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[19647] 【ネタ】ヤムチャ in H×H
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2010/06/19 00:59
ザバン市にある小さな定食屋の前に一人の男が立っていた。

「ここがハンター試験会場だな。」

山吹色の胴着。

キリッと刈り上げた短髪。

ダサカッコいい頬の十字傷。


ヤムチャさんである!


「真実の愛への登竜門か。待ってろよオレのかわいこちゃん! すぐにハンターになって戻ってやるぜ!」

「いらっしゃいませ~」

「ご注文は?」

「ステーキ定食、弱火でじっくり」

「お客さん奥の部屋へどうぞー」

「おっ、うまそーだな」

案内された個室でステーキにパクつくこと数分。

チーン!

ヤムチャの乗ったエレベーターが地下100階の地下道へと到着した!

「よっしゃ、いくか!」

先に会場入りしていた連中の視線がヤムチャに集まる。

(よーし、流石に悟空やベジータみたいにバケモノじみた奴はいないな。これならオレでもなんとかなりそうだ)

試験会場までこれただけあってある程度の達人ぞろいのようだがせいぜいがチャパ王クラス。

ヤムチャの見たところ、自分よりも強そうな奴はいなかった。

だけどむさい男ばっかりで女の子は一人もいない。ヤムチャはかなしかった。

「番号札です」

「どうも、って42番かよ。縁起わりーな」

ヤムチャはちっさい豆男のマーメンから番号の書かれたプレートをもらい、周りにならって胸につけた。

「よう、新人さんだな」

「ん?」

「オレはトンパ。よろしく」

「ヤムチャだ」

16番のプレートをつけたおっさんが話しかけてくる。

(けっ、豚鼻のおっさんが話しかけてきやがって何の用だよ)

手を差し出してくるのでヤムチャは仕方なく握手をした。

ワイルドな外見とは裏腹にヤムチャさんは紳士なのだ。

「アンタからは他の奴にはないオーラを感じるぜ。」

「そ、そうか? いやー分かる奴には分かるかーオレの場合隠しててもにじみ出ちゃうんだよなあ!」

「お近づきのしるしだ。一杯飲みなよ」

「おう! トンパだったか? お前なかなか見る目があるじゃないか!」

「お互いの健闘を祈って乾杯!」

トンパとヤムチャはぐびぐびごっくんとジュースを飲み干した。

「じゃーな! 試験がんばれよ!」
「ジュースありがとな!」

にこやかに笑ってトンパが離れた10秒後。

ぐぎゅるるぅぅぅ!

「はううぅぅぅおお!?」

ヤムチャさんの腹がエマージェンシーコールを奏でた。

「なんだ!? 急に腹がっ! く、くそっ! ト、トイレは!?」

そもそも地下にはトイレなんて存在しない。出口はここに下りてきたエレベーターの一か所だけだ。

「な、なに? え、えれべーたーが1階にもどっているだとう!?」

下りてくるのを待つ余裕はない。八方ふさがりだった。

「うわぁぁぁあああ!!」

ざんねん! やむちゃのぼうけんはここでおわってしまった!






「申し訳ないっ!」

「いいよ、そんなに謝らなくても」

トンパはゴンたちに謝っていた。

(くそっ間抜けなボンボンかと思ったらとんだ野生児だぜ)

トンパは遅く会場入りしたゴン、レオリオ、クラピカの新人トリオにも強力な下剤入りのジュースを飲ませようとしたが

最初にジュースを口に含んだこの黒髪ツンツンの野生児が味が変だといいだしたせいでジュースを飲ませることができなかった。

(結局、下剤入りジュースを飲んだのは42番の変な胴着の奴と99番のガキだけか)

人からもらった飲食物は受け付けないという忍者294番ハンゾー。

持っていたノートパソコンを使って自分が新人つぶしだと見抜いた187番ニコル。

話しかけるのも憚られる顔面針男の301番ギタラクル。

(今年の新人はベテラン並みに癖のあるのがそろってやがるな)



「トンパさーん! さっきのジュースもっとくれる?」

「あ、ああいいぜ」

トンパは話しかけてきた99番の少年、キルアに、2本目、3本目と下剤入りジュースを渡す。

(おかしいな。一本目の下剤はもうとっくに効いているはずなんだが)

「心配?」

「え?」

「オレなら平気だよ、訓練してるから。毒じゃ死なない。」

(こいつ、オレが何の薬を盛ったかまではわからないのに平気で飲んだってのか!?)

結局、キルアはトンパからもらった5本目の下剤入りジュースを飲んでから悠々と去って行った。

「ちっ! つぶせたのは一人だけか、 今年の新人はとんでもねーな。」

(だが、それだけつぶしがいがあるってもんだ)



ジリリリリリリリリリ!

「ただ今をもって受付時間を終了いたします」

地下通路の脇に立っていたカールひげの黒服紳士サトツがベルを止める。

「これよりハンター試験を開始いたします」

サトツは試験ではケガをしたり死んだりする可能性があると警告し、覚悟の無いものは辞退するよう促すが、

誰一人帰ろうとはしなかった。

「承知しました。

 第一次試験、404名全員参加ですね」

ここに第287回ハンター試験が開幕した。




第一次試験の課題は二次試験会場まで試験官について移動することだ。

「なるほどな」

「変なテストだね」

「さしずめ、持久力試験ってとこか」

一次試験担当官のサトツに先導されて、会場に集まった403名の受験生たちが地下通路を走っていく。

「ねぇ、きみ、年いくつ?」

「もうすぐ12歳!」

「……ふーん。やっぱ俺も走ろっと」

キルアは持っていたスケボーを使うのをやめて、ゴンと一緒に併走しはじめた。

「オレ、キルア」

「オレはゴン!」

ゴンとキルアが同い年ということで親交を深めていたころ、



(ん? これは……)

試験者たちを二次試験会場へと案内していたサトツは鼻をつく異臭に気がついた。

「かぁぁあああ、めえぇぇええ!」

「はぁああ、めぇええ!」

前方から反響してくる気合のこもった声。

下半身を露出した受験番号42番、ヤムチャさんが地下通路の端で脱糞していた。

地上のトイレには間に合わないことを悟ったヤムチャさんは瞬時の判断で通路の奥へと超高速で移動!

人気のないところで排便に勤しんでいたのである!

「波ぁああああ!!」

ヤムチャさんのお尻からぷりぷりっとひねり出されたゲーリーくんの臭気が通路に充満する。

サトツは眉をしかめながらも余裕でスルー。

さらにヤムチャさんのうずくまっているところを後続のハンター試験受験生たち(403人)がどかどかと通過していく。

「うわっ、なんだあいつ!」

「臭っ!」

「なんなんだよこの匂いは!」

「あれも受験生なのか!?」

ざわざわ、ざわざわ。

駆け抜ける受験生たちの話題の中心はヤムチャだ。とんだ羞恥プレイだった。

(あの42番、見ないと思ったら上にいかないでこんなところで糞してたのかよ)

興奮のあまり、トンパの身体から汗が噴き出した。

自分の仕掛けたことの結果とはいえ、あまりにショッキングな光景だ。

(やっぱり今年の新人は一筋縄ではいかないぜ)

ヤムチャとトンパの視線が交差する。

苦痛と絶望にゆがんだヤムチャの表情を見ると、トンパは満ち足りた優しい笑みを浮かべた。



親指、びしぃっ!!!



「お前のことは忘れないぜ!」

「だ、騙しやがったなこのブタッパナァ!!」

ごろごろごろ。

「お、おごぉぉおおお」

説明しよう!

キルアのような耐性を持たない一般人(ヤムチャ)がトンパの用意した超強力下剤を飲むと、下痢と腹痛で3日間は動けなくなるのだ!


(((あんな恥をさらしたら、もう来年は試験を受けにこれないだろうな。……来るなよ! もう絶対に来るなよ!!)))


傷つき倒れたヤムチャさんの姿が、多くの受験生たちの心を一つにしていた。





毎年、数多くの将来有望な若者たちが

新人つぶしのトンパによって再起不能にされていく。

ハンター試験には魔物がすんでいるのだ。




「ハンター第一次試験

 10km地点通過

 脱落者1名(試験開始の6時間前)」



(^o^) トンパのジュースに引っ掛かる間抜けなルーキーの話が書きたかった。反省は(以下略)



[19647] ささやき えいしょう いのり ねんじろ!
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2010/06/29 15:21

試験開始からおよそ6時間後、

80km地点。

ヤムチャさんにつづく、あらたな脱落者がうまれようとした。

(オレが脱落……!?

 そんなバカな!!

 いままでオレに敵う奴なんて一人もいなかったのに!)

「ゼーッ、ヒュー、ゼーッ、ヒュー、ゼーッ、ヒュー、」

(オレが落第生!? 脱落者!? 負け犬!?)

「……いや……だ……たく……ない」

「くくくっ」

「ヘイ! ルーキー!」

「だらしねーぞ、ボーヤ。」

すでに体力が限界にきている187番の新人ニコルを取り囲み、

アモリ3兄弟が言葉による追い打ちをかける。

「まだ走りだして6時間程度だぜ?」

「こんなトコでへばる奴、初めて見るぜ。恥ずかしいヤローだ」

「表彰モンの能なしだぜ、テメーはよ」

「ハンター試験はじまって以来の落ちこぼれだよ、オマエ。」

アモリ3兄弟のあびせる罵声が、

ニコルの心をずたずたに引き裂いて、

最後の気力を奪っていく。



   orz (……orz)



ニコルは力尽きた。

「才能ねーんだよ、バーーーカ!!」

「二度と来んなクズ野郎!!」

「ひゃはははははは!!」


・・・

「ありがとよ。上出来だ。」

ねぎらいの言葉をかけて、トンパはアモリ3兄弟に約束の報酬を手渡す。

「あいつおそらくもう試験は受けないな。新人にしちゃいいセンいってたのに」

「人を傷つけるウソってのは心が痛むぜ」

「トンパ、本当にお前さんは相手の弱点を見抜いてえぐるのがうまいな。」

「ふふん。オレの生きがいだからな」

アモリ3兄弟の精神攻撃によってひきおこされたニコルの脱落。

今年が初受験の新人であるニコルの脱落は、

新人つぶしのトンパによる策略だったのだ。

(これでようやく2人めか。今年はレベルが高いぜ)

ヤムチャ。ニコル。

2人のルーキーの哀れな最期を思い出すと

トンパは充実感と幸せを感じる。

「今年の新人はあと6人か。」

さらなる犠牲者をもとめて、トンパの暗躍はつづく。






一方その頃。

トンパの超強力下剤にやられたヤムチャさんはというと……

「ふんぬぅぉおおお!」

プリッ、ドロドロドロ。

いまだに超強力下剤の効果がきれず、下痢に苦しんでいた。

(と、止まらん。このままでは死んでしまう。いったいどうすれば!?)


1.予期せぬ助っ人が現れてヤムチャさんを助ける!

2.下半身はだかで糞尿をまき散らしつつも試験に参加!

3.現実は非情である。ヤムチャはここでリタイアしてしまう!


まともな人間ならとっくに死んでいてもおかしくないほどの苦行。

これまで10時間以上に及び、ヤムチャさんはここでふんばっていた。

(くっ、腹痛で体力の消耗がはげしい! オレはここまでなのか!?)

しかし、こんなところで本当に脱落するヤムチャさんではなかった!!

(いや、まてよ?)


4.ヤムチャさんは「天才的なひらめき」でこのピンチをのりきる!!!


「そ、そうだ。アレを使えば……」

起死回生の一手!

ヤムチャさんはいざという時のための切り札があったことをようやく思い出した。

ごそごそごそ。

ポリポリポリ、

ゴックン。


「あの豚野郎が、な、舐めやがってーーー!!」


ヤムチャさん完全復活!!

「ハァアアアッ!」

バシュゥゥゥゥン!!!

とっておきの仙豆を食べて下痢から回復したヤムチャさんは、

全身から気を放出しながら猛スピードで先頭集団を追いかけていく。

仙豆によって体内のトンパジュースの解毒に成功し、さらには失ってしまった体力も回復したのだ。

こうしてヤムチャさんは完全復活を遂げたのだった。






「ムッ!」

「ひっく、ひっく、ぐすん……」

再びスタートから80km地点。

orz

全身から汗やら涙やら鼻水やらの噴き出した小男が、うずくまって泣いていた。

「どうした?」

「……オレは負け犬で……落ちこぼれで……」

ぶわっ。

ぽたり、ぽたり。

溢れる涙が次から次へと床へ落ちてゆく。

「……おまえの名前は?」

「…ニゴ……ニ……ニコル……」

「そうか。いくぞ! ニコル!」

ヤムチャはニコルを抱えて走りだす。

「…ど…どぼじて?」

「おまえが昔のオレに少しだけ似てるから、かな」

「これを食べておけ。仙豆っていうんだ。」

「…は、はい………あれ?」

差し出された豆をコリコリと食べると、いきなりニコルの体力が全快した。

「それに、おまえも奴に嵌められたんだろ?」

ボロ雑巾のようになっているニコルの惨状をみた瞬間、

ヤムチャはそれが誰の仕業なのかぴんときた。

「オレたちには共通の敵がいる。だから、オレとおまえは仲間だ。」

足元には壊れたノートパソコンが転がっていた。

コイツを嵌めた奴が壊していったに違いない、とヤムチャは確信する。

「くそぅ、トンパの野郎だけは絶対にゆるさん。」

ヤムチャはニコルを抱えながら猛スピードで疾走していく。

ヤムチャさんの実力をもってすれば人一人の重さなど誤差の範囲でしかないのだ。

「トンパ? 新人つぶしのトンパのことですか? そうだあの、あなたのお名前は?」

「オレはヤムチャだ!」

「ヤムチャさんですね……!」

これまで常にトップを独走してきた超優等生であるニコルにとって、他者とは利用するための駒でしかなかった。

しかし、地獄に仏とはこのことか。

落後者となってしまった自分を、もはや社会のクズである自分を仲間と認めて助けてくれたヤムチャ。

ニコルはその生涯で初めて、心の底から信頼し尊敬できる人間と出会ったのである。





サトツに引率された受験生たちが地下から地上へと通じる大階段を抜けると、

そこには大自然が広がっていた。


「ヌメーレ湿原。通称「詐欺師の塒(さぎしのねぐら)」

 二次試験会場にはここを通って行かねばなりません。

 十分に注意してついてきて下さい。だまされると死にますよ。」


ウィィィィイン。

受験生たちの背後でシャッターが下りた。

これで時間内に階段を登りきれなかった受験生たちは出口を失ったことになる。


「この湿原の生き物はありとあらゆる方法で

 獲物をあざむき捕食しようとします。

 標的をだまして食い物にする生物たちの生態系……

 詐欺師の塒と呼ばれるゆえんです。

 だまされることのないよう注意深く、しっかりと私のあとをついて来て下さい」





そして試験官たち一行におくれること数十分。

「かめはめ波ーーー!!」

どかーん!

ヤムチャの気功波によって地下通路からのシャッターが破られた。

「そんなバカな!? いったいどんなトリックなんですか!?」

「タネも仕掛けもないさ。オレもかなり修行したからな」

(ぜったいに人間技じゃない。やっぱりヤムチャさんは神様なんだ!)

ヤムチャさんと、ヤムチャ教の信者と化したニコルが湿原へとたどりついた。

「誰もいないな。もう先に行ったのか?」


(そうだ集中して気を探れば……

 いた。人間の集団がいくつか向こうの方にいる。

 他は野生の動物か? ずいぶんと邪悪な気だな)


「? ヤムチャ様? 急に目を閉じて、いったいどうしたんですか?」

「おいおい。みんな次々に死んでいってるぞ。特に、あっちの方向。ひときわまがまがしい気を持ってる奴が殺しまくってやがる」

「……たぶん、44番のヒソカでしょうね。その容姿と戦い方から奇術師とも呼ばれている殺人狂ですよ。」

人間離れした身体能力と必殺技の「かめはめ波」にくわえ、

さらなる異能として遠方の人間を感知する

『全てを見通す神の眼(スカイネット)』(ニコル命名)を披露したヤムチャ。

ニコルの信仰心は留まるところを知らずギュンギュンに高まりまくっていた。

ちなみにヤムチャさん脱糞事件を目撃したことは記憶の奥底に永久封印されている。


「そうか! 哀れな愚民どもを助けに行かれるんですね! さすがはヤムチャ様です!」

「え? あ、ああうん。そうだよな。人殺しは良くないもんな」

ヤムチャの現在の目的はハンターライセンスの取得とトンパへの報復だ。

わざわざ殺人狂と戦ってまで人助けをするつもりなどさらさらなかったヤムチャだったのだが、

こうも期待に満ちた眼を向けられては動かないわけにもいかない。

「よーし、お兄さんがんばっちゃおうかなー!」

「さすがはヤムチャ様! あなたこそ新世界の神になられるお方です!」

ヤムチャさんは空気の読める男だった。





「君達まとめて、これ一枚で十分かな。」

「「ほざけェエーーー!!」」

「くっくっく、あっはっはァーーーア!」

「うわぁあ!!」

「ぎゃぁあああ!!」

「君ら全員、不合格だね。」

第一次試験のさなか、

試験官ごっこをはじめたヒソカの凶行を止められる者はおらず、

いまやヒソカと対峙しているのはクラピカ、レオリオ、チェリーの3人だけだった。

左腕に傷を負った403番レオリオ、

対の木剣をかまえた404番クラピカ、

ベテランの受験生である76番、格闘家のチェリー。


「おい、オレが合図したらバラバラに逃げるんだ。

 奴は強い! 今のオレ達が3人がかりで戦おうが勝ち目はないだろう。

 お前たちも強い目的があってハンターを目指しているんだろう、

 悔しいだろうが今は…… ここは退くんだ!」


己の分をわきまえているベテラン受験生であるチェリーが、

レオリオとクラピカに撤退をささやく。

「いまd」

バシュゥゥゥゥン!!!

「っ! なんだ!?」

「あ、あいつは!?」

(空を飛んできた? 放出系の飛行能力者かな。)

一方的な狩猟場になるかと思われた戦場に、

最強のワイルドカードが登場した。


びっ!


「消えろ。ぶっとばされんうちにな。」


不敵な表情を浮かべ

左手の中指を立てたキメポーズ。


「「まさか……ヤ、ヤムチャなのか!?」」


いま、世界最強の超戦士が参戦する……!!!



[19647] ヤムチャさん参戦! 必殺の繰気弾!
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2010/07/09 00:12

びっ!

「消えろ。ぶっとばされんうちにな。」

「「まさか……ヤ、ヤムチャなのか!?」」

第287回ハンター試験には受験生ほぼ全員に知られている

知名度の高い人物が存在する。

去年20人の受験生を再起不能にして試験官を半殺しにした『奇術師ヒソカ』

本試験連続出場30回の大ベテラン『新人つぶしのトンパ』

なんと一次試験開始前に脱落していたうわさの下痢ルーキー『ウ○コ野郎のヤムチャ』

……以上の3名である。



「凡愚どもは下がっていなさい。ヒソカは最強の戦士であるヤムチャ様がかたづけます!」

ヤムチャさんの背中にひっついてきたニコルが、堂々と宣言した。

(バカな!? あいつは命を捨てるつもりなのか!?)

「へぇ、キミが最強の戦士なのかい?」

「あまり他人に迷惑をかけるな。降参するならいまのうちだぞ。」

「無謀だ! よせ!」

ビュッ!

ヒュオッ!

ザララララ!

シパパパパンッ!

ヤムチャさんはヒソカの攻撃をよゆうで回避し

投げつけられたトランプもかるく弾いてのけた。

「ふーん。」

「なん……だと?」

チェリーは目を疑った。

これまで受験生たちを紙のように切り裂いてきたヒソカのトランプを

ヤムチャは素手で防いでいたのだ。

「今度はこっちからいくぞ。」

びしっ!

(こいつヒソカを相手にたいした自信だぜ)

(あの構えはいったい?)

(ウ○コ野郎のヤムチャが……ほんとうに強いのか?)

「狼牙風風拳!」

シャッ!

バババババ、シュバッ、ドォン!

「はやい!」

「あいつヒソカに攻撃を当てやがった!」

「いま、狼の影のようなものが見えなかったか!?」


「……なかなかいい攻撃だ。それで終わりかい?」


「ふん。少し手加減しすぎたようだな」

(骨折してもおかしくないくらいの攻撃だったはずだが…

 このヒソカってやつ意外と頑丈だな……ならば!)


「見せてやるぜ!! 新狼牙風風拳!!」


ギュンッ!

さらに速度と威力を増した攻撃がヒソカをおs

「足元ががら空きだよ。」

ゴッ!

地を這うような水面蹴りがヤムチャさんの足元をとらえた。

「なっ」

ヒソカのカウンターアタック!

バシッ、ガン、ドゴォッ、バキィッ!


ヒソカの連続コンボが

ヤムチャさんにクリーンヒットした。


…グシャッ!



           トv'Z -‐z__ノ!_
         . ,.'ニ.V _,-─ ,==、、く`
       ,. /ァ'┴' ゞ !,.-`ニヽ、トl、:. ,
     rュ. .:{_ '' ヾ 、_カ-‐'¨ ̄フヽ`'|:::  ,.、
     、  ,ェr<`iァ'^´ 〃 lヽ   ミ ∧!::: .´
       ゞ'-''ス. ゛=、、、、 " _/ノf::::  ~
     r_;.   ::Y ''/_, ゝァナ=ニ、 メノ::: ` ;.
        _  ::\,!ィ'TV =ー-、_メ::::  r、
         ゙ ::,ィl l. レト,ミ _/L `ヽ:::  ._´
        ;.   :ゞLレ':: \ `ー’,ィァト.::  ,.
        ~ ,.  ,:ュ. `ヽニj/l |/::
           _  .. ,、 :l !レ'::: ,. "
              `’ `´   ~

byサイバイマン




「「ヤムチャーーー!!」」

「クッ!」

「お待ちなさい!!」

ヤムチャに加勢しようとするクラピカを、ニコルが止める。

「しかし!」

「ヤムチャ様に敗北はありえません。」

ニコルの言葉通り、

ヤムチャはふらつきながらも立ち上がった。

「な、なかなかやるな。ちょ、ちょっとだけ本気をだしてやろうじゃないか!」

バババッ!

ヤムチャさんは必殺技のかまえをとった!

「とっておきを見せてやる!」

ボウッ!

「繰気弾(そうきだん)!!」

ギューン!

ハッ、セイ、ムン、ハァッ、チェィッ!

ヤムチャさんの気合の入った指の動きを受けて、

繰気弾がヒソカのまわりを縦横無尽に飛び回る!


(遠隔操作型の念弾。あの指の動きでコントロールしているのか。)


ギューン! スカッ!

ヒソカはよけた。

ギューン! スカッ!

ヒソカはかわした。

ギューン! スカッ!

ヒソカはしらけたかおでこちらをみている。

(あ、あたらん!? なぜだ!?)

「それがキミのとっておきかい?」

ヒソカはさっと腕をうごかすと、

自身の念能力を発動する。

『伸縮自在の愛(バンジーガム)』

グン!

ヤムチャさんの顔面に張り付けてあったオーラが

急速に伸縮する。

「のわっ!?」

ヒソカの腕の動きに合わせてヤムチャさんの身体が宙を舞う。

ギュン!

コントロールを失った繰気弾と

一本釣りされたヤムチャさんの軌道が空中でクロスした。

そして…


「念弾の操作に気をとられすぎ。お粗末だね。」


ボムッ!!!




           トv'Z -‐z__ノ!_
         . ,.'ニ.V _,-─ ,==、、く`
       ,. /ァ'┴' ゞ !,.-`ニヽ、トl、:. ,
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               `’ `´   ~

byサイバイマン




「ヤムチャーーー!!」

「クッ!」

「お待ちなさい!!」

再度ヤムチャに加勢しようとするクラピカを、

やっぱりニコルが止めた。

「だがあれでは!」

「ヤムチャ様は無敵です。敗北などありえません。」

「わるいがオレはいく。止めたって無駄だぜ。

 ヒソカの相手はもともとオレ達だったんだからな!

 助っ人に任せてこそこそしてられっかよ!!」

苦戦しているヤムチャをみて

我慢の限界に達したレオリオがほえた。

「……そういうことだな。私も付き合おう。

 右から行く。レオリオは左に回り込んでくれ。」

「おうよ!」

「レオリオ! クラピカ!」

「ゴン!?」

「おまえ、戻ってきちまったのか!?」

「うん、レオリオの声が聞こえたから。あの人は?」

「地下でゴンも見ただろう。あのヤムチャだ。どうやら私たちを助けに来てくれたらしいのだが……」

うまく説明することができず、クラピカは言いよどんだ。

(さっきのあれはなんだったんだ?)



(才能はある。オーラ量は多いし力も強い。けど戦闘センスの悪さが致命的だね。能力もありきたりだし。)

ぴぴぴ。

ヒソカの携帯の着信があった。

『ヒソカ、そろそろ戻ってこいよ。どうやらもうすぐ二次会場につくみたいだぜ』

「OK.すぐ行く。」

協力者からの連絡をきいて、

「じゃあね。」

ヒソカは霧の中へと姿を消した。


・・・

「痛タタタタ…」

ヒソカが立ち去ったのを確認して

やられたはずのヤムチャさんがむくりと起き上がる。

「やれやれ。なんだったんだいまのは?

 自分の必殺技をくらって倒れてたんじゃカッコがつかないぜ。」

(まさかオレの繰気弾がやぶられる日がくるとは…

 少し鍛え直した方がいいのかな?)

ひそかに自信を抱いていた必殺技をあっさりやぶられて、

さすがのヤムチャさんも少しショックを受けていた。

「やられたふりですね! 敵といえども慈悲の心で見逃してやるとは、さすがはヤムチャ様です!!」

「へ? …あー、うむ。オレさまにおそれをなして逃げ出したようだな!」

「「あっはっはっはっはっ」」

(これが熱狂的なファンってやつか。ミスターサタンもあれでけっこう苦労してたのかな?)

((…なんなんだこいつら……))


「ま、なにはともあれ、あんたのおかげで助かった。礼を言わせてもらうぜ。

 オレはレオリオという者だ。」

「ヤムチャだ。無事で何よりだった」

レオリオとヤムチャさんが握手を交わす。

「ありがとうヤムチャ。私の名はクラピカだ。」

「オレはゴン!」

「ニコルです。よろしくお願いします」





ザザザザザッ。

ゴン、クラピカ、レオリオの3人は

ヤムチャとニコルの先導で二次試験会場へ向かっていた。

「おい! あのヤムチャってやろうのいうことは信用できんのかよ!?」

「私たちには現在地も目的地もわからないのだ。他に選択の余地はないよ。」

(あれだけヒソカにやられていたのにほぼ無傷。

 なにやら爆発もしていたのに胴着がぼろぼろになっただけで平然としている。

 このヤムチャという男はあきらかに異質だ。)

ヤムチャとニコルが空から降ってきたところは全員が目撃している。

その気になれば数百キロ先にいる人間の気配がわかるという話も

おそらく真実だろうとクラピカは判断していた。

「大丈夫だよ。臭いけど悪い人じゃなさそうだし」

「お前は人を簡単に信じすぎるんだよ!」

「ソッチハキケンダ! コッチガアンゼンダゾ!」

「あれはホラガラスですね。嘘をついて獲物を罠に誘いこみます。」

「ぐわっ!?」

「ああ、そっちに生えているのはジライダケです。踏むと爆発するので注意してください。ヤムチャ様でなければ死んでいたかもしれません。」


(-_-;(-_-;(-_-;)


「ほんとうに大丈夫なんだよな?」

「うーん、たぶん。」

「ソッチハキケンダゾ!」

「ホラガラスか。詐欺師の嘘だけが私たちの安全を保証してくれているとは、皮肉だな。」

「やっぱおめえらも半信半疑なんじゃねえか!!」

「あっ! いまなにか建物が見えた!」

「よし、もうすぐゴールだぞ! あそこに大勢の気が集まっている!」

「どうやら間に合ったようですね。」


5人は無事に二次試験会場へとたどりついたのだった!




「第一次試験、

 地下通路耐久レース 脱落者92名!

 ヌメーレ湿原 脱落者161名!

 ヤムチャさんたち150名、第一次試験突破!」




[19647] 遠い星から来た彼氏
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2010/07/19 16:48

ヌメーレ湿原をぬけると、そこはビスカ森林公園だ。

二次試験会場である仮設小屋の前には

多数の受験生たちがたむろしていた。

第二次試験はまだ開始されていない。


「どうやら間に合ったようですね」

「あんたらがいてくれて助かったぜ!」

「ありがとうヤムチャさん!」

「いいってことさ。試験がんばれよ!」


・・・

「チッ、ヒソカの野郎もきっちり到着していやがるぜ」

「ああ。試験管の目の届く範囲では大人しくしていると思いたいが…」

「ところで、なんでみんな建物の外にいるのかな?」

「中に入れないんだよ。」

「キルア!」

「どんなマジック使ったんだ?

 絶対もう戻ってこれないと思ったぜ」

「ヤムチャさんが案内してくれたんだ。」

「は? ヤムチャって、あのヤムチャか?」

「うん。それにヒソカとも戦ってくれたんだよ!」

「へぇー」

(あの野グソ野郎がここまで?

 ヒソカとあってよく無事だったなー)

「それで、なんで中に入れないの?」

「見ての通りさ」

仮設小屋の入り口には看板が掛けてあった。

『本日 正午 二次試験スタート』






そして正午。

第二次試験はビスカ森林公園で開始された。

試験官は美食ハンターのブハラとメンチである。

「二次試験は料理よ!!

 美食ハンターのあたし達2人を満足させる食事を用意してちょうだい!」

「料理だと!?」

「くそォ、料理なんて作ったことねーぜ」

「こんな試験があるとはな」

受験生たちの困惑とざわめきのなか

巨体の男性試験官、ブハラが課題を告げる。

「オレのメニューは豚の丸焼き! オレの大好物。

 森林公園に生息する豚なら種類は自由。

 それじゃ、二次試験スタート!!」


「豚の丸焼きか。むずかしい料理じゃないし楽勝だな」

「あ、ヤムチャ様。豚を発見しました。」

どぉぉぉん。

そんな効果音とともに姿を現したのは

やけに巨大な豚だった。

(なんだ? あの大きな鼻だけでも人間と同じくらいの大きさがあるぞ?)

「世界で最も凶暴な豚、グレイトスタンプです。」

「「ブオオオオオ!!」」

「ていっ!」

ゴゴス!

ドサッ、バタッ、

獲物を潰し殺そうと突進してきたグレイトスタンプだったが

ヤムチャさんのワンパンチでしずんだ。

しょせんはトンパの親戚である。

「お見事です。仕留めたグレイトスタンプはボクが焼きますから、ヤムチャ様は休んでいてください」

「わかった。」




グレイトスタンプをさくっと捕まえて

二次試験前半をトップ通過しちゃったヤムチャさん。

(あのウ○コ野郎もしかしてとんでもなく強いんじゃ…!?)

トンパはその雄姿を目撃してしまっていた。

ギンッ!

「ハッ、しまった!?」

「オレは怒ったぞトンパァーーー!」

「すんませんっしタァァァーー! オレが悪かったーー!!」

ざしゃっーーー!

怒りもあらわに迫ってくるヤムチャさんに対して

トンパは土下座スタイルでおうじた。

「…いいや許さん!」


「待て! ちょっと待て!

 聞いてくれ! オレも悪気があってやったわけじゃないんだ!

 ハンター試験をはじめて受けに来たなんてやつらは、大概がささいな不注意で死んじまうんだよ!」


「…それがどうした!!」


「オレも試験の常連だからな。そんなやつらをたくさん見てきた。

 それで、オレは自分で罠を仕掛けることにしたんだ。

 オレにはめられて脱落したルーキーは次の年からはより注意深く、慎重になる。

 わかるだろ? オレはあんたに死んでほしくなかったんだ!

 あんたのすごい才能を、可能性を、バカげたことで失ってほしくなかったんだよ!!」


「トンパ…おまえ……」

「恥をかかせてすまなかった。もうこんなことはやめる。たのむ許してくれ!!」

「……わかった。もういい。試験、いっしょにがんばろうぜ。」

(ピッコロや天津飯たちだってむかしは悪党だったんだもんな。

 もうやめるっていうなら、オレはその言葉を信じるぜ、トンパ。)


ヤムチャさんは笑顔でトンパに手を差し伸べ、

トンパはヤムチャさんの手を涙ながらに握りかえす。


(まさかあの下痢から復帰してくるとは予想外だったぜ。

 あれは完璧に社会からも抹殺できたと思ってたんだが……

 ウ○コ野郎のヤムチャが。つぎは確実に脱落させてやるぜ!)


・・・

「すまん、ニコル。」

「いいえ、ヤムチャ様の決断はご立派です。ブタには過ぎた配慮だと思いますが。」

「オレのことはヤムチャってよんでくれよ。様なんてつけなくてもいいんだぞ?」

「でも、ヤムチャ様はヤムチャ様ですから(はぁと)」



二次試験前半「豚の丸焼き」料理審査。

ヤムチャニコルペアほか70名通過!






そして後半戦突入!

「あたしはブハラと違ってカラ党よ!

 審査もキビシクいくわよー

 二次試験後半、あたしのメニューは…

 『スシ』よ!!」

一ツ星(シングル)ハンターにして女性試験官であるメンチが課題を告げる。

(スシ…!?)

(どんな料理だ?)

(全く知らない料理を作るなんて不可能だぜ)

ざわざわ。ざわざわ。

「ふふん、大分困ってるわね。ま、知らないのも」

「ほほう。シースーか。」

「知っているのか?」

「うむ。酢飯の上におもに魚介類をのせた食べ物だ。オレもこの前ジャ」

ビュンッ!

ガシャアン!

「ぐわっ」

どさっ。

「あ…」

人差し指をぴんと立て、

得意げに解説していたヤムチャさんの頭に

メンチの投げたお皿が命中した。

「なんっでいきなり作り方ばらしてんのよ!!

 あんたバカじゃないの!?

 てゆうかバカよね!? いっぺん死んできなさい!!」

「バカはそっちだろうが! なんでそんな簡単なものを試験にだすんだ!」

「あーあーーきこえなーい、きこえないー」

「っ、このアマ」

「ぐだぐだいうと失格にするわよ?」

「くっ…」

「ふふん。わかればいいのよ。

 さ、中を見てごらんなさーーーい!!

 ここで料理を作るのよ!!

 スシに不可欠なゴハンはこちらで用意してあげたわ!

 そして最大のヒント! スシはスシでもニギリズシしか認めないわよ!

 あたしが満腹になった時点で試験は終了!

 その間になんコ作ってきてもいいわよ!

 それじゃスタートよ!!」


ゴーン!


試験開始を告げるドラが鳴り響いた。

それぞれの思惑を胸に

受験生たちがうごきだす。


(ニギリズシ、ニギリズシか。)

(どんな食材を使うんだ?)

見当もつかずにまごつくもの。



「酢飯と魚介類っていってたね。」

「ああ、まずは外で魚の調達だな。」

ヤムチャさんの解説を聞きかじったもの。



(この課題もらったぜ!

 まさかオレの国の伝統料理がテストになるとは!)

「うーむ、ニギリニギリと」

チラ…

「ぶぷっ!」

(こいつ…知ってるぜ!?)

(知ってるな。)

(カンペキに知ってやがる!!)

合格確実だと浮かれているもの。



そしてヤムチャさんはというと…

「ほれ。ニギリズシを持ってきてやったぞ!

 このわがまま娘が!」

「あら、もうできたの?」

ぱくり。

「…ダメね。不合格よ!!」

「なんでだ!?」

「これ作り置きでしょ! しかも機械で作った量産品!

 男だったら持ち込みなんかしないで自分の力とアイデアで勝負しなさい!!」

「メンチ、持ち込みとはいってもこんな場所でスシを用意できたのはすごいことだと思うよ?」

「あ。あんたの場合は並のスシじゃ認めないからね?」

「…なんだって?」

「最初からスシのこと知ってたんじゃ不公平でしょ? そのくらい当然よ!」

「だからメンチ、この場合はスシを知っていたことをほめるべきで」

「ブハラは黙ってて。

 だいたいこいつ生意気なのよ!

 美食ハンターの前で料理の講釈なんて100年早いわ!!」

「いってくれるじゃないか、

 食べたこともないようなものすごいスシを持ってきてやる!

 あとでほえづらかくなよ!!」

「はいはい、さっさと逝っちゃいなさい」

しっしっ!

「メンチ…」

「さて、どんなキワモノが出来てくるのか楽しみだわ。

 今日は試験官としてってより料理人として来てるからね。」

「料理人として……ってのはマズイんじゃ…」

「何?」

「いやなんでも…」

(メンチの悪いクセが出なけりゃいいけど)




「出来たぜーー! オレが完成第一号だ!!

 名付けてレオリオスペシャル! さあ食ってくれ!」

つ『ニギリメシに生きている魚を突っ込んだナニカ』

「食えるかぁッ!」

ぽいっ!

「よーし次はオレだ!」

つ『ゴハンのうえに生きた魚がのっているナニカ』

「403番とレベルがいっしょ!」

ぽいっ!

「これだ!」

つ『一口大のゴハンに新鮮な魚を突っ込んだナニカ』

「あんたも403番並!!」

ぽいっ!

ガドーン!!

「そんなにショックか!?」

レオリオ、ゴン、クラピカ轟沈!

さらに後続集団にもニギリズシの体をなしているものはあらわれず

このまま試合終了かと思われたそのとき!

ジャポン出身の忍、294番ハンゾー推参!


「ふっふっふっ。

 そろそろオレの出番のようだな。

 どうだ! これがスシだろ!!」


つ『まともなニギリズシ』


「ふーん、ようやくそれらしいのが出てきたわね」

ぱくり。

「ダメね。おいしくないわ! やり直し!」


「な、なんだとーーー!?

 メシを一口サイズの長方形に握ってその上にワサビと魚の切り身をのせるだけのお手軽料理だろーが!!

 こんなもん誰が作ったって味に大差ねーーベ!?」



「「「なるほど、そういう料理か!!」」」



アホな忍はスシの作り方を暴露した!

「ちょww なんで材料どころか作り方までばらしてんのww 」

ハンゾーの後ろに並んでいたニコルがピヨッた!


「味に大差ないだと?

 ざけんなてめー!!

 鮨(スシ)をマトモに握れるようになるには十年の修行が必要だって言われてんだ!

 キサマら素人がいくらカタチだけマネたって天と地ほど味は違うんだよボゲ!!」


ついで試験官がキレた!


「もーハゲのせいで作り方がみんなにバレちゃったじゃないの!!

 こうなったら味だけで審査するしかないわね!」


「次はオレだ!」「いやオレだ!」

どどどどど!

やいのやいの、わいわい

ぎゃあぎゃあ、がごすがごす!


(あーあ。メンチの悪いクセが出ちまった。

 熱くなったら最後、味に対して妥協出来なくなるからなー

 メンチを満足させられる料理人なんて世界中に数えるほどしかいないっつーの)


試験会場に発生してしまったカオス空間。


そこに、

「なんだ。まだ合格者ゼロなのか? 真打登場ってとこだな。」

さっぱりしたかんじのヤムチャさんがさっそうとあらわれた。

「ヤムチャ…」

「ヤムチャだ…」

「胴着が新しくなってる…」

「まさかあいつもニギリズシを…」

「なによ42番! 自信満々じゃない!!」

「まあな。ここらでお遊びはいいかげんにしろってところを見せてやるぜ」


つ『見た目は普通のニギリズシ』


(なるほど。いうだけあって見た目は合格ラインね。さてお味の方は…)

ぱくり。

キュピーン!

「42番! あんた合格よ!!」

「よしっ!」



「「「なにーーーーーー!?」」」



「どういうことだ!?

 なんでオレのがダメでこいつのはいいんだよ!?」


「握り方についてはあんたたちとどっこいだけど、

 いくらかのポイントは抑えてる。素人の仕事にしたら上出来よ。

 で、問題はネタの魚よ。そこらのゲテモノと違ってそこそこの一級品ね。

 しかもあたしがこれまで食べたことのないものだったわ!!」


「え、うそ、メンチが食べたことない魚?」

(メンチは一般に流通している魚はもちろん

 希少とされている魚でも一通り試食していたはず。

 味が一級品ならなおさら見逃してるわけないと思うんだけどなー)



「合格者が出たわ! 悔しかったらあんた達もすごいの用意して見せなさいよ!!」

「しゃあ! なめられっぱなしで終われるかよ!」

「「オレ達のたたかいはこれからだぜ!!」」


ブハラの困惑をよそに試験は続行される。

未知の食材Xの持ち込みによりヤムチャさん一発合格。

合格者がでたことで受験生たちの士気は高まり、

競争は激化の一途をたどった。

しかし…


ぱくぱくぱく。

ごくごくごく。

「ふーっ、

 …ワリ! おなかいっぱいになっちった!」

てへっ☆

終~~~了ォ~~~~!



「第二次試験後半

 メンチの料理(メニュー)

 合格者1名!」




「マジかよ」

「まさか本当にこれで試験が終わりかよ」

「冗談じゃねーぜ」

「納得いかねェな」

(#^ω^)ピキピキ

暴動寸前にまで張り詰める緊張の中、


「そうですね。このような試験結果になるとはまことに遺憾です。」


「ちょっと遺憾ってなによ!!

 え? あれ? サトツさん!?」


「アレが合格で99番や294番が不合格というのは承服いたしかねます。

 異例ではありますが、再試験の実地を要請いたします!」



試験の推移を見守っていた

カールひげの黒服紳士、

第一次試験の試験官サトツが待ったをかけた。




[19647] へんじがない。ただのやむちゃのようだ・・・
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2010/07/29 00:36
「アレが合格で99番や294番が不合格というのは承服いたしかねます。

 異例ではありますが、再試験の実地を要請いたします!」


ざわ…ざわ…


「どういうつもりなのかしら?

 各試験の試験方法と選考基準は試験官に一任されているはずよ!

 いくらサトツさんでも」


「そうですね。私にその権限はありません。しかし…」

サトツは口元に指を一本立てると、

ふと空を見上げてみせた。



「……あれは…飛行船!?」

「ハンター協会のマークだ!」

「審査委員会か!!」


ゴオンゴオン。

あたりに飛行船の駆動音が鳴り響く。


そしてはるか上空、

サメを模した飛行船のハッチから


ヒュゥゥゥゥゥウウウウウ…

ドォン!!


白髪の老人が降ってきた。


(何者だこのジイサン?)

(てゆーか骨は!? 今ので足の骨は!?)

「…審査委員会のネテロ会長。ハンター試験の最高責任者よ。」

「「「!!」」」

「ま、責任者といってもしょせん裏方、

 こんな時のトラブル処理係みたいなもんじゃ。」

「会長へは私から連絡して来ていただきました」

「サトツさんが?」

「はい。先程も申し上げた通りです。

 アレが合格で99番や294番が不合格というのは承服しかねます」

「アレって42番のことよね?

 思考の柔軟性は申し分ないし、

 優れた食材を調達した手際も見事。

 見たところ腕も立つみたいだし超優良株でしょ?」


メンチの高い評価を聞いても、サトツは小さく首を横に振った。

(…サトツさんなんで42番のこと嫌ってるのかしら?)



「さてメンチくん。」

「はい!」

「二次試験の途中から試験課題の主旨が変質しており

 審査が不十分なのではないかとの意見が出ておる。

 現役のプロハンターであっても突破が難しい超難関となってしまった。

 と聞いておるのだが、どうなのかな?」

「それは…」


「未知のものに挑戦する気概を彼らに問うた結果、ただ一人を除いてその態度に問題あり。

 残る71名はハンターとして不合格と判断したわけかね?」


「……いえ。テスト生に料理を軽んじられる発言をされてついカッとなり、

 その際料理の作り方がテスト生全員に知られてしまうトラブルが重なりまして

 頭に血が昇っているうちに腹がいっぱいになってですね…」

「つまり自分でも審査不十分だとわかっとるわけだな?」

「…はい」


「ふむ。そういうことなんじゃが、かまわんかな?」

ネテロはヤムチャさんに問いかけた。

再試験を行うとなれば現状ただ一人の合格者であるヤムチャさんの合意を得る必要がある。


「試験をやり直すというのは別にかまいませんが、オレの合格は取り消されるんでしょうか?」

「いいや、おぬしの二次試験合格はすでに確定しておる。再試験には参加せずとも結構じゃよ。」

「わかりました。」


(この人がハンター協会の会長さんか。まるで武天老師さまみたいな人だな。

 …おっぱい見てるし。)


ネテロ会長がさりげなくメンチの胸を見ていることにヤムチャさんは気付かない振りをする。

ヤムチャさんは空気の読める男であった。






そんなこんなで二次試験延長戦『クモワシのゆで卵』スタート!


「着いたわよ」


受験生たちをのせた飛行船が着陸したのはある山の頂上付近だった。

山の真ん中には山を両断するかのような深い深い谷がある。

「高いな。まるで底が見えねェ」

「安心して。下は深ーい河よ。

 流れが早いから落ちたら数十キロ先の海までノンストップだけど。

 それじゃお先に。」


「え!?」

とん、

「「「えーーーー!?」」」


ヒュウウウウゥゥ!

メンチは一直線に崖から飛び降りていった。


「マフタツ山に生息するクモワシ、その卵をとりに行ったんじゃよ。」


ネテロは動じることなく今回の試験について解説をはじめる。


「クモワシは陸の獣から卵を守るために谷の間に丈夫な糸を張り卵をつるしておく。

 その糸にうまくつかまり、

 1つだけ卵をとり、

 岩壁をよじ登って戻ってくる。」


「よっと、この卵でゆで卵を作るのよ」

谷底から戻ってきたメンチの手には卵が握られていた。


(簡単に言ってくれるぜ!

 こんなもんマトモな神経で飛びおりられるかよ!?)


「あーよかった。こーゆーのを待ってたんだよね。」

「走ったりわけのわからん料理作りするよりよっぽど早くてわかりやすいぜ!」

「よっしゃ行くぜ!!」

「そりゃあー!!」

ばっ!

威勢よく谷へと飛び込んだのは受験生たち全体の4割ほど。

残りの6割は足がすくんで飛び降りることができずにいた。


「残りは? ギブアップ?」

「やめるのも勇気じゃ。テストは今年だけじゃないからの」





(よし。飛び降りる場所もタイミングもバッチリだ!)

ヒュウウゥゥ、

ガシッ!

「ふぅ」

ぶらーん。

崖から飛び降りたトンパは、見事クモワシの糸にぶら下がることに成功した。

(こういうときにはゲレタのやつの冷静さが頼りになるんだよな~)

ベテラン受験生の動向を把握し

その行動を模倣することでリスクを抑えるのはトンパの常套手段だ。



「あっぶねー! 勢いで飛びこんじまったけど、ここめちゃくちゃたけーじゃねーか!!」

「実際、何人かは糸をつかみそこなって落ちていったようだな。」

「へへん、おっさき~」

「あっ! キルア!

 くそ~、崖登りならオレだって負けないぞ!」


(チッ、お気楽なルーキーどもが。…今に痛い目を見せてやるからな!)

はしゃいでいる初心者組にガンをとばし、

トンパは片手でバランスを保ちながら卵を一つ手に取った。


「トンパさん!」

(ん?)


メキョッ!


振り向いたトンパの顔面に、忍び寄っていた男の足がめり込んだ。

「ぶばぁ!?」

「お元気そうですね。トンパさん?」

「お前、ニコルか!?」

ニコルは張られている糸に両手でつかまった状態から

身体の反動を利用して蹴りを放ってくる。


「3兄弟に確認してきましたよ。やはりあなたが黒幕だったそうですね」

(げっ! あいつらオレが妨害頼んだのばらしやがったのか!?)

バキ! ビシ!

「ぐっ、やめ」

「釈明なら結構です。どのような事情があろうと、あなたがボクを陥れた事実は変わりませんから。」

ゲシゲシゲシ!

(やばい! いったん卵を手放して体勢をとt)

「はーーー! ちぇすとーー!!」


ドン!!


「あっ…あっ…」

(こんな、こんなバカなことでこのオレが…?)

宙へと伸ばした手がなにかをつかむことはない。

トンパの体は重力に引かれて深い谷底の川へと落下していく。



「ニィコォルゥゥゥウウウウーーーーッ!!」




……ドボォン!!!





「第二次試験後半

 メンチの料理(メニュー)

 最終合格者43名!」






ゴオンゴオン。

二次試験に合格した受験生たちをのせた飛行船が、夜の空を泳いでいく。


「次の目的地へは明日の朝8時到着予定です。こちらから連絡するまで各自自由に時間をお使いください」

「ゴン!飛行船の中探検しようぜ」

「うん!!」

「元気な奴ら…オレはとにかくぐっすり寝てーぜ」

「私もだ。おそろしく長い一日だった」


このあとゴンとキルアは船内で出会ったネテロとゲームをすることになり、

レオリオとクラピカはぐっすりと休養をとることになる。




ほとんどの受験生が疲れ果ててぐったりとしている

飛行船内の一角に

のほほんと夜景を眺めている2人組がいた。


「ヤムチャ様はなぜハンターになろうと思ったんですか?」

「オレはちょっとわけありで戸籍がないんだ。だから身分証明に使おうと思ってな。

 それにハンターライセンスを持っていればほとんどの国はフリーパス。公共施設も無料で使えるって話だからな。」


(そんでもってかわいこちゃんたちにもモテモテのウハウハだしな!)

ぐふふふふ。

ヤムチャさんの顔がにへらっと緩んだ。


「そういうニコルはどうしてハンターになりたいんだよ?」

「…ボクがハンター試験を受けたのは父を見返すためなんです。」

ニコルはとうとうと語りだした。


「ボクは父と賭けをしたんですよ。

 今年のハンター試験を受けて、落第したなら大人しく父の後を継ぐ。

 でも、もしも一発で合格できたならボクの選ぶ人生に文句を言うな、とね。

 ルーキーがハンター試験に合格する確率は3年に一人だと言われています。

 きっと、自分だけは特別な存在だと思いあがっていたんですね。

 ヤムチャ様がいなければボクは一次試験で脱落していました。」


「へぇ~、そ、そうなのか~」

(お、重いな。オレと違ってニコルはこの一回に人生がかかってるのか!?)

「…そういうことならオレもできる限りの協力はするぜ!」

ガシッ!

「ここまでヤムチャ様に助けられてばかりでしたから、今度はボクがお役に立って見せます!」

「よし! ぜったい一緒に合格しような!!」





同じく飛行船内の一室で

サトツ、メンチ、ブハラの試験官トリオが

食卓を囲んでいた。

「ねェ、今年は何人くらい残るかな?」

「合格者ってこと?」

「そ。なかなかのツブぞろいだと思うのよね。

 一度はみんな落としといてこう言うのもなんだけどさ。

「ルーキーがいいですね今年は」

「あ、やっぱりー!?

 まぁ294番のハゲも捨てがたいけど、あたしはぜったい42番ね!!」

(二人だけスシ知ってたしね。…294番の方は落とそうとしてたけど)

「42番…ですか。私は断然99番ですな。彼はいい」

「サトツさんはどうして42番のこと嫌ってるのよ? 良い奴じゃない。」

(ちゃんとスシに使った魚のあまり譲ってくれたしね)

もぐもぐもぐ。

ブハラは黙々とフォークを進めている。


「そのことについては食事を終えてから説明します。」


・・・

食後のコーヒーを飲み終えて、

一時的に席を立っていたサトツが部屋に戻ってきた。

「一次試験の監視カメラの映像を借りてきました。」


ピピッ


サトツがリモコンを操作すると

「彼が会場入りした時の映像です」

エレベーターから降りてくるヤムチャさんの姿が部屋のモニターに映し出された。


「…あれってトンパだよね。ジュースなんか飲んだらやばいんじゃない?」

「トンパ?」

「新人つぶしのトンパ。受験回数30回を超える名物人です」

「あー! 思いだした!! あたしが試験受けた時にもいたわ!

 あいつこのあたしに睡眠薬なんか盛ろうとしやがってさー!!」


トンパと別れてすぐ、映像の中のヤムチャさんが苦しみ出す。

ヤムチャさんはエレベーターの表示を確認したかと思うと

次の瞬間にはその姿を消した。


「えっ?」

「……」

「スローでもう一度再生します」

ピッ

カメラは手で腹をおさえながら超高速で移動するヤムチャさんの姿をとらえていた。

「…無駄に速いわね。ブハラ、いまの動き見えた?」

「ぜんぜん。メンチだってちゃんと見えなかったろ?」

ピッ

サトツの操作で場面が切り替わる。


『お、おごぉぉおおお』

ゲーリーウルフと化したヤムチャさんの横を

サトツと受験生たちが走って通過していく。

「うは! きったないわねー!! なにさっきのジュース強力な下剤入り!?」

(あーこれじゃ印象悪いよなー)

「その後、回復した彼は」

ピッ

『ハァアアアッ!』

バシュゥゥゥゥン!!!

「すごいスピードで飛んでる…」

「念能力を隠そうって気はないのかしらね。師匠はどこのどいつよ?

 …監視カメラの前で披露してるのはお粗末だけど、念能力に関しては一流ハンター並か。あ~なんか腹立ってきた!!」

ピッ

映像が地下通路の出口、シャッター付近のものに切り替わる。


『かめはめ波ーーー!!』

どかーん!

(……)

(……あのシャッター壊しちゃまずいんじゃないかなー)

ヤムチャさんはニコルを背負って空へと飛んでいった。

ピッ

ブツン。

「監視カメラの映像はここまでです」

「これはひどい。」

「注意力は凡人以下。念能力頼りの体力馬鹿ね。」


「強いことがプロハンターとなるための必須条件です。

 その意味では彼にも十分にその資格があるといえるのですが…」


「サトツさんが警戒してた理由がわかったわ。

 こんな醜態さらしてた

 42番だけ合格にしてたら、

 他のテスト生たちからは苦情殺到ってわけね。」


「…受験生たちの不満はハンター協会への不信につながります。

 仮に今年唯一の合格者としてプロハンターになった42番が問題を起こせば

 試験の総責任者であるネテロ会長の責任問題に発展する危険性がありました。」



・・・・・


「皆様大変お待たせいたしました。目的地に到着です」

時刻は午前9時30分。

機長による船内アナウンスが流れると、

受験生たちを乗せた飛行船は、高い高い円筒状の建物の屋上へ着陸した。

「何もないぞ。殺風景なところだな。」

「ここはトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。

 ここが三次試験のスタート地点になります。

 さて試験内容ですが、試験官からの伝言です。

 生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間。」


マーメンから三次試験の課題が発表されて

第三次試験の参加者たちが動きだした。


「側面は窓ひとつないただの壁か」

「ここから降りるのは自殺行為だな」

「…普通の人間ならな。」

グッ

「このくらいのとっかかりがあれば一流のロッククライマーなら難なくクリアできるぜ」

ス、ス、

「うわすげ~」

「もうあんなに降りてる」

器用に外壁をつたって降りていく姿に

キルアとゴンが感心するのもつかのま、

「あ……」
「ん?」
「あれ」

ゴンの指差す方向からは、グロテスクな怪鳥がばっさばっさと飛んできていた。

「ふふん。どうやら三次試験の合格第一号はオレ様のようだな……

 …ッ!?

 うわぁぁあああッ!?」

哀れ。

外壁をつたって降りていた自称一流ロッククライマーは怪鳥の餌食となってしまった。


「よぉ! こりゃ外側から降りるのは無理そうだなー!」

その様子を見ていた黒装束の男、ハンゾーがキルアとゴンに話しかけてくる。

「おっさん、なんか用?」

「そう警戒すんなよ。

 オレの名前はハンゾーだ。

 試験官にハンターとしての資質を認めてもらった者同士、

 お互い仲良くしようぜ。な!」

「あ! 294番!!

 二次試験の時にキルアと一緒に褒められてた人だ!」




「屋上の床にはいくつか隠し扉があるようですね。こちらが正規のルートでしょう」

「オレはここから飛んで降りるつもりだが、ニコルはどうする?」

「…ボクは隠し扉から降りようと思います。いつまでもヤムチャ様に頼ってばかりもいられませんから。」

「そうか」

ヤムチャさんはニコルの言葉にうなずくと

袋から取り出した仙豆を一粒、ニコルに放った。

「下でまた会おう」

「ッ、ありがとうございましたッ!

 それではお先に失礼させていただきますッ!!」

ガコン。

ニコルは近くにあった隠し扉を作動させてタワーの内部へと姿を消した。

(妙に気合が入ってたな?)


きょろきょろ、

(隠し扉には他の連中もあらかた気づいてるな)

ニコルを見送ったヤムチャさんは余裕たっぷりだった。

ヤムチャさんは舞空術で自在に空を飛べる。

このトリックタワーがどんなに高くても、

普通に飛んで下まで降りて、一階の入り口から入ればそれでミッションコンプリートなのである。


(もう少し人数が減ってからこっそり降りるか。三次試験は楽勝だったな)

「ってうわぉ!?」

バクン!

なにげなく歩いていたヤムチャさんの足元が抜けた。





ゴン、キルア、レオリオ、クラピカにハンゾーを加えた5人は、

密集した5つの隠し扉を見つけていた。

「1、2の3で全員行こうぜ。ここでいったんお別れだ。地上でまた会おう。」

「ああ」

「1」

「2の」

「「「3!!」」」

ガコン。

スタ! スト、ドカ! ザッ! タッ、

「くそ~。どの扉を選んでも同じ部屋に降りるようになってやがったのかよ」

「短い別れだったな。」

地上での再会を期して別れた5人だったが、落ちた先は同じ部屋だ。


「この部屋…出口がない…?」


出口の見当たらない閉ざされた部屋。

壁には文章の書かれたプレートがかけられている。


『多数決の道。君たち5人はここからゴールまでの道のりを多数決で乗り越えなければならない』


「多数決の道か……」

プレートの前にある台座には少し変わった形のタイマー(腕時計)が5つ置かれていた。

「この○と×のボタンがついてるタイマーをつけるわけだな。」

クラピカ、レオリオ、ハンゾー、

続いてゴンとキルアもタイマーを腕につけた。


ゴゴゴゴゴ。


「なるほど。5人そろってタイマーをはめると」

「ドアが現れる仕掛けってわけだ」

壁の一部がスライドしてあらわれた扉には、こんな文言が書かれていた。

『このドアを

 ○→開ける  ×→開けない』





シュタッ!

ヤムチャさんがうっかり落ちてしまった先もまた、

出口の見当たらない部屋だった。


『ようこそ42番! さあ、右手の壁にあるスイッチを押したまえ!!』


備え付けのスピーカーから男の声が響く。

「これか?」

ポチッと!

ズズズズズ、

ヤムチャさんがスイッチを押すと

壁面の一部がスライドして試験内容を記したプレートがあらわれた。


『知識の迷宮。君は出題される問題に解答しながらゴールを目指さなければならない。

 答えを間違えても先への道は開かれるが、間違えるたびにペナルティが科される。』


「なるほど知力を試そうってわけか。

 ふふん。なかなか面白そうじゃないか。」


『問い一 アイジエン大陸に存在する国の名前を3つ挙げよ』


余裕綽々で問題文に目を通すヤムチャさん。

問題文の書かれたとなりには回答入力用のパネルが用意されている…


「ッ……国の名前……!?」

(しまった! ぜんぜんわからん!!)


かつてない強敵の出現!!

はたしてヤムチャさんはこのピンチを乗り越えることができるか!?




[19647] ヤムチャさんが最強の地球人にパワーアップするようです
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2010/08/09 00:19

第3次試験の課題はトリックタワーの攻略だった。

自分の力で試験合格を勝ち取るために

屋上でヤムチャさんと別れる決断をしたニコル。

彼が挑んでいるのルートは、


『ちょっと不思議な迷宮(ダンジョン)』だ。


古めかしい石造りを模した通路と部屋。

ニコルは各所に仕掛けられている眠りガスやトラばさみの罠を回避しながら、

階段と落とし穴を利用して最下層を目指した。


解いた暗号を頼りに分岐点を進み、

居眠りしている試練官(魔道士)の横を忍び足で通過して

宝箱に納められていたカードキーをゲットする。


(いける! いけるぞ!

 オレはヤムチャ様に頼らなくても、

 一人でも立派にハンター試験を突破できるんだ!!)


順調だった。


「ハンター試験に合格したら、ヤムチャ様と一緒に世界中を見てまわりたいな。」


怖いくらいに順調だった。


「おっと、ピアノ線に弓矢を組み合わせたブービートラップですね。

 簡単な罠ばかりだ。こんなものでボクをとめられるものですか!」


一度立ち止まって考えるべきだった。


・・・

階段が見つからなかったため

ニコルは落とし穴から下層階へと降りた。

シュタッ!

降りた先、四角い部屋の出口は一か所だけだ。

カギのかかった鉄格子の扉がニコルの行く手を阻んでいる。

「ふむ。」

(…壁の模様に違和感がありますね)

ゴトン。

部屋の壁に隠してあったカギを発見し、

ガチャン!

鉄格子の扉をあけた。


部屋を出て、薄暗い通路を歩いた先には

下りの階段とエレベーターがあった。

天井に設置されているスピーカーから、男性試験官の声が流れてくる。


『カードキーは手に入れたかな?』


「もちろん手に入れましたとも。」

ニコルは宝箱から手に入れたカードキーを誇らしげに取り出すと、

エレベーターの横に付いているスリットに差し込んだ。

ピッ!

エレベーターの電子ロックが解除されて

トリックタワー1階への直通エレベーターが使用可能になった。


『おめでとう!』


「当然です!」

試験官からの祝福の言葉を聞いて、

ニコルは上機嫌でエレベーターへと歩を進める。



カチッ!



「え?」


そしてエレベーターに乗り込む一歩手前、ニコルの足元で

試験官が仕掛けた最後のトラップが発動した。


『そして、さようなら。』


(; ̄д ̄)!?


どっかーん!!

大爆発!!


「ひでぶ!」

ニコルは瀕死の重傷を負った。







多数決の道。

ゴン、レオリオ、クラピカ、キルア、ハンゾーの5人が通路を進んでいくと、

とても大きな部屋にでた。

部屋の中央には正方形のリングがあり、その周囲は底の見えない吹き抜けになっている。

通路は部屋の入り口で途切れていた。


「我々は審査委員会に雇われた「試練官」である!

 ここでお前たちは我々5人と戦わなければならない!

 勝負は一対一で行い各自一度だけしか戦えない!!

 順番は自由に決めて結構!

 お前たちは多数決、すなわち3勝以上すればここを通過することができる!

 ルールは極めて単純明快!

 戦い方は自由!

 引き分けはなし!

 片方が負けを認めた場合において残された片方を勝者とする!!」


リングをはさんで向こう側の通路に立っている

スキンヘッドの試練官、ベンドットがここのシステムを解説する。


「こちらの一番手はオレだ!

 さぁそちらも選ばれよ!!」


ゴゴゴ…

部屋の入口から中央のリングまで足場が伸びた。


(いやな目をしてやがる…)

「…オレが行こう。

 奴が提案してくるのは十中八九デスマッチだ。

 殺し合いも含めた直接戦闘なら俺が適任だろう」


ハンゾーが一番手として名乗りを上げ、足場を渡ってリングに向かった。

正方形のリングの上で、ベンドットとハンゾーが対峙する。


「勝負の方法を決めようか。オレはデスマッチを提案する!!

 一方が負けを認めるかまたは死ぬかするまで、戦う!!」


「いいぜ。

 ただし、わざわざ殺すのも手間なんでな。

 どちらかが意識を失った場合はそこで決着にしてくれ。」


(こいつ、このオレに勝てる気でいるのか?)

「…よかろう!

 ならば、勝負!!」


ザザッ!

ベンドットは床をけってハンゾーとの距離を詰めr

フッ…

「な!?」

ズンッ!

ハンゾーの拳がベンドットの腹を直撃した!

「ッ~~~~~!?」

ダン!

狙い澄ましたハンゾーの手刀が

悶絶しているベンドットの首筋に打ち込まれる。


どさっ、


「安心しな。

 気絶させただけで命に別状はないぜ。

 オレの勝ちだな。」


第1試合 勝者ハンゾー!

わずか数秒足らずの戦いで

試練官ベンドット(戦場帰りの男)は意識を失い敗北した。


「すっげ~!! なにもんだよおまえ!!」

「自信を持つだけのことはある。今年の受験生の中でもトップクラスの実力だろう」

「ふっふっふっ、ここだけの話だけどよ、

 実はオレ忍者なんだよ!

 忍者ってのは忍法という特殊技術を身につけた戦闘集団なんだがな、」

「はいはい。わかったわかったすごいすごい。それで? 次はだれが行く?」

「オレが行くよ!!」


第2試合 セドカン戦

持っているローソクの火が消えたほうが負けという変則バトル。
セドカンに仕掛けられたトラップを逆に利用してゴン勝利!


第3試合 マジタニ戦

ベンドット戦と同じくデスマッチ。
A級賞金首である幻影旅団の一員を詐称してみたマジタニだったが、
クモのイレズミを見てキレたクラピカ(緋の眼)に一撃で打ちのめされた。クラピカ勝利!


試練官たちとの5番勝負は、

無傷の3連勝によりゴンチームの勝利に終わった。

キルアとレオリオは出番なし!!


「…大丈夫なのかクラピカ」

「ああ、私にケガはない。」

「つーかお前に近づいても大丈夫か?」


感情が激しく昂ると瞳の色が緋色に変化するクルタ族の特異体質。

いきなりキレたクラピカを見て、レオリオはちょっとだけビビっていた。


「わかっていたんだがな。一目見てたいした使い手ではないことくらい。

 あのイレズミも理性ではニセモノだとわかっていた。

 しかしあのクモを見たとたん目の前が真っ赤になって……

 …と言うか、実は普通のクモを見かけただけでも逆上して性格が変わってしまうんだ」


「難儀な性格してんだな。昔いやなことでもあったのか?」

「少しワケありでな。驚かせてすまなかった。」

ハンゾーの疑問の声に、クラピカは言葉少なに答えた。


「なにはともあれ三連勝だ!!

 この調子でバリバリ進もうぜ!!」

「おっさんは何もしてないだろ。」

「んな!?」

「? キルア、なんか機嫌悪い?」

「……別になんでもないよ」

(あんな連中片づけるくらいオレだって楽勝だっつーの!)


ズズゥウウン!!

ぐらぐらぐら!


「っと! なんだ!? 地震か!?」

「…いや、いまの揺れは下からじゃねーな。

 他の連中が爆弾でも使ったか?」






トリックタワー内にあるモニタールーム。

お菓子を食べながら監視カメラの映像を見ているのは

賞金首ハンター兼刑務所長にして第三次試験官のリッポーだ。


「新人ばかり5人集まってどうなるかと思えば

 3連勝とは。報告通りなかなか優秀じゃないか。」


パリポリ、クチャクチャ、


(44番は流石というべきか。

 途中にある隠し通路をすべて発見して最短ルートでゴールに向かっているな。)


ズズゥウウン!!

ぐらぐらぐら!


「チッ! 42番め、問題がわからなかったら力づくか。バカなんだか利口なんだかわからんな。」


リッポーがヤムチャさん専用に用意したルートの名前は「知識の迷宮」

まずは簡単に解ける問題を連発して調子に乗らせ、

ターゲットをトリックタワーの内部に誘いこんだところで

退路を断ち、高難度の問題と重いペナルティをぶつけるはずだったのだが…

まさか最初の常識問題からつまづかれるとは想定していなかった。




・・・・・・


説明しよう!

ヤムチャさんは悟空やベジータといった脳筋な仲間たちと比べるとすこぶる頭が良い!

Z戦士きっての頭脳派というわけだ!!

しかしだからといってハンター世界の地理や歴史を知っている道理はまったくなかった!!

いかにヤムチャさんの知性が優れていようと、知らないことを答えるというのはやはり無理があるわけで……


「とりゃーッ!」

ドーン!!

トリックタワー最上層の天井をぶち破り、大空に向かってヤムチャさんが飛び出した!

バシュゥウウウウ!!

ピタッ。

「べ、別に問題を解いてやってもいいんだけどな!

 解くのにかかる時間がもったいないし、

 せっかくだからオレは舞空術で外からおりるぜ!!」


と、そのとき

『ゲッゲッゲッ』

なにやら不気味な鳴き声がして、

空中に浮かんでいるヤムチャさんの顔に影が差す。

「ん?」

不審に思って上空を見上げると

グロテスクな怪鳥が、大口を開けてヤムチャさんを狙っていた。

バクッ!

「おっと」

ヤムチャさんは急降下してきた怪鳥の大口をひらりとかわす。

「なんなんだこいつら?」

空中にいるヤムチャさんを狙って、

グロテスクな怪鳥の群れがばっさばっさと集まってきていた。


「ハンター協会のペット、というわけではなさそうだな。

 このオレを狙うとはバカな鳥だ。

 少しおしおきしてやるか!」


バキッ! ドガッ!

大口を開けて迫ってくる怪鳥の頭にげんこつを落とし、

別の1羽のあごを蹴り上げる。


『ゲゲッ!?』

「おまえたち、逃げるならいまのうちだぞ?」

がしっ!

ヤムチャさんは怪鳥の尻尾をつかむと、

そのまま大きく振り回し始める。

ブゥン! ブゥン! ブゥン!

「それっ!」

『ギョッ!?』

ビュッ! ドシャアッ!!

ヤムチャさんがスイングして投げた怪鳥に近くを飛んでいた2羽が巻き込まれて、

合計3羽の怪鳥がタワーの屋上へと落ちていった。


「まだやるか?」

『ググゥッ』


獲物だと思っていたヤムチャさんの秘めていた力に震えあがり、

グロテスクな怪鳥たちは大慌てで散っていく。


ぱんぱんっ!

「今日のところはこの辺にしといてやるぜ!」

ビシッ!

戦いに勝利して気の晴れたヤムチャさんは

舞空術で地上へと降りていった。


『42番 ヤムチャ

 3次試験通過第一号

 所要時間1時間43分!』



「1時間43分ってことは、あと70時間は待たないといけないのか」

(次の試験が始まるまで3日もあるなら、その間に少し修行しておくか。)


タワー1Fにいた黒服から許可をもらったヤムチャさんは、

トリックタワーから外に出ると舞空術で近くの山へと移動した。


「このあたりでいいか」

ごそごそごそ、

ぽいっ

ヤムチャさんの放ったホイポイカプセルから


BOMB!


カプセルコーポレーション製の立派な宇宙船があらわれる。

ウィィィィン

ヤムチャさんは宇宙船に乗りこむと、

人工重力装置の目盛りを100Gにセットして起動スイッチを押した。




・・・・・・


100倍の重力場が発生している宇宙船内で、

界王拳(かいおうけん)の赤いオーラに包まれたヤムチャさんが拳を振るっていた。

自身の気の流れを確認しながら、一つ一つの動作を丁寧に繰り返している。


「997……998……999……1000!」


ランニング、腕立て、腹筋、背筋、スクワット、

最後に新狼牙風風拳の1000本ノックを終えて

ヤムチャさんはその場に倒れ込んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


(手加減している状態だったとはいえ、

 ヒソカには新狼牙風風拳も繰気弾も通用しなかった。

 前からうすうす感じてはいたが、あれではっきりしたぜ!

 オレにはもっと強力な必殺技が必要だ!!

 オレよりも強い敵があらわれても、それこそあのフリーザでも倒せるような新必殺技が!!)


グッ!

ヤムチャさんは強い決意を込めて拳を握りしめる。


(新狼牙風風拳と繰気弾はもう10年近く前に編み出した技だもんな。

 今のままじゃ技の隙が大きすぎるし、強い奴を倒すには威力が足りない。)


孫悟空の瞬間移動かめはめ波。

クリリンの気円斬。

ピッコロの魔貫光殺砲。

天津飯の気功砲。

いずれも一撃必殺の可能性を秘めている、真の意味での必殺技だ。


「よーし! みんなに負けないすごい必殺技を開発してやるぜ!!」


気のコントロールの向上。

新狼牙風風拳の更なる改良。

必殺技としての繰気弾の進化。


ヤムチャさんの当面の課題はこの3つだ。


「悟空……ッ、オレがもっと強くなって、お前の分までみんなを守ってみせるからな!!」


食事と睡眠をはさみながら、

ヤムチャさんの修行は3日3晩つづけられた。





トリックタワー1Fの広間。

ズズズ…

扉が開いて、ゴン、レオリオ、クラピカ、キルア、ハンゾーの5人が現れた。


「ふぅ~ッ

 なにが5人で行けるが長い道に3人しか行けないが短い道だよ!!

 最短でも45時間だと!? 20時間足らずで降りてこられたじゃねーか!!」


「やはり我々の仲間割れを誘うためのブラフだったのだろう。

 実際にどちらの道を選ぶかで揉めたことだしな。」

「確実に間に合う保証はないって誰かさんが大騒ぎしてたからね。」

クラピカの言葉にキルアが続く。


「なんだそりゃ! オレがバカだっていいてぇのか! あん!!」

「そうじゃないけどさ(そうだけど)

 お互いに面識もない面子であの選択肢をつきつけられたら

 仲間よりも確実性をとって殺し合ってただろうなってことだよ。」


「同感だ。多数決の道なんて考えた試験官は絶対に性格ワリィよな。

 ま、うちにはぜったいに5人一緒に合格しないとやだ、なんていうお子様が混じってたしな。」

なでなで。

「長いほうの道を選んで全員で合格できたんだから良かったじゃんか!」

「まーな!」

(ま、オレはどのみち、最後の分岐点さえ通過できればあとは合格できると踏んでたわけだが…)

じーっ、

「ハンゾーさん?」

(やっぱわかってねーよなぁ。ったく、オレのこといい人だなんて勘違いしやがって)

「わっ!?」

わしゃわしゃわしゃっ、

ゴンのまっすぐな目に面映ゆい感覚をおぼえて、

ハンゾーはゴンの髪を乱暴にかき回した。




・・・・・・


「おっ、ニコル!

 3日ぶりだな。大丈夫だったか?」

「…ヤムチャ様から頂いた仙豆がなければ、ボクはここには居られませんでした…」

「仙豆が役に立ったのか。合格できてよかったじゃないか!」


きょろきょろ、


(レオリオとゴンにクラピカも合格できてるな。

 よかった。

 む、そういえばトンパがいないな。

 せっかく心を入れかえたのに脱落したのか。気の毒にな。)



・・・


『タイムアップーーーー!!』


「第3次試験

 トリックタワー脱出

 通過人数26名!!(うち1名死亡)」



3次試験の終了を告げるアナウンスが流れ、

受験生たちがぞろぞろとトリックタワーの出口へ向かう。



トリックタワー1Fの外に集まった25名の受験生たちを、

三次試験の試験官だったリッポーがむかえた。


「諸君。タワー脱出おめでとう。

 残る試験は4次試験と最終試験のみ。

 4次試験はゼビル島で行われる。

 では早速だがこれからクジを引いてもらう。

 このクジで決定するのは狩る者と狩られる者。

 それではタワーを脱出した順にクジを引いてもらおう」


(オレからか)

最初の合格者だったヤムチャさんがクジを引く。

出てきたカードには384番と書かれていた。

(384番…)

チラッ

(あの色黒な男の番号だな)

ヤムチャさんに続いて他の受験生たちも順番にクジを引いていく。


「それぞれのカードに記された番号の受験生がそれぞれの獲物(ターゲット)だ。

 奪うのは獲物のナンバープレート。

 自分の獲物となる受験生のナンバープレートは3点。

 自分自身のナンバープレートも3点。

 それ以外のナンバープレートは1点。

 最終試験に進むために必要な点数は6点。

 ゼビル島での滞在期間中に6点分のナンバープレートを集めること。」


(25人でナンバープレートの奪い合い。

 合格できるのは多くても12人までか。)


説明を聞いた受験生たちは、

胸のナンバープレートを懐にしまい込んで情報を遮断した。

自分を狙っているのは誰なのか。自分の獲物は誰なのか。

受験生たちはハンター協会が用意した船に乗り込み、

波に揺られながらゼビル島へと移動する。


(42番……ボクの獲物はヤムチャか。)

(44番…ヒソカの番号だ。)

(199番……誰だろ?)

(187番。ニコルだな。ヤムチャと組まれると厄介だが…)

(246番だと? くそっ、誰だかわかんねーよ!)

(198番。あの3兄弟がオレの獲物か。問題はオレを狙っているのが誰かだな)

(80番。サングラスの彼女がボクの獲物ですね。女性だからといって手加減はしませんよ。)

「あの案内役の女の子けっこう可愛いよな。」


ヒソカ、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、ハンゾー、ニコル、ヤムチャ。


サバイバルの開幕だ。



[19647] HISOKA×強過ぎ×ワラタ
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2010/08/29 00:11

4次試験に参加する25名の受験生をのせた船が、ゼビル島に接岸した。

試験会場となるゼビル島は、島全体が樹木に覆われた自然あふれる無人島だ。


「それでは第3次試験の通過時間の早い人から順に下船していただきます!

 一人が上陸してから2分後に次の人がスタートする方式をとります!!

 滞在期限はちょうど1週間!

 その間に6点分のプレートを集めてまたこの場所に戻ってきてください!

 それでは1番の方スタート!!」


案内役の女の子から指名されたヤムチャさんが、

うっそうと生い茂る森の中へと歩いていく。


(2分置きにスタートってことは、

 最後の一人が出発するのは50分後か。

 あの色黒な男は何番目なんだ?)


「なるほど。先に行ける方が有利だな」

「ああ。自分は先に身を隠し、狙った獲物の動向をチェックできるからな」

ヤムチャさんを見送るクラピカとレオリオ。


そして2分後、ヤムチャさんを狙うヒソカがスタートダッシュをかけた。



・・・


森に入ったヤムチャさんはあたりを軽く見まわすと、

タン!

軽くジャンプして木の上に身をひそめた。

(このままスタート地点の近くで待ち伏せして

 ターゲットの順番がまわってきたらすぐにプレートを奪ってしまおう。)


しかし、

ザザッ!

「やあ。」

追ってきたヒソカにあっさり見つかった。

「…ヒソカか」

「キミのプレートを奪りにきたんだ。

 たしか42番はキミだったよね。」


ヒソカはクジで引いたカードを取り出して見せた。

カードに描かれている数字は42番。ヤムチャさんの番号だ。


(この殺気……戦る気まんまんって感じだな。

 武道家として、強いやつと戦いたくなる気持ちは分からなくもないが…

 ここだと人が来る。場所を変えるか)


ヤムチャさんは木から飛び降りると、森の中を駆け出した。

「逃がさないよ。」

島の奥へと移動するヤムチャさんを、ヒソカが追いかけた。




・・・・・・


スタート地点から遠く離れた草原で

ヤムチャさんとヒソカが向かい合っている。


「ここなら誰かを巻き込むこともないだろう。

 オレのナンバープレートが狙いなら相手になるぜ。」


ヤムチャさんは軽く拳を上げてかまえた。


「降参するか戦闘不能になったほうの負け。

 負けた方は勝った方に自分のナンバープレートを渡す。どうだ?」


「OK.この間の戦いの続きといこう。

 今度は手加減なしで最強の戦士とやらの本当の実力を見せてもらいたいな。

 今回は時間もたっぷりあることだしね。」


ヒソカはニタリと哂う。


「へえ、手加減してたの気づいてたのか。」

「キミがこの場に立っていることがそれを証明しているよ。

 自分の必殺技で自爆したのにピンピンしてるなんて不自然だろ?」


「なるほどな。

 一つだけ訂正しておくが、オレは最強の戦士なんかじゃないぜ。

 悟空、ベジータ、ピッコロ、世の中上には上がいる。」


戦いを前にヤムチャさんの気が高まっていく。

ヒソカも愛用のトランプを構えて臨戦態勢だ。

ばさばさばさ!

とたとたとた!

戦いの気配を察知した野生の動物たちが付近の森から逃げだしていく。


「オレが獲物(ターゲット)とは運がなかったな。

 ヒソカ、悪いがお前にはここで退場してもらうぞ。」


ジャッ!

「!」

ガガンッ!

高速で接近したヤムチャさんのワンツーパンチを

ヒソカはかろうじて防いだ。

シュッ! シュビッ!

ヒソカの反撃のトランプが空を切る。

ヤムチャさんは体勢を低くしながら前へと踏み出し、

「はっ!」

ドゴォン!!

強烈なアッパーカットで両腕のガードごとヒソカをぶっとばした。

タンッ、

ヒソカは地面に片手をついて半回転。体勢を立て直す。


(速いな。動きが以前とはまるで別人だ。)


「やはりな。

 お前は攻撃が当たるとき、瞬間的にその場所に気を集中させているんだ。

 だから見た目以上に打たれ強いし攻撃も重い。」


「正解。

 念の応用技の一つで『流』と呼ばれる技術だ。

 キミはまだ知らなかったようだけどね。」


ズ…


「目を凝らしてよく見てごらん。」

ヒソカは左手の人差し指と中指を立ててみせた。

「なに?」

ヤムチャさんは言われたとおりに目を凝らす。と、

(なんだこれは!?)

ヒソカの指先から伸びたオーラが、自分の左腕に張り付いているのが見えた。


「よくできました。」


ギュン!

「!?」

ヒソカのオーラに左腕を強く引っ張られて、ヤムチャさんはバランスを失う。

バキィ!

ヒソカの右ストレートがヤムチャさんの顔面を捉えた。

「ぐがっ」

そのままヤムチャさんは地面にたたきつけられるも、すぐさま飛び起きる。


「これ、伸縮自在の愛(バンジーガム)っていうんだ。

 よく伸びよく縮む。つけるもはがすもボクの意志。」


(バンジーガム! 気にゴムとガムの性質を持たせる技なのか!?)


「そろそろ本気でいかせてもらおうかな。

 あっさり死なないで愉しませてくれよ。」


「こんなものっ」

グニグニ、グニョーン。

ヤムチャさんはつけられたオーラをはがそうと手で引っ張ってみるが、

オーラは力を加えられた分だけゴムのように伸びるばかりだ。

…引っ張った右手にもオーラがはりついてしまい、

むしろ状況は悪化した。


「………」

「それで、どうするつもりなのかな?」


グッ!

「おっと!」

再び身体を引っ張ろうとするヒソカのオーラに対抗して、

ヤムチャさんはその場に踏みとどまった。

にやり。

「へっ、引っ張られるからなんだと言うんだ。

 力比べなら負けやしないぜ! 逆に振り回してやる!」


ヤムチャさんは得意げな表情でヒソカのオーラを引っ張る。が、

ウニョーーーーン。

引っ張ってもオーラが伸びるだけだった。ヤムチャさんはバランスを崩してたたらを踏む。


「………」

「あんまり隙を見せられると殺っちゃいたくてウズウズするんだよね。

 そろそろ本気で戦ってくれないかな?」


「…いいだろう。お遊びはここまでだ。

 念とやらについて教えてもらったことには感謝するぜ。」


ゴオッ!!

ヤムチャさんの身体から大量の気がほとばしる。

その圧力を受けて、ヒソカがヤムチャさんに張り付けたオーラが千切れとんだ。


(これは…)

「お前じゃオレには勝てない。終わりだ。ヒソカ。」

ギュアッ!

正面から超高速で接近したヤムチャさんの拳がヒソカを、


『奇術師の真実(レベルリミッターリリース)!』


バシィ!!

「なっ!?」

「――おどろいた。つい本気を出しちゃったじゃないか。」


ヤムチャさんの拳はヒソカの手で受け止められていた。


(ヒソカの潜在パワーが一気に膨れ上がった!?

 どういうことだ!? まだ実力を隠していたのか!?)


「よく熟れた果実はどうしてこうも美味しそうなんだろうねェ。

 これほどの力を持っているとは嬉しい誤算だよ。

 いいね。久しぶりに本気で戦えそうだ。」


ヒソカの顔は大切な宝物を見つけた少年のように紅潮していた。

空間に濃密な殺意が充満する。

ゾクッ!

(うおっ! こいつは……ヤバイ!!)

ヒソカの放つ邪悪な気配。それはかつて見たサイヤ人やフリーザたちと同質のものだ。

バッ、

ボウッ!

ヒソカから距離をとったヤムチャさんの右手に繰気弾が浮かぶ。

「その技はもう見切っているよ。」

ボウッ!

さらにヤムチャさんの左手にも繰気弾が浮かんだ

「!」

「繰気連弾(そうきれんだん)!!」

ギューン! ギューン!

ダン!

上空に跳躍することで

ヒソカは辛うじて繰気連弾の初撃を回避した。

(遠隔操作型の念弾を二つ同時に扱えるのか。)

左右で異なる動きをするダブルの繰気弾。

今回はヤムチャさんが手加減していないため、

以前に比べてパワーもスピードも格段に上がっている。

(悪いが手足を潰させてもらう。しっかりガードしろよ)

ギューン! ギューン!

一方の繰気弾を回避しようとすればもう一方の繰気弾が直撃する。

この絶妙の時間差攻撃が繰気連弾の真骨頂だ。


「なるほど。意のままに動く念弾を二つ同時に回避するのは難しそうだ。でも、」



ヒソカは自分に向かって飛んでくる繰気弾に手を伸ばすと、

バチュッ! バチュウッ!

飛んできた繰気弾を伸縮自在の愛(バンジーガム)で包み込んだ。


「避けるのが難しいんなら受け止めればいいだけだよね。」


(オレの繰気弾を自分の気で覆った!?)


「これも知らなかったようだから教えておいてあげよう。

 遠隔操作型の念弾は本体との連絡を絶つことで無力化できるんだ。」


ヒソカの両の掌にヤムチャさんの繰気弾が収まった。

繰気弾の表面は伸縮自在の愛(バンジーガム)でコーティングされていて、

ヤムチャさんの指示をまるで受け付けない。


(まいったな。

 本当ならパワーもスピードもこっちが上のはずなのに

 あのバンジーガムと『流』のせいでその差が埋められちまってる。)


「どうやってボクを出し抜こうか考えているのかな?

 かかっておいでよ。少し遊んであげよう。」

にやにやと悪戯っぽい笑みを浮かべながら

ヒソカはヤムチャさんを挑発している。


「やなこった。足元のそれをひっこめてくれるなら考えてやらんでもないけどな」


「あれ? 見えてるんだ。

 大量のオーラで全身を満遍なく覆っているから

 『凝』を使わなくても『陰』が見破れるようになっているわけか。

 『流』が使えていないことといい、キミはつくづく規格外なんだね。」


ヒソカを中心に半径5メートルほどの範囲の地面に

薄く伸ばした伸縮自在の愛(バンジーガム)が広がっている。

それはさながら獲物が掛かるのを待つ蜘蛛の巣、あるいはゴキブリホイホイだ。


(『凝』に『陰』に『流』か。

 言っていることの意味がさっぱりわからん)


「キミが無様に転げまわる姿が見たかったんだけどな。残念。」


ダァン!!

ヒソカはジャンプ一番、

大きく振りかぶって第一球を…投げた!

「!」

ドゴオオオオン!!

ヒソカが地上へ向けて放った繰気弾が大爆発を起こした!!



・・・


ドゴオオオオン!!


轟音が響きわたり

大気が弾け、地面がグラグラと揺れる。

あまりに危険過ぎてハンター協会の試験官でさえ近づかない

いま世界で最も危険な戦場の片隅に2人の受験生が潜んでいた。


(オイオイオイオイ! なんだよ今の爆発は!?

 なんなんだよあいつらの化け物っぷりは!?

 戦ってるときの動きが全然見えねーぞ!

 木はなぎ倒すわ地面は陥没させちまうわ!! 超能力バトルか!?

 オレみたいなパンピーが役に立ちそうな空気なんて欠片もねーじゃねーか!!)


ヒソカのスタートダッシュを見て

ヒソカのターゲットがヤムチャさんであることに気付いたレオリオは、

自分の命の恩人であるヤムチャさんの力になるべく、

こうしてほふく前進で様子を見に来ていたのである。


(空気がすごくピリピリしてる。

 ヒソカもヤムチャさんもすごい。

 オレに敵意が向けられているわけじゃないのに、

 見ているだけでこの場から逃げ出したくなる。)


ゴンもレオリオに同行しているが、

こちらはターゲットであるヒソカのプレートが目的だ。


(なんだろうこの感覚。

 すごく怖い。でも、

 なんだかオレ、ワクワクしてる。)


戦場から逃げだしてくる動物たちの動きを逆にたどれば、

ヒソカとヤムチャが戦っているこの場所を見つけ出すことは容易だった。

戦いの巻き添えになることを恐れて誰もが距離をとろうとするなか、

ヤムチャさんの身を案じるレオリオと、ヒソカのプレートを狙うゴンはこの戦いを見守っていた。




・・・


繰気弾の爆発によって発生した衝撃波で

周辺の草木はなぎ倒され、

あたりはクレーターのような荒野へと姿を変えていた。


「……ッ」


舞空術で上空へと逃れていたヤムチャさんが

険しい表情でヒソカをにらむ。


「キミは本当に強い。

 その高みに至るまでにどれほどの経験を積んできたんだろうね。

 幾多の戦いを乗り越え、何十年にも及ぶ鍛練を積み、最後にはここで無残な屍をさらす。

 これまで積み重ねてきた何もかもが無に帰する瞬間。最高だと思わないか?」


繰気弾の爆発が気に入ったのか、

ヒソカは恍惚とした表情で饒舌に語った。


(手加減したままで倒せる相手じゃないな。全力でいく!)


『界王拳(カイオウケン)!』


ヤムチャさんの身体が赤いオーラにつつまれ、その気が数倍にまで増幅される。

もはや人間ではありえないほどのオーラ量。

プロハンター100人分にも匹敵するほどのすさまじいオーラだった。

それを見せつけられたヒソカの顔に浮かぶ感情は、歓喜。


「クククッ、クァハハハハァーーーー!!

 本当に素晴らしい! キミは最高のエモノだよ!!」


ズズズ…!!

ヒソカのオーラがさらに強大さと禍々しさを増した。


(くそっ、なんだってんだ!

 気の大きさは圧倒的にこっちが上なのに、ひどくいやな予感がしやがる!)


ビギュオッ!

ヒソカはもう一つの繰気弾をオーバースローで上空のヤムチャさんに投げつける!

ガシッ、

ヤムチャさんは飛んできた繰気弾を右手でつかむと、

「ふっ!」

パアン!

そのまま力を込めて握りつぶした。

「!」

ギュン!

「新狼牙風風拳!」

瞬時に間合いを詰めたヤムチャさんの

流れるような連続攻撃がヒソカを襲う。

ボギィ!

ヤムチャさんの手刀をガードしたヒソカの左腕が折れた。

ヒソカは左腕にオーラを集中して防御したが、そもそものオーラ量が違いすぎて防ぎきれていない。

ボギョ!

続いてヤムチャさんの蹴りをガードしたヒソカの右腕も折れる。

「…っ」

たまらず距離をとろうとするヒソカだが、

ズドドドドドドッ!!

ヤムチャさんに滅多打ちにされて

タンッ、

「か・め・は・め・波ァーーーー!」

どーん!

ヒソカはボロクズになった。



・・・


「やれやれ」

自らの勝利を確信したヤムチャさんは界王拳を解いた。

かめはめ波の直撃を受けて仰向けに倒れたまま、ヒソカはピクリとも動かない。

ヤムチャさんはヒソカから44番のナンバープレートを回収した。


「悪いな。

 お前が強いもんだからうまく手加減できなかった。

 ハンター協会の人に連絡して回収に来てもらうから、それまでここで大人しくしていてくれ。」


ヒソカを気遣うような言葉を残して戦場を後にするヤムチャさん。


(意識はない。かろうじて生きてはいるようだが、

 完治するまで少なく見積もっても半年以上はかかるだろう。

 …ん、デジャブか? 前にもこんなことがあったような気がするな?)


ヤムチャさんが若干の違和感を覚え、

過去の戦いに思いをはせようとしたその時、




「油断大敵だよ。ヤムチャ。」





不吉な声がヤムチャさんの背後から聞こえてきた。

ガバァ!

死んだふりをしていたヒソカが起き上がり、

下半身から飛ばしたオーラをヤムチャさんの背中にぺたりとはりつける。

ヒソカがつけた伸縮自在の愛(バンジーガム)を通じてさらに大量のオーラを送りつけると、


バチュウゥウウ!


「ぐっ、なんだ!?」

ヒソカのオーラがヤムチャさんの全身を厚く覆った。


『変幻自在の愛(バンジーボール)』



ヒソカの念が具現化され、ヤムチャさんの身体を中に閉じ込めた状態で実体化する!

ヒソカが最初のオーラをつけてからわずかコンマ数秒の間に

ヤムチャさんを中心とした直径2m強の球体、バンジーボールは完成していた。


「両手に凝縮したオーラを一気に放出する、

 キミのかめはめ波はシンプルかつ強力な技だった。

 でも、詰めが甘かったね。」


グンッ!

ヒソカが気合を込めると、バンジーボールが収縮して内部に閉じ込められているヤムチャさんの全身を締めあげた。

「ぎ、がぁ!」

ギュォォオオオオオオッ!!

追いつめられたヤムチャさんは再び界王拳を発動する。

全身から気を放出して、収縮しようとするヒソカのバンジーボールに対抗した。


「すごい力だね。

 どんな怪力の持ち主でも身動きできなくなるはずなんだが

 全身からオーラを放出することで抵抗しているのか。

 すべてのオーラを使い果たすのが先か、それとも呼吸ができずに動けなくなるのが先かな。」


(くそっ、油断した! とにかくここから抜け出さないと!)

ボコッ! ボコッ! バコッ!

中でヤムチャさんが暴れる度に、バンジーボールが飛び跳ねる。


「無理無理。

 ボクの変幻自在の愛(バンジーボール)は内部からの圧力ではまず破れない。」


下半身でバンジーボールの手綱を握っているヒソカは、

破れるものなら破ってみろと言わんばかりの余裕の表情だ。


「これならどうだ!

 か・め・は・め・波ーーーー!!」


ゴオッ!


グニューーー

ヤムチャさんのかめはめ波に押しだされて

バンジーボールの上部が空へ向かって伸びていく。

ーーーーーーンンン……

大きく形を変えて、どこまでも伸びる。

100m、200m、300m、

あたかも一本の塔のようにそびえ立つバンジーボール。

その伸長が、ある高さまで伸びた時点でピタリと止まった。


(ぐっ、破れん!

 というかこれはもしかして…

 ちょ、やばいぞ!!)


ゴムの反動!!

バシュルルルルルル!!


バンジーボールを破りそこなったかめはめ波のエネルギーが、

ヤムチャさんにそのまま跳ね返ってきた。

溜まりに溜まったエネルギーに加え、

密閉空間による折りたたみ効果で倍率さらにドン!


「だああああ!?」


ちゅどーん!!!



すさまじいエネルギーの炸裂に、バンジーボールが赤く輝いた。

ボコボコボコボコ!

激しいバウンドと変形を繰り返し、

ぶしゅーーーー!

表面に入った無数のひび割れから、爆発のエネルギーが拡散していく。

ヒソカは即座にオーラを送り込んでバンジーボールを補強し、ほつれた部分を修復した。


「強化系の力技は通用しない。

 操作系や具現化系だと道具を使うためのスペースが足りない。

 そして変化系と放出系は自分の首を絞める結果に終わる。

 よくできているだろう。」


(さあ、どうするんだいヤムチャ。

 それともこれで終わりなのかな。)


これはヤムチャさん絶体絶命のピンチ!

むしろいまので死んだんじゃね? と思われたそのとき!


ドコッ!

ヒソカの頭部を釣り竿のルアーが直撃する。


ザッ!


「ヤムチャさんを離せ! ヒソカ!!」

「そこまでだ!

 それ以上やるってんならオレたちが相手がなるぜ!!」


釣り竿を握りしめているゴンと、

折りたたみ式の刃物を持ったレオリオ。


敗色濃厚なヤムチャさんを助けるために

2人の戦士が戦場に姿を現した!







*****


ヤムチャの予想を上回る実力を発揮する奇術師ヒソカ!

はたしてヤムチャは変幻自在の愛(スーパーボール)を打ち破り勝つことができるのか?

次回、

「ヤムチャ死す! 恐るべしHISOKA!」

みんなぜったいに見てくれよな!


*****




[19647] ヤムチャ奮闘! 恐るべしHISOKA!
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7f72d672
Date: 2010/09/09 23:59
ヒソカの死んだふりに騙されて、バンジーボールの中に閉じ込められてしまったヤムチャさん。

敗色濃厚なヤムチャさんを助けようと、2人の戦士が戦場に姿を現した。


「ヤムチャさんを離せ! ヒソカ!!」

「そこまでだ!

 それ以上やるってんならオレたちが相手がなるぜ!!」


摩訶不思議な超能力バトルはさっぱり理解できなかったゴンとレオリオだったが、

バンジーボールに閉じ込められたヤムチャさんがスーパーピンチであることだけはわかっていた。


「キミたちは…

 確かゴンとレオリオだったかな。

 ヤムチャを助けに来たのかい?」


乱入者である2人に、ヒソカは笑顔を向けた。


「キミたちがヤムチャを助けたいなら、

 ボクを殺すか気絶させることだ。

 それで彼を閉じ込めている変幻自在の愛(バンジーボール)は解除される。

 早くしないと死んじゃうから急がないとね。」


 
表面上は穏やかなヒソカの対応。

だが、ヒソカから放たれるプレッシャーによって

ゴンとレオリオは身動きがとれなくなっていた。


(な、なんだこれ!?

 ダメだ! これ以上近づけない!!)


ヒソカと戦うどころの話ではない。

ゴンはすぐにでもここから逃げ出したい衝動に駆られた。


(ダメだ! もう無理!! 限界!!

 見るに見かねて飛び出しちまったが、こいつはヤバイ!!

 こうやって向かい合ってるだけで心臓が止まっちまいそうだ!!)


レオリオは全身がガタガタと震えだしていた。

この場に立っているストレスだけでショック死しそうな勢いだ。


「そうだな。このまま立ち去るのなら見逃してあげよう。

 でも、そこから一歩でもこっちに近づいたら」


『死ぬよ。』


ババッ!


ヒソカの用いた「舌」と「錬」に気圧されて、ゴンとレオリオは弾かれるように後退した。


ガクガクブルブル…

ガクガクブルブル…

ガク…

体の震えは止まらない。


「畜生…チクショー!!

 オレはな!!

 友達(ダチ)を見捨てるような真似だけは死んでも御免なんだよ!!!」


ダッ!


「レオリオ!」

「うぉおおお!!」


レオリオは刃物を腰だめに構え、ヒソカに向かって突撃する!!


「うん、いい顔だ。」


ガッ!


レオリオが突きだした刃物は、ヒソカの胸に刺さることなく止まっていた。


(……え?)


トン。

ヒソカが軽くなでるようにレオリオの足を払うと


グルグルグルンッ! ドシャアッ!


レオリオは真上に吹っ飛びながらくるくると2回転半。

頭から地面に落下する見事な車田落ちを披露した。


「レオリオーー!!」


戦いの荒野にゴンの絶叫が響きわたる。



・・・


『オレはな!! 

 友達(ダチ)を見捨てるような真似だけは死んでも御免なんだよ!!!』


「……ぐッ」

(この声は……レオリオ、か?)

ヒソカのバンジーボールの中で、

気絶していたヤムチャさんの意識が覚醒した。


(そうか、オレはかめはめ波をはね返されて

 気を失っていたのか。

 ぐっ、身体に力が入らん。限界を超えた界王拳の反動か!)


バンジーボールに反射された自分のかめはめ波を、

ヤムチャさんは界王拳の倍率を無理やり引き上げることで凌いでいた。

状況を把握するため、ヤムチャさんは精神を集中して外の気を探る。


(外にいるのはヒソカと…

 小さい気がレオリオだな。

 レオリオと一緒にいるのはゴンか?

 まずいな。ヒソカは2人が敵う相手じゃないぞ。)


本気になったヒソカはヤムチャさんを追いつめるほどの実力者だ。

まかり間違ってもゴンやレオリオが太刀打ちできる相手ではない。


『レオリオーー!!』


(ゴンの声!!

 なんでレオリオとヒソカが戦ってるんだ!?

 くそっ、2人が危ない。

 ぶっつけ本番だが、やるしかないか。)


ヤムチャさんはギシギシときしむ身体に活を入れて、

残っている気を右手に集中していく。


「技を借りるぜ。クリリン。

 はぁぁぁああッ!!」


ボウッ!

ブゥン、ブゥン、ブゥン、

ヤムチャさんの右手に浮かんだ繰気弾が、回転しながらその形を変えていく。


「へへへ、泣いても笑ってもこいつが最後だな。

 オレは卑怯なだまし討ちでむざむざ殺されてやるほどお人よしじゃないぞ。

 行け! 繰気斬(そうきざん)!!」


渾身の繰気斬を放ったことで

全身の気を使い果たし、ヤムチャさんは意識を失った。


ザシュッ!

ギューン!!


ヤムチャさんの繰気斬が、バンジーボールを切り裂いてヒソカに襲いかかる!




・・・


痛みにもだえるレオリオを鑑賞して悦に入っていたヒソカだったが、

「ッ!!」

繰気斬によってバンジーボールが内部から切り裂かれていくのを感知して

バッ!

その場から大きく飛び退いた。


ザシュッ!

ギューン!!


(しまった。)

バンジーボールから飛び出したヤムチャさんの繰気斬は弧を描き、

バシュッ!

ヒソカとバンジーボールをつないでいたオーラだけを切断して飛び去っていった。


(円盤状に練り上げたオーラを高速回転させて

 ボクの変幻自在の愛(バンジーボール)を切り裂いたのか。

 やられたね。)


パァン!!


ヤムチャさんを閉じ込めていたバンジーボールが弾けるように消滅した。

ヒソカの身体から離しては使用できないという、

変幻自在の愛(バンジーボール)を維持するための制約が破られたためだ。


「なるほど。器用なことをする。

 でも、今ので本当にガス欠みたいだね。」


ヤムチャさんはその場に倒れたままで立ち上がる気配がない。


(今の光線みたいなのはヤムチャがやったのか!?)


解放されたヤムチャさんにゴンが駆け寄って行くのを見て、

レオリオは決断した。


「ゴン! ヤムチャを連れて逃げろ!!」

「レオリオ!?」


「オレはここでヒソカを足止めする!!

 心配すんな!!

 相手は両腕折れてる上に顔面ぼこぼこの重傷なんだからよ!!

 オレはいいからヤムチャを守ってやってくれ!!」


気合と根性で立ち上がったレオリオは、

汗をだらだら流しながらもそう言い切った。


「…わかった!」


ゴンは意識を失っているヤムチャさんを肩に担ぎあげ、

隠れる場所の多い森へ向かって――


ドゴォ!

ギュルルルルル!! ズシャァーーー!


「!?」

逃げようとしたゴンの目の前に、きりもみ回転しながらレオリオが飛んできた。

レオリオは顔面が大きくはれ上がり、完全に意識を失っている。


「ダメダメ。

 キミとそっちの彼はともかく、

 ヤムチャを逃がすわけにはいかないな。」


(ダメだ。逃げられない。

 オレとレオリオだけなら逃げられる?

 ヤムチャさんを残して?

 …違う、ダメだ。オレはレオリオからヤムチャさんを頼まれたんだ。

 絶対にあきらめるもんか!)


「オレは、絶対にあきらめない!!

 勝負だ! ヒソカ!!」


ヤムチャさんを肩からおろし、

ゴンは決死の戦いに挑む覚悟を完了した。


「ん~~いい顔だ。

 仲間を助けるために命をかけるのかい?

 いいコだね~~~~」


ダッ!

追い詰められたゴンはヒソカに向かって猛ダッシュ!

「うわぁああーーーー!!」

武器である釣り竿をがむしゃらに振り回した!

スッ、ススッ、

そんなゴンの攻撃を、ヒソカは容易く回避した。

ドッ!

ヒソカのつま先が、ゴンの腹にめり込む。

「……っ」

ゴンは釣り竿をとり落とし、前のめりに膝をついた。


「グッバイ。ゴン。」


がしっ!

「?」

ヤムチャに止めを刺しに行こうとするヒソカの足に

ゴンは必死でしがみつく。


「レオリオに……頼まれたんだ……

 ヤムチャさんには…指一本……触れさせないぞ…!」


「そのセリフはもっと力をつけてから言うべきだね。

 少なくとも、今のキミじゃボクを止めることはできないな。」


ビッ! ドシャア!

ヒソカは大きく足を振ってゴンの拘束を振り払った。



『ヒソカの完全勝利』




すべての障害を取り除き、

ヤムチャさんの命に王手をかけたことでヒソカは勝利を確信していた。…だが、


ピシッ!

ヒソカの背後、足元の地面に亀裂が入る。


「!」

ザシュゥッ!!


次の瞬間、地面を割って飛び出してきた繰気斬によって

ヒソカの胴体と両腕はざっくりと切断されていた。

「…ごふっ…」


(バカな…飛び去ったオーラが地中から…

 ヤムチャが意識を失っている以上、念弾の遠隔操作は不可能なはず……?)


ヒソカに致命傷を与えた繰気斬はゆっくりと空へ舞い上がり、

徐々に速度を落としながら緩やかに弧を描いていく。

繰気斬を構成していたオーラは霧散し、光の粒子となって中空へと溶けていった。


(ククク、なるほどね…

 こっちの念弾は自動追尾型……いや、先行入力型なのか。

 初撃が回避された場合は地中からボクを狙うようあらかじめインプットされていた…

 攻撃の気配が希薄だったのは本体がすでに意識を失っているから…

 これはずるいよ。ヤムチャ…)


ヒソカは視界がかすみ、意識がもうろうとする。


(すべてを失い、すべてが終わる。

 これが死という感覚か。悪くない。

 でも、クロロと殺り合えないで終わるのが少し残念かな。

 ねェヤムチャ。ボクの代わりにクロロと戦ってみないかい?

 きっと面白いことになる。)


――ヒソカは死亡した。



・・・


「はっ、はっ、はっ、」

ヤムチャとレオリオは倒れ、ヒソカは死んだ。

戦場に残されているのはゴンだけだ。


(ヒソカが、死んだ…?)


「…そうだ!

 レオリオ! ヤムチャさん!」


(良かった。レオリオは気を失ってるだけだ。

 ヤムチャさんは…?)


「あれ? ヤムチャさん…?

 …息してない!!

 し、死んでる…!?」


ヤムチャさんは力尽きていた。


DEAD END …?



[19647] 「再開×あらすじ×嘘予告」
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/07/09 23:37

*本編開始以前からのあらすじ*

本場のドラゴンボールをめぐるナメック星での戦い。

超サイヤ人に覚醒した孫悟空は、全宇宙の支配をもくろむ宇宙の帝王フリーザを倒した。

それからおよそ1年半後のこと。


「あれが地球だよ。パパ…」


サイボーグ化して復活を遂げたメカフリーザと、その父コルド大王が地球に襲来する。

「いまだ! 全員でかかれ!!」

「魔貫光殺砲!」「魔閃光!」「気円斬!」「繰気弾!」「気功砲!」

フリーザ親子を迎え撃つベジータと地球のZ戦士たち。

「やったか!?」

「フフフ、宇宙最強である我が一族に挑んでくるとは命知らずなことよ」

「地球人…それにベジータとナメック星人か。また殺されに来るとはね」


威風堂々。舞い上がった土けむりの中から、無傷のコルド大王とメカフリーザが姿をあらわした。


「フリーザ! 貴様の相手はこのオレだ!!」

「くそっ、地球をやらせはせんぞ!」

「ピッコロさん!」

ベジータ、ピッコロ、孫悟飯。


「や、やっぱりダメなのかよ…」

「こんなのどうしようもないじゃないか…!」

「四身の拳・気功砲!」

クリリン、ヤムチャ、天津飯。


名だたる戦士たちが束になってかかってもフリーザ親子には歯が立たない。

だが、彼らがかせいだ時間はけっして無駄にはならなかった。

孫悟空が地球に帰還したのである。


「そこまでだ。フリーザ。」

「ようやく到着かい?

 待ちくたびれて地球を壊してしまうところだったよ」

「貴様が孫悟空か。ふん、伝説の超サイヤ人といえども2対1では手も足も出まい」

「そうでもねえさ」

「減らず口を! やるよパパ!

 こいつにはたっぷりと思い知らせてやらないと気がすまない!!」

そして開始される超サイヤ人孫悟空とメカフリーザ&コルド大王との闘い。

「おのれ! ちょこまかとうっとおしいやつだ!」

「あいかわらずだなフリーザ。パワーだけじゃオラには勝てねえぞ」

フリーザ親子の超パワーにもどこか余裕をもって対応する孫悟空。

「なんだとッ!?」

「ま、また消えた…!?」

「瞬間移動かめはめ波だーーーー!!!」

遅れて参戦した孫悟空の活躍により、フリーザ親子はこの宇宙から消滅した。

しかし、この戦いがきっかけで孫悟空は心臓病にかかり命を落としてしまう。



・・・


「心配するな。悟飯、お前はお母さんについていてやれ」

「ピッコロさん…」

たとえドラゴンボールを使っても病死したものを生き返らせることはできない。

母のため、立派な学者さんになるために戦士を引退する悟飯。

悟飯を戦わせないために地球の守護者となることを決意するピッコロ。

「カカロットが死んだだと!? ふざけやがって!

 あいつはこのオレがぶっ殺してやるはずだったんだ!!」

怒りに震えるサイヤ人の王子ベジータは、超サイヤ人の境地を目指してフリーザ軍の残党狩りに明け暮れる。



そして…

「だぁっ! とうっ! 新狼牙風風拳!! てりゃー!!」

シュババババババッ!!

親友であった悟空の死に責任を感じたヤムチャさんは、

悟空に代わってみんなを守ろうと、きびしい修行を繰り返していた。

「はぁ、はぁ、はぁ、ダメだ。こんなんじゃいつまでたっても悟空には追いつけない!」

いったいどうすれば……

「ん? 悟空……? そうだ! その手があった!」

わりとかしこいヤムチャさんはカプセルコーポレーションへダッシュ。

「宇宙船だ! 悟空は宇宙で修行して強くなったんだった!!」

地球での修業に限界を感じていたヤムチャさんは、ブリーフ博士に頼みこんで人工重力装置と宇宙船を作ってもらう。

ヤムチャさんはトレーニンググッズや食料を買い込み、カリン様から仙豆を分けてもらって旅支度をととのえると、

「それじゃいってくる。留守は頼んだぞプーアル!」

新たな可能性と未知なる武術を求めて、宇宙へと旅立ったのだった。



・・・


「よし、あの星に降りてみるか。

 地球よりも重力が強くて酸素が薄い。

 修行にはおあつらえ向きの場所じゃないか」


やがて修行に最適な環境と優れた武道家が存在するH×Hの世界へと到着したヤムチャさんは、

「やあ。キミ、ここでなにしてるの? ちょっと身分証を拝見させてもらえるかな」

「えへへ、すみません、どうも家に忘れてきてしまったみたいで」

不審者として官憲に拘束されかけたりしながらも、

「うーむ、言葉が通じるのはいいが文字はうまく読めんな」

ネットカフェや図書館を利用してこの星の文化を学んでいった。


(来週にはハンター試験があるのか。いいタイミングだ。

 天空闘技場にも行ってみたいけど、まずは就職して足場を確保しないとな)


プロハンターになってハンター協会に身分を保証してもらえれば国境を気にせず自由に動けるようになる。

公的施設はタダで利用できるようになるし、てきとうにノルマをこなせばお金には困らないだろう。

世界最強の武道家とうたわれているネテロ会長にも伝手ができるかもしれない。

…そしてなにより女の子にモテる!


「まさに一石四鳥ってわけだ。

 よし! オレはプロハンターになるぜ!!」


こうしてヤムチャさんはハンター試験に参加することになった。

一次試験の耐久マラソンは脱糞アクシデントで出遅れるも無事合格。

料理が課題の2次試験は地球産の魚を調理することで難なくクリア。

3次試験の難関トリックタワーも舞空術であっさり一番乗りを果たした。

そして自然豊かな無人島、ゼビル島で行われている4次試験、プレート争奪戦の現状はというと――



*****

――ヤムチャとヒソカのプレート争奪戦は相討ちの結果となった。

渾身の力を込めた繰気斬を放ってヒソカは倒したものの、ヤムチャさんは力尽きてしまったのだ。

「ヤムチャさん、ヤムチャさん!」

「くそっ、こんなところで死ぬんじゃねェ! 目をあけてくれよヤムチャ!」

ゴンとレオリオの呼びかけにも返事はない。

ヒソカとの戦いで傷つき倒れたヤムチャ。

彼を助けにあらわれたのは意外な人物だった。

ザッ!

「ドンピシャだ いま助けるぜ ヤムチャさん」

「! 誰だよアンタ!?」

「名はバショウ この場はオレが 預かるぜ」

いつの間にあらわれたのか、そこにはダンディなオッサンが仁王立ちしていた。


『オレ様が 殴ったヤムチャは 蘇生する。

 流離いの大俳人(グレイトハイカー)!!』


ドゴォッ!

死者蘇生の念を込めた右ストレート!!

「ぶふぉぅ!?」

なんと、死んでいたはずのヤムチャさんが息を吹き返した。

「ヤムチャ!」「ヤムチャさん!」

「こいつはオレの祖国が誇る文学で俳句という。

 オレが読み記した句は実現する。以上、説明終わり。」

バショウはジャケットの内ポケットから紙札を取り出すと、スラスラと筆をはしらせる。


『オレ様が 殴ったヒソカは 蘇生する。

 流離いの大俳人(グレイトハイカー)!!』

ドゴォッ!

死者蘇生の念を込めた渾身の右ストレート!!

バショウはヒソカの顔面を全力で殴りつける。

変化は劇的だった。


シュォォォオオオ…!


バショウの拳からヒソカの身体へと大量のオーラが注ぎこまれると、

ヒソカを構成していた各部パーツがオーラを纏い、空へと舞いあがった。


ガキーン! ジャキーン!


切断されていたヒソカの上半身と下半身、そして両腕が空中でドッキング!


ジュバッキーン!!


合体ロボットみたいな効果音とともに、道化師ヒソカは復活した。


「ん、呼び戻されたのか。

 ボクは死ぬのって今回が初体験だったんだけど、

 あの世ってホントにあるんだねェ。」

「ヒソカも生き返っちゃった!?」

「ぬお! い、いきなり殺しにかかってきたりしねェだろうな!?」

「ボクがそんなことするわけないじゃないか。」

ビビるレオリオに、ヒソカは心外だというポーズで無害をアピールしてみせる。

「キミがボクを蘇らせてくれたのかな?」

「そうだとも だから話を きいてくれ」

ヒソカの蘇生に大量のオーラを消費して、青色吐息になったバショウが頭を下げる。

「OK.いってごらん。キミの願いを聞き届けよう。」


・・・


ヤムチャ、ゴン、レオリオ、ヒソカの4人は一時休戦することに合意。

バショウとの話し合いの場を持つ。最初に口を開いたのはヤムチャさんだった。


「すまんな、助かった。

 でもなんでバショウがこの島にいるんだ?」


バショウはヤムチャさんがジャポンに滞在していたころの知り合いだ。

ヤムチャさんがハンター試験を受験するためにジャポンから旅立ってまだほんの数日ほどだが、

いま目の前に現れたバショウは以前とはかなり印象が違う。


「いや、お前は……

 お前はオレの知っているバショウじゃないな。」

「ごめいさつ オレは未来の バショウだぜ」

(?)

「疑問に思っている顔だな。

 もういちど言っておくが、オレはお前が知っているこの時代のバショウじゃない。

 そう、オレは歴史を変える為にタイムマシンでやってきた未来のバショウだったんだよ!!」


「「「な、なんだってーーー!?」」」



未来からやってきたというバショウが語った内容はおそるべきものだった。

そこはヤムチャとヒソカが死んでしまった未来の世界。

人類はキメラアントと呼ばれる危険生物との生存競争に敗れつつあり、絶滅の危機にひんしているというのだ。

キメラアントの王『メルエム』に対抗するためヤムチャとヒソカをスカウトしにきたタイムトラベラー。それがバショウの正体だった。


「本当にヒソカもいくのか?」


ヤムチャ、ヒソカ、バショウの3人は未来の世界にいくためにタイムマシンにのりこんでいた。

さっきまで殺し合っていた相手と行動を共にすることに一抹の不安を覚えるヤムチャさんだったが、


「もちろん。

 相手はあのネテロ会長を殺してハンター協会を壊滅させた連中なんだろ?

 すごく面白そうじゃないか。未来の世界で成長したゴンたちにも会ってみたいしね。

 大丈夫、ボクとヤムチャが組めば絶対無敵さ。」


このヒソカ、ノリノリである。


「よし行くぜ! 未来世界に タイムリーーープゥ!!」


ぽちっとな!

バショウの声だけを残して、

ばみょーん!!

3人が乗ったタイムマシンは時空の彼方へと旅立ったのだった。



***


舞台はキメラアントによって支配された未来の世界!

キメラアントの王『メルエム』を倒すため、ヤムチャたちの快進撃がはじまる!!


「さっきのライオンくんは期待はずれだったけど、

 キミはそこそこ楽しませてくれるのかな?」


ゴゴゴゴゴ……!!

「師団長クラスを倒した程度で調子に乗らないでいただきたい。

 私はメルエム様に仕える直属護衛軍が一人、シャウアプフ。

 ここから先へは通しません」

バシュッ!

「オレの繰気斬が効かない!?」

「私の能力『蝿の王(ベルゼバブ)』は無敵です。

 あなたごときに破れるはずもない。それだけのこと…」

「ここはボクに任せてもらおうか。

 ヤムチャはあっちのデカイのをヨロシク。」


「くらえ! 特大繰気弾!!」

「ケッ!

 馬鹿正直に当たるかよ!

 死ねやオラァ!!」

ギュン!

「ガァッ!?」

「知らなかったのか? 繰気弾からは逃げられない……!!」


直属護衛軍とヤムチャたちの戦いの行方は!!

彼らは伝説のハンター『ジン=フリークス』を喰らい完全体となった『メルエム』に勝てるのか!?


「悟れ。余に貴様らの攻撃が届くことはない。」

「ヒソカ!」

「ヤムチェ…キミは優し過ぎるんだよ。

 相手を殺すことを忌避するあまりに全力を出し切れていないんだ…」


「20倍界王拳ッ!」

「逝け! ヤムチャ!!」

(四方を埋め尽くす夥しい数の念文字…!

 これが余のチカラを封じているのか!?)



『こいつで終わりだ!! 超狼牙風風拳ーー!!』



*****

(´・ω・`) バショウのくだりから先はマルっと嘘ネタです。ツッコミどころ満載でお届けしました。



[19647] ニコル×クラピカ×ギタラクル
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/07/29 23:45
ヒソカとの戦いが決着する少し前。

ヤムチャさんとヒソカが激闘をくりひろげ、ゴンとレオリオがそれを観戦していた一方そのころ。

ヤムチャさんを慕うニコルもまた、世界でもっとも危険な戦場をめざして進んでいた。


(やってやる。やってやるぞ!

 一次試験は脱落していたところを助けてもらってゴールまでたどりついた!

 二次試験はお情けで追加試験を認めてもらって合格できた!

 三次試験では事前に仙豆を分けてもらっていたから死なずにすんだ!

 今度はボクがヤムチャ様の力になる番だ。

 愚かな受験生どもにボクの実力を見せつけてやる!!)


ドゴオオオオン!!


遠く戦場で、ヤムチャさんの繰気弾が爆発する。

轟音がひびきわたり、地面がグラグラと揺れる。


「くっ! なんのこれしき!

 待っていてくださいヤムチャ様、ボクが華麗に助けてあげますからね!」


とうっ!

タッタッタッタ!

足取り軽く、ニコルは戦場へと向かっていた。




***


前回までのあらすじ。


「あれ? ヤムチャさん…?

 …息してない! し、死んでる…!?」




           トv'Z -‐z__ノ!_
         . ,.'ニ.V _,-─ ,==、、く`
       ,. /ァ'┴' ゞ !,.-`ニヽ、トl、:. ,
     rュ. .:{_ '' ヾ 、_カ-‐'¨ ̄フヽ`'|:::  ,.、
     、  ,ェr<`iァ'^´ 〃 lヽ   ミ ∧!::: .´
       ゞ'-''ス. ゛=、、、、 " _/ノf::::  ~
     r_;.   ::Y ''/_, ゝァナ=ニ、 メノ::: ` ;.
        _  ::\,!ィ'TV =ー-、_メ::::  r、
        ゙ ::,ィl l. レト,ミ _/L `ヽ:::  ._´
        ;.   :ゞLレ':: \ `ー’,ィァト.::  ,.
        ~ ,.  ,:ュ. `ヽニj/l |/::
           _  .. ,、 :l !レ'::: ,. "

               `’ `´   ~


ヒソカとの激闘の果て、ヤムチャさんは力尽きたのであった。


***



ヤムチャさんと合流するため戦場へと急ぐニコル。

だが、そんなニコルを見つめている影があった。


(……やはりここに来たか)


ニコルの進路上、木の上に隠れて様子をうかがっているのはクラピカだ。


(ヒソカによってヤムチャが足止めされているのなら好都合だ。

 ニコル個人の格闘能力はさほど高くないだろうが、

 あのデタラメなヤムチャと組まれてしまえばプレートを奪うのは難しくなる。

 試験開始の直後、彼が単独行動を強いられている今が好機!)


遅れてスタートするニコルがすぐさまヤムチャさんのもとへ向かうであろうことは容易に想像がついた。

ヒソカに狙われているヤムチャに加勢しようという

レオリオの提案を断ったクラピカは、単身で自身のターゲットであるニコルを待ち構えていたのだ。


がさがさがさっ、


草木におおわれた森の中、

高くしげった草を踏み分けてヤムチャさんのもとへと急ぐニコル。


\(^o^)/~~~♪


その雄姿はものすごい自信とやる気と慢心に満ちあふれていた。

上方の死角に潜んでいるクラピカに、ニコルはまったく気がついていない。


(……隙だらけだな。

 待ち伏せを警戒している様子もない。

 それだけヤムチャとの合流を急いでいるということか)


駆け足で進むニコルがクラピカの隠れている木の下を通過するその瞬間。

ふっ、

タイミングを見計らっていたクラピカが、音もなく木の上から飛び降りた。


ごしゃっ!


「ぶぎゅるっ!?」


ビッターン!!

落下してきたクラピカの一撃に押し潰され、下敷きにされて地面に突っ伏すニコル。

「ぐっ、いったいなn……はうっ!?」

ガシィッ!

ギリギリギリ、

クラピカは間髪いれずに背後からニコルの首を両腕でロック。

「……が……ぎ……ッ」

ジタバタと抵抗するニコルを全力で絞め落としにかかる。

「……っ……ぉ……――」

どさっ。

戦いとも呼べないような戦い。その決着はあっけないものだった。

クラピカはニコルが意識を失っていることを確認すると、

ニコルのポケットから187番のナンバープレートを回収した。


(すまない。

 4次試験の形式上やむを得ないこととはいえ、

 一次試験で助けられた恩をアダで返す形になってしまった)


クラピカは倒れているニコルに胸中で詫びる。


(自分のプレートとターゲットのプレートを合わせて6点。

 これで合格の条件は満たした。後は試験が終わるまでどこかに身を隠せば――)


ちゅどーん!!!

赤い閃光が森を照らす。

くぐもったような爆発音が聞こえてきた。


(ヤムチャとヒソカの戦いが続いているのか。

 どちらも人間離れしているとは思っていたが、これほどとは。

 もはや人間の領域を超えている…!)


「ゴン、レオリオ、死ぬなよ。」


ぽつりとつぶやき、クラピカは森の中へと姿を消した。



・・・

・・・・・・


クラピカの襲撃にあったニコルが意識を取り戻したのは

しばらく経ってからのことだった。


「ぐぞッ、油断したッ!」


うつ伏せの姿勢で地面に倒されていたニコルは

背中にズキズキとはしる痛みをこらえて跳ね起きる。


(オレのナンバープレートがない!!

 誰だ! いったい誰が奪っていった!?

 拘束されていないのはそれだけの余裕がなかったからか!?)


ナンバープレートを奪っていったのだから、

自分を襲った相手が他の受験生たちの誰かであることは確実だ。

だがそこまでだった。ニコルは襲撃者の顔を見ることすらできずに敗北している。


「~~~ッ!」


ニコルは乱雑に頭をかきむしる。

(チクショウ!!

 どうして防げなかった!?

 オレを狙ってるヤツがいることはわかっていたはずなのに!

 相手が誰かも分からないんじゃ取り戻しようがないじゃないか!!)

止めを刺されることもなく、拘束されることもなく、ただ捨て置かれた。


(まるで相手にされていない……! このボクが、敵に情けをかけられたとでもいうのか!?)


ニコルの体が自分自身への怒りに震える。


(まだだ。まずは80番の彼女を見つけてプレートを奪う!

 自分のプレートを失っていてもこの試験には合格できるんだ。

 ターゲットのプレートを手に入れれば3点、状況は五分に戻せる!

 残りの3点は適当なやつらから奪ってそろえればいい!!)


ニコルはわりと無謀な計画を立てると、

普段の余裕と冷静さを失って再び駆け出していた。


(とにかくヤムチャ様と合流しよう!

 ヒソカから奪ったプレートが余っていれば譲ってもらえるかもしれない。

 くそっ、ボクが油断するのはこれが最後だぞ!!

 オレの前に立ちはだかる奴はどんな相手だろうとぶっとばす!!

 オレの……オレのジークンドーの力を見せてやる!)



・・・


ザザザザザ、ザッ!

ニコルははやてのように森を駆け抜け、目的地へと到着した。


(戦いはもう終わってる。

 一足遅かったか。

 あの襲撃にさえ遭わなければ!!)


遅れて到着したニコルを待っていたのは

えぐれた大地となぎ倒された木々、そして物言わぬヒソカのむくろだった。

戦場にただよう血の匂いに惹かれた好血蝶がひろひらとあたりを舞っている。


(ふん、ヤムチャ様を襲って返り討ちにあったんだな。

 合格確実と言われていた奇術師ヒソカもここでリタイヤか。

 ヤムチャ様はどこに行ったんだろう?)


この戦場跡にヤムチャさんの姿はない。

ならばどこに行ったのか。

ニコルはヤムチャさんの行き先を知るための手掛かりが残されていないかとあたりを調べる。


(これは、折りたたみ式の刃物?

 ヤムチャ様は武器なんて使わないしヒソカの武器はトランプのはず。

 2人以外にも誰かがここに――)


「やあ。」


ふいに、背後から声をかけられた。

「!?」バッ!

即座に反応したニコルが後ろを振り向くとそこには――



       ヽ--、ヽ`ートィ_,ィ
       ーヾ_,?_ミl}//p     カタ
       ノ? o  o  pヽo     カタ
       ,、/o  o,    ヽた   カタ
        l o p ヽ o  { l8   カタ
       ,-l、 / へ、_   ∠、}   カタ
    r-、lム   ='=  (='ゝ,=}=O
    `-'ヽミ_l{|    8 {`  ノ´
        o_l`ミ_ヘ ー==┘l-o
        ol、_ l_l; `o├ーo
  r ‐、   ,、_」 9l l  8 l} rー、
  ヽ ヘ /l○(  oヽ=r=o )r' (⌒i
 -、_,、-'´ ヽ O``--、r', O}-く 、//ー' (⌒i
 _ノ、  r‐、`丶、__○_ム-'´   //丶、/>-'
  ヽ)  ヽノ、     |<|    ´  ヾ`ヽ、
    r‐-、       |<|   ,--‐-、  /Z,
   ヽ- く        |<|   l 301l /Z ヽ



ニコルの後ろには顔と首筋に数十本の針を刺している不気味な男が立っている。

ひどく病的な様相の顔面針男ルーキー、301番のギタラクルだった。


(なんだコイツ!?

 こんなに見通しが良い場所なのに気づかなかった!?

 いったいどこから現れたんだ!?)


困惑するニコルをよそに、ギタラクルは顔に似合わぬ気楽な調子で言葉をつづける。


「ヒソカ、死んでるね。

 まさかヒソカの方が殺されちゃってるとは思わなかったよ。

 そんなに強そうには見えなかったんだけどなー」

(コイツ、もしかしてヒソカの仲間なのか?)

グッ、

「ああ、そんなに警戒しなくていいよ。

 キミは見逃してあげるから。」

(ハッ! このボクを“見逃してあげる”だとぅ!?)

(#^ω^)ビキビキ。


「42番がヒソカを殺したのはまあどうでもいいけど、

 弟にまで手を出されるようだとちょっと困るんだよね。」


なおも一方的にしゃべり続けるギタラクル。

その間、ニコルの視線はギタラクルの左胸につけられている301番のナンバープレートに吸い寄せられていった。


「キミは42番とよく一緒にいた人だよね。

 ねェ、42番ってどういう人物なのかな?」

「…………」

ギタラクルの問いかけに沈黙で答えるニコル。

見るからにオツムの出来が悪そうな男に、スーパーエリートである自分が軽んじられている。

その事実が、ニコルには例えようもなく不愉快だった。


シュッ! シュバッ! ビシィッ!


ニコルは大仰な動作で相手を威嚇するような構えをとる。完全な戦闘態勢だった。

「このボクが、命の恩人を売り渡すようなマネをするとでも思いましたか?」

「ん?」

「さきほど貴方はこのボクを見逃すなどと言っていましたね。

 思い上がりもはなはだしい!

 来なさい。格の違いを教えてさしあげましょう!」


波乱含みの出会い。マジでキレる5秒前。

それが謎の顔面針男ギタラクルと、ニコルのファーストコンタクトだった。


「うーん、42番の情報だけ教えてくれればいいんだけどな。

 キミを殺したのが42番に知られたらめんどくさいことになりそうだし。」


クワッ!!

ギタラクルのなにげない一言に、自分を無視されたニコルの怒りが爆発する。


「……ふざけんな。

 なめてんじゃねーぞ! このドチクショーがァ!!」

ジャッ!

ニコルは力強く大地をけった。

右と見せかけて左、左と見せかけて右。

ニコルはいくえにもフェイントを交えたトリッキーな動きでギタラクルに襲いかかる!

「ちぇすとー!!」

「ん。」

ビッ!

ドスドスドスドス、ブシュゥッ!!

ギタラクルが右腕をひらめかせると、投擲された無数の針が飛びかかろうとするニコルの顔面に突き刺さった。

「あ…が…」

苦悶の声をあげて、ニコルはその場にくずれ落ちる。


「あーあ。殺しちゃった。

 せっかく見逃してあげようと思ったのに。

 なんで攻撃してくるかなー」


(ヤ…ムチャ…さ……ま………と…う…さ……ん……)


「情報を引き出すだけなら死んでたってかまわないか。

 あんまり無駄な殺しはしないように言われてるんだけどな」


ギタラクルの声には緊張感の欠片もない。

殺人を犯してもなお、ギタラクルはどこまでも自然体だった。



・・・


とある手段を用いて、

物言わぬ死体となったニコルからヤムチャさんの情報を引き出したギタラクル。

わかったことはヤムチャさんが世界有数の念の使い手であろうという事実だ。


ギタラクルは考える。

(かめはめ波、舞空術、繰気弾、狼牙風風拳。

 強力な発を複数習得している、おそらくは放出系に属する念能力者。

 強化、放出、操作の3系統を高いレベルで使いこなし、仙豆という優秀な回復手段まで有している。)


「なるほど。これならヒソカが負けるのも無理ないか」


戦闘目的で練磨された複数の念能力とほぼ無尽蔵とも思える圧倒的なタフネス。

正面からの戦闘で打ち破るには骨が折れる相手だろう。

加えて、ヒソカにはギリギリの戦いを愉しもうとする悪癖があった。

仙豆を持っていることを知らずに対峙したのなら、ヒソカほどの実力者であっても足元をすくわれることは十分にありうる。


(まだヒソカを真っ二つにした奥の手も隠し持っているはず。

 それに、オレが42番の擬態を見抜けなかったってことは

 42番はオレよりも数段上の実力者ってことになっちゃうんだよね。)


とはいえ、自分から率先して戦いを仕掛けるほど好戦的ではないようだし

こちらから手を出さなければ問題はない。

この試験に参加している自分の弟が殺されることもないだろう。

そう結論付けたことで、ギタラクルの心配事は解消された。


「あ、死体が見つかったら傷口でオレが殺したってわかっちゃうよね。

 しょうがない。埋めとくか。

 そうだ。寂しくないようにヒソカも一緒に埋めておいてあげよう。

 うーん、オレって優しいな~」


猫目の青年は素手で地面を掘りはじめる。


ザック、ザック、ザック、


――ヒソカとニコルは仲良く埋葬された。




[19647] キルア×ハンゾー×ヤムチャ復活?
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/07/29 23:45
「199番ねェ。他のヤツらの番号なんかおぼえてねーよ」

銀髪の少年、キルアは一人てきとうに島を探検しながらぼやいている。

ヒソカとニコルが眠っている場所とは別方向に位置する森の中。

この場所でも仁義なきプレート争奪戦が幕を開けようとしていた。


(ひい、ふう、みぃ、3人。たいした連中じゃないな。

 ま、ヒソカとハンゾー以外なら何人いてもオレの敵じゃないだろうし、

 ハンター試験ってもこんなもんか。)


期待はずれ。

そんなことを思いながらテクテクと歩いていくキルアの目の前に、


「見つけたぜ!」

ザザザッ!

しっかり者の長兄アモリ、力自慢の次兄ウモリ、ちょっと臆病な末弟イモリ。

アモリ3兄弟があらわれた!!


「よぉボウズ、プレートをくんねーか。

 おとなしくよこせば何もしない。」


末弟のイモリがキングオブチンピラーの風格を漂わせ、キルアにプレートを要求する。

イモリの後ろからは長兄アモリと次兄ウモリがにらみを利かせていた。

キルアは心底どうでもよさそうな表情(カオ)で3人組を見つめる。


「うしろ、危ないぜ」

「あん? そんな手にのると思って」

「うおッ!」

ガッ!ドガッ!ダダンッ!

3兄弟の死角から忍び寄っていた黒い影が、後方にいた長兄アモリを襲う。

「に、兄ちゃん!?」

「くそっ、後ろに一人隠れてやがった!」

「円陣を組め! 警戒!」

キルアの忠告により難を逃れたアモリの号令で、3兄弟は素早く戦闘に意識を切り替える。

3人が背中合わせになって全方位を警戒する防御陣形(ディフェンスフォーメーション)だ。


「てめ、人が助けようとしてやってんのにバラすとはどういう了見だゴルァ!」


抗議の声を上げたのは、さきほどの黒い影こと雲隠れ流の上忍ハンゾーだ。

彼はキルアを援護するために奇襲を仕掛けようとしていたのだが……


「べつに。助けてくれなんて頼んでねーし」

「ッ、協調性の欠片もないクソガキだな!?」


3次試験を一緒に突破したよしみで助けに出てきてみればこのざまだった。


(どうやら知り合いみたいだが、連携しているわけでもないようだな。

 あとから出てきた黒いヤツの狙いはオレのプレートか?

 はさみうちの形になったのはただの偶然……)

キルアとハンゾーのやりとりから、アモリは2人が積極的な協力関係にはないことを悟った。


「黒いヤツはオレが相手をする。ウモリとイモリはさっさとそのガキを仕留めろ!」

「了解。」「わかった!」

「GO!」

ダッ!

長兄アモリの指示を受けて、ウモリとイモリがキルアに襲いかかる。

まずは弱そうなキルアを弟たちに速攻でかたづけさせて、

その余勢をかって強そうなハンゾーを3人がかりの盤石の布陣で仕留める。

それがアモリの目算だった。


弟たちとキルアの戦いを背に、アモリはハンゾーと対峙する。

「ようアンタ、せっかく助けにきたってのに肝心の相手があれじゃ報われねェな」

「お、わかってくれるか。

 いやー、こう見えてもオレって結構世話焼きなところがあってよ

 目の前で知り合いが絡まれてるとちょっとほっとけないんだわ」

ばき!

「そうかいそうかい。

 お互いに苦労性みたいだな。アンタとは気が合いそうな気がするよ」

ぼかぼか!

「……時間かせぎのつもりかも知れんがな。見込み違いだぜ。」

ごす! ごす!

「なにを言って」

ぼかばきどかばきぐしゃっ!

「ぎゃああああ!!」「のわあああ!!」

「!?」

弟たちの悲鳴を聞いて、思わず後ろを振り返ってしまうアモリ。

彼が見たのは、最愛の弟たちがキルア少年のヤクザキックを喰らってケチョンケチョンに負けている光景だった。

「ウモリ! イモリ!!」

ダン!

狙い澄ましたハンゾーの手刀が、

無防備をさらしているアモリの首筋に打ち込まれる。


「自分のこと以上に兄弟を気にかけるってのには感心するがな、敵から目を離すのはよくないぜ。」


ハンゾーのチョップがクリティカルヒットしてアモリお兄さんもノックアウト。

本試験の常連でありチームワークには定評のあったアモリ3兄弟だったが、

キルアとハンゾーのルーキーコンビ(?)に敗れ、今年は第4次試験で姿を消したのだった。


・・

「あったぜ。198番だ」

「お、199番みっけ。ラッキー♪」


やっつけたアモリ3兄弟のポケットをあさり、

無事にターゲットのナンバープレートを回収できたハンゾーとキルア。

どちらからともなく顔をあげると、両者の視線が交差する。


「ありがとうはどうしたクソ坊主。」

「別に。誰も助けてくれなんて頼んでねーし。

 こんな連中くらい何人いたってオレの敵じゃないよ。

 3人組を倒すのに協力してやったんだ、むしろ感謝してほしいのはこっちだね。」

「ハァ?」

手にしたプレートをもてあそびながら持論を展開するキルア。

ハンゾーは顔をひきつらせ、青筋を立ててキルアをにらみつける。

ぷい。

2人はほとんど同時にそっぽを向いて、それぞれが別々の方角へと歩きだした。

「クソ生意気なガキだぜ。ゴンの素直さを少しは見習えやボケ。」

「うっせーよ。おせっかいなハゲ忍者。」

「ッ、オレはハゲじゃ…!」

タッ!

キルアはハンゾーの抗議を華麗にスルー。駆け足でその場を離れていく。


「あーあ。まだ6日間も残ってるんだよなー

 だいたい早抜けなしで1週間ってのが長過ぎだろ。

 こんなもん一日あればよゆーで集められるっつーの」


キルアはぐだぐだと愚痴をこぼしながら、ゼビル島の探検を再開するのだった。



・・・

・・・・・


さて、なんだかんだで試験開始から数日後の夕方である。

ゴン、レオリオ、ニコル、クラピカ、ギタラクル、キルア、ハンゾー。数多くの受験生たちがしのぎを削っているそのさなか。

会場であるゼビル島のとある場所で、あの男が復活を遂げようとしていた。



***


『でも、クロロと殺り合えないで終わるのが少し残念かな。

 ねェヤムチャ。ボクの代わりにクロロと戦ってみないかい?

 きっと面白いことになる。』


とある奇術師の戯言。


***



ヤムチャさんがぼんやりと目を開けると、

そこは薄暗い洞窟の中だった。


(ん、ここは……?)


ヤムチャさんは敷き詰められた木の葉の上に寝かされている。

右腕は透明なチューブで点滴パックとつながれていた。


「ヤムチャさん!」

「やっと目ェ覚ましたのかヤムチャ!

 ったく、丸2日以上もグースカ眠ってるもんだから心配したんだぜ!?」


(ゴン、レオリオも、無事だったんだな。)


ヤムチャさんは上体を起こそうとする。が、


「が……ぎっ……ぐ…げごっ…!」


バタンキュー力尽きた。

ヒソカ戦のダメージでメキメキと身体が痛み、起き上がることができない。

「ヤムチャさん!」

「無理すんな、まだ起き上がらないほうが良いぜ。

 ヒソカと戦ってたのは覚えてるか?

 オメーは極度の疲労でぶっ倒れたんだよ。

 オレがゴンにたたき起された時には心肺停止状態だったんだ。蘇生処置が間に合ってよかったぜ。

 本当なら正規の病院で診てもらった方が良いんだが、いまはハンター試験中だからな。

 栄養剤と痛み止めを打っといたから

 しばらく安静にしてれば動けるようにはなると思うんだが――」

心配した様子のゴンとレオリオがヤムチャさんの顔をのぞき込む。

ヤムチャさんは2人を安心させようとせいいっぱいの笑顔を作ってみせた。

「おかげで助かった。ありがとう。

 すまんが、帯の裏のところに仙豆の入った袋があるはずだ。ちょっと食べさせてもらえるか」

「「センズ?」」

ごそごそごそ、

「これかな?」

「ああ、それだ。一粒でいい。」

ゴンは見つけた皮袋から仙豆を一粒取り出すと、ヤムチャさんの口へと放り込んだ。

カリッ、ポリポリポリ、ゴックン。

「よっ!」

シュタッ!

ヤムチャさん復活!!


「「!?」」


「心配させて悪かったな。もう大丈夫だ。

 これは仙豆と言って、カリン様という仙人から分けていただいた特別な豆なんだ。 

 一粒食べればどんなケガでも治るし体力も回復する。」

「どんなケガでも?」

「ああ。どんなケガでもだ。首の骨が折れていたって助かるんだぜ」

ゴンの質問にちょっぴり自慢げに答えると、

「この点滴、外したいんだが抜いてもいいか?」

軽い感じで点滴パックのチューブを外そうとするヤムチャさん。

「ま、待った! ちょっと診させてくれ!」

レオリオは目の前で起こったヤムチャさんの突然の復調が信じられず、

ワタワタとヤムチャさんの診察をはじめた。


(……健康体だ。

 疲労している様子はないし肌の色つやもいい。

 おまけに損傷していたはずの骨や筋肉まで完全に治ってやがる!!

 ついさっきまで起き上がることもできなかった人間が一瞬で!?)


「って、なんじゃそりゃーーー!!!」


暗い洞窟に、レオリオの絶叫がこだました。



・・・


その日の夜。

ヤムチャさんたちがいる洞窟に忍びよる2つの影があった。


(フン。一息ついて気が抜けたか?

 見張り番も立てないとは能天気なやつらだ。

 どうやってヒソカから逃れたのかは知らんが、

 あの野グソ野郎を助けたのが運の尽きだったな)


からくもヒソカを退けたヤムチャさんたちのもとに、あらたなる刺客の魔の手がせまる!!


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