと感じているのに体を動かすことが出来ず、何とか動こうと四苦八苦しているうちに突然動けるようになる、という共通する形式を体験するようです。これを体験したのが自殺した人がいると噂されるホテルの一室であったりすると、そこが霊的スポットとしてさらに話に尾鰭がついていくことになります。まあ殆どの場合、体験の生々しさを説明するための無意識的作話であるようですが。

    この現象は医学的には入眠時幻覚、睡眠麻痺として説明可能で、人工的再現こそ難しいもののポリグラフ観察のもとで起こっている現象をほぼ把握できています。簡単に言えば(簡単にしか言えないのだけれど)身体的には睡眠状態なのに、意識の方は半覚醒状態になるという特別な意識−身体解離状態になり異常体験をするというのが本態です。しかし、いくら医学生理学的な説明をしたところで、それにともなう独特の恐怖感や「ただ事ではない感じ」というものは説明が付かないわけで、そこがもうずっと昔から医学的には決着が付いていながら、いつまでも入門編霊的体験の扱いが変わらない要因でしょう。

    Medlineで"sleep paralysis"を検索して、特定の疾患(ナルコレプシーという睡眠に関する障害は先に述べた意識−身体解離を来しやすく、入眠時幻覚、睡眠麻痺がよくおこる)についての論文や動物実験論文をのぞき、抜粋が読めるもの約30論文をとばし読みしてみました。それらによると、普通に生活している人で、この金縛りを体験する人の割合は報告により様々で、調査対象が白人ではほぼ数%となるのに、アメリカの黒人は20%台、アジアの研究では30%からほぼ半数(日本では60%というのもある)という報告になることが興味深い。アブストラクトから体験のニュアンスを知ることは難しいのですが、西欧圏ではこの体験が淡々としている印象が強く(大体「金縛り」と言うような強い表現が存在しないらしく、「麻痺と明白夢」という程度の言い方。devil's trapとかの表現があっても良いのでないかと思うのに)、香港の報告では大学院生を対象にして、37%が"ghost oppression"(霊の圧迫)と表現されるこの体験を経験しているとされ、頻度が多いばかりでなく日本と同様な超常的な捉え方がされていることが伺えます。またこの体験をする人には特有のHLA抗原タイプが多いらしく、人種的な差違はそこから説明されると考えられます。恐らく体験の切迫度も同様の根拠があるのでしょう。*

    実は筆者もこの金縛りをしょっちゅう体験する方で、思春期ごろから始まり、自堕落な生活をしていた学生時代が一番ひどく、今でも当直などで睡眠が浅いときなど軽いのに陥ることがあります。その経験から言うと、睡眠不足などの原因がはっきりしているときは症状は軽いことが多く、特に原因が思い当たらなくて突然これに陥るときは典型的な恐怖感と激しい幻覚(と言うしかありませんなぁ)を体験することが多いと言うことでしょうか。いくらその本態が判っているといっても、気持ちのいいものではなく、とにかく醒めようと必死の努力をしてしまうのが情けない。例えば、壁の中に引き込まれてしまうような幻覚があるとき、それに逆らうのではなく、積極的に身をゆだねてみたらどうなるのだろう、と醒めてからいつも思うのですが、そういうのは発想がもう向こう側に行ってしまってるってことですかねぇ。
    (1999/06/12)

    *スピルバーグの映画を見ていると、こやつは絶対金縛り体験のもとで恐怖幻覚を何度も体験したに違いない、と思える映像をよく見受けます。同じ体験を共有する人間にはあの映像は受けるだろうな、と思っていたので、論文検索して西欧にこの体験が少ないことを知ってちょっと意外でした。まあ少数派だけにより新鮮に受けとられるのかも。

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  • 病院の怪談2
  • 以前お化けの出る病院の話を紹介したとき、「病院と言うところは人の生き死ににここまで関わっている場所なのに、あまり怪談というのを聞」かないと書き、病院が作り出す「健康神話」をその理由としてあげました。従ってこの神話が機能しないと「病院は死出の旅路の出発地」であることに気づかれ、「元病院跡地」などはたちまち霊たちの入れ食い地点になってしまいます。

    機能中の病院であっても、この神話がちょっととぎれ気味になるスポットや時間帯というものがあり、原初的な怪談が顔を覗かせることも無いではありません。それが巷に広がっていくことはないにせよ。場所的なものの代表は「霊安室 」で、唯一死者の存在を前提にしたこの部屋は、確かに古い大病院などでは近寄りたくなる雰囲気はありません。そういうところではホラーというよりホラ話系怪談の一つや二つが挿話的に語られることはあるようです。

    大学病院などではたいがい病理解剖関係の施設や、標本保管室がその近くにあります。レポートのために標本借り出しに行く学生に、たわいのない定型的な怪談で怖がらせるというのもよくある話です。これは筆者の友人が経験した話。

    病理実習でレポートを提出する役になった友人、助手から標本室の鍵をもらうときこんな話を聞かされました。「地階の廊下で、おかっぱ頭の女の子がマリつきをしているのを見たら、絶対目を合わさず、話しかけられても喋るなよ。いっぺん返事をしてしまうと、すごい力で手をつかまれ、こう言われるんだ。『私って、大人になったらどんなだと思う?』そう言うと見る見る美女に変身して『こうなれたはずなのに、お前達のおかげで…』と化け物の顔になって襲ってくるらしいぞ」「それから?」「それから…って、まあそういう話だから」

    何を古くさいホラ怪談言ってるんだか、と友人は標本を探し出して実習室に帰っていこうとしていました。するとどこからともなくマリつきをしているような音が聞こえる。見ると、来るときには気づかなかったが、霊安室 がほんのり明るくなっており、その前で小さな女の子が手まりを持ってたたずんでいるではありませんか。友人の心臓は縮み上がりましたが、常識が現実に引き戻します。何を考えているんだ、この子は現実の存在だ、家族に不幸があって、ここで待ってるだけなんだ、なにを怖がることがある…。

    ぎくしゃくと通り過ぎようとする友人を、女の子が呼び止めました。子供に似合わぬ刺すように鋭い視線を寄せ、「せんせい、お母さんのしゅじゅつの様子はどうですか?」と。落ち着きかけていた彼の心臓はまた凍り付きかけます。手術って…、なんで霊安室 前でそんなことを…、ああ、やはりこの子は霊なんだ、母親と一緒に事故にでも遭って死んだのに、母親を心配して自分はまだ生きてるつもりで白衣の人間に様子を聞いているんだ、そして母親と自分を救えなかった恨み言を言い始めるんだ…。

    何も言ってはいけないと言う忠告もどこへやら、彼は蒼白になって言い訳を考えます。ボクはね、白衣着てるけど医者じゃないんだ、まだ勉強中なんだ、お母さんや君のことはとっても気の毒だけど、ボクは関係ないんだ…、そう言おうとしたとき、霊安室 横のドアが開け放たれます。彼は声にならない叫びをあげながらそちらに向き直りました。

    そこには目を真っ赤に泣きはらした若い男性が立っていました。そして先ほどの子供を手招きし、抱きすくめました。ふるえながら壁にへばりついている友人と目があって、男性は訝しげながら会釈し、普通ならぬ様子に「子供が何か?」と尋ねてきました。新手の霊の登場かという疑いも捨てきれない友人は、それでも落ち着きをしだいに取り戻し、かすれる声で答えます。「お子さんがお母さんの手術のことで聞いてこられたもので、事情が判らなくて…」

    男は苦い笑みをかすかに浮かべました。「そうですか。実は女房が急死しましてね。病院についたときにはもう…。今解剖中なんです。お母さんの体の中をもう一度調べてもらうと子供に説明したら、死んじゃった後でも手術して助けてもらえるんだね、って言うからそうなったらいいねって…。」

    しばし呆然と立ちつくした後、友人はご愁傷様でしたと頭を下げ、まだ震える手足をせかせてその場を去りました。振り返ると、その親子は薄暗い廊下でいつまでも寄り添いすすり泣いていました。体に血の気が戻ってくるのと、ガラにもなく涙があふれてくるのを感じながら、これは本物の怪談だった方がよっぽどダメージ少ないだろうな、と友人は感じたものでした。

    友人はその後基礎研究の方向に進みました。「臨床だと、毎日の仕事がああいう悲しみの上に成り立つのか、なんて感じたんだなあ」とのこと。(1999/07/08)

    *本物の超常系怪談を期待された向きには肩すかしでごめんなさい。ネタ切れなもので…。 

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  • 水素ビールで大やけど
  • 原則として自分の耳で聞いたことのある伝説、と言うのにこだわってはきたのですが、いい加減それにも限界が出てきたので、しばらく海外サイトからの孫引きでご勘弁願います。先に紹介したAFU以外にも様々の都市伝説紹介サイトがあり、そこで紹介される伝説は日々増え続けているのですが、先にも述べたように、海外(と言っても英語圏ですが)の都市伝説と日本のそれとの間には微妙な違いがあります。怪談や超常現象との親和性が強い日本物に比して、海外物はありそうもないが日常性の枠に止まる、と言う内容が多いのです。グロテスクな内容やバッドティストものも確かに多いのですが、ジョークの色彩が濃いのもまた特徴の一つ。次の話など日本の話と言うことになっているので、その違いが際だつように思われます。この話は98年1月、イギリスの大衆雑誌にニュース仕立てで掲載されていたと言います。引用はここから。

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    東京発AP−「水素ビール」をめぐる訴訟が今注目を集めている。失業中の証券ディーラー、トシラ オトマ氏、カラオケバー「チケタケ」、アサカビール(ママ)三者間で争われている訴訟である。オトマ氏はバーとビール会社を「危険物を販売し、身体に重大な損傷をおわせ、失業に追い込ませた責任がある」と訴え、バー側は「中傷であり、被害者はこっち」と反論している。

    アサカビールは通常の炭酸ガスにかえ、水素を封入したビールを発売、カラオケバーで人気を集め販売を延ばしていた。水素は質量が小さく、音の伝達速度が速くなり、その「げっぷ」の副作用で声が高音域まで出せるようになるためである。これはヘリウムガスを吸い込むことでも体験できるが、より簡単に同じ効果を得られるため多くのカラオケ愛好者がこのビールを飲むようになっていた。また表だっては宣伝されなかったが、もう一つのセールスポイントは水素の可燃性で、これを利用して歌いながら口から火を吐くことが流行となった。カラオケビデオの多くはこの流行を取り上げ、歌い手が青い火を吐く映像を流すようになった。

    「オトマさんは酔っぱらいすぎて調子に乗ってしまっていたんでしょう」とチケタケの支配人ノムラ氏は語っている。「水素ビール15本も飲んでコンテストに出たんです。ゴジラみたいなでっかい火の玉をはいたんですが、肝心の歌が調子っぱずれだったもので鐘一つだったんです。それで怒って審査員に向かって火を吐いたんですよ。警備員が取り押さえたのは当然で、その後起こったことは不可抗力で、オトマさん自身の過失です。うちには何の責任もないばかりか、客も来なくなって大損害です」

    オトマ氏は警備員に取り押さえられた際、ちょうどげっぷが出るところで、それに手に持っていたタバコの火が付き、食道、咽頭部に3度のやけどを負った。声を出せなくなったオトマ氏は証券ディーラーの職も失っている。なおオトマ氏自身のコメントは得られなかった。
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    出てくる日本人やメーカーの奇妙な名前と言い、ゲイシャ、サムライ、ハラキリが出てこないのが不思議なぐらいのドタバタジョークですが、人から人へと話しつがれているうちに、一定程度の真実性を獲得するらしい。現にあるメーリングリストで「六本木では水素ビールが今トレンド」という噂話が日本でも流れていることが紹介されていました。

    この話でも典型的なのですが、「ある人物の愚行をからかう」ような内容が多いのも海外物の特徴です。本朝の美風にはちょっとそぐわぬかもしれません。(1999/07/24)

    #この話がはじめて登場したのは94年1月、やはり「東京発AP」のニュース形式でインターネット上に現れたのが最初だそうです。「高音まで出るのでカラオケ愛好者にヒット」「火を吐くのも流行」という水素ビールの特徴をのべて、アサカビールのマーケティング部長のコメントを紹介する形になっています。このビールは6角形の瓶に入れられており、一本千二百円だとか。かのニューヨークタイムズやボストンの高級紙も記事にしたことがあるそうな。後の付け足されたエピソードと文体がよく似ているので、同じ作者によるものかもしれません。

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  • 大学試験伝説
  • この話は都市伝説関連書籍の古典となっているジョン・H・ブルンバンの4部作#にも収録されているのでお馴染みでしょうが、ジョークとしても上出来なので、あえて取り上げてみます。80年代、アメリカの大学で語りつがれた「武勇伝」のようです。

    期末試験で時間が足りず、必死に答案を仕上げていたある学生、監督の教官が「ペンを置いて提出してください」と指示したのも無視して書き続けた。1分ほど時間オーバーして提出しに行くと「君、この答案は受け取れないよ」あわてた学生は理由を聞きます。「書くのをやめて提出するように言ったのに従わなかったからだよ」「じゃ、僕はどうなるんですか?」「落第、ということだろうね」ここに至ってむかっ腹立てた学生、居直りにかかる。「先生、僕が誰だか知ってるんですか?」「しらんね」それを聞いた学生「偉い!」と教官の肩をたたいて、答案用紙の山の中に自分の答案をすべり込ませ、意気揚々と教室を出ていった。

    これだけでは何なので、筆者の体験談も。先に昔の医師国家試験での迷回答伝説を紹介したことがありますが、あのバリエーションは多く存在し、組織病理の試験で「これは顕微鏡です」と答えるとか、臨床実習で「この患者に対してまず何が必要かね」と問われて「医者にかかるように勧めます」と答える、などの言い伝えがあったものでした。昔はこういう学科ごとの試験を突破するする方がよっぽど困難だったけれども、医師国家試験制度が今のように味気ないうえに難易度が高い五択式マークシートになって、しかも医学部自体が国家試験の予備校の様な位置付けになってしまっているため、以前のとぼけた伝説は存続しにくくなっています。

    その代わりに、と言うわけではないのだろうけれども、出現したのが「国家試験直前スペシャル情報」と言う妖怪なのです。多くの医学部では卒業年度になると「国試対策委員会」と言うものが組織され、今までの出題傾向とか、その年の予想問題などをとりまとめてクラスに配ったりします。国試の前には受験ツアーを組織し、皆で会場近くの小汚いビジネスホテルなどに前々日あたりからこもり、全国の同志?と連絡取り合って直前情報を交換しあうのです。

    初めのうちこの情報は至極まともな様相を呈しています。「内科の出題委員は@@大の&&教授だから、専門の血液疾患、それも再生不良性貧血が山だ、とくに組織像を中心に出題されるに違いない」と言うような感じ。前日の夕方になると情報はさらに生臭くなります。「1問目は肺水腫、理学所見が問われる。2問目は不整脈の鑑別。残りも全体に循環器にウェイトがおかれている」夕食後、やけくそで飲んだビールでほろ酔いになったころ、さらに具体的かつあやしげな情報が流れてきます。「肺水腫が出たらB(国試問題はすべてAからEまでを選ぶ五択)、膵炎はD、不整脈は参考心電図に引っかけが仕込まれているがC」と言う調子。さらに夜も更けてくると、皆そわそわとホテルの廊下を行き来して、小声で情報を交換しあいます。「$$医大の**教授サイドから全問模範解答が流れたらしい」「原本のファックスが深夜には手に入る」真夜中、ドアの隙間に「BACADDEDAECBE〜」などと書かれた出所不明の怪文書が差し込まれていたりしますが、それが先の情報と同じ物か確証はありません。かくて試験前夜は本格派推理小説における「山荘の夜」の如く、相互依存と相互不信の葛藤の中で明けていくのです。

    試験会場で、それらスペシャル情報が完全なガセであった事に直面し、大概の受験生は普通に準備してちゃんと寝て置けば良かったと後悔して、「自分の眼で見て、自分の力で物事を判断すべきである」という教訓を得ることになります。その意味ではこのカラ騒ぎは一連の医学教育のなかで、かなり大きな意味を持った実地教育になっていると言えないこともない。

    現在医療現場で中堅の地位を占めている世代以降は、今の国家試験制度を経てきていますから、多かれ少なかれこの「直前スペシャル情報」というデマに右往左往した経験を持っているはずです。眉に唾つけながら「BACAD〜」などと丸覚えしている所を想像すれば、患者さんサイドも対等な気分で医療に接していけるのではないでしょうか。(1999/07/26)

    #「消えるヒッチハイカー」「チョーキング・ドーベルマン」「メキシコから来たペット」「くそっ!なんてこった」ジャン・ハロルド・ブルンバン(新宿書房)これらには都市伝説ほぼすべてのプロトタイプが網羅されていると言っても良い。著者はアメリカはユタ大学で民俗学の教鞭をとる。
    #97年に第5作目「赤ちゃん列車が行く」が同じく新宿書房から出版されています。全4作と装幀が変わったのが残念。本家では新刊"Too good to be true"が出版されたばかりとか。翻訳出版されるのを待ちましょう。

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  • 最強の受験生ー大学受験伝説2
  • 90年のニューヨーク州立大学の入学試験の一回答として、勿論実話として、ネットを今も巡り巡っているものだとのこと。引用はまたもここから。

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    「設問3:あなたの人となりを示す重要な経験、今までに達成した事柄を記しなさい」

    私は偉丈夫で、壁をよじ登ったり、氷を砕いているところをよく見られる。私は昼休みに駅舎の熱滞留問題を解決する再設計をした。キューバ難民のために翻訳活動をし、オペラ作曲で賞を取っている。私は時間の無駄遣いをしない。

    時には三日間続けて船を漕ぎ、繊細かつ神業のトロンボーン演奏でご婦人達を魅了した。向かい風の中、上り坂を自転車をすばやく漕ぐこともできるし、「30分黒パン」を20分で焼くこともできる。熟練壁塗り職人であり、恋愛の達人で、ペルーではアウトローとして知られる。

    クワと桶だけを使って、兵隊アリに襲われたアマゾンの村を一人で救ったこともある。カントリーミュージックのチェロ奏者でもあるが、ニューヨーク・メッツにスカウトされたこともあり、数々のドキュメンタリー番組の主人公になっている。退屈なとき、私は庭に大きな吊り橋を造る。ハンググライダーを街でやるのも楽しみの一つだ。水曜日の放課後は、電気製品の無料修繕もやっている。

    私は抽象芸術家であり、具体的分析家であり、無慈悲なバクチの胴元だ。世界中の批評家達は私のデザインした服を褒めそやしている。私は汗をかかない。私は一介の市民であるが、多くのファンレターをもらっている。クイズ番組の回答者として、週末旅行券をもらった。去年の夏、ニュージャージーに遠心力の証明のため出かけている。私は4割打者だ。

    私のフラワーアレンジメントは国際的園芸サークルで有名だ。子供達は私を信じている。私はすばやく動くものに正確にテニスラケットをぶつけることが出来る。私はかって、一日のうちに「失われた楽園」「白鯨」「ディビット・カッパーフィールド」を読破し、余った時間でダイニングルームの模様替えをした。私はスーパーマーケットで食料品がどこに置いてあるか、すべて知っている。また、いくつかの秘密作戦をCIAと一緒に遂行している。

    私は週に一度だけ、椅子の上で眠る。カナダでの休暇の際、小さなパン屋を襲ったテロリスト達との交渉を成功裏に成し遂げた。私は平静で、陰謀家で、巧妙で、陽気で、借金はない。

    ある週末、私はうっぷん晴らしのため「格闘オリガミ大会」に出場した。数年前、私は人生の意味を発見したが、それを書いておくのは忘れた。私は4種類の晩餐をオーブントースターだけで作ることが出来る。私はハマグリ養殖で賞を取った。私はサンファンの闘牛大会、スリランカの断崖飛び込み大会、クレムリンの綴り字大会で優勝している。私はハムレットを演じ、開胸心臓手術をこなし、エルビス・プレスリーと話したこともある。

    しかし、私はまだ大学には行ったことがない。

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    何というか、向こうのスタンダップ・コメディにあるような無意味なしつこさで笑いをとる内容で、和魂無才の人間にはいまいち理解しがたいものがあります(大体「格闘オリガミ」ってなんだ?)。これは一種の「現代詩」として鑑賞すべきものかもしれません。半分ジョークの伝説として流布しているけれど、この文章は90年に出版された高校生による現代文学雑誌に掲載された本物だそうです。実際の入試にこのまま書いたかどうかは定かでないそうですが。

    この作者であるヒュー・ギャラガーは90年、実際にニューヨーク州立大学に入学、94年に卒業しており、現在は作家として活動しているそうな。彼の最初の小説「歯」は98年に出版されているとのこと。「格闘オリガミ」に興味がある方は今後の彼の活動に注目してください。(1999/08/04)

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  • 万能物質「コカコーラ」
  • これもネットに流れている嘘ともホントともつかない噂の一つ。コーラはアメリカ人にとって「お袋の味」とでも言えるものらしく、昔から様々な噂が飛び交う分野のようです。「歯や骨を溶かす」とか「湾岸戦争後遺症は砂漠の熱で変質したダイエットコークが原因」というネガティブなものもある一方で、紹介するようなポジティブ?なものもあるのですね。こういうのを総称して”Cokelore”と言うそうな。ネタは相変わらずここの掲示板から。

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    何でも知ってると思ってるあなたに捧げる豆知識

    トイレ掃除:コカコーラ1缶を便器に注ぎ、1時間待って流しましょう。便器の黄ばみもきれいになります。

    車の金属バンパーの汚れ落とし:アルミホイルにコーラをたらし、それで磨きましょう。

    車のバッテリーの電極掃除:バッテリー液を入れる穴からコーラを1缶入れます。サビはすっかりきれいになります。

    さび付いたボルトを緩める:布きれにコーラを浸し、数分間ボルトに巻き付けておきましょう。

    ハムを柔らかく調理する:オーブン皿にコーラをいれ、アルミホイルで包んだハムを入れて焼きます。最後にホイルを取り除き、焼き汁とコーラがよく混ざると素敵なソースになります。

    衣服に付いた油を取り除く:洗濯機に洗剤と一緒にコーラを1缶いれ、普通に洗濯します。

    車の窓ガラス掃除に:アスファルトピッチもきれいに落ちます。

    それに勿論、飲んだっていいんですよ!

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    ここの掲示板では、このもとネタにたいして色んな人が意見を寄せていたのだけれど、誰一人としてコカコーラ自体の飲料としての危険性を非難する様な論調はなく、こういうコーラの応用にある程度の懐疑心を持ちながらも、「そんな風にも利用できる噂があるなんてなんて楽しいな」というニュアンスで発言していたのが面白い。「抜いた歯を一晩コーラにつけておくときれいに溶ける」と言うような噂(これは真っ赤な嘘)に関しても、「そんなパワーのある奴を毎日飲んでるんだぜい!」てな感じに笑い飛ばしている感じがあります。これは「健康的」というべきか?。日本なら「買ってはいけない」に早速載るのではないかしら?

    なお上に書いてあることはおおむね事実だそうですが、筆者はバッテリー掃除などは試してみようとは思いません。料理にはたまに使うことがあります。BBQソースなどはコーラを適当に加えると独特のアメリカン・チープな風味が再現できます。(1999/08/07)

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  • 一酸化二水素汚染の恐怖
  • 次の汚染物質への警告文章も、ファックスやネット情報の形で昔から出回っているのものと言います。この文章を使ってあるアメリカの中学生が、科学コンテストで賞をとり、再び有名になりました。

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    一酸化二水素(Dihydrogen Monoxide:DHMO)の規制を!

    DHMOは無色、無臭、無味であるが、毎年無数の人々を死に至らしめている。殆どの死亡例は偶然DHMOを吸い込んだことによるが、危険はそれだけではない。DHMOの固体型に長期間さらされると身体組織の激しい損傷を来たす。DHMOを吸入すると多量の発汗、多尿、腹部膨満感、嘔気、嘔吐、電解質異常が出現する可能性がある。DHMO依存症者にとって、禁断症状はすなわち死を意味する。

    DHMOは水酸の一種で、酸性雨の主要成分である。地球温暖化の原因となる「温室効果」にも関係している。また重度の熱傷の原因ともなり、地表の侵蝕の原因でもある。多くの金属を腐食させ、自動車の電気系統の異常やブレーキ機能低下を来す。また切除された末期癌組織には必ずこの物質が含まれている。

    汚染は生態系に及んでいる多量のDHMOが米国内の多くの河川、湖沼、貯水池で発見されている。汚染は全地球的で、南極の氷の中にも発見されており、中西部とカリフォルニアだけでも数百万ドルに上る被害をもたらしている。

    この危険にも関わらず、DHMOは溶解や冷却の目的で企業利用されており、原子力施設や発泡スチロール製造、消火剤、動物実験に使われている。農薬散布にも使われ、汚染は洗浄後も残る。また、ある種の「ジャンクフード」にも大量に含まれている。

    企業は使用済みのDHMOを大量に河川、海洋に投棄しており、それはまだ違法ともされていない。自然生物への影響は限りないが、我々は今のところ何も出来ないで居る。

    アメリカ政府はこの物質の製造、頒布に関する規制を「経済的理由から」拒んでいる。海軍などの軍機関はDHMOにかんする研究を巨額の費用を投じて実施している。目的は軍事行動時にDHMOを効果的に利用するためである。多くの軍事施設には、地下に近代的な施設が造られ、後の使用に備えて大量のDHMOが備蓄されている。

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    1997年、14歳の中学生がこの「告発文」をつかって、アイダホの科学博で行われたコンテストにある研究結果を発表。特賞を獲得したそうです。研究の題目は「だまされやすさの研究」。同級生50人に上の文章を読ませ、"DHMO"規制に賛成するかどうかをアンケートしたもの。すでにお気づきのようにDHMOとは単なる「水」のことで、大仰、かつうまく的をはずした書き方でその危険性を告発するようなジョークに仕立ててあるわけですが、じつに50人中49人までがDHMOなる物の危険性に目覚め、何らかの行動を起こす必要性を訴えたとか。

    ま、アメリカのガキのことですが、と言ってすませられる様な物ではないのかも知れない。アメリカ人が「国際的正義」なんぞを主張していても、その実体はDHMOへの告発と似たような物なのかも知れませんな。もって他山の石とすべきでありましょう。(1999/08/11)

    #これは初めからジョークを意図しているけれども、こうした「事実のみを告げて全くの虚偽を伝える」論法は古今東西を問わず人々を扇動する目的で使われてきました。日本でも、組織暴力への対策として盗聴法の必要性が盛んに主張されたのは典型。

    引用はここから。

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  • 汗止めで乳ガンに?
  • 英語圏のネットを循環するデマメ−ルのなかでもっとも最新版がこれだそうです。今ひとつ出来が良いとは思えませんが、最新版と言うことに免じてお許しを。

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    衝撃の事実!女性のための乳ガン予防法

    ある健康セミナーで聞いたばかりの情報をお知らせいたします。それによると乳ガンの主要な原因は「制汗剤の使用」にある、と言うことです。そう、「制汗剤」です。殆どの製品は制汗剤と消毒剤が配合されています。家に帰ってすぐに調べてみましょう。消毒剤は問題ないのですが、制汗剤は危険です。理由は以下の通り。

    人間の皮膚には、毒素を排出する機能をもつ部位が何カ所かあります。膝の後ろ、耳の後ろ、鼠径部、そして脇の下です。毒素は汗を介して排出されています。制汗剤はその名の通り、発汗を押さえるために体からの毒素排出も阻害してしまいます。主に脇の下に使われる制汗剤は、毒素を当然体内に、それも腋下付近のリンパ節に残留させることになります。高濃度になった毒素は細胞変性を引き起こし、ガンが形成されていきます。

    殆どの乳ガンは乳房外側上方に発生しますが、これはすなわち毒素がたまったリンパ節のある部位に他なりません。

    付け加えるなら、男性は制汗剤を使っても、ほとんど乳ガンにかかる危険はありません。なぜなら、制汗剤の成分が、脇毛に遮られて直接皮膚に吸収されにくいからです。脇毛を剃った直後に制汗剤を使う習慣がある女性はより危険度が高くなります。カミソリで細かな傷が皮膚に付くと、より制汗剤成分の吸収率が高くなるからです。

    是非このメ−ルをあなたの大切な知り合いに転送してください。乳ガンは恐ろしい勢いで増加しています。このメ−ルが命を救うのです。内容に疑問がある方はご自分でも調べてください。同じ結論に達せられる事を保証します。 かしこ。

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    このメ−ルが今年の5月末ごろから、1ヶ月近くネット上を循環したそうです。勿論内容は全くのデマで、制汗剤と乳ガン、その他の悪性腫瘍との間に関連性は全く認められません。大体、「制汗剤」といったって、ホントに汗が止まるようなクスリがあるわけがなく、汗をある程度吸収する成分とひんやりした感じがする香料、抗菌成分が配合されているに過ぎません。本当に汗を止めるクスリがあれば、熱帯夜などにこっそりと全身にかけて殺人に利用できます。言うまでもないことですが、体内の毒素は血液を介して尿に排出されます。汗を介した代謝産物排出が果たす役割は微々たるものです。

    日本にはこれが伝わらなかったようですが、「エイトフォーをビニール袋に噴霧してそれをすうとハイになる」というアブナイ遊びが同時期にはやりかけたと聞きます(多分噴霧用のガスで酸欠がおこっているのでしょう)。中途半端な伝搬から意味内容の変異が起こったか、いわゆるsynchronicityというやつか。

    もうちょっと根本的なところでジョークが効いているか、批評性に富んだ奴だともっと寿命もながくて世界的な広がりをもったものになったかもしれませんね。やはり、無知につけ込むというだけのデマはいけません。気の利いたのを皆で考えてみましょう。(1999/08/27)

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  • 臓器オークションの謎
  • この話はつい先日新聞でも報道されたので多くの人がご存じのことと思います。eBayと言うオンラインオークションサイトに「腎臓売ります」という2件の書き込みがあり、サイト側が削除するまでに570万ドルの値が付いた、というもの。(ほぼ同時に「生まれたての赤ん坊」というのも書き込まれ、こちらには11万ドル近い値が付いたとか。腎臓よりかなり安いのが正直でよろしい)

    このサイトに臓器のオファーがあったのはこれが最初ではないそうで、eBay社が「違法な売買には断固たる姿勢をとる」と言う割に「すべてのオファーを一律に基準づけるのは難しい」と弁解するちぐはぐさをみると、マスコミからの注目を期待したヤラセ疑惑っぽい要素もありそう。政府機関がこの件を調査していると言いますが、「悪ふざけ」と考えるのが普通でしょうね。(大体フィリピンなどで腎臓売買は少数ながら実際になされていて、それも日本円にして2〜30万足らずで取り引きされているのは皆知っているのだから、あんな途方もない値段は全く無意味)

    前にも書いた臓器強奪の都市伝説、下町(大抵メキシコあたり)で酒を奢られ、酔いつぶれたら腎臓をとられて放り出されていたと言う内容は様々なバリエーションを展開しつつ今も流布しているそうです。最近では中国の諜報機関が中東系の美女を使って男性を誘惑し、クスリで眠らせておいて睾丸をとる、という噂があるそうです。睾丸は密かに中国に運ばれ、回春剤の材料として売買されると言うことになっているらしい。移植用ではなく怪しげな秘薬の材料にされている点、中国古来の宦官の伝統をふまえているあたりがちょっと手が込んでいるけれど、ほしがる側に切迫性が感じられないので怪しげな中にも真実味、というのが欠けており、技巧に走ってはいるが、最初のバージョンを越えるものにはなっていませんねぇ。

    さきのオークションへの書き込みにせよ、臓器強奪の噂にせよ、「どんな手段をつかっても得たいと思う臓器への需要がある」しかも「供給ルートは極めて乏しい」という臓器移植医療の前提の元で、いつ自然発生をくりかえしても不思議ではないものだといえます。しかも、その前提を突き詰めれば非人間的グロテスクにしかなり得ない、という正しい指摘がここにはあります。一部の美談によって曇らされがちな、臓器移植の本質に至る鋭い視線が、この悪ふざけと都市伝説の中には健全にも保たれているといえます。(1999/09/09)

    #eBay社オークションへのけったいなオファーには次のようなモノがあるそうです。「少年の童貞」「延びた私の足の爪を切る権利」「瓶詰めの赤ん坊エイリアン」「純コカイン5kg」「F117戦闘機」などなど。極めつけは「真実」というもの。これには565ドルの値段が付いたそうです。えらく安いぞ。

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  • エイズの世界にようこそ<エイズ・マリーとエイズ・ハリー>
  • ここのところは日常生活でまずお目にかからない伝説を連発紹介しているので、「都市伝説」という言葉を広く世に知らしめた古典中の古典「エイズの世界にようこそ」に触れておく良い機会でしょう。病気の話だから医学都市伝説といえないこともないし。

    古典といってもこの伝説は当然ながらエイズが出現した1981年以降に現れたものですが、モチーフそのものは旧約聖書の中にも見られるそうで、「罪と罰(バチと読むべき)」をめぐる永遠のテーマを表現したものともいえそうです。

    一般的に「エイズ・マリー」として人口に膾炙している話はこのようなものです。

    ある独身男性がバーで知り合ったマリーと名乗る女性と親しくなり、彼の家(もしくはホテル)で一晩中愛し合う。男が朝目覚めると女性はいなくなっている。バスルームに入った男は、鏡に口紅で書かれた女性のメッセージを発見する。「エイズの世界にようこそ」

    これには「エイズ・ハリー」というジェンダー逆転バリエーションがあります。

    休暇で保養地(フロリダだったりカリフォルニアだったり)に出かけた女性が、ホテルのバーでハリーと名乗る男性と知り合う。彼はハンサムな金持ちで、物腰は柔らかく洗練されており、彼女は理想の男性と知り合ったと思う。夢のような数日を彼と過ごし、空港まで送ってもらった女性は、別れ際にハリーから包みを受け取る。「離陸するまで開けないでくれ」という彼の頼みに従い、機中で包みを開くと中からメッセージが書かれたマグカップ(ミニチュアの棺桶と言う場合もある)が出てくる。「エイズの世界にようこそ」

    純正「マリー」の方はエイズという疾患自体の神話性に全面的に依拠しつつ、「鏡に口紅のメッセージ」というような象徴性(映画「危険な情事」を思い出しますなぁ)を通じて、「軽はずみな行為がもたらす災厄」を諭す道徳説話として機能しています。「エイズ・ハリー」はより問題意識が絞り込まれているというか、女性特有(でもないか)の”Someday My Prince will come.“幻想に水を差す方向性に特化した内容になっています。その意味では「アッカンベー」と書いてあるマグとかTシャツが出てくるだけでも充分落ちがつくのでしょうが、やはりここはエイズで〆て背筋に粟を生じさせておかないといけないでしょうね。

    「ハリー」バージョンはカナダのニューファンドランド島のコミュニティで採取されたということで、「マリー」バージョンとともに、伝統的地域社会の維持強化機能として分析された論文をウェブで読むことが出来ます*。簡単に言えば「都会もんに心を(もちろん身体も)許すな」ということでしょうか。おばあちゃんが囲炉裏端で孫たちに「村の娘っ子がフロリダに行った時のことじゃった…」と話しているところなど想像してみるのも乙です。

    先の論文ではさらにフェミニズムの視点から、性における男女の対等化、レイプへの女性からの反撃可能性というメッセージを「マリー」バージョンに読み取っています。「ハリー」のほうは、素敵な出会いなんぞ夢見る軟弱さ、そこに付け込む男性側への批判ということかな。実際の感染可能性ということから考えると「マリー」バージョンはまさしく伝説でしかないのだけれど、「ハリー」の方はより現実性が高いのが「合意なのだが実態はレイプ」告発のメッセージ性を強めています。(1999/09/20)

    #そういえばハワイの土産物屋で「エイズの世界へようこそ」マグカップが売られているの見たことがある。趣味が悪いなと思ったが、ああいう使い方があったのか。買っとくんだった。
    *99年12月の時点でこの論文は削除されています。Carleton大学と言うところの学生用サイトだったんですが、もう卒業しちゃったんですかね。

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  • 多い日はとても不安<タンポンをめぐる黒い噂>
  • 昨年あたりからタンポンに有害物質が含まれていると警告するチェーンメールが繰り返し循環しているそうです。しかも、その理論的根拠がある生理用品会社のウェブサイトでありそこが行っている他社製品に対するネガティブキャンペーンがそのまま流通しているらしい。

    Terra Femmeという会社のサイトを見れば、大企業が作っているレーヨンが使われたタンポンにはダイオキシンが残留しており、レーヨン繊維も局所に残りやすいのでダイオキシンが膣壁に障害を引き起こし、最終的には細菌感染の培地となってトキシックショック症候群(ToxicShockSyndrome:TSS)を引き起こすのだと主張されています。トップページにはTSSのために昏睡状態に陥った女性の写真が貼り付けられ、恐怖感を煽っています。当然Terra Femme社の製品は汚染の恐れがない無漂白の天然綿を使っており、その名の通り女性と地球にやさしい製品であるのだとの主張。この会社は唯一このタンポンだけを作っていて、その価格は大企業の製品に比して約40%増しとのこと。

    レーヨンというのは確かパルプを薬品で溶かして射出成型し、長繊維化したものであったはずで、局所に残留しやすいということがあるとは思えず、また確かに天然綿は試験管培地の蓋に使うぐらいで細菌汚染はされにくいのですが、それは含まれる綿実油のためだから、タンポンとして使用するためには当然脱脂しなければならず、そうすればレーヨンであろうが天然綿であろうが同じはずです。ダイオキシンというのはかなり有効なおどしではあるものの、実際大企業製品に痕跡以上の量は発見されていないようです。むしろこの点では自然物である天然綿の方がダイオキシンの絶対量は多いでしょう。

    有名総合誌「フォーブズ」はこの問題を”Tampon Terrorism”という表題で取りあげ、Terra Femme社の主張に合理的に反論した上で、環境問題に敏感な人々の恐怖感を利用したテロリズムであると同社を批判しています。

    Terra Femme社が自社の宣伝のために、組織的にチェーンメールを送り出しているのかどうかは判らないけれど、チェーンメール創作愛好家にとって持続的に根拠を供給しつづけてくれる企業がある、というのは実に心強いことでしょう。

    レーヨンとダイオキシンの恐怖感だけに依拠していては生ぬるい、と考えた人もいたらしく、今年の5月ごろ流通したバージョンは以下のような物でした。「味の素の消費量をあげるために容器の穴を大きくした」という噂を思い出しました。勿論それよりもっとグロテスクです。

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    「これを読んで知り合いの女性に転送してください!とても大切な情報です。

    あなたはタンポンを作る企業が、アスベスト(石綿)を製品に混入させているという事実をご存知ですか?アスベストは出血性を高めます。出血量が多くなると、より多くのタンポンが使われるという仕組みです。今のところこれはまだ違法とされていません。食品ではないという理由で規制されていないのです。ある雑誌で安全な製品が紹介されています。それを作っているのはオーガニックエッセンシャル社そしてTerraFemme社で…」

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    語るに落ちた、というところか。(1999/09/20)

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    #まるっきり関係ないことなのですが、「タンポン」という言葉からはなんとなく外国語由来ではないような近しい気分を感じませんか?拓本取りにつかうものとか、稽古用の槍についているような、綿を布でくるんだようなものを「たんぽ」と呼びますが、形態的にも近いように思え、もしかしたらサンスクリット語あたりを媒介にした同語源なのかも知れませんね。筆者は秋田で「きりたんぽ鍋」を食べているときこの発想にとらわれ、思わず口に出してしまった所、ある女性からおもいっきり軽蔑されてしまいました。


  • ムシ・虫・蟲…
  • 茨城県のホームセンターで売られていた輸入木材から「サソリ」が発見されたというニュースが報じられていました。ガーデニング材料として買った枕木から、成虫のマダラサソリ一匹と、孵化したばかりの幼虫20匹が出てきたとのこと。幼虫はほとんど発見時に踏みつぶしたのだそうで、見つけた人はさぞかしパニック起こしただろうと思われます。よく見れば結構かわいい虫なんだけど。

    先に紹介したhttp://urbanlegends.about.com/で折良くというかたまたまというか、次のような「虫」関係の伝説が紹介されていたので紹介してみます。一番初めのはほとんどこの事件をヒントにしたとしか思えません。

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    サボテン大爆発

    ある女性が園芸店で大きなサボテンを買って持って帰ったところ、何となく様子がおかしいのに気づく。そのサボテンは「呼吸している」ように見えるのだ。園芸店に電話して「おかしいと思われるだろうけど、なんかサボテンが息してるみたいなのよね」と相談したところ、「すぐに家を出て、警察の爆弾処理班を呼びなさい!」と言われる。爆弾処理班が到着し、件のサボテンを警察車に運びこむやいなや、それは大爆発し、中から無数のサソリの幼虫が出てきた。サボテンにはサソリの卵が大量に産み付けられていて、それが一度に孵化したのだった。

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    蜘蛛の子を散らすように…

    ある若い女性が日光浴をしながらうたた寝をしてしまった。アゴのあたりを何かが這っているような感じで目覚め、手で払ったが、そう気にも止めなかった。一週間ほどしたら、アゴのあたりにニキビのようなものが出来ているのに気づいた。それは日とともに大きくなって、オデキのようになった。ある日、彼女がドライヤーを使っているとき、誤ってそのオデキを突いてしまったところ、それは破れて中から無数の蜘蛛の子が這い出してきた。

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    蛆虫が…

    ある男が後頭部に怪我をしてしまった。ほとんど治りかけた頃、男は息切れを感じるようになって、病院を訪れた。医師は診察して、傷口に何かの虫の卵が産み付けらている、ウジ虫のような幼虫が鼻腔の一部を塞いでいるようだという。医師はそれを取り除いてくれたが、何日かして男は激しい頭痛に襲われて、病院を再び訪れた。医師はウジ虫がまた繁殖して、鼻腔から内耳腔にまで広がり、今や頭を内部から食い散らしているのだと。男はそれを聞くと、家に帰って銃で頭を吹き飛ばした。

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    後の二つは「オチ」と言う事を全く考えていない話の作りで、気色の悪い展開がそのまま気色悪く続く、という小話としては最低の構造ですが、それでも小さな虫が体の中を這い回るイメージだけで、なんとかそれなりの世界を形成するパワーが維持されています。希にみられる精神症状で「皮膚寄生虫妄想」というのがあり、比較的しっかりしているお年寄りが「皮膚の下を虫が這っている」という一点に固執することがありますが、人間にはこういう小さな虫に身体を食い散らかされるという根元的な恐怖があるのかもしれません。ビジュアル的にもっとも端的な「死」のイメージであるからでしょうか。(1999/09/22)

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    #筆者が医学生時代、教科内容で一番ダメージが大きかったのは解剖実習などではなく、「寄生虫学」でありました。この科目の実習で「普通に魚屋で買ってきた魚」から沢山の生きた寄生虫を取りだして実験に使ったことがありますが、大概の事には動じない筆者も、この時以来刺身が食べられなくなり、今でもそれが続いています。もっとも高級なところで人が奢ってくれるときには程々食べることは出来るので、これは単なるしみったれ、と言うことの反映かも。


  • 最後の願いを…
  • 93年9月、ニューヨークタイムズに次のような記事がのりました。(ここの記事をいい加減に要約してます)

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    夢は現実に、まさに現実に…

    英国に住むクレイグ・シャーゴルドという7歳の少年が、脳腫瘍という難病と闘っていた。彼はささやかな願いを人々に託した。お見舞いの手紙がほしい、というこの願いは、世界中を動かしたのである。彼の願いは普通の人々や政治家に届き、1年のうちに千六百万通もの手紙を集め、1年後には彼自身の健康も取り戻した。

    しかしクレイグの願いは、なおも幾多のチェーンメ−ルとして引き継がれ、広がっている。今も押し寄せる手紙の大群を前にして、少年の願いの言葉は別のものにとって変わっている。

    「有り難う、でも、もう結構です」
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    記事は続き、当初クレイグ君の願いをキャンペーンした、アトランタにある「子供達の願い」財団の業務が押し寄せる手紙で収拾不能になっていること、手紙が電話になり、ファックスになり、元々の話や少年の名前が変形して、意味不明バージョンまで出現していること、フェニックスに本拠のある「最後の願いを」財団に間違って手紙が押し寄せること、「アリゾナかコロラドあたりの病院に病気で入院している子供へ」というような住所も書いていない大量の手紙が郵便業務自体を危機に陥れていることなど、を伝えています。

    少年の母親はBBCを通じて手紙を送らないようにアピールしたけれど、なお手紙は送られ続けているし、当初のアピール自体が色々と形を変えて公的な所からも出され続けていると言うことです。

    それから数年がたち、元祖クレイグ君への手紙を手本とする「死に行く子供への愛の手紙を」運動は多少の根拠があるモノから、全くの嫌がらせを意図したものまで各種出現しているようです。初めは「子供の願いを叶えるために」という理由だけだったのが、「このメ−ルが転送されるたびに全米ガン協会が数セント治療費を寄付する」と言うようなデタラメが付け加わり、ますます転送率をあげているらしい。バナー広告をクリックするたびに何円かがサイト運営者に入る、という様なシステムがあり、それを応用して寄付活動を行っている団体があるので、そこからの発想のようですが、メ−ル転送したとてそれを感知するシステムなどないのだから(全面的盗聴システムが完成すれば別でしょうが)、ちょっと考えればデマだと判りそうなものですがね。

    昨年2月ごろに、「オストリオプライオーシス」という聞いたこともない(存在しない)肝臓の難病にかかっていると称する、ティモシー・フライトという少年名義のメ−ルが出回りました。国民疾病協会が七セントの寄付をしてくれるのでこれを出来る限り転送してくれ、と言う内容です。そのメ−ルにはこんな追伸があります。

    「たった5分間の手間も嫌がる方々へ。あなたは病気に苦しむ人々を助けられ、何の損も無いのです。なぜそれだけのことが出来ないのですか?因果はあなたにめぐるでしょう。」

    ティモシー・フライトというのはディーン・クーンツというサスペンス作家の小説に出てくる人物の名で、ネタバレと善意の押しつけを同居させて緊張感をかもし出そうとしたらしく、なかなかの狙いの鋭さが感じられます。#

    ほぼ同時期に流布した「ガンで死に行く少女のために」というメ−ルは、「たゆたく飛ぶ蝶を追い、沈み行く陽が夜に溶けていくのを眺めていた日々を想おう。歩みを緩めて、踊ろう、ゆっくりと。時は短く、音楽は終わろうとしている」という甘ったるい詩までつけられています。

    こうしたデマメ−ルはとにかく安易な善意を食い物にするしかないので、弱者へのまなざしの欠如を居丈高に指弾したり、類型的なへぼ詩で底の浅い感激を誘発する、ということが重要なんでしょうね。そんなもので方向づけられる善意はせいぜい人の迷惑以上のものにならない、というのは記憶して置くべきでしょう。

    以前「プルトップで車椅子」というのを取り上げましたが、同じ様な「安易な善意」に乗っかった構造です。あのときは「いまは缶からプルトップ栓が外れないようになっているので、この伝説は物理的に存続出来なくなってしまいました」など書きましたが、読者からのメ−ルによると、いまなお「強引にペンチで引き剥がして集めている」方々がいるそうです。確かにそう「安易」ではないですな。(1999/10/07)
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    #ティモシー・フライト物と全く同じ内容で、実際の人物の名前と所属を使ったメ−ルが一時出回ったそうです。ハイスクールの恋敵が嫌がらせのために送ったそうで、名前を使われた本人と家族は次々にかかるお見舞いの電話に振り回されたとか。これは完全に犯罪です。


  • 空気入れの怪しい誘惑−凡夫(PUMP?)は飽くことを知らず
  • 97年中旬に「ダーウィン賞エントリー例」として次のようなメ−ルやファックスが循環したそうです。「ダーウィン賞」に関しては後述。今回の引用はここ

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    蔓延するポンピング熱、ついに死者 −"Japan Times" 1993/8/15の記事より−

    「政府はこの馬鹿げた流行に対策を講ずるべきだ、これはタイ国家自体の危機だ」ナーコン・ラッチァシマ病院の当局者は語る。ここに13歳の少年、チャルンチャイ・プアンムアンパックの遺体が運び込まれた。「ポンプ中毒者は自転車の空気入れを使うんです。ノズルを肛門に入れて思い切り空気を入れてつかの間の快楽を得るんです。これは神への冒涜です。」チャルンチャイ少年は初めは自転車の空気入れを使っていたが、満足できなくなり、ガソリンスタンドのコインコンプレッサーを使おうと思いついた。仲間にもそそのかされ、チューブを肛門にいれ、コインを入れたと同時に彼は即死した。目撃者の衝撃は激しい。ある婦人は「花火だと思って、思わず拍手してしまった」という。警察は彼の身体のすべてをまだ回収していないと言う。大量の空気と腸管ガスが反応して激しい爆発を起こした、と推測されている。病院当局者はこう述べている。「ポンピングという悪魔の遊びに惑わされてはいけません。誘惑を断つために、空気入れは使わないときは隠しておくべきです。」
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    ダーウィン賞というのは「自らの馬鹿げた振る舞いによる死」をからかうという悪趣味をこう名乗るようになった物で、もともとはブラックなジョークとしてネットに散発的に循環していたのが、「人類から劣悪な遺伝子を取り除いた」という意味からこの名をつけたと言うことです。「97年度ダーウィン賞エントリー」などと、上のような小話が紹介されるわけです。ここには悪趣味だけでなく、欧米のアジアに対するそこはかとないレイシズムが感じられます。勿論実際にタイで「ポンピング熱」が蔓延したと言うような事実はなく、ガソリンスタンドで働いていた実在のチャルンチャイ少年が昼寝中、仕事仲間の悪ガキにコンプレッサーで肛門から空気を入れられて腸が破裂して死亡した、という93年に実際におこった出来事を下敷きにしてデマ小話に作り替えられた物です。そう悪気は無かったのかもしれないが、軽はずみな行為が引き起こした悲惨な死亡事件を、ネタに作り替えてしまうのはいかがなものか(それを引用するのもまたなんですが)と言う気はします。

    稲垣足穂だったと思うのですが、友人のお尻にコンプレッサーで空気を入れて死なせてしまった人のことが確か書いてあり、足穂はその「少年愛」の観点からか、お尻の穴には思わず空気を入れたくなるような本質的な物があるのでは、という感想を述べていたと思うのですが、確認していないので少々怪しい。せめて、というわけで実際にこうした事故(?)がどの程度報告されているのか、ちょっと調べてみました。

    MEDLINEに登録されている限りでは、69年から96年にかけて19例の「圧搾空気による直腸及び結腸の破裂」例が報告されています。そのうち内容が要約で読める物は5論文で、何でそんな事になったのか書いてある物はそのうち3論文だけです。83年ドイツからの報告では、「肛門に向けられた高圧空気がS状結腸、下行結腸を破裂せしめ、患者は死亡した。この症例の原因追及のためには、噴出口と臀部の最低限の安全距離を知らねばならない。実験的には衣服は防御にならないことが判明している」などといかめしく書かれ、87年ナイジェリアからの報告でも、「新タイプの労働災害であり、圧搾空気を扱う労働者への教育が肝要」と「労働災害」の範疇に収めてしまおうとしていますが、どう考えてもこれはいたずらが契機になってるにきまってますよね。韓国から96年に2例が報告されているのですが、それでは「職場の仲間同士で悪ふざけをしていて」と正直に記されています。しかしどういう職場やねん。そこは。

    19例報告中ドイツ、ロシアがそれぞれ5例をしめるというのも面白い。しかもロシアの場合、ソ連崩壊後は報告がないのが不可解というか判るような気がするというか。教条的道徳が支配しているところでは裏で悪ふざけが跳梁する、と言うことか。儒教文化代表韓国の2例もなかなかの健闘(?)です。死亡例として記されているのは前述したドイツの1例だけですが、とにかく直腸−結腸の脆弱性と圧搾空気の組み合わせは予想以上の危険を生むことは強調すべきでしょうね。なお、19例のうち18例が男性症例でした。その意味は判るような気がするが、あえて書かないでおきましょう。(1999/10/13)

    #94年我が国からの報告は、圧搾空気による大腸破裂の際におこる臨床検査所見の特徴について、実に細かな分析報告がなされています。こんな希な傷害で診断に迷うわけでもあるまいに、読者の側の期待は絶対そんなところにはないと思いますがねぇ。医学論文にエンターティメント求めちゃいかんかもしれないが、「人間研究」という意味では絶対、事故の顛末を詳述した方が意味を持つと思う。

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  • このワインは私の血…、えっホントに?
  • 新訳聖書によるまでもなく、血とワインはしばしば比喩的同義語の使われ方をしてきました。某女優が「私の血管にはワインが流れている」と豪語したのも有名です。「流通しているワインに血液が混入されている」という結構エグめの事実が発覚したのに、そうパニックにもならず、妙な尾鰭がついて語り継がれていくようなこともなかった、と言う不思議な経緯を示したのが今回の話題。

    今年の夏、ごく一部でフランス産のワインには血液が混ざっていると言う噂がささやかれました。これは今年6月、ローヌバレーのワイン生産者が違法に牛血液製剤をワイン澱(おり)引き目的に使っていたとしてフランス農業省によって摘発された事件を根拠にしています。この時6万リットルのワインが廃棄処分にされ、同時に使用前の牛血液アルブミン200kgも廃棄されました。牛の血液から精製された蛋白成分であるアルブミンは、ワインの澱引きに以前から使われていたのですが、英国の狂牛病騒ぎで1997年に使用禁止になっていたのです。中国政府はこの事件を受けて一時フランス産ワインの輸入禁止措置をとりましたが、なぜか国際的反応もその程度に止まっています。

    300年ほど前までは、ワインはもっと濁った物だったようで、卵白とか粘土、そして血液などを加えて澱を沈殿させる技術が開発されて、今日のような澄んだ物になったとのこと。日本でも清酒が開発されたのはほぼ同時期ですね。日本の酒造企業のサイトなどを見てみるとこの澱引きについては実に素っ気なく説明されているだけで、大量生産にどの様なテクニックを使うのかあまりはっきりしない。濾過膜を今は使うのでしょうが、沈殿を促進させる物質を使っていた時代はあるはずです。確か鴻池財閥というのはこの濁り酒を清酒にする技術(間違って灰を入れたら澄んだと言うような話だったが…)でのし上がったと聞きますが、詳しい事は失念。

    ワインの場合は卵白を今も使っているようですが(そう言えば、コンソメスープとか、澄んだラーメンつゆを作るときにも卵白を使いますよね)、コストの関係で安ワインには牛血液由来のアルブミンをちょっと前まで使っていた、と言うことのようです。ここまで明確な根拠がありながら、万人の目に明らかな連想を与える物でありつつ、噂話として一人歩きするパワーがなかった、と言うことに逆に興味をそそられます。フランスワインというブランドの力か、それとももっと根本的なところで神話化要素に欠けているものがあるのか、差し当たっては「悪意の不在」を指摘できるでしょうか。変な噂を立てて自分がワイン飲めなくなったら困るものね。

    筆者が都市伝説情報をよく引用している総合情報サイトAbout.comでは、この事件による悪評を押さえる目的の記事が書かれていましたが、フランスワイン贔屓の故か、97年まで現実に血液製剤使用がされていたことなど無視して「昔から安全、今後も安全」ばかりが強調されています。こういう日本の原子力関係者のような態度ばかりが目立てば、逆に噂が活性化される「悪意」がゆっくりと発酵熟成されていくかも。(1999/10/27)

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  • エレベーターでドッキリ
  • この話はブルンバン4部作にも登場しますし、20年以上も前からいろいろなバリエーションで流通しているとのことですが、あとで触れる人間の「暗黙的態度」を実によく表している小話です。最近のバージョンの紹介から。

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    ある老婦人がラスベガスに遊びにきた。スロットマシンで大当たりして、いったんホテルの部屋にお金を置いておこうとエレベーターに乗った。すると、途中の階で止まり数人の黒人男性が乗り込んできた。中のリーダーっぽい男が、"Hit the Floor!"(床にふせろ、と言う意味に取れる)と命じたので、老婦人はすっかり怯えて床に伏せ、さっきの当たり金貨を撒き散らし、「お金は上げるからレイプだけは許して」と懇願した。男たちはきょとんと婦人を眺め、やがて大笑いし始めた。一人がやさしく抱き起こし、「強盗なんかじゃありません。私はただ、連れに『自分の部屋がある階のボタンを押してくれ』"Hit (a Button of )the Floor."といったつもりだったんです。誤解させてすみません」と丁寧に謝罪し、婦人の部屋までエスコートしてくれた。翌日、婦人の部屋にはたくさんの花が届けられ、それにはわびの言葉と、ホテル代金の立て替え証書が添えられ、「エディ・マーフィーより」と書かれていた。
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    これには黒人男性が犬を連れていて、犬に「床に伏せていろ!」と命じたのを誤解するバリエーションがあり、当の黒人男性として名が出るのもレイ・チャールズだったりスティービー・ワンダーだったり、O.J.シンプソン(例の事件以前のことですが)、レジ−・ジャクソン、マイケル・ジョーダンと男性黒人スターなら誰彼かまわず登場するようです。詳しくはここを参照のこと。

    黒人の社会的権利がようやく確立してきた70年代の初めからささやかれるようになったこの伝説は、白人達の本音レベルでの根強い差別主義をうまく表現したものになっています。筆者は文献レベルでは確認していないのだけれど、実験心理学の研究に、被験者をポリグラフ観察しておいて、部屋の中に見知らぬ黒人、白人をランダムに入ってこさせると、黒人の時には明らかに脈拍が上がり、他の緊張度指標もあがる、というのがあるそうです。しかも被験者が黒人である場合、よりその傾向は高くなる、と言うのがこの研究の笑い所らしい。

    この論文をウェブで見つける事は出来ませんでしたが、かわりにこんなのを見つけました。「暗黙的態度」テストというもので、ワシントン大学とエール大学が共同で開発したこのテストは、人種差別や性差別、年代差別に関する本音と建前のズレを白日の下にさらけ出す機能を持っているのだそうな。英単語の意味がすぐに判らなかったりするので、日本人で正しい結果が出るのかどうか不明なところもありますが、試みにやってみたところ、筆者は「老人が嫌い」で「黒人は大嫌い」、「女性は学問にむかない」と思っている、どうしようもない差別主義者である、と言う結果が出てしまいました。お読みの方も是非挑戦あれ。(1999/11/04)
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    *考えてみればこの話は医学と何の関係もないが、実験心理学ネタを多少噛ましたあたりで勘弁を。