きょうの社説 2011年7月30日

◎民主党の合区案 理念にも実現性にも欠ける
 民主党が「1票の格差」を是正するため、参院の選挙制度改革案をまとめた。石川、福 井など県単位の計10選挙区を二つずつ統合する「合区案」を柱にして定数削減を図るとしているが、野党の改革案との隔たりはきわめて大きく、実現性に乏しいと言わざるをえない。制度改革の理念がそもそも不明確なため合理的な説明がつかず、選挙民の理解は得られないだろう。

 民主党の改革案は、選挙区選挙の定数を合区などで現行の146から126に、比例代 表定数を96から76にそれぞれ20減らす。これによって、現在最大で5倍の開きがある一票の格差は2.967倍に縮小されるという。

 合区案は▽山梨・長野▽石川・福井▽鳥取・島根▽徳島・高知▽佐賀・長崎の組み合わ せで、定数は「山梨・長野」を4、そのほかは2とする。これら10県の選挙区の現定数は長野が4、それ以外は2であり、合区によって定数は計10減ることになる。

 合区対象県の選定基準は定かではないが、鳥取、島根、高知、徳島、福井、佐賀、山梨 の7県は、県人口が50万から80万人台の人口下位県である。現在2の定数を削減しようにも、3年ごとに半数を改選する参院選の仕組みから定数を1にすることはできない。このため、隣接県との合区で定数削減を図る狙いとみられる。

 人口が100万人を超える石川、長野、長崎の3県はたまたま人口少数県と隣り合って いるため、いわば道連れで定数削減を迫られるかたちであり、割を食う印象がぬぐえない。富山は1県で定数2のままであるため不公平感が出る上、北陸の一体性が損なわれることになりかねない。しかも、定数2で改選議席が1の合区選挙では、人口の少ない福井や佐賀県から議員が出にくくなる恐れもある。

 参院選は単なる地域代表選ではなく、国家国民を代表する有徳有識の人物を選ぶ選挙で あるといった明確な理念に基づく改革であれば、合区案やブロック案もそれなりに筋の通ったものになる。しかし、民主党の合区案は手っ取り早く1票の格差を是正するための便法といえ、説得力に欠ける。

◎のと鉄道とJR 乗り入れは鉄路生かす道
 JR金沢駅と、のと鉄道穴水駅を結ぶ直通列車が9月下旬に試験運行されることになっ た。2014年度の北陸新幹線金沢開業をにらみ、能登への二次交通を充実させる県の試みだが、JR七尾線とのと鉄道の相互乗り入れは、県内を縦断する鉄路を最大限に生かすという点では自然な発想であり、沿線住民にとっては一次交通としての「生活の足」の機能を高める意味をもつ。

 全国的にローカル線は経営が成り立たずに廃線が相次ぐなか、廃線したレールを復活さ せたり、企画列車を成功させるなど「鉄道復権」へ向けた新たな動きも出始めている。JR七尾線、のと鉄道ともに厳しい運営を強いられているが、新幹線開業はこの二つの路線の魅力を引き出す好機でもある。直通列車の交通実験を、事業者と沿線自治体、住民がスクラムを組み直す機会にしたい。

 金沢−穴水駅を結ぶ直通列車は、9月24、25日に1日1往復、2両編成で運行され る。途中の停車駅は羽咋、七尾、和倉温泉となる。能登ふるさと博が開催中であり、JRが販売する「能登ふるさと博フリーきっぷ」の対象として割安運賃にする。

 JRと第三セクター鉄道との連携は、新幹線開業後に経営分離される並行在来線にも共 通する課題である。経営形態が異なるとはいえ、同じ鉄道事業者であり、客の利便性を重視すれば、相互乗り入れを検討するのは当然だろう。

 金沢−穴水間で鉄道を利用する場合、七尾駅か和倉温泉駅でのと鉄道に乗り換える必要 があるが、1本につながれば時間の短縮効果にとどまらず、地域間の一体感も強まるだろう。ダイヤの工夫とともに、穴水駅以北の交通ネットワークと連動させ、直通効果を奥能登全体に波及させたい。

 交通実験では、交通の利便性だけでなく、鉄道の旅の魅力を引き出すアイデアも大事に なる。全国の鉄道ファンの目を向けさせるような大胆なサービス、車両の工夫はできないだろうか。新幹線開業までに地域資源であるローカル鉄道のさまざまな可能性を探っていきたい。