東日本大震災の被災地復興の指針となる政府の基本方針が決まった。当初5年間で少なくとも約19兆円を投じることなどを固めたが、復興に伴う財源で臨時増税を「10兆円規模」と明記することに与党の慎重論が強く、見送られた。
悪化する財政への影響を抑えつつ十分な財源を確保するため、相当程度の増税は避けられない。財源問題が政争の材料となり、復旧・復興に影響することは許されない。与野党は財源問題を決着させる責任を共有し、協議を急がねばならない。
基本方針は菅直人首相の諮問機関、復興構想会議の提言を踏まえたもので、本格復興を目指す政府の11年度第3次補正予算案の指針となる。政府は10兆円程度の財源を5~10年の臨時増税でまかない税目は所得、法人両税の基幹税の定率増税を柱とすることで検討している。大筋において、妥当な方向だろう。
ところが、こうした方針の明記に民主党から慎重論が噴出した。確かに法人税などは景気への影響を危ぶむ懸念もあり、消費増税との兼ね合いも未整理だ。政府の一層の歳出見直しや保有資産の売却などさまざまな方策で多角的に財源を確保する努力も不可欠だろう。
だからといって、増税自体に反対するような議論は理解に苦しむ。来る民主党代表選の争点にしようとする動きすらある。党の圧力に屈し表現を譲歩した政府の対応も問題だが、単純に赤字国債増発に頼ろうとするような議論では無責任とのそしりを免れまい。
一方で、基本方針に不満もある。5年間で集中的に復興を進める姿勢を打ち出したが、具体的なメニューとなると復興構想会議の提起した項目をなぞった印象だ。震災から140日経た復興プランとしては肉付けに乏しい。
被災地にとって必要なのは予算の総額ではなく、復興特区や集団移転など核心部分の支援の具体策だ。政府、与野党とも予算規模と増税論議に比べ、肝心の支援策への関心が総じて薄いのではないか。
基本方針に基づき、政府は3次補正予算の編成に向けた作業に着手する。首相の進退問題がこう着する中、誰が担い手となるかは不明である。たとえ首相が交代しても、ねじれ国会の下で財源問題を調整する展望が開ける保証もない。
首相交代問題の影響などで3次補正編成が大幅に遅れるとの見方も与党の一部にあるが、論外だ。政府は増税論議を税制調査会にまず委ねるというが国会にも復興財源に道筋をつけ、被災地の不安を除く責任がある。与野党は首相進退と切り離し、早急に財源を協議すべきである。
毎日新聞 2011年7月30日 2時33分