専門学校で出会ったという原田郁子(Vo, Key)、ミト(Ba, etc.)、伊藤大助(ds.)の3人によって、1996年に結成されたクラムボン。1999年のメジャー・デビュー以降、ポップとラジカルの間を自在に行き交うジャンルレスな音楽性であらゆる層から支持を集め、音楽シーンの中でもひときわ異彩を放つピアノ・トリオである。
2010年にはこれまでの活動の集大成ともいえる8 thアルバム『2010』をリリースし、4ヶ月にも及ぶ全国ツアーを実施。よみうりランド オープンエアシアター EASTではワンマンライブ「clammbon 2010 『☆SUPER☆STAR☆』」を開催し、集まった約8,000人ものオーディエンスを魅了した。
彼らはこのツアーを実施するにあたり、バンドとしての機動性の改善と、サウンド面のさらなる向上のために、使用機材の見直しを試みた。そこでバンドのフロントマンでもある原田郁子は、KID(KORG Import Division)取扱いブランドであるNordのオール・イン・ワン・キーボード、Nord Stage EXを選択。伊藤大助はダイナミック・パーカッション・シンセサイザー WAVEDRUMを自身のドラム・セットへ組み込み、ミトもKID取扱いブランドであるaguilarのベース・アンプ DB751とDB112というセットで、よみうりのステージへ挑んだ。
今春には2枚のベストアルバムのリリースを控えているクラムボン。ミトを筆頭に古くからコルグ製品を愛用しているという彼らへのロング・インタビューをここに掲載する。
(コルグ) : ミトさんの到着がまだですが、とりあえずスタートしましょう。ではまず原田さん、鍵盤をNord Stage EXに切り換えた経緯をお聞かせ下さい。
原田郁子 : えっとですね、もともとクラムボンがバンドとして動き出したのが15年くらい前なんですけど、その当時、まさにTRINITYが発売になったばかりの頃じゃないかと思うんですよね。
そうですね。
郁子 : 楽器店に行くと、あの銀色のボディが並んでいて、当時すっごく新しく見えた…それまではキーボードといえば黒、っていうイメージがあったから。しかも、その時は一番小さい61鍵を買ったんですけど、すごくこう、バンドマンすぎず、良い意味で軽そうに見えたっていうか、これだったら自分にも何か出来るかなって思えて、買ったんです。
有り難うございます。
郁子 : そこから、ライブでは必ずそのTRINITYがメインのキーボードだったんですけど、ミトくんが、その中にあるシーケンサーで、曲の素材だったりフレーズだったり、曲そのものをデモで作るようになって。だからもう、TRINITYは私たちにとって無くてはならないものになって。
それもまた有り難い話です。
郁子 : それでずーっと活動していたんですけど、段々やっぱりみんな、十代の頃と比べると、もっと良い音で演りたいってことで、楽器とかドラムセットとか、ケーブルだったりシールドだったりが変わっていくと、「もっと合う音があるんじゃないか」ってことで、生ピアノに近い音を探求するようになって。それで色んな鍵盤を使ってみたりしてたんですけど、それでも絶えず左側にはTRINITYがあって。TRINITYでしか弾けない曲ってのがあったので、二台使うのがここ何年かのやり方だったんです。
なるほど…。
郁子 : で、今年のツアーは、今までで一番、沢山色んなところを回るツアーにしようと思って、そのためには、車一台に全ての機材と楽器を載せなきゃいけない。だから各自の機材をとにかくコンパクトにする、っていうのが裏テーマとしてあったんです。だからエンジニアの西川さんもデジ卓を買ったり。不慣れな部分はあっても、コンパクトにするために、トライしようってことでやって。で、私の中でも、鍵盤をどうやって一台にまとめようって考えてて。ピアノの音はやっぱり、曲の中で一番メインになることが多いから、妥協はしたくないんだけど…。でもミトくんがギターを弾く曲ってなると、やっぱり鍵盤でベースを弾いて、ボトムを支えたりしなくてはいけなくて。しかもその時に、スプリットで、右手では別の音色を弾きたい。しかもそのスプリット・ポイントを細かく指定してTRINITYと同じにしたい。それに、音色それぞれにエフェクトをかけることは出来るのか、とか色々要望はあったんです(笑)。
そうだったんですね。
郁子 : それで西川さんと楽器店に行って、いくつか鍵盤を触って、パンフレットとか見て。それでNord Stageの前でガッツリ、色々ピンポイントで試してみて。それで、私も西川さんも、今回にはこれが一番合ってるんじゃないかな、と思って。
有り難うございます。
郁子 : でも、「やっぱ音出しながらやってみないと分かんないね」って部分もあったんです。楽器店で弾いた時に、鍵盤単体ではピアノの音が良くても、それをバンドで演った時にどうなのか、とか、あとはシンベのローの具合とかもやっぱり分かんなくて。でも結果、元々の、それこそ10年ぐらい前にミトくんが、TRINITYで「これかっこよくない?」って言いながら作った音色を受け継ぎつつも、さらに良い音になった・太くなった、っていうのが今回すごい良くて。それがもう…「てへっ☆」って感じでした(笑)。「やったー!」みたいな。
(笑)本当によかったです。
郁子 : っていう、すっごい長いですけど、これが動機、でございます。
じゃあ実際にバンドで合わせて、音を出してみた時に、「これでいける」とお思いになられたわけですね。
郁子 : そうですね。例えば、鍵盤の左手と、ミトくんのベースが完全にユニゾンで「デュデュデュデュデュデュ」って打ってる曲があって、それってレコーディングだったら鍵盤のローをガッツリ削れば両立できるんですけど、やっぱライブだと限界があって、「左手はいらないんじゃない?」っていうくらいベースと被る曲も、ある。でもそこでガガガッって行く厚みも欲しいってときに、なぜかこのNordの鍵盤ってのは、どんだけ低域を弾き続けても、中域から高域が潜んなかったんですよ。だからそれが一番の決め手かな。鍵盤楽器って、ほんとの生ピアノに近づこうとするのが普通だから、ローが膨らめば膨らむほど、上の音はマスキングされてあまり伸びなくなるというか、全体で鳴ろうとするんですけど、これは、左手で下をガンガンやっても、右手で上はキラリンっていう、抜けがちゃんと残ったんです。だから「これ、バンド向けなんだね」って話をしてたんですよね。何で皆がそんなにNordを背負ってるのか(笑)、下北沢とかで赤いのを背負っているのかが、やっと分かりました。なるほど、って。
じゃあ基本的に、音色はどのくらいお使いなんですか?
郁子 : メインのピアノの音が一音色と、あとはそのスプリットで、元々TRINITYで演ってた音色を再現した音っていうのを、結構作りました。曲ごとに「この曲のこのタイミングはこのディレイじゃないと成立しない!」って既にTRINITYの方で決まっちゃってるから、それを再現するために、すごい時間かけて作りました。だから一曲分の音色が完成するごとにハイタッチ、みたいな(笑)。