ヒルノダムールを天皇賞に送り込む昆調教師は“馬本位”で頂点へ

2011.04.28


昆調教師はヒルノダムールの盾制覇に手応えをつかんでいる【拡大】

 GI4勝の昆貢調教師(52)が、産経大阪杯で待望の重賞初Vをあげたヒルノダムールを「第143回天皇賞・春」(5月1日、京都、GI、芝3200メートル)に送り込む。“馬本位”の調整で08年ダービーをディープスカイで制した知性派トレーナーが、1年間、手塩にかけて育てあげたダムールで逆転Vなるか。積み重ねてきた“我慢”が、大一番で実を結びそうだ。⇒【枠順はこちら】

 −−天皇賞・春にヒルノダムールが挑む。前哨戦の産経大阪杯をレコード勝ちして絶好の勢いだ

 昆調教師「ここにきて充実しているね。デビュー以来、無理をせず馬に合わせて使ってきたから。昨年のクラシックシーズンにも“王道”という言葉には惑わされず、丁寧にローテーションを組んできた。それが今年の活躍につながったんだろう」

 −−昨年のクラシック3冠は(2)(9)(7)着。皐月賞の前哨戦は若葉Sだったし、菊花賞も札幌記念から間隔を空けての参戦だった

 「皐月賞は2着だったけど、重賞のトライアルは使わず、OP特別(若葉S2着)のトライアルから駒を進めた。完成途上の時期に余計な負担をかけたくなかったので、あえて(東上しなくていい地元阪神の)OP特別にしたんだ。もし皐月賞に出られなくても、それでいいと覚悟したうえでね」

 −−無理をしない我慢が4歳で花開いた

 「そのとおり。1年遅くはなったけど、今は本気でGIを狙える。産経大阪杯は見た目、楽な競馬に見えるかもしれないけど、一番いいポジションっていうののは一番苦しいポジションでもある。後ろを警戒しつつ、前を捕らえる。ああいう競馬ができたのは自信につながったね」

 −−中間も思いどおりの仕上げができたようだ。27日は時計のかかる坂路でラスト1F12秒5

 「ラスト1Fだけビシッと追ったんだが、前走と変わらず、いい雰囲気。馬場が重かったので時計は地味かもしれないが、良馬場なら12秒フラットは楽に出ていたはず。順調だよ」

 −−過去の看板馬には08年にNHKマイルCとダービーを制したディープスカイがいるが、同様に馬本位のローテーションだった

 「あれだけの力を持った馬なら、普通は皐月賞へ向かう。それが王道と思われているよね。でも、俺がやるのは馬に合わせた調教とレース選択。それこそが王道なんだ。ディープスカイの場合は、毎日杯(1着)からNHKマイルCと決めて、最初から皐月賞は頭になかった。もし出ていても掲示板がいいところだったんじゃないか」

 −−馬本位という言葉自体は簡単だが実行は難しい

 「自分だけでローテーションを決めて調整して使う。あくまで馬に合わせてね。一部の厩舎は馬主からのオーダーを最重要視するようだが、それは本末転倒だと思う。大牧場が強くなりすぎるのはどうかな。日高の馬で結果が出せるとうれしいよ」

 −−言葉どおり、ヒルノダムールは橋本牧場(北海道新ひだか町)、ディープスカイも笠松牧場(北海道浦河町)の生産だ。そんな日高の馬を中心にやってきて、今年はJRA12勝で全国9位につけている。ベスト10以内で、連対率は唯一3割超えの3割2分3厘だ

 「実際、超良血がいないウチ程度の厩舎が3割2分(の成績)をあげられるのは、それだけうまく馬を回せているということだね」

 −−好リズムのまま、天皇賞も決めたい

 「勝ちたいのはもちろんだけど、春の天皇賞は距離適性がモロに出るレースだからね。菊花賞は7着だったけど、道中で3度もブレーキをかける不利があったし、力負けではないと思っているから特に悲観はしていない。でも、だからといって長距離向きかどうかはやってみないことにはね」

 −−ライバルは最強といわれる同期の4歳世代。逆転しなければならない馬もいる

 「確かに今年の4歳世代のレベルは高い。高いレベルの馬同士がレースを続けてきたら、丈夫な馬だけが残るだろう。そういう意味では、ヒルノダムールもタフな馬だ。掛からずに乗りやすく、(盾制覇の)資格は十分にあると思う。期待しているよ」 (聞き手・田中恵一)

 昆調教師は天皇賞と同日に行われる東京メーン、オークスTRの「スイートピーS」(芝1800メートル、2着まで優先出走権)にも有力馬オースミマイカを送り込む。若林牧場(北海道新冠町)の生産で、前走・忘れな草賞では最後方からメンバー中最速の末脚を発揮し3着に入った。「昨夏の小倉で新馬戦を勝ったときに大物になりそうだと(福永)ジョッキーと話していたが、前走でようやく控えて切れる脚が使えた。あれなら東京で楽しみが持てる」。ライバルは忘れな草賞6着のシシリアンブリーズ程度で、ダムールと東西メーンジャックの可能性は十分だ。

 ■昆貢(こん・みつぐ)1958年6月14日生まれの52歳。北海道出身。78年に騎手デビューして、89年の引退までJRA通算1121戦92勝。助手を経て2000年に開業した。初勝利は4月15日の阪神7R(アルアラン)、同馬で重賞初制覇(02年交流GIIオグリキャップ記念)も果たした。GIは4勝で08年にディープスカイでNHKマイルC&ダービーの“変則2冠”、09年にローレルゲレイロでスプリントGI完全制覇(高松宮記念&スプリンターズS)を決めている。23日の京都4RでJRA通算200勝を達成した(現在201勝、うち重賞9勝)。

 

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