2011年6月2日 11時42分 更新:6月2日 13時27分
分かりにくさの残る「退陣」表明だった。菅直人首相が2日午後、東日本大震災や福島第1原発事故の対応に一定のめどがついた段階で身を引く意向を表明した。だが、辞任の時期は不明確なまま。民主党内の造反を鎮めて政権を維持しようという思惑も垣間見える。復興への道筋もいまだ不透明な中、永田町で繰り広げられる政争に、有権者からは、戸惑いや怒りの声があがった。【佐々木洋、鈴木一生、池田知広】
「震災や原発事故の対応に一定のめどがつけば若い世代に責任を引き継いでいただきたい」。2日正午過ぎに始まった民主党代議士会。菅首相が話し始めると、集まった議員たちは静かに聴き入った。菅首相が硬い表情で自身の進退に言及した瞬間も、会場は静まり返ったまま。「不信任決議案には一致団結して否決をお願いしたい」と締めくくると、大きく拍手をする議員と何もしない議員に反応が分かれた。
1日の不信任決議案提出の前後から国会議員の事務所には批判的意見が相次いだ。
自民党の谷垣禎一総裁の京都府福知山市の事務所には、党首討論が行われた1日だけで十数件の電話があった。菅首相の辞任を迫ったことについて、支持者の多くは「よく言ってくれた」と評価したが、地元以外の有権者からは「本当に被災者のことを考えているのか」などの意見が寄せられた。
山形や栃木、福岡などの有権者からも電話があり、「今は選挙どころじゃない」と声を荒らげる人もいたという。地元の秘書は「政権の争奪戦をやっているのではなく、菅首相の指導力を問題にしていると説明するのが大変だ」と話す。
被害が大きかった宮城県選出の民主党衆院議員事務所には、ここ数日、支援者らから怒りの声が相次いでいる。男性秘書は「菅内閣の復興対策のスピードが遅いという不満はよく聞くが、不信任決議案にはおしかりの声が多い」と頭を抱える。
福島県選出の民主党の衆院議員事務所には、不信任案の提出後、「こんな時に何をやっているんだ」「小沢元代表について行くべきではない」などと怒りの電話が十数本あった。
一方、仙台市にある野党の衆院議員の事務所には、不信任案が提出されたあとは「今は与野党で力を合わせるべきだ」といった批判的な意見の一方、「菅政権のままでは復興が進まない」と、交代を求める声もあった。
東京都心のビルの飲食店街に昼食を取りにきた品川区の会社員、中尾公一さん(42)は「一定のめどがついたら辞めるといっても、その時にどういう状況になっているか分からない。ビジネスなら、どのような成果があったか分かるのだが、その場しのぎのパフォーマンスにしか聞こえない。そもそも後任に誰を指名するというのか」と首をひねった。
電車に乗るためにJR千葉みなと駅にいた千葉市中央区の無職、市原春美さん(55)は「菅首相にはリーダーシップがなく、不信任の話が出てきたのは当然。でも、今は内輪もめをしている場合じゃない」といい、「震災や原発の対応にめどがついてから辞めると言っても5年、10年かかるという話だろう。何を考えているか分からない」と語った。
一方で、首相の発言を前向きに受けとめる声もあった。緊急時避難準備区域の福島県南相馬市原町区で暮らす幼稚園理事長、安川正さん(62)は「いま選挙されたら、被災地はたまらない。菅首相の発言で解散の危機が遠のいたとすればとりあえずは安心できる。政府には原発事故の収束と被災地の復興を一日も早く進めてもらいたい」と話した。